
働き方改革、女性活躍、残業削減――。近年話題のトピックですが、働く私たち全員が「働き方改革」に共感しているかというと、そうでない気も。
働き方改革を推進しなければならない本当の理由はどこにあるのでしょうか。そしてどうすれば実現できるのでしょうか。
会社員でありながら世界一周リモートワークに挑戦した伊佐知美さんが、ライフネット生命保険創業者の出口治明さんに聞きました。
日本は毎年貧しくなる。働き方改革を進める理由、生産性を上げなければならないワケ
[[balloon(right,isa)こんにちは! 今日は「働き方改革」と「女性活躍」について、個人的に思うことも含めていろいろ伺えたらと思います。]] [[balloon(left,deguchi)どうぞ、何でも聞いてください。]] [[balloon(right,isa)ありがとうございます。ずっと気になっているものの、答えがわからないことがいっぱいあるんです。]] [[balloon(left,deguchi)みなさん、きっとあれこれと難しく考えすぎるのかもしれませんね。「働き方改革」も「女性活躍」も、必要な理由はとてもシンプルですよ。]] [[balloon(right,isa)ぜひ、教えてください!]] [[balloon(left,deguchi)最初に、全体像を見てみましょうか。今、日本は世界で一番高齢化が進んでいるでしょう。すると、何もしなくても、1年が過ぎると一歳年を取るので、社会がどんどん貧乏になっていくんです。]] [[balloon(right,isa)高齢化社会だと、国が貧乏になる?]] [[balloon(left,deguchi)国の予算だけで考えても、介護・医療・年金などで、対前年比5000億円以上のコストが毎年プラスして必要になります。しかも高齢化に伴い毎年その額は大きくなっていく。この分を取り戻さなければ、日本は貧しくなっていくしかないんです。]] [[balloon(right,isa)も、ものすごい金額ですね……。]] [[balloon(left,deguchi)この分を取り戻そうと思ったら、GDPを上げるしかありません。GDPは「人口×生産性」。人口は簡単には増えない。むしろ減っていく。そうすると生産性を上げるしかないでしょう? つまり、われわれの前にあるのは「みんなで貧乏になる」か「生産性を上げる」かの二択なんです。]] [[balloon(right,isa)へぇ! すごくシンプルですね。]]

自由に働き、きっちり成果を出す社員を職場や上司は本当に評価するのか
[[balloon(left,deguchi)伊佐さんは編集者やライターとして活動されているんですね。僕が「生産性」について話をするときによく使う例で、2人の書籍編集者の話があるんですよ。]]
出口治明(でぐち・はるあき)さん。ライフネット生命保険株式会社・創業者。1948年三重県生まれ。72年日本生命に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年に退職。2008年、戦後初の独立系生保会社として同社を開業、社長に就任。13年から会長。17年6月に退任。
生産性を評価されていないと思ったら、進言すべし。1人で言えない時は、まずは社内に仲間を作ることから
[[balloon(right,isa)昔はデスクに座っているのが善とされている時代があったのかもしれません。でも、「会社のデスクに座っているのが仕事じゃない、成果を出してこそだ」と思っている人は、今の時代、たくさんいると思うんですよ。]] [[balloon(left,deguchi)思ってはいるけれど、そういう働き方ができない人がいるということですよね。]] [[balloon(right,isa)それはやっぱり、会社や上司の評価が気になるからですかね。 生産性を高めるための気分転換に散歩や昼寝をしようと思っても、上司の目が気になったり、「職場の風紀を乱している」なんて注意を受けたりすることもあると聞いたことがあります。]]
伊佐知美(いさ・ともみ)さん。灯台もと暮らし編集長、ライター、フォトグラファー。1986年新潟県生まれ。横浜市立大学卒。三井住友VISAカード、講談社勤務を経てWaseiに入社。「灯台もと暮らし」を立ち上げ編集長を務める。2016年は世界一周しながらのリモートワークに挑戦。これまで国内47都道府県・海外40カ国を旅した経験をもつ。著書に『移住女子』(新潮社)。

「会社を辞める人」が社会を成長させる。長時間労働による達成感は脳の錯覚
[[balloon(right,isa)そういえば、会社に働き方改革の進言をするときに、知っておいた方がいいことってありますか?]] [[balloon(left,deguchi)おじさん世代からよく聞くのが、「若いころに徹夜をして、長時間働いて仕事を覚えていくのは、ものすごく達成感がある」という話ですね。]] [[balloon(right,isa)働き方についての意識の違いですね。そう言われたら、どう切り返せばよいのでしょうか。]] [[balloon(left,deguchi)これは現代の科学で、すでに解明されています。長時間労働をやって脳が疲れたときには、人間は脳を守るためにモルヒネのようなホルモンを出すんです。人間はそれを達成感と勘違いする。単なるホルモンによる錯覚なんです。]] [[balloon(right,isa)……! あまりにもつらいことだから、脳が自衛するんですね。]] [[balloon(left,deguchi)なので、上司には「疲れた脳みそでどんなに頑張ってもミスが増えて効率が悪くなるだけです」とはっきり言いましょう。仕事するだけでくたくたになっていたら、勉強する時間も取れませんよ。]]
たった1人でも社会は変えられる。イノベーションが生まれるのは楽しい職場
[[balloon(right,isa)出口さんの話を聞いて、働きやすいように自ら動いていい、苦しいだけの会社ならガマンしなくてもいいよってたくさんの人に伝えたいと思いました。]] [[balloon(left,deguchi)だって、イノベーションは楽しい職場から生まれるんですから。考えてみてください。毎朝、会社に行くのが憂鬱な人だらけの職場と、会社に行くのが楽しみで仕方がない人だらけの職場、どちらがイノベーションを起こせると思いますか?]] [[balloon(right,isa)楽しいほうです!]] [[balloon(left,deguchi)職場が楽しくないとアイデアなんか生まれない。アイデアが出なければ生産性は低いまま。イノベーションも起こせるはずがない。それが世界中で出ている答えです。]]
“環境が、あなたの行動にブレーキをかけるのではありません。あなたの行動にブレーキをかけるのは、ただひとつ、あなたの心だけなのです。”[[balloon(right,isa)本当に……その通りですね。ハッとしました。]]
後編に続きます。
文:玉寄麻衣 編集:田島里奈/ノオト 撮影:栃久保誠