
「楽しく働きたい」と思っていても、なかなかうまくはいかないもの。毎日の作業に追われ、仕事に楽しみを見出せなくなってしまうこともあるのではないでしょうか?
お金やモノ、地位による幸せは長く続かない――。こう話すのは、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社現代新書)の著者で、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)の前野隆司教授です。
幸せになるには「4つの因子」をバランスよく満たすことが重要だそう。仕事をすることで幸せになるにはどうしたら良いのでしょう? サイボウズの例を交えながら聞きました。
幸せな人は4つの因子をバランスよく満たしている
[[balloon(right,aono)そもそも幸福って、あいまいですよね。幸せの感じ方は、人によってズレがあるんじゃないかと思っていて。 私も「幸せですか?」と聞かれたら「はい」と言い切れる自信がないんです。]] [[balloon(left,maeno)幸せの尺度はまさに十人十色のため、今までは哲学や宗教の領域とされてきました。 でも、それでは研究しようがないので、「10が最高、0が最悪だとしたら、あなたはどのくらい幸せですか?」と聞くのが心理学的な計測方法のひとつです。 ただ、この計り方だと、日本人は先進国中で最下位になってしまう。]] [[balloon(right,aono)なるほど。10を選択する日本人は少なそうです。]] [[balloon(left,maeno)西洋の人は10から引き算して「8ぐらいかな」と考える。でも、日本人は5を中心に「自分は幸せ寄りか、不幸寄りか?」と考えてしまうんですよ。]]
前野隆司(まえの・たかし)さん。1962年、山口県生まれ。東京工業大学大学院修士課程修了。カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、ハーバード大学客員教授、慶應義塾大学理工学部教授などを歴任し、現在は慶應義塾大学大学院 SDM研究科委員長およびSDM研究科付属SDM研究所長、慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長を兼任。幸福学の日本での第一人者として、個人や企業、地域と各フェーズで活動する。著書には『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社現代新書)『実践・脳を活かす幸福学 無意識の力を伸ばす8つの講義』(講談社)など。


青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立した。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を行い、2011年からは、事業のクラウド化を推進。著書に『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)。『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)など。
「人のために働く」ことが、楽しく働くための第一歩
[[balloon(left,maeno)サイボウズさんの「4つの因子」のバランスはいかがですか?]] [[balloon(right,aono)私は、チームで働くことの重要性をよく唱えていますが、それによって「ありがとう」の因子が高まるかな、と期待しています。タスクを分担して、みんなでやれば貢献感が高まるし、助けてもらうと感謝する機会も増えます。]] [[balloon(left,maeno)いいですね。]] [[balloon(right,aono)武者小路実篤の言葉で「感謝の念には幸福感が伴う」というのがあって。一般的には感謝されることが幸福だと思われているけれど、実は感謝することが幸福なんだ、と。]] [[balloon(left,maeno)それはいろんな研究結果がありますね。たとえば毎日3個、感謝の言葉を書き続けていると、しばらく後には明らかにうつ状態が改善されたという研究があります。]] [[balloon(right,aono)おお、それはすごい。]] [[balloon(left,maeno)私の妻は友達3人と毎日、誰か・何かに感謝したことを見せ合うそうです。他人の感謝でも、見るだけで優しい気持ちになれるから、1人でするより3倍楽しいんですよ。 感謝すると、幸せホルモンとも呼ばれるセロトニン、オキシトシンが分泌されて、利他的な気持ちが生まれるんです。]] [[balloon(right,aono)「みんなのおかげだ」と思っている人は幸せそうだけど、「俺のおかげだ」って思っている人は不幸そうに見えますね。]] [[balloon(left,maeno)「無理やり利他的な行動をしても幸せになる」という研究もあります。 自分のために20ドル使うグループと、他人のために20ドル使うグループに分けて幸福度を計ったら、他人のために使ったグループのほうが、幸福度が大きく上がったんです。]] [[balloon(right,aono)おもしろい実験ですね。]]
「カネ・モノ・地位」による幸せは長続きしない
[[balloon(right,aono)幸せになるには「4つの因子」を満たせばいいんですね。サイボウズは、なんとなく全部押さえているかもしれません。]] [[balloon(left,maeno)どうやって押さえているんですか? 「ありがとう」の因子はチームで働くことでカバーしているとして、「やってみよう」「なんとかなる」「ありのままに」の因子はどうでしょう?]]

7万5,000ドルが上限? 年収と幸福度の関係
[[balloon(right,aono)かつては大企業に入りさえすれば幸福だと言われた時代もありましたよね。]] [[balloon(left,maeno)ええ、右肩上がりでボーナスも出るし、新製品を出せば世の中に貢献できる、という時代もあった。 高度成長期ならそれで良かったけれど、1970年代から経済が成熟して、成長率が落ちました。]] [[balloon(right,aono)私の親は、テレビが家に来たのが嬉しかった世代ですが、いま家にテレビがあることを「幸福に感じろ」と言われても難しいですね。]] [[balloon(left,maeno)「地位財」ではなく「非地位財」を重視する道に方向転換しないといけない時代になったんだと思いますね。]] [[balloon(right,aono)経営者は「どうすれば社員が幸せになるのか」を意識する必要がありますよね。]] [[balloon(left,maeno)その通りです。]] [[balloon(right,aono)日経平均株価が上がることは、社員の幸せとは関係ないですもんね。でも、いまだに「地位財=幸福」だと信じている経営者は多い。]] [[balloon(left,maeno)はい。ただ事実として、お金と幸せにはある程度相関関係があるといわれています。]] [[balloon(right,aono)そうなんですか?]] [[balloon(left,maeno)ノーベル経済学賞を受賞したカーネマンの研究によると、年収7万5,000ドルまでは、幸せ(感情的幸福)と年収が比例します。今の為替レートで日本円に換算すると800万円程度ですね。 しかし、それ以上になると、どれだけ大金持ちになろうが幸福度は大して変わらないといわれています。]] [[balloon(right,aono)腹八分目に近い考え方ですね。ありすぎるといいことがない。収入と幸福度は、ある一定のところまでは相関関係があるけれど、その先はあまり意味がない、と。]] [[balloon(left,maeno)アメリカのある会社では、何百万ドルもある経営者の給料をどんどん下げ、逆に社員の給料は上げて、どちらも7万5,000ドルに近づけています。そうすればみんなが幸せになるはずだ、と。]] [[balloon(right,aono)おもしろい!]] [[balloon(left,maeno)「格差が大きい国ほど不幸である」という研究結果もあります。福祉とかベーシックインカムとか、何か工夫して格差をなくす社会になっていくといいですね。]]幸せは一瞬で作れる
[[balloon(right,aono)サイボウズでは、「アホはいいけど、ウソはだめ」と提唱しています。 「アホはいい」っていうのは、楽観的になるためのキーワードです。失敗したことでボーナスを減らすわけではないので、そのあたりが「なんとかなる」の因子と関係あるかもしれません。]] [[balloon(left,maeno)なるほど。あとは企業風土も関係ありますよね。グチばかり言う人と話していると、つい自分もつられて「やっぱりあいつダメだよね」と言ってしまう。ネガティブもポジティブも、他人にうつるんですよ。]]