
多様性を尊重し、100人100通りの働き方ができる会社──。社外からは「働きやすい会社」と思われているかもしれません。ただ、実際はどうなのか?
こんな疑問を持ってサイボウズに潜入したのは、スコラ・コンサルトの滝口健史さん。社会人インターンシップとして、サイボウズという会社を分析・研究しました。
ただ、その研究結果から見えてこないことも、たくさん。それなら経営陣に直接聞いた方が早い。どのような思いでサイボウズを作ってきたのか。代表取締役社長・青野慶久と取締役副社長・山田理に直撃してみました。
サイボウズについて分からないことを、経営者に聞いてみたい
[[balloon(right,takiguchi)その節は、DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューとのサイボウズ研究で大変お世話になりました。]] 「利益よりも社員の幸福」と主張する企業に未来はあるか?Part1|読者と考える「働きたくなる会社」とは|DHBR×サイボウズ式 [[balloon(left,aono)お久しぶりですね。]] [[balloon(right,takiguchi)はい、青野さんの『チームのことだけ、考えた』を読み、あの場の議論でサイボウズに興味を持ちました。そこで社会人インターンシップとして半年サイボウズに入り、組織を研究してみました。]]
滝口健史(たきぐち・たけし)。組織コンサルタント。株式会社日経リサーチに入社後、ワークライフバランスやマネジメントに関心をもち、早稲田大学ビジネススクールに進学。事業企画や組織論などを中心に学ぶ。株式会社スコラ・コンサルトに入社後はリサーチ部門の運営やワークショップ開発などを担当。2017年より社会人インターンとしてサイボウズに参画。現在、育児休暇を取得中。
従来のヒエラルキーは残しつつ、「インターネット型組織」へ
[[balloon(right,takiguchi)サイボウズの組織のあり方は、お二人の考え方が大きく影響していると思うんです。]] [[balloon(left,aono)僕はサイボウズについていろいろ発言してきましたが、その根幹にあるのは、山田さんの『会社さん』なんていないんだという考え方なんですよ。]] [[balloon(left,yamada)僕は好き放題言っているだけで、実際に経営しているのは青野さんですけどね。]] [[balloon(left,aono)会社が存在し続けられるのは、個人が集まってくれているからなんですよね。もともとは会社の実態なんて存在しない。それなのに、「会社のために個人がある」というのはおかしいなと。]] [[balloon(left,yamada)むしろ個人のために、会社がある。]] [[balloon(left,aono)サイボウズが多様な個人や個性を大切にしているのも、この考えが出発点にあるからなんですよね。]]
青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立した。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し、離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得している。2011年からは、事業のクラウド化を推進。厚生労働省「働き方の未来 2035」懇談会メンバーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)
「動くときはみんなで動く」という組織のメカニズムやヒエラルキーを作ってきた
[[balloon(left,aono)企業理念の話になるんですけど。]] [[balloon(left,yamada)はい。]] [[balloon(left,aono)サイボウズは、「チームワークあふれる社会を作る」というビジョンを掲げてしまったんです。これって壮大じゃないですか?]] [[balloon(right,takiguchi)大きいです。]] [[balloon(left,aono)みんなでその壮大な理念に向かうために、統制はしっかりやらなきゃいけない。あくまでも会社さんのためではなく、ビジョンに向かうため。そういう面もあると思うんですよ。]] [[balloon(left,yamada)サイボウズは昔から「個人の尊重」を重視していたのですが、それが変な方向に向かっていったこともありましたね。]] [[balloon(right,takiguchi)そんなことがあったんですか?]] [[balloon(left,yamada)青野さんが社長になる前の時代ですね。個人を尊重しまくってみんなの意見を聞いた結果、小さな事業がどんどん生まれて、会社がカオスになってしまって……。]]
山田理(やまだ おさむ)。サイボウズ取締役副社長 兼 サイボウズアメリカ社長。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、責任者として財務、人事および法務部門を担当し、同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年からグローバルへの事業拡大を企図し、米国現地法人立ち上げのためサンフランシスコに赴任、現在に至る。
すべてにおいて主体性や信頼性を求めなくてもいいんじゃないか
[[balloon(right,takiguchi)「みんなで動く」「みんなで考える」ができる前提として、社員のみなさんが主体性を持つ必要がありそうですが。]] [[balloon(left,yamada)悩ましい部分ですね。サイボウズのメンバーにどこまで主体性があるのか。]] [[balloon(right,takiguchi)といいますと?]] [[balloon(left,yamada)そもそも主体性って、「1ある」から「100ある」までいろいろですよね。 さまざまな個性を集めたいと思えば、必ずしも主体的な人がいいわけでもない。互いの個性を補いあえる「信頼関係」があれば、みんなに主体性を求めなくてもいいような気がします。]] [[balloon(left,aono)よく信頼関係って言うけど、僕はこれがイマイチ分からなかったんですよ。で、辞書で調べると「信じて頼る」と書いてある。そのままやんけ、と(笑)。]]
筋を通そうとすることで突飛なアイデアが生まれることもある
[[balloon(right,takiguchi)お二人の役割はどう分担しているんですか?]] [[balloon(left,yamada)青野さんは事業を作ることが得意で、僕は組織を作ることが好き。もともとはそんな分担でした。 僕が「こんな機能を持つグループウェアにしたほうがいい」と意見しても、青野さんはまったく聞かないと思います(笑)。]] [[balloon(left,aono)僕は逆に、新しい期に向けて組織を作るときは、今でも「山田さんが見たらどう思うかな?」とすごく気にしていますよ。 意思決定する前に、山田さんというフィルターを通さないと怖い部分もあって。]]
アクセルを踏みたい社長と、ブレーキを踏みたい副社長
[[balloon(right,takiguchi)お二人が正反対の方向から議論をして、噛み合わないこともあるんですか?]] [[balloon(left,aono)昔はよくありましたよ。「なんでこの人はこれだけ説明しても分からないの?」とブチ切れたことも(笑)。]] [[balloon(left,yamada)ありましたね(笑)。]] [[balloon(left,aono)そういったことを経て、山田さんが気にしていることがだんだん分かるようになっていったんですけどね。]] [[balloon(left,yamada)青野さんが何かを言い出したときに「やりたいことは分かるけど、ついてくる人がどれだけいるんだろう?」と心配になって、そこから噛み合わないこともたくさん出てくるんですよね。]] [[balloon(left,aono)僕は「みんなついてきてくれるに決まってる!」とアクセルを踏もうとするタイプ。]] [[balloon(left,yamada)僕はそういうときにブレーキを踏みたいと思うタイプです。まあでも、それで青野さんが面倒くさくなって妥協するなんてことは……。 あまりなかったですね(笑)。]]
必要なのは事業を作る創造性ではなく、ビジョンに向かうための創造性
[[balloon(right,takiguchi)スコラ・コンサルトでは、最終的に「創造性のある会社」を目指すアドバイスをしていきたいと考えて活動しています。創造性を発揮するために、どんな会社を作りたいですか?]] [[balloon(left,yamada)そもそも、会社というもの自体を存続させたいとは考えていないんです。]] [[balloon(left,aono)この点が、世の中の多くの企業と決定的に違う部分かもしれないですね。]] [[balloon(right,takiguchi)たしかに。]]
(*)サイボウズ流のチームワークや働き方改革のメソッドを企業に提供する事業
[[balloon(left,yamada)そういう意味では、サイボウズで求められる創造性も、一般的な考え方とは違うかもしれません。]] [[balloon(right,takiguchi)というと?]] [[balloon(left,yamada)求められるのは、「ビジョンに向かうための個人の仕事の創造性」です。誤解を恐れずに言えば、「事業を作る創造性」ではないなと。]] [[balloon(left,aono)そう、ビジョンから外れるものは考えなくていい。「会社は大きくしなければいけない」という発想もないですし。 だから、もし僕が死んだらサイボウズはいったん解散でいいと思っています。極論かもしれませんが。]]ビジョンまでの距離感は人それぞれ。ぼくらはキャンプファイヤーで踊り続ける

執筆:多田慎介、撮影:橋本美花
サイボウズは本当に「いい会社」なのか?|スコラ・コンサルト
組織風土の変革、新しい組織文化の創造をサポートするスコラ・コンサルト