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人生の目的は見つけるものじゃない。いま、やるべきことにベストを尽くすだけ──ティール組織 著者の天職との出会い方

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「自分の人生の目的はなんだろう?」

生きていくうえで、自らにこのような問いかけをする人は多いのではないでしょうか。

新しい組織のあり方について提唱し、大きな話題を呼んだ『ティール組織』著者のフレデリック・ラルーさんは、「個人においても組織においても、実現すべき目的は突きつけられるもの。探して見つけるものではない」といいます。

個人や組織は、どのように「目的」と出会い、実現に向けて踏み出していけばいいのでしょうか。 ラルーさんが個人史を交え、目的との付き合い方について語ります。

※この記事は、9月14日に東京工業大学大岡山キャンパスで開催されたイベント「ティール・ジャーニー・キャンパス 」での、ラルーさんの講演を元に作成しました。

トップ大学を首席で卒業。マッキンゼーの仕事は楽しい。でも、人生の目的はわからないまま

『ティール組織』を読んで「今後は組織からヒエラルキーやマネジャーは不要になる」という話に反応してくれる人はたくさんいます。

ですが、この本の真のテーマである「目的の進化、人間の進化」に関心を抱いてくれる人は少ないと感じています。

ですから、今回「わたし自身の人生の目的」をテーマにお話しできることをとてもうれしく思います。

会場に向かって話すラルーさん

フレデリック・ラルー。『ティール組織』著者。マッキンゼーで10年以上にわたり組織変革プロジェクトに携わったのち、エグゼクティブ・アドバイザー/コーチ/ファシリテーターとして独立。2年半にわたって新しい組織モデルについて世界中の組織を調査し、『ティール組織』を執筆。17カ国語に翻訳され、40万部を超えるベストセラーとなる。現在は家族との生活を最も大切にしながら、コーチや講演活動などに取り組み、本書のメッセージを伝えている。

さて、わたしの場合は、「人生には目的があるものだ」と気づくまで、ある程度時間がかかりました。

子どものころは、いわゆる優等生で成績はトップでした。素晴らしいことのように聞こえるかもしれません。でも、当時は周囲に期待されることをやっているだけで、自分自身が何を望んでいるのか、自分が何者なのかについて、考えたことはありませんでした。

高校を卒業した時点でも、自分の人生の目的についてはとくに考えていませんでした。

大学は、ベルギーのトップ大学に入学しました。その大学には、もっとも成績優秀な学生はコンサルティング・ファームで働く、という暗黙のルールがあったので(笑)、わたしも卒業後はマッキンゼーに就職しました。

マッキンゼーの仕事はエキサイティングで楽しいものでした。一方で、ある疑問が芽生えました。わたしの仕事はコンサルタントとして、 投資銀行を始めとする、すでに裕福なクライアントがさらに利益を上げられるようにすることです。「この仕事に一体なんの意味があるのだろう?」といつも考えていました。

会場に向かって話すラルーさん

「半年以内に自分が本当にやりたいことを見つけ、会社を辞めよう」

そう思っていたのですが、見つからないまま、また半年を過ごす、ということの繰り返しでした。人生で何をやりたいのかがわかってきたのは、働き始めて10年後、33歳になったころでした。

コンサルタントの仕事を通して、大企業という大組織の中で仮面をつけ、自分に正直になれず、苦しんでいる人たちをわたしはたくさん見てきました。「人が組織の中で自分にとって本当に大切なことと向き合うための手助けをしたい。コーチの仕事をしたいのだ」と気づいたのです。

「いま、この瞬間に何をやるべきか」。この問いに気づいてプレッシャーから解放された

マッキンゼーを辞めることを伝えると、周囲には「信じられない。せっかく約束されたキャリアがあるのに、コーチになるなんて」と言われました。でも、わたし自身はとても幸せでした。ついに自分の人生の目的を見つけたからです。

しかし、コーチの仕事を始めて4年後、2011年の春にわたしは大きなショックに見舞われることになります。突然悲しみに襲われ、仕事に対するエネルギーがすっかり失われてしまったのです。

好きな仕事をやっているのに、なぜこんな気持ちになってしまったのでしょうか。

会場を見つめるラルーさんの横顔

それまでは、大企業で働く人たちが健全な気持ちを保つことができるように、いわば「小さな泡のような空間」をつくり出す仕事をしてきました。でも、クライアントである大企業の本部に足を運ぶと、すべてがとても冷たい、大理石とガラスでできている世界であることがわかります 。

自分の身体が「もうこの仕事を続けたくない」と告げてきたんですね。そして、クライアントに「今進行している仕事をすべて辞めさせてほしい」と伝えました。

すると魔法のようなことが起こりました。人生で初めて自分に問うべき正しい質問がわかったんです。

笑顔でうれしそうに話すラルーさん

それは「いまこの瞬間に、私にとってやる意味のあることは何か?」という質問です。

「いまこの瞬間に、やる意味のあることとは何か?」という質問は、「人生の目的は何か」という質問とは意味がちがいます。

この質問を自分自身に尋ねた瞬間に、プレッシャーから解放されました。そして、答えはすぐに出ました。「大企業とはまったくちがう形態の組織を新しい観点からつくることは可能か」を探ること。すなわち『ティール組織』という本を書くことでした。

目的は見つけるものではない。目的が自分を見つけてくれる

この体験はアーティストがよく言う、「アイデアが突然降ってきた」というものと同じだと思います。わたしが本のアイデアを選んだのではなく、アイデアがわたしを選んでくれたんですね。

実はこういう話はあまり人には話さないようにしてるんです。「どうかしちゃったんじゃないの?」って言われるから(笑)。

笑うラルーさん

それでも、みなさんにお話ししたのは、人生の目的について、勘違いしている人が多いからです。

多くの人は、「人生の目的は一度定めたら、一生変わらないものだ」と考えがちです。また、日本にあるかどうかはわかりませんが、欧米には「人生の目的を発見する」という名目のワークショップやセミナーが数多くあります。でも、わたしはもうそのやり方を信じていません。

わたしが信じているのは、米国の作家パーカー・J.パーマーによる、もっと美しい考え方です。パーマーはこう言っています。「長い間、わたしは自分がこう生きたい、と思って人生を過ごしてきた。でも、あるとき『自分を通して実現されるべき人生』 を生きればいいのだと発見した」 と。

いま、わたしはそういうふうに生きています。人生の目的は神秘的なもので、自分で発見するようなものではありません。わたしがすべきことは、人生の目的がわたしを通して実現されるように、できる限り自分の人生をオープンにし、目的が入ってくるためのスペースを用意することです。

手を広げて話すラルーさん

この生き方を実行する過程で発見したのは、頭脳は大して役には立たないということでした。本当にすべきことか、しなくてもいいことかは、身体が決めてくれます。どうしてその決断をしたのか、それが今後の人生にどうつながっていくのかを頭で考えるのは、身体が決めた後です。この生き方を始めてから10年の人生はとても順調に進んできたと感じています。

マッキンゼーで働いたころは、「どんな人生にすべきか」「でも幸せじゃないな」という考えで、頭がいっぱいでした。

でも、いまは人生が自ら語ってくれるのを待ち、その声が聞こえたらベストを尽くすだけ。人生の目的は自分が宣言するものではなく、突き付けられるもの 。自分はそれに従えばいい。

これは個人だけでなく、組織の人生にも当てはまることです。

だから、「組織には目的が必要。みんなで考えて定義しよう」という話には、違和感があります。個人の人生の目的同様、組織には、組織を通して、実現されたがっている目的がある 、というのがわたしの考えです。必要なのは目的を考え出すことではなく、この会社を通して、目的がどのように実現されたいのかに耳を澄ませることなのです。

心の傷がのちの人生を助けてくれる

最後に、人生における「傷」が、わたしたちの人生にとって大きなギフトになる、という話をさせてください。人は、人生の中でいろいろな傷を負うものです。でも、その傷自体がギフトとなり、人生の目的の実現を助けてくれるという話です。

会場に向けて話すラルーさんの横顔

再びわたし自身の話に戻りますが、8歳のころ、クラスメイト全員から突然無視されたことがありました。これはとてもつらかった。

休み時間もひとりぼっちだったので、クラスメイトを観察することにしました。すると、関係性の力学がわかったんです。実は、わたしにいちばん意地悪をする子は、次に無視されるのは自分なのではないかととても恐れていました。また、リーダー役の強い子はいつも強い存在でなくてはならないから、 ちっとも幸せそうじゃない。

この小学校時代の経験が、わたしにとってのギフトです。この経験を通して、人を観察する能力を持つようになり、のちに『ティール組織』という本を書くことにつながったのだと思います。

「傷」がギフトとなり、その後の人生によい影響を与えてくれるということは、個人だけでなく、組織にも当てはまることです。

講演のテーマ「Purpose Story」が書かれたスクリーンを背に話すラルーさん

だから、わたしは「自分の組織をティール組織に変えたい」というリーダーによく伝えています。

「あなたの人生を振り返ってみてください」 と。

すべて過去の傷が結果的にギフトとなって、あなたや組織を通して実現されることを望んでいる目的とにつながっている、ということがわかるはずです。

人生に対するギフトを受け入れる準備はできてますか?

執筆・編集:鈴木統子/撮影:高橋団
In Work As in Life, Let Your Purpose Find You
ティール組織って何? 誤解されがちなポイントは?──第一人者 嘉村賢州さんに聞いてみた
「人生の目的を見つけて邁進している」なんてウソ、「仕事の意味」ばかり考えてもしょうがない──田端信太郎×青野慶久

Twitterのプロフィール、古くないですか?──新人からダメ出しされた副社長に、イラっとしなかったのか聞いてみた

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それは、新人たちの何気ない会話から始まった

それは、サイボウズマーケティング本部の新人4人による何気ない会話から始まりました。

佐藤
佐藤
Twitter見てたら理(おさむ)さん*のツイートが流れてきたんだけど、みんな、これ見て……!

(*)サイボウズ取締役副社長 兼 サイボウズUS社長の山田理(やまだ・おさむ)

オサムさんの古いTwitterプロフィール
佐藤
佐藤
……ちょっと古くない?
高橋
高橋
このアイコンっていつの写真!?
山田翠
山田翠
学生時代の野球部の話、必要?
武田
武田
これはイケてないね……。

いても立ってもいられなくなった4人は、グループウェア上で副社長へのダメ出しを開始。その流れで副社長のTwitterアカウントをプロデュースすることになったのでした。

新人がおさむさんのTwitterプロフィールの改善点をグループウェアに投稿。それを見たおさむさんは自ら「お任せしたいです笑」とお願い。

社内グループウェアでのやりとり。新人たちで盛り上がっていたらまさかのご本人登場

このやり取りがTwitter上で展開されると「新人の言うことを素直に聞く副社長がすごい!」と話題になり、ネットニュースにも取り上げられることに。

1200人ほどだった副社長のフォロワーは現在、4300人以上に増えています。

理さん、Twitter上では受け入れてくれていたけど、新人にダメ出しされて本当にイライラしなかったの? もしそうだとしたら、その寛容さはどこから生まれてきているの? 疑問に思った新人たちは、理さんが東京にいるタイミングを見計らって、取材を行うことにしました。

理さん、新人にダメ出しされて、ぶっちゃけどんな気持ちでしたか……?

新人にダメ出しされて「めっちゃおもしろい」「やるやん」と思った

高橋
高橋
ということで、Twitterプロデュースさせていただきました。
山田理
山田理
ありがとうございます(笑)。
話すおさむさん

山田理(やまだ・おさむ @osamu419)。サイボウズ 取締役副社長 兼 サイボウズUS(Kintone Corporation)社長。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、責任者として財務、人事および法務部門を担当し、同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年からグローバルへの事業拡大を企図し、米国現地法人立ち上げのためサンフランシスコに赴任し、現在に至る。初の著書『最軽量のマネジメント』を11月7日に出版予定

高橋
高橋
入社式の時に一度お会いしましたが、こうやって直接お話するのは初めてですよね?
山田理
山田理
確かにそうやなあ。オンラインではたくさん話してたけどね(笑)。
佐藤
佐藤
本当にいろいろ言ってしまいました。
高橋
高橋
新人にダメ出しされて、ぶっちゃけ、どんな気持ちでしたか……?
山田理
山田理
いや、最初は誰かに教えてもらって、グループウェア見にいったら驚いたよ。「えっ!? 俺のことで何か言われてるやん」って。

自分のTwitterのプロフィールについてダメ出しされていることがわかって、「おいおい、ほんまかいな」と最初は思いました。
おさむさんの険しい表情。ちょっと怒ってますか?

ちょっと怒ってます……?

高橋
高橋
僕たちも直接連絡するのはちょっと勇気がいりました。
山田理
山田理
でもね、「めっちゃおもしろい」「やるやん」とも思ったのよね。
山田翠
山田翠
本当ですか!?
山田理
山田理
ほんまやで(笑)。

僕はTwitterのこともよくわかってないのよ。

僕よりもマーケティング部の若い人たちのほうがネットやSNSに長けているから、「この機会に教えてもらおう」という感じやった。で、どうせやるなら表に出てやったほうがおもしろそうやんって。
武田
武田
教えてもらう相手が新人だったことに抵抗はありませんでしたか?
山田理
山田理
それはまったくないね。
武田
武田
ちょっと意外。
山田理
山田理
新人も何も、僕の立場からするとサイボウズのメンバーはほとんどが下になるねんけど、「下の人たちのほうが詳しい」ということをたくさん目の当たりにしてきたからね。

マーケティングでも開発でも営業でも「現場のみんなのほうが詳しいな」と感じる経験をたくさんしてきたんで、年齢や社歴は気にしてないよ。
笑うおさむさん。怒ってませんでした

怒ってなかったみたいです

「新人だから」といって恐縮する必要なんてない

高橋
高橋
正直なところ、新人としては年上の方々と仕事をするときにはどうしても気が引ける部分があります。

サイボウズがフラットな組織だというのは頭ではわかっているんですけど。
並んで話す新人4人

山田翠(やまだ みどり)、高橋団(たかはし だん)、佐藤萌音(さとう もね)、武田暁誉(たけだ あきもと)(写真左から)。ビジネスマーケティング本部の新人たち。2019年4月入社

佐藤
佐藤
「理さんに直接言ってしまって大丈夫なのかな?」という不安はあったよね。
山田翠
山田翠
以前の理さんのプロフィールを4人で見ながら、どこを削って何を足して、写真はどれを選んで……と、かなり気を遣いながらやっていました。
山田理
山田理
その「いろいろ考えてやってくれてんねんな」という感じは伝わってきたよ。だから僕は言いなりやった(笑)。
佐藤
佐藤
理さんが提案を受け入れてくれたのは素直にうれしかったです。

「誰が言うか」よりも「何を言うか」を大事にしてくれているんだなって。
山田理
山田理
僕は逆に、みんなが「新人やから意見したらあかんのかな」と感じていることが意外やった。「そんなんいいに決まってるやん」と思う。

もちろん、みんなが提案してくれたことが、僕から見てもイケてない内容だったら受け入れてなかったはず。僕にはないクオリティの高さがあるから受け入れたわけで、新人の言うことだから聞いたわけではないよ。

むしろ僕も「私たちの提案を受け入れない副社長って何やねん、センスないな」と言われるくらいの多少の覚悟はあったよ(笑)。なので「新人だから」といって恐縮する必要なんて全然ない。

この月のインプレッション数は驚異の200万越え、プロフィールへのアクセスは前月の100倍だったとか……。

「お前らに何がわかんねん!」と思うときはあるけど、「一概に自分が正しいとは言いきれないぞ」とも思う

山田理
山田理
そもそも、僕にも強みと弱みがあるわけよ。自分の弱みを改善しようと努力するのは大変だし、時間もかかる。それなら僕の弱みを補ってくれる人、その領域に強みのある人にカバーしてもらったほうがいいと思ってる。

そうすれば僕は、自分の強みを伸ばしていくことに集中できるから。
佐藤
佐藤
なるほど。
山田理
山田理
弱みを補ってくれる人が誰であれ、それこそ新人であろうがなかろうが僕には関係なくて、補ってくれるなら「ありがとう」でしかないのよね。
話すおさむさん
山田翠
山田翠
逆に、人事制度など、理さんの強みの領域で意見されたらどうするんですか?
山田理
山田理
新人のみんなから「サイボウズの社内制度はおかしい!」と言われるとか?
山田翠
山田翠
はい。
山田理
山田理
制度や理念といった領域であれば、僕は相当なこだわりを持って議論すると思う。もしかすると必死に説得しに回るかもしれない。

こだわりがあるところとないところ、自分の強みだと思うところと弱みだと思うところは、切り分けて考えてるね。
高橋
高橋
「若造のくせして何を言ってんだ!?」と思うようなことも……?
山田理
山田理
えっーと……多分ね、あると思う(笑)。
高橋
高橋
(あるんだ……)
山田理
山田理
「なんでやねん、お前らに何がわかんねん!」とは思うかもしれない。とはいえ、そう思う機会は昔よりも断然減ってるけどね。
武田
武田
そうなんですね。何かきっかけがあったんですか?
山田理
山田理
サイボウズに入ってから、自分よりはるかに若い人たちが世界を変えるようなサービスを実際に作ってきたのを見てきて、若い人たちの方が詳しいこともあるねんなと気づいてん。

そんな変化を目の当たりにしてきたから、「強みの部分だからといって一概に自分が正しいとは言いきられへんな」ということは身に染みているつもり。

そういう意味では、僕のこだわりがある領域でもどんどん意見してほしいよね。
武田
武田
長い間若い人の活躍を見てきたからこそ、今の考えがあるんですね。
高橋
高橋
ちなみに、昔の理さんはどんな感じだったんですか?
山田理
山田理
それはもう、「THE・昭和」って感じやった。前の会社は銀行で、ガチガチの年功序列やったし。サイボウズに来た後も研修で、「サイボウズの5精神(*2)を唱和しろ!」とか言って、一言一句違わず覚えさせようとしたり(笑)。
笑うおさむさん

理さんが「THE・昭和」だった時代に入社しなくて本当によかった……

(*2)サイボウズ5精神:「一芸に秀でる、ベストを尽くす、誠実、チームワーク、人から学ぶ」の5つ。現在は廃止済み。最初に作った『サイボウズ7精神』を覚えてもらえなかったため、わざわざ2つ減らしたらしい。

こう見えて、意外と繊細やねん

高橋
高橋
人って、年齢を重ねると考え方が凝り固まっていって、いわゆる「老害」的に扱われてしまうこともあると思うんです。

でも理さんの話を聞いていると、時が経つにつれて柔軟になっているようにも感じます。
山田理
山田理
僕の場合は、そもそも自分に自信がないのよ。
高橋
高橋
えっ?
山田理
山田理
多くの場合、人から「おかしいですよ」と言われたら「おかしいのかな?」って思ってしまう。

打たれ弱いし……こう見えて、意外と繊細やねん。
ちょっと頼りなさそうなおさむさん

こう見えて、意外と繊細やねん

一同
一同
(笑)。
山田理
山田理
いや、ほんまに(笑)。

あまり人から嫌われたくないと思うし、僕はどちらかというと空気を読むほうやから、反対意見が来ると「何で反対するの?」って気になってしまう。
高橋
高橋
繊細だからこそ、議論することによって考えをすり合わせている感じなんでしょうか?
山田理
山田理
うん、そうね。
佐藤
佐藤
サイボウズがどんどん成長していることは自信につながっていないんですか?
山田理
山田理
それはもちろんあるよ。サイボウズの制度やチームのあり方については社長の青野さんとも自信を持って議論してきたし。

働く人を幸せにするのも会社がやるべきことだし、そもそも会社って必要なのか? といったことも含めて、僕らが考えていることはこれからの時代に必要なことなんじゃないかという自信もある。

「もっと利益を追求して株価を上げていくべきだ」とか「時価総額を上げてお金でみんなを幸せにするべきだ」とか言われても、まったく動じないね。
真剣な表情で話すなおさむさん

組織作りの話題になると表情が変わりました

武田
武田
自信があるところとないところの差がしっかりしているんですね。

成功体験にとらわれないために必要なのは「大海を知る」こと

高橋
高橋
理さんも青野さんも、本当に謙虚ですよね。昔の体育会系の考えから、どうやって変われたんですか?
山田理
山田理
僕は「成功した」と思ったことが、人生で一度もないねん。結局、変われない人って成功体験しかなくて、それにしがみついているんやと思うのよね。

僕らはまだ日本の中を変えていないし、ましてや世界も歴史も変えられていない。まだまだ全然できていないことばかりよね。

青野さんも「うちは本当にイケてないな〜」とよく言ってるし(笑)。
俯くおさむさん

「イケてないな〜」と笑う理さん。そんなことないですよ

武田
武田
そうやって客観的に「今の自分たちは全然イケてないな」と思えるのはどうしてですか? どうしても人って「自分たちは正しい」と考えがちだと思うんですが。
山田理
山田理
理想が大きいからこそ、外の世界を見たときにギャップを感じるのよね。だから「僕たちはこのままでいいんだろうか?」と常に考える。

会社の中ばかり見て幸せを感じているだけだと、「井の中の蛙」になってしまうのかもしれない。そういう意味ではまず、大海を知るべきとちゃうかなと思う。
武田
武田
大海を知る。
山田理
山田理
ずっと社内にいて同期と自分を比べていたら、「同期の中では俺はイケてるぞ」と思うようになるかもしれない。そうなったら先輩を見るべきだと思うし、世の中にはすごい人がたくさんいるわけだから、社外にもどんどん目を向けるべきよ。

井の中の蛙でも幸せに生きていけるかもしれない。でも少なくとも僕は、外の大海を見ていたいね。

安心できる居場所があれば、「新人」のくくりはいらないんじゃない?

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高橋
高橋
今日は、じっくり理さんとお話できて本当によかったです。Twitterで突撃した甲斐がありました。
佐藤
佐藤
今後も言いたいことを言ってしまって大丈夫ですか……?
山田理
山田理
僕については、みんなが接したいように接してくれればいいよ(笑)。嫌やな、おかしいなと思うことがあれば言えばいい。

昔は先輩や上司へのダメ出しは陰で言うくらいしかなかったけど、今はみんなの前で言えるから。Twitterでつぶやいてもいいし、社内のグループウェアに書いてもいい。
山田翠
山田翠
ささいなことでも、感じたことを正直に発信していくことが大事なんですね。
山田理
山田理
そう。それを見つけて共感してくれる人が多ければ「たしかにそうだよね」という声になる。組織というのは結局、一人ひとりの考え方が合わさってできているものだから、そうやって変わっていくしかないやと思う。

100人100通りの幸せを実現するためには、おかしいと思うことをオープンに言い合っていかないとアカンねん。
_DSC8716.JPG
佐藤
佐藤
それこそ、立場や年次に関係なく、新人も意見を言わなきゃいけない。
山田理
山田理
そうそう。
山田理
山田理
会社の中に安心できる居場所を作れるという意味では、新人としてのグループや同期にも意味があるのかもしれない。

とはいえ所属部署もあるわけやし、そこで居場所が確保できるなら、「新人」のくくりはいらないんとちゃうかな。
武田
武田
「新人のくくりなんてないんだ」と考えれば、それこそ思ったことはどんどん意見すべきですね。もっと生意気にやっていいんだ。
山田理
山田理
「理さんのブログ、なんか古くさいよね」とかもグループウェアに書けばいいんじゃないですか? 誰かが見つけて共感してくれるかもしれないし。
佐藤
佐藤
あ! それはまさに言おうと思っていたんです。

理さんのブログの名前、まるボウズって……。
山田理
山田理
あっ、ほんまなんや……。
新人にダメ出しされてしまった理さん。そんな副社長の新しいマネジメントについての考えが、まるっと一冊にまとめられた本が11月7日に出版されます。Amazon予約はこちらからどうぞ。
文:多田慎介/撮影:尾木司/企画編集:高橋団
世の中は、行き過ぎた資本主義から「人の幸せ」に戻ってきつつある──『売上を、減らそう。』中村朱美×サイボウズ副社長 山田理
マネジャーに強い想いがあるから、「しょうがないな」とみんながついてきてくれる──まずは自分が熱狂しないと始まらない。ヤフー伊藤羊一×サイボウズ山田理
情報をクローズにする経営者は、凡人以上に天才を殺している──『天才を殺す凡人』北野唯我×サイボウズ副社長 山田理

個人をないがしろにする組織はもう生き残れない──ティール組織 フレデリック・ラルー×上田祐司×青野慶久

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「この会社で働いている限り、自分のやりたいことができない」「組織を変えたいけれど、どうしたらいいかわからない」

多くの人が抱えている会社や組織に対する不満。このような状況を打開するにはどうしたらいいのでしょうか。

『ティール組織』著者のフレデリック・ラルーさんが考える「人生の目的との付き合い方」を紹介した前編に続き、後編では、株式会社ガイアックス代表執行役社長の上田祐司さんとサイボウズ代表取締役社長の青野慶久が、ラルーさんとともに人生や組織の目的、そしてこれからの組織のあり方について考えます。

ラルーさんいわく「世間一般の経営者とはちがう、珍しいタイプのマネジメントをしている」2人は、どのように人生の目的と出会い、その実現に向けて組織づくりをしているのでしょうか?

3人で、これから求められる会社や組織のあり方や、そして会社をよくするための方法を考えました。

※この記事は、9月14日に東京工業大学大岡山キャンパスで開催されたイベント「ティール・ジャーニー・キャンパス」のセッションを元に作成しました。

会社がめちゃくちゃになって経営者としての自分に絶望。そして人生の目的に気づいた

ラルー
ラルー
まずは、今回のイベントのテーマである、お二人の「人生の目的」についても教えてください。
2人に質問を投げかけるラルーさん

フレデリック・ラルー。『ティール組織』著者。マッキンゼーで10年以上にわたり組織変革プロジェクトに携わったのち、エグゼクティブ・アドバイザー/コーチ/ファシリテーターとして独立。2年半にわたって新しい組織モデルについて世界中の組織を調査し、『ティール組織』を執筆。17カ国語に翻訳され、40万部を超えるベストセラーとなる。現在は家族との生活を最も大切にしながら、コーチや講演活動などに取り組み、本書のメッセージを伝えている

青野
青野
こんにちは。サイボウズの青野と申します。わたしが人生の目的について考え直したのは、会社が傾いたのがきっかけです。

サイボウズは、1997年に創業して、3年くらいで上場したものの、業績が伸び悩んだ時期がありました。そこで「グループウェア事業だけではだめだ。事業を拡大しよう」とM&Aを推し進めたんです。

その結果、さらに業績は傾くわ、離職率は上昇するわで。会社の中がめちゃくちゃになってしまいました。

当時は、上場企業の社長として、会社を大きくしなくてはいけないという考えにとらわれていました。でも、本当にやりたかったのは、グループウェアを提供して情報共有を進める組織を増やし、働く人たちをハッピーにすることだと気づいたんです。
人生の目的に気づいたきっかけを会場に向けて話す青野さん

青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を行い、2011年からは、事業のクラウド化を推進。著書に、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない』(PHP研究所)など

青野
青野
もう1回グループウェア事業だけやろう、と決めて、買収した9社のうち8社を売却しました。

マネジメントも社員一人ひとりが幅広い選択肢を持って働けるような方法(*1)に変えたら、離職率は下がり、そして業績も上がってきました。そんなおもしろい経験をさせていただいています。

(*1)サイボウズの「働き方制度」についての記事はこちら

上田
上田
ガイアックスの上田と申します。わたしも青野さんと同じころ、約20年前にガイアックスを創業しました。「地球はひとつの生命体」と考えるガイア理論というものに出会いまして、これはすごいなぁと思ったんです。
人生の目的との出会いを話す上田さん

上田祐司(うえだゆうじ)株式会社ガイアックス代表執行役社長(兼取締役)。1997年の大学卒業後に起業を志し、ベンチャー支援を事業内容とする会社に入社。一年半後、同社を退社。1999年、24歳で株式会社ガイアックスを設立する。30歳で株式公開。 一般社団法人シェアリングエコノミー協会代表理事を務める。同志社大学経済学部卒

上田
上田
自分が人生で実現したいのは、ビジネスで世の中をひとつの生命体と感じられるようにすることだ、と思ったんですよね。そして、行きついたのがインターネットでした。

インターネットって、いわば私たちの脳がつながっていると言えなくもない。現在は、人と人をつなげるためのソーシャルメディアとシェアリングエコノミービジネスを提供しています。

マネジメントについては、出社も会議への参加も、すべて社員の自由に任せています。興味がなければ来なくていいし、逆に興味があるのなら、外部の方も参加可能です。ライフプランや働き方、給与も社員に自分で決めてもらっています。

社員のわがままを聞けば自分のビジョンに近づく。社員の希望をサポートするほうが効率的

ラルー
ラルー
お二人のビジネスやマネジメントに対する考え方は、世の中の主流とはかなりちがうものだと思います。

そのような考えを持つようになった経緯や、個人的なエピソードを教えていただけますか?
壇上の3人
青野
青野
わたしには、「情報共有をする組織を増やして、人類を幸せにしたい」という野望があります。でも、実現させるためにはだれかに手伝ってもらわなければなりません。

だから、2005年に離職率が28%になったとき、「どうしたら辞めないで残ってもらえますか?」と社員に聞いて、可能な範囲で実現していきました。

すると、みんなのモチベーションが上がって、多様な人材が集まり、新しいアイデアが生まれるようになったんです。社員のわがままを聞いていったら、自分のビジョン、夢が近づくんだと確信しました。
ラルー
ラルー
うるさいと思われるかもしれませんが(笑)、もう少し深堀りさせてください。

たくさんの社員が不満を抱いて会社を辞めていくような状況で、みんなの意見を聞くのは勇気がいることだと思います。どうしてそれができたのでしょうか。
青野
青野
わたしの場合は、自分の人生を一度あきらめたから、できたんだと思います。

会社が最悪の状況になり、自分には経営者としての才能も実力もないことがわかりました。人生に絶望し、消えてなくなりたいという気持ちでした。
質問に答える青野
青野
青野
そんなとき、わたしが大学を卒業してすぐに勤めていた会社の松下電工(現パナソニック)の創業者・松下幸之助さんの本に出会ったんです。そこには「真剣」という言葉が書いてありました。「命をかけて真剣に取り組むならば、事は半ば達せられたといってもよい」という意味です。

私は自分に真剣さが欠けていることに気付きました。「これからは命をかけて仕事に取り組もう。残りの人生はこんなバカな自分についてきてくれるみんなに捧げよう」。そう考えました。

一度人生をあきらめたのですから、みんなに何を言われても怖くない、と思うことができたんです。
上田
上田
ぼくは昔から非効率が大嫌いで。ソーシャルメディア事業に力を入れているのも、情報共有を進めてコミュニケーションミスによる無駄をなくしたいという思いが根底にあります。
情報共有の大切さを話す上田さん
上田
上田
マネジメントに関しても、一人ひとりの夢やライフプランを大切にして情報共有し、サポートするほうが、抑えつけて管理するよりも効率がいいんじゃないかと考えました。

社員一人ひとりのライフプランが達成できるかどうかがいちばん人生の満足度に響きますから。

日本社会では個人よりも集団が優先されがち。でも、変わらざるを得ない時がきている

ラルー
ラルー
お二人とも、一人ひとりの従業員と対話し、何が大切なのかを聞き出すことを重視しているんですね。

組織と個人の間にひずみが生じた場合、一般的に西洋では個人が優先されますが、東洋では集団のほうが優先されると聞いています。

個人と組織の関係性についてどう考えていますか。
青野
青野
おっしゃる通り、日本には個人よりも会社を優先する風潮があります。

「会社の方針に従う」「会社に迷惑をかけてはいけない」とよく言います。でも、「会社」という人は実在しません

方針を決めるのは経営者で、迷惑がかかるとは、同僚に負荷がかかる、ということ。
会社という人は存在しない、と説明する青野
青野
青野
「会社さんは存在しないんだ」と考えれば、組織には一人ひとりばらばらの人が集まって働いている、という組織の本当の姿が見えてくるはずです。
ラルー
ラルー
日本全体において、個人と組織の関係性は変わってきていると思いますか。
青野
青野
徐々に変わってきていると思います。「ティール組織」でいうと、日本の企業の大半は「アンバー型」(*2)。ヒエラルキー型・年功序列型の組織です。

安定したモデルではあるのですが、日本にはこういう会社がたくさんあるがゆえに、社会の仕組みがなかなか変わらなかった。

(*2)固定的な階層に基づく、ヒエラルキー型の組織。役割が厳格に分けられ、上意下達で業務の執行が行われる。『ティール組織』では時代とともに進化してきた組織形態を色に例えて定義している。ティール組織に関する記事はこちら

青野
青野
でも、ここに少子化という大きな外圧が加わり、流れが変わってきました。古い体制の組織には若者が集まらなくなりつつあります。

「アンバー型」の組織を次のステージに進めないと、企業として存続が難しくなる。
そう多くの経営者が気づき始めています。
上田
上田
会社という枠組みを超えて、共通する「思い」を持った人たちがひとつのプロジェクトに集まるという取り組みが増えてきているんじゃないかと思います。
会場に向かって話す上田さん
上田
上田
ひと昔前だったら、企業がビジネスとしてやっていたことを、NPOやプロジェクトの形で人が集まり、実行する。別の動態が生まれてきていると感じています。

「赤字になろうがどうでもいい」と「神様」に言われたから、オフィスの移転を決めた

ラルー
ラルー
お二人は単なる利益や事業成長するか否かを軸に経営判断していないように感じました。

経営者として判断する際は、何を軸にしていますか?
青野
青野
サイボウズでは利益や売り上げを判断軸にはしていません。「チームワークあふれる社会を創る」という企業理念に沿っているかどうかで判断しています。

と、口では言うのは簡単ですが、実際は結構大変で(笑)。

ひとつ例を紹介しましょう。サイボウズは2015年に東京オフィスを日本橋へ移転したのですが、じつは日本橋オフィスの賃料を初めて見た時は「これはないな」と思ったんです。「高過ぎる。赤字になってしまう」と。

そうしたら、上からチームワークの神様が降りてきて、わたしに語りかけてきたんですね。
チームワークの神様が降りてきた瞬間を再現するサイボウズ代表取締役青野
青野
青野
神様はこう言いました。「青野君、日本橋という町に新しいオフィスをつくって、日本の新しい働き方のショールームにしたらどうだ。きみの会社が赤字になるかどうかはどうでもいい」と。

それで日本橋への移転を決めました(笑)
ラルー
ラルー
神様が語りかけてきた、というのはさすがにジョークですよね(笑)?
笑いながら尋ねるラルーさん
青野
青野
いえ、そうとも言い切れなくて。

もう少し真面目に言いますと、組織を経営していると、自分の視点よりももう一段視座の高い「メタの視点」が必要になることがあります。「この状況に対して、神様だったらなんて言うだろう?」というように、視点を切り替えないとならないときがあるんです。
ラルー
ラルー
なるほど。どのように視点を切り替えているのでしょうか?
青野
青野
わたし個人は理屈で物事を考えるが好きなので、「神様の視点」に切り替えるときも、状況を見てロジカルに判断します。

「神様だったら今の社会の状況を見て、どんな判断を下すのかな」と想像する感じですね。
ラルー
ラルー
上田さんが経営者として判断する場合は、いかがでしょうか?
上田
上田
ガイアックスの会議は参加するのもしないのも本人の自由なので、おもしろくないとだれも来てくれないんですよね。

たとえば各事業部の発表でも、単なる数字の発表だけだと、だれも参加してくれなくなります(笑)。
会議の様子を笑顔で説明する上田さん
上田
上田
そこで必要になるのが、感情に訴えること。「この取り組みを実現するとどうなるのか」を伝える。

プロジェクトメンバーの引き抜きも自由なので、結果パワーのあるところに人が集まるようになります。

動物の群れが大陸を大移動するなかで意思決定するようなイメージです。

情報はオープンにしたほうが圧倒的に効率的。アホなのはばれるけど

ラルー
ラルー
多くの人が、リーダーは「すべてを掌握しなければならない」「弱さを見せてはいけない」と考えるのに対し、お二人はめずらしいタイプのリーダーシップを発揮していると思います。

従来のリーダーシップ観から一歩踏み出すにはどうしたらいいのでしょうか?
上田
上田
日本には「報告・連絡・相談=ホウレンソウ」というものがありますが、ガイアックスでも徹底しています。上司だけでなく、会社のメンバー全員、さらには世界全体に報告するくらいの感じで情報をオープンにしています。

ここまでするのは、全部情報が明らかになったほうが効率的だから。

これは従来型のリーダーシップをとってきた人にもわかるはずだと思うので、そこから始めたらいいのではないかと思います。
青野
青野
従来型の組織は、情報を持つ人が権力を持つ、という構図でした。このやり方を手放して、情報格差をなくすというのはリーダーにとっては勇気のいる決断だと思います。

でも、上田さんがおっしゃるように実際、効率がいいんですよね。

サイボウズの経営会議はだれでも参加可能ですし、議事録も公開しています。すると、すぐにフィードバックをもらえるから、経営者としては精度の高い戦略を、短期間で考えられるわけです。経営効率が格段に上がるんですよね。自分がアホなところもばれますが(笑)。
笑う青野
青野
青野
まずは、スモールスタートで始めればいいと思います。サイボウズもここまでくるのに14年かかりました。

思っていることがあるのなら、少しでも安心できる人とシェアし、徐々にその輪を広げていけばいずれは大きな変化になるのではないかと思います。

どうせ辞めるのなら、やりたいことをやったら? 最悪失敗しても辞めろと言われるだけだし

ラルー
ラルー
それではここから会場のみなさんからの質疑応答に入りましょう。
質問者
質問者
組織のトップではない、意思決定者ではない人が組織改革を進めることは可能なのでしょうか。その場合、どうしたらいいのでしょうか。
ラルー
ラルー
権力構造的にはままならない状況でも、自分の周りでできることはあるはずです。

たとえば青野さんが実践していたように、周囲に語りかけて、本音を聞いてみる。その際、自分としても仮面を脱いでさらけ出すことで、少しずつ周囲の関係性を変えることができると思います。

これは大きなシステムの中で、小さな実験をやっているようなものです。システムは強固で、「実験」はとても壊れやすいものですから、簡単に潰されてしまいます。

それでも、その実験を通して、視点が変わったという人が出てくるかもしれません。組織のあちこちで実験されるようになれば、いずれ大きく変わるかもしれない。大きなアリ塚も、小さな穴がたくさん穿たれれば、やがてガラガラと崩れます。
会場に向かって話すラルーさん
ラルー
ラルー
ここで言っておきたいのは、万が一のことが起こった場合の代替案となる、プランBを用意しておくということ。リスクを冒せるかどうかはそれにかかっています

プランBがないと、「キャリアに支障が出たら生活が成り立たなくなるのではないか」と怖気づいてしまうでしょう。でも、プランBがあれば、リスクをとることができます。

それから、「会社をもう辞めたい、これ以上我慢できない」という人に伝えたいのは、「辞める気があるのなら、辞める前に会社の中でやりたいことをやったら?」ということ。

結果失敗しても、最悪「辞めてください」と言われるだけです。もう辞めると決めているならいいじゃないですか。
青野
青野
日本人はひとつの会社に長く勤めることがいいことだと思う傾向にあります。実際辞めるというプランBを持てない人は多い。

辞めてもいいんだ、という考えを持つことで、ポジティブに、アグレッシブに組織に提案できる、というのは、大きなヒントですね。
ラルー
ラルー
「実験してみなさい」「挑戦してみなさい」とお伝えしたいです。

挑戦すればいろいろな経験ができます。そして、その次に自分に合った職に就ける確率も高くなるはずです。

あなたを通して生きることを望む、人生、目的、命に耳を澄ませてください。今あなたが感じている欲求不満ややるせなさは、ある目的があなたを通して実現を望んでいるというしるしだからです。

いつかやってくる大きな仕事のために、自分を磨き上げておかなければならない

質問者
質問者
人生の目的を見つけるのではなく、目的に自分を見つけてもらう、というお話ですが、どのような感覚なのか教えてください。
ラルー
ラルー
ベストセラー作家のエリザベス・ギルバートさんがシェアしてくれたインスピレーションに関する話を紹介しましょう。

小説を執筆していてアイデアが降りてこなくなり、執筆が止まってしまったとき、彼女は休憩をとるそうです。そして、ベッドルームに戻ってセクシーな服に着替えるのだといいます。

アイデアにとって自分がセクシーな存在でないとアイデアが降りてきてくれないんだそうです。
ギルバートさんの話を説明するラルーさん
ラルー
ラルー
わたし自身のことを言えば、セクシー路線ではありませんが(笑)、達成されるべき重要な仕事やアイデアが、こちらに降りて来たいと思えるように、自分を「美しい」存在に磨いておくことは大切だな、と考えています。

この世界の中には成し遂げられるべき重要な仕事があります。そして、その仕事はわたしたちが受け止める準備ができるのを待っています。

準備が整ったら、仕事たちはこちらに降りてきてくれます。でも、わたしたちがオープンで受け止める準備をしない限り、降りては来られないのです。
執筆・編集:鈴木統子/撮影:高橋団
人生の目的は見つけるものじゃない。いま、やるべきことにベストを尽くすだけ──ティール組織 著者の天職との出会い方
In Work As in Life, Let Your Purpose Find You
ティール組織が正しいわけではない。ありたい姿でいられて、仕事をいいわけにしない組織は強い ──嘉村賢州×青野慶久
ひどかったサイボウズがティール組織っぽく変われたのは、経営者の「深い内省」があったから──嘉村賢州×青野慶久

【はじめに 全文公開】マネジャーにすべてを背負わせるのはもうやめよう。サイボウズ副社長初の著書『最軽量のマネジメント』

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サイボウズ式編集部です。11月7日に、サイボウズ式ブックス初の書籍『最軽量のマネジメント』 が発売されます。

「チームワークあふれる社会を創る」の理念のもと、自社では100人100通りの働き方を実現するサイボウズ。サイボウズの副社長として、管理部門の責任者として、一人のマネジャーとして、「100人100通り」の働き方を実現するまでやってきた山田理が考える、新しいマネジメント論をまとめた1冊です。

「これからのマネジャーはどうすべきか」という重荷ではなく、「どうすればマネジャーの仕事を減らせるのか」という軽やかさを示したい。本書は、寄せられた過度な期待と責任から、マネジャーを解放するための本です。

出版にあたり、最軽量のマネジメントの「はじめに」を公開します。マネジメントに悩みを抱えるすべての方の助けになれば幸いです。

はじめに「どうすれば、マネジャーの仕事を減らせるのか?」

『最軽量のマネジメント』の書影

そもそも、マネジャーは本当に必要なのだろうか

「マネジャー」は当たり前のように、どの会社にもいます。 その総数が果たしてどれくらいなのかはわかりませんが、おそらく社長や役員の数よりも圧倒的に多いでしょう。

「係長」「課長」「チーフ」「リーダー」「事業責任者」......呼び方はいろいろありますが、企業の経営課題のひとつには、かならず「マネジャーの育成」が挙げられています。それだけ、会社にとって大切な役割を果たしているのでしょう。

ご多聞に漏れず、サイボウズでもマネジャーの人選や採用、育成については、これまで頭を悩ませてきました。

では、そもそもマネジャーはなぜ必要なのか──あるいは、必要だったのか。果た して、これからも本当に必要なのか。ここから話していきます。

「多様性」の陰で生まれたのは、「世代間のギャップ」

「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と評された 年代バブル時代。 巷にはモノが溢れ、株や土地の価格が上がり、給与も増え、ブランド品も身近になり、若者は夜をディスコで踊り明かしました。

これがつまり、現在多くの大企業で、代表や役員を務める経営者層が生まれ育ち、暮らしてきた時代のことです。

その狂乱もつかの間、バブルが弾けます。 景気が底を打つ中で、人はだんだんと「生きるために何をするか」ではなく「幸せになるためにどう生きるか」を考えるようになりました。お金をたくさん稼ぐこと、 モノをたくさん持つことが幸せ、という昭和の幻想が崩れ、ライフスタイルを重視し て仕事とのバランスを考えたい、という理想が生まれました。

そして現代。インターネットとスマホの普及により、その理想は現実になりました。 場所に依存しないコミュニケーションが容易になり、「働く場所や時間を自由に決 めたい」という価値観が生まれ、一人ひとりの理想は多様化していきました。

その一方、インターネットとスマホを活用する世代と「それ以前の世代」のコミュニケーションコスト......ひいては価値観のギャップが、見過ごせない現実として生じてきたのです。

2015年に行われた、興味深い国際調査の結果があります。

ISSP(国際社会調査プログラム)によると、「自分の職場では、職場の同僚の関係は良い」と思っている人の割合において、日本は調査対象37カ国中、最下位でした。 日本人と気質がよく似ていると言われるドイツが、 2位の93.4%という数字に対 し、日本は69.9%。

しかも、2005年調査時の数字は81.5%。 10年前と比べても大幅に悪化しています。つまり、この数字が示すのは、日本の組織のあり方が多様性の時代に追いつかなくなっている、という現実です。

では、その原因はどこにあるのでしょうか。

ISSP(国際社会調査プログラム)による、「自分の職場では、職場の同僚の関係 は良い」と思っている人の割合のランキング調査

トーナメントシートみたいな組織図は「情報を集約する仕組み」だった

これまでの会社の常識というのは、明治、大正、昭和、つまり「インターネット以前」の時代につくられたものです。 それまでの時代と今の時代でもっとも違うのは、情報の価値でした。

「情報」を集めるためには、基本的に人と会う必要がありました。そして、共有するにも対面で集まらないといけなかった。 つまり、情報を集めるにも伝えるにも、場所と時間のコストがかかったのです。

そのため、ひとつのチームは、できるだけ同じ時間、同じ場所にいることが前提でした。新入社員の頃、みなさんも何度も教えられたことでしょう。大切なのは「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」だ、と。

社員の情報が係長に、そして係長の情報が課長に、課長の情報が部長に伝えられ、部長が取締役に、取締役が社長に...... と、伝言ゲームのように伝わっていく。 さまざまな部署から拾い上げられた情報は、社長ないし経営陣のもとに集約さ れ、その情報をどこまで共有するかは、 上層部で判断する──。

よく見るあのトーナメントシートみたいな組織図は、実は「情報を集約するための効率的な仕組み」だったのです。 だからこそ、トーナメントシートの中間地点には「ハブ」としてマネジャーが配置され、情報が吸い上げられていきました。

社長と社員の上下関係を役職ごとに階層化した図

マネジャーのもっとも大切な役割は、チームを管理することでした。管理する、とはつまり、ホウレンソウによって部下から吸い上げた情報、あるいは上からの情報に基づき、「意思決定」をしていくことです。

その際、当然マネジャーは部下が知らない情報を持っています。その上これまで培ってきた経験や知識もあるはず。だからこそ、部下にはできない意思決定ができた、というわけです。

偉い人って一度で全部を伝えてくれない アレはなぜだったのか

経験がありませんか? 課長や部長に、情報を「小出し」にされたこと。偉い人って、一度に全部を伝えてくれないですよね。「どうしてですか?」と聞いても、煙に巻かれたりすることもあります。

「あれってどういうことだったんだろう?」と、よくよく考えてみると、すべて情報を明かしてしまうと、「上司と部下が同じレベルになってしまう」からだったのです。 つまり、情報格差を意図的に生み出すことがとても重要だったのでしょう。

アホらしい、と思うかもしれません。 しかし、時代背景を思い出せば「もっともなことだったんだな」とも感じるのです。

わたしも昭和生まれの昭和育ちです。インターネットがない時代に社会人になりました。携帯電話はもちろんなく、外出先からの連絡手段は公衆電話のみです。電話機の上には10円玉が山積み。そこからテレホンカードになっただけで「便利になったもんやなぁ」と思っていました。

彼女と電話で話すには、自宅にかけ、お父さんの「だれや、お前」という大きな壁を突破しないと、話すことさえできません。就職してから引っ越した独身寮には、食堂に1台しか電話がありませんでした。新人が順に電話番をやらされ、かかってきた電話をとり、館内放送でいちいち先輩を呼び出していました。

そんな時代、あるいはもっと前につくられた常識の中で生まれた組織が「会社」なのです。

情報を得るためにかなりのコストを要していた環境だからこそ、それを持っている人に権限があった。裏を返せば、情報格差こそが権威やお金を生み出す手段だった。そんな時代だったのです。

インターネットは「組織の階層」を破壊した

しかし、インターネット以降の世界で、情報は根本的に安くなりました。それはもう、バブル期の株価の下落なんて比べものにならない暴落です。ITの力で、情報格差はほぼフラットになりました。

あらゆる情報が、あっという間に世界中を飛び回ります。だれでも簡単に発信できるし、共有できます。上司も部下も、 1秒で同じ情報にアクセスできてしまいます。

サイボウズが提供するグループウェアも、そんな世界を実現するために生まれたものです。 そうなると、「おれだけがこの情報を持っているんだぞ」という権威は機能しなくなってきます。必死に隠しているつもりでも「ダダ漏れ」です。

こんな状況で、意思決定やチーム管理を、これまで通り──つまり「自分しか知らないから、おれが偉い」「そのおれが決めたんだから、つべこべ言わずにやれ」というやり方で続けるのは、とても大変なことです。

みんなもう、知ってしまっています。年齢がほんの何歳か違うだけで、意思決定の能力はそう簡単に上がらないこと。同じ情報さえ与えられれば、若いメンバーでも同じ質の意思決定ができることを。

そしてさらに、自分の得意分野であれば、若いメンバーのほうがいいアイデアを出すことが普通に起こり得る、ということに。

働き方改革でいちばん損しているのはマネジャーです

働き方の多様化と、こうした世代間のギャップが生じている中で、いちばん損しているのはだれか?

間にいる、マネジャーです。

マネジャーには「上」から無茶ぶりが降ってきます。「うちの会社は働き方を改革 します」「フレキシブルに働かせます」「残業を削減します」「社員の満足度を上げます」── 。

いったい、どうやって?

だからといって、マネジャーには、会社のルールをつくったり変えたりする権限はありません。これがいちばん苦しいんですよね。

昭和世代の「上」は、実はだれもそのやり方を知りません。唯一の指示は「問題が起こらないようにうまくやって」とだけ。 なのに、会社の業績目標は変わらない。メンバーの成果目標も下げてはいけない。業務効率を良くし、社員のモチベーションを高く維持しなければならない。自分が持っている数字もある── 。

「できるかいっ!」

そんなことができるくらいなら、とっくにやっていますよね。

しかも、そのジレンマに対して「下」から突き上げられるのもマネジャーです。 「下」からは、「無理です」「どうすればいいんですか」「そもそも何のための働き方改革なんですか」と問われます。上司に相談にいっても、「それをうまくやるのが君の仕事だろ」とまた無茶ぶりされます。

部下のモチベーション維持の前に、自分のモチベーション......それ以前に、まともな精神状態を維持するのさえ難しいのではないか、と思うのです。

これまでの組織のあり方は、現在の大企業が、創業当初のベンチャー的な経営を脱して成長していく中で、その成功体験を元にできたものです。ですから、それを踏襲し、一生懸命頑張ることが美徳とされてきました。

終身雇用と引き換えに、会社への忠誠心が求められる。「24時間働けますか」と問われ、子どもが生まれようともマイホームを買おうとも、辞令ひとつでどんな場所へも飛んでいく。弱音を吐くやつは「情けない」と叱責され、ついて来られないやつは窓際に追いやられ、あまり意味のない仕事を渡される── 。

そんな時代の中で這いつくばって仕事を学んだ世代と、インターネット以降の時代に生まれ育った世代。その狭間で、これまでだれも経験したことのないほど困難なマネジメントスキルが求められている。それが今の時代のマネジャーなのです。

「上」からの指示の意図を汲み取り、「下」に対しては納得させ、コーチングし、ティーチングし、メンタリングする。そのために必要なスキルは、ビジネス書を読込んで学習する。自主的にセミナーにも足を運ぶ。もちろん、個人の成果も出しながら、です。

「そんなパーフェクトヒューマン、どこにおんねん!」

あまりに酷です。この状況でうまくいく人がいるなら、それは奇跡か「もうけもん」です。

しかし、こんな状況の中でさえも、「やるからにはいいリーダーになりたい」という強い責任感を持ちながら、押し付けられた役割と戦っているのがみなさんなのだと思います。

みなさんが日頃、どんな責任や役割を負っているか、ちょっと棚卸してみましょう。会社の規模や仕組みによってバラツキはありますが、一般的にマネジャーの仕事は、大きく分けてこのふたつです。

ひとつは、プロジェクトマネジメント。そしてもうひとつは人材マネジメントです。そして多くのマネジャーが、基本的にはその両方を一手に担っています。

プロジェクトマネジメントには、目標を決める、意思決定する、進捗管理する、予算管理する、といった役割があります。人材マネジメントには、人材育成や採用、メンバーのモチベーション管理、評価などがあります。

さらに言うと、中間管理職としての報告や調整業務。実際はプレイングマネジャーである人も多いでしょう。これらの役割をすべて全うし、そのすべてに責任を取れる人がもしいるといたら、その人はすぐに今の会社を辞めて独立したほうがいいでしょう。きっと今より稼げるはずです。

「正直、全部は目が行き届いていない」「全然うまくいかない......どれもバランスよく、なんか無理じゃない?」そう感じる方は、素直な反応です。

そもそも、何でもかんでも役割をマネジャーに集中させてしまっていることが問題なのです。これらの仕事は、たった一人のマネジャーが抱え込まなければならないものなのでしょうか。

マネジャーを、もっとだれでもできる役割にしたい。抱え込みすぎているマネジメントの仕事と責任を分散させたい──。いや、むしろ「なくして」しまいたい。

サイボウズは、「マネジャー」という役割を、より希少価値が高い重要なもの、で はなく、もっと「大衆化」することに挑んできました。

サイボウズは人が人を管理することをあきらめた

サイボウズはグループウェアを提供する会社です。 グループウェアというのは、組織の中でやりとりされる情報、たとえば、スケジュール・顧客情報・メール・さらには企画書やファイルまで、あらゆる情報をオンラインで手軽に共有するためのツールです。

つまり、より良いチームワークを生み出すサポートをするもの。ですから、企業理念にも「チームワークあふれる社会を創る」と掲げています。

そして、わたしたちが考える理想のチームワークとは、「企業理念に共感して集まったメンバーが、お互いの個性を尊重し合い、公明正大に議論して意思決定し、自立したそれぞれが互いに作用し、助け合いながら、最大限能力を発揮できること」です。

お互いの個性を尊重し合う、ということは、それぞれの働きやすさを尊重する、ということ。それならまずは、サイボウズ自体がやるべきだ、と。

その結果、「100人100通りの働き方」を合言葉に、サイボウズではさまざまな働き方を実現してきました。

・育休は最長6年
・育自分休暇制度... 35歳以下は、退職後6年間出戻りOK
・複(副)業自由...会社資産と関係ないものは承認や報告の義務もない
・複業採用...サイボウズ側の仕事を複(副)業とする人向けの採用方式
・働き方宣言制度...いつ、どこで、どれくらい働くのか、は個人の自由記述式

サイボウズでは副業を「複業」と表現しています。従来の副業は、副収入を得るための「サブ」的な意味合いが強いものでしたが、サイボウズが考える「複業」は自分らしい個性的なキャリアを積むための「パラレル」、つまり並列なものです。

また、サイボウズの働き方は、もはや選択制ですらありません。「いつ、どこで、どれくらい働くのか、自分の希望する働き方を自由記述で宣言」します。

在宅で朝7時から働く人もいれば、基本は地方在住で週に2日リモート勤務する人、 9時出社するけれど途中複業で抜けて夕方に戻ってくる人もいます。まさに「100人100通りの働き方」です。 こうなると、もはや管理のしようなんて、ありませんよね。

「100人100通りの働き方」を目指した時点で、サイボウズは社員を管理することはあきらめたのです。そして当然、ここからサイボウズにおいてマネジャーに期待される役割は変わっていきました。

マネジャーは完璧じゃなくていい 「理想のマネジャー像」なんていらない

では、メンバーの幸せを第一に考える組織のマネジャーは、どうあるべきなのか──。

すみません。自分から言い出しておいてなんですが、もう、そういうのはやめにしませんか。「こういったマネジメントをすべきだ」「こんなマネジャーが理想だ」「こういう経験がある人が向いている」......。

見たこともない「理想の姿」を求めて、チェックリストをつくって、フレームワー クに落とし込んで、「再現性のある」ノウハウを見つけて......。

そんなやり方は、もう通用しません。だって、100人100通り、一人ひとり違う個性や価値観を持ったメンバーが、チームとして集まっているのですから。

みんな「管理される」のはイヤなはずなのに、マネジャーになった途端、「管理しよう」とします。なぜでしょうか。 十数年前のわたしもそうでした。そして、たくさんの過ちを犯しました。 ここで、はっきりさせておきたいことがあります。「マネジャーがメンバーのことをすべて把握し、管理する」なんて、無理です。

ただでさえ、「働き方改革で部下を早く帰さないといけなくなって、中間管理職が仕事を巻き取らないといけない」「部下の働き方が多様化したせいで、管理業務がかえって大変になった」......そんな声も聞こえる中で。

もっと、力を抜いて、「あきらめる」ことから始めてみませんか。

マネジャーが、なんでもかんでもできる必要はないのです。完璧じゃなくていい。完璧を求めると、自分も苦しくなるし、周りも苦しくなります。

あきらめる、という言葉を辞書で調べると、こう書かれてあります。「つまびらかにする。いろいろ観察をまとめて、真相をはっきりさせる」。

つまり、無理がある、と感じることにはどこかにかならず問題がある、ということ。それを明らかにせずに根性論だけでがんばる、というのはおかしいのです。

じゃあ、どうすればいいのか。

無理だと思うことには問題がある ➡︎ じゃあ一度それを明らかにしよう ➡︎ 明らかにすればマネジャーの仕事は絶対に減らせるはず

この視点こそが、この本で伝えたい「最軽量のマネジメント」なのです。

「はじめに」の最後に、この本の構成を紹介します。第一章では、まず「サイボウズが捨てた捨てたマネジメントに関する6つの理想」と題して、サイボウズが「100人100通りの働き方」を実現するまでに捨ててきた、古びた理想を書き出しました。まずはこの章を読んでいただき、これまでみなさんが背負ってきた重荷をそっと床に置いてもらいたい。

次に、第二章では「離職率28%から4%までの道のり」として、サイボウズがうまくいかなかったときのことをまとめました。 サイボウズでやってきた経験はありますが、すべてがすべてうまくいっているとは思わないですし、「これが正しい」とは言い切れません。わたしとみなさんは違う人間だし、サイボウズとみなさんの会社は違う企業だからです。

しかし、こうやったらうまくいかなかったという事実は、はっきりとみなさんに示すことができます。当てはまるかわからない成功例ではなく、過去の失敗例を参考に、みなさんのこれからを想像していただければと思います。

そして、第三章・第四章・第五章では、

・「みんなの考えていることが見えなくなったときこそ『ザツダン』」
・「最軽量のマネジメントは『情報の徹底公開』たったひとつ」
・「だいたいの問題は『説明責任』と『質問責任』で解決する」

として、どうすればマネジャーの仕事を減らせるのか、チームの多様な働き方を成り立たせることができるのか、何よりそのどちらとも両立するには、その実践例を共有します。

最後に、「会社そのものがなくなる時代に人はどうやって働くのか」として、わた しがシリコンバレーで見ている、すこし先の会社のあり方をお伝えしています。売上や利益、成果を第一に考える組織におけるマネジャーの教科書は、世の中に溢れています。

けれども、メンバーの多様性、働きやすさ......つまり、チームの幸せを第一に考える組織のマネジメント。その「実験結果」は、まだまだ足りません。働き方改革以後、理不尽な板挟みに合い、途方に暮れるマネジャーにとって指針となるような......迷ったとき、ふと夜空を見上げると目に映る北極星のような、そんな「レポート」にこの本がなればと思います。

『最軽量のマネジメント』目次

はじめにと1章の目次 2章と3章の目次 4章と5章の目次 6章とおわりにの目次 最軽量のマネジメント(サイボウズ式ブックス)
『最軽量のマネジメント』の予約・購入はこちらから。ご意見・ご感想は、Twitterのハッシュタグ「#最軽量のマネジメント」までお寄せください。
マネジャーに強い想いがあるから、「しょうがないな」とみんながついてきてくれる──まずは自分が熱狂しないと始まらない。ヤフー伊藤羊一×サイボウズ山田理
情報をクローズにする経営者は、凡人以上に天才を殺している──『天才を殺す凡人』北野唯我×サイボウズ副社長 山田理
人に値段をつけるって怖いんですよ。だって、正しい値段なんてあるわけないんですから──わざわざ 平田はる香×サイボウズ 山田理
上司の「信頼している」は余計なお世話。マネジャーは責任を取って任せるだけ
サイボウズの開発本部がマネジャーをなくしてみた「いないと無理なら、またつくればいい」

企業は利益のために、マインドフルネスを悪用していないか?──ブームに警鐘を鳴らす専門家に本来の意味を聞いてみた

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ストレスに対する効果が注目を集め、数年前から話題になっている「マインドフルネス」。瞑想や呼吸法を生活に取り入れている人もいるのではないでしょうか。

一方、サンフランシスコ州立大学ビジネス学部経営学教授のロナルド・パーサーさんは、現在のマインドフルネスのあり方に疑問を呈しています。

「ストレスの問題解決を、個人に頼りすぎている」「企業は時として、従業員のストレス耐性を高め、会社の成果を上げるために、マインドフルネスを悪用している」

現状のマインドフルネスの問題点、そして、本来どのように生かすべきなのかについて、サイボウズ式、サイボウズ式のグローバルサイト「Kintopia」編集部員のアレックスが聞きました。

※この記事は、Kintopia掲載記事The Radical Potential of Civic Mindfulnessの抄訳です。

The Radical Potential of Civic Mindfulness

マインドフルネスは企業が利益を得るためのツールになっている

アレックス
アレックス
最近は、社内プログラムにマインドフルネスを取り入れている企業が増えていると聞きます。

職場でストレスを感じている人が、上司からマインドフルネス実践プログラムを勧められ、受講したとします。何が得られるのでしょうか?
パーサー
パーサー
企業が社員に提供するマインドフルネスプログラムは「リラックスして、気持ちを落ちつかせるための呼吸法を習う」というものが一般的です。その時の思考や感情をありのままに認識するのが目的です。
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ロナルド・パーサー。サンフランシスコ州立大学ビジネス学部経営学教授。西洋の消費者資本主義や個人主義社会において、世俗的にマインドフルネスを取り入れることの難しさを研究している。禅師でもあり、著書に”McMindfulness: How Mindfulness Became the New Capitalist Spirituality” がある。

パーサー
パーサー
プログラムでは「ストレスとは、状況に過剰に反応して感情をうまく調整できないときに発生する。つまり、あなたが頭のなかで作り出したものだ」と言われるでしょう。

これは企業から社員への暗黙のメッセージなんです。「健康やメンタルヘルスは自己責任です。でも、職場環境や組織文化に適応する支援はしますよ」というね。
アレックス
アレックス
パーサーさんは、著書で現代のマインドフルネスのあり方に警鐘を鳴らしています。どのような問題点があるのでしょうか?
パーサー
パーサー
現代のマインドフルネスの主目的は、神経系を落ち着かせてストレスを軽減すること。つまり、不安に対処し、自分の思考と感情の間に健全な距離をとることなんです。

ストレス対策として、マインドフルネスに頼ることは、本質的には間違っていません。肝心なのは、それが誰のためのものなのかということです。
アレックス
アレックス
というと?
パーサー
パーサー
具体的に言うと、現代のマインドフルネス、とりわけ企業が提供する社員向けのプログラムは、単純に個人のストレス対策が目的になっていません。

つまり、企業が利益を得るためのツールになっているということです。

つらくても「マインドフルネスで頑張って乗り越えてね」

アレックス
アレックス
もう少し詳しく教えてください。
パーサー
パーサー
私は、健康産業から人間の幸福や心理学をポジティブに探究するビジネスまで、幅広い業界にまたがっている現代のマインドフルネスを「最新の資本主義スピリチュアリティ」と呼んでいます。

これは、いわばプロテスタントの労働倫理の現代版です。

かつてピューリタンは、天国に召される可能性を高めるために、過酷な労働状況でも懸命に働きました。

この状況と、企業が社員に提供するマインドフルネスプログラムの関係は類似しているのです。「キャリアで成功する代償として、抑圧的な職場環境に耐えるための軟膏だよ」ということですね。
アレックス
アレックス
対処療法的にマインドフルネスを使って、「頑張ってなんとか乗り越えてね」と言っているのと同じですね。
パーサー
パーサー
そうです。今流行っているマインドフルネスは、お金も権力もあるIT業界のエリートによって始められました。自身をスピリチュアル起業家と称し、企業利益のためにマインドフルネスをねじ曲げたのです。

現代のマインドフルネスは、「マインドフルネスのプログラムを従業員に提供する俺たちはイケてるでしょ」という見せかけの企業スピリチュアリティに見えます。

個人がマインドフルネスでメリットを得るのは大いにけっこうです。

ただ、人間の苦しみの原因を狭く定義してはいけません。「個人の幸せは、社会的要因や周辺の環境から独立したものである。幸せは、自己管理と脳のトレーニングによって得られるものだ」というメッセージは危険です。

根本的な原因を解決せず、個人のストレスに対する対処能力や免疫力だけを強化するべきではないでしょう
アレックス
アレックス
パーサーさんが著者でマインドフルネスを「最新の資本主義スピリチュアリティ」と呼ぶ理由がわかってきました。

資本主義社会では、利益追求のために個人の限界を押し広げがちです。現代人がストレスとうまく付き合えれば、企業は従業員をさらに追い込み、労働環境が悪化することも考えられます。
パーサー
パーサー
その通りです。マインドフルネスは市場から大いに歓迎されていますが、私たちは一度立ち止まって状況を把握するべきです。

本来のマインドフルネスの意味は「明瞭な理解」。現在と過去の大きな違い

アレックス
アレックス
そもそも、マインドフルネスはいつごろ生まれたものなのでしょうか。
パーサー
パーサー
起源は2600年前のブッダの教えにさかのぼります。

マインドフルネスはパーリ語の「Sati(サティ)」(気づき)を訳した言葉です。ブッダの初期の教えを収録した「パーリ仏典」には、マインドフルネス瞑想の取扱説明書のようなものが含まれていました。

それがイギリスの学者によって、19世紀に英訳されたんです。
アレックス
アレックス
19世紀当時のマインドフルネスは、どんなものでしたか?
パーサー
パーサー
今起きていることにしっかり目を向けて、過去の教えを回想するというものでした。熟練した精神状態を手に入れれば、苦しみの原因となる未熟な気持ちや感情を避けられる、と考えたのです。

それは、過去の記憶だけでなく、あなたの考えや意図、態度がもたらす結果までを意識するものでした。

マインドフルネスの考えで重要なのは「sampajaña(サンパジャンニャ)」です。これは、起きていることをはっきり理解することを指し、「明瞭な理解」と訳します。
アレックス
アレックス
心を無にするという意味合いの現代のマインドフルネスとはだいぶ違いますね。
パーサー
パーサー
そうです。他のことは考えず、今起きていることだけに集中するという現代のマインドフルネスの内容とは異なります。

当時の仏教では倫理、瞑想、賢明さを大事にすることが重んじられていました。しかし、現代のマインドフルネスでは、このような仏教のスピリチュアルな側面を切り離されてしまったのです。
アレックス
アレックス
どうして切り離されてしまったのでしょうか。
パーサー
パーサー
マインドフルネスの現代化は、イギリス統治下のビルマにおける上座部仏教の瞑想が始まりです。

当時、瞑想は一部のエリート僧侶だけに許されていましたが、ビルマやタイで仏教の存在自体が脅威にさらされたことを機に、広く一般に解放されるようになりました。

彼らは西洋にアピールするために、仏教は宗教ではなく「心の科学」だと説きました。「マインドフルネスは、西洋の合理主義と科学がマッチしたもので、宗教ではない」と。

その後、1960年代初期にほぼ原型をとどめない、心の平穏を取り戻すための治療法としてアメリカに広まり、マインドフルネスが盛んになりました。しかし、マインドフルネスの識別や判断といった認知の側面がおろそかにされるようになってしまったんです。
アレックス
アレックス
本来のマインドフルネスの目的は、なんだったのでしょうか?
パーサー
パーサー
そもそもは、自身への愛着や執着を絶つことでした。

これは、仏教における"Liberation"(解放)の意味合いでもあります。「自分が他から独立しているという幻想」から解放される意味です。

この気づきは、思いやりの概念にも影響します。この幻想を乗り越えられれば、他者と自分という線引きが消えてなくなります。必然的に周囲への思いやりを持てるようになるんです。

つまり、離れているように見えても、本質的にはすべてのことがつながっているという考え方です。

マインドフルネスは瞑想や休息だけではない。大事なのは会話

アレックス
アレックス
マインドフルネスが、紆余曲折を経て現在流行っているようなものに変わった経緯がよくわかりました。

それでは今、マインドフルネスでストレスに対処している人は、どうしたらいいでしょうか。
パーサー
パーサー
もはや、静かに座って瞑想アプリを使うような個人主義のテクニックだけでは、不十分です。より社交性にあふれた実践法に変えていかないと。

3分間の呼吸法をやってみたり、面倒なメールを送信する前に深呼吸してみたりといった方法もけっこうですが、個人向けのテクニックにとどまっていては、マインドフルネスが持つ真の可能性に気づけません。

わたしたちはもっと高みを目指せるはずです。
アレックス
アレックス
ストレスの原因や苦しみを根本的に取り除くためには何をするべきですか?
パーサー
パーサー
現代人のストレスを大幅に減らせる可能性がある、内外的な要素を探るべきですね。

具体的には、政治・社会システムを見直すことです。現代のマインドフルネスは、圧倒的に個人主義であり、社会・集団的な側面が忘れ去られています

1つ言えるのは、集団生活での気配りや注意深さを養うコミュニケーションをはじめとした、組織的な苦難に立ち向かうマインドフルネスが求められているということです。

これは、現実を新たな目で見るように人々を刺激し、人間のつながりを実感させてくれるはずです。わたしはそれを「ラジカル(急進的)・マインドフルネス」と呼んでいます。
アレックス
アレックス
ラジカル・マインドフルネスにたどり着くためには何が大切ですか?
パーサー
パーサー
「マインドフルネスは何のためにあって、誰が恩恵を受けるのか」と問いかけることです。

そして、マインドフルネスを、不公平さであふれる現代や企業に適応するツールとして使うことをやめるべきです。
アレックス
アレックス
他にはありますか?
パーサー
パーサー
沈黙することだけを評価してはいけません。マインドフルネスは、沈黙の訓練と思われがちですが、それは違います。「会話」が大事なんです。

「怒りが収まらなくて」と話す参加者に呼吸法を勧めても、意味がないですよね。そうではなく「何について怒っていたの?」と問いかけるのがふつうだと思います。このように、自らに問いかけて自身の感情を深く知ることが大切です。

臨床療法的マインドフルネスでさえ、人々は自分の体験を打ち明けるものですから。
アレックス
アレックス
先ほどの、個人は他から独立した存在ではないという点ですね。
パーサー
パーサー
ええ。C. ライト・ミルズ の著書”The Sociological Imagination” に「私たちは、人々の個人的なトラブルと社会的課題をつなげる必要がある」と書かれています。

私はこの考え方を「シビック (市民)・マインドフルネス」と呼んでいます。これを実践すれば、人は個人的なトラブルや不安を深く理解できます。

そして、社会や政治的状況と個人がどうひも付いているかを知ることで、集団の結束力が育まれます。
アレックス
アレックス
シビック・マインドフルネスを実践すれば、現状のマインドフルネスを超えることはできますか?
パーサー
パーサー
少なくとも、マインドフルネスは個々人のストレス軽減や行動管理ツールではなくなります。

単なる療法の域を越えた、社会的に根付いた独自のマインドフルネスを編み出していく必要があるでしょうね。

マインドフルネスには根源的にも、政治的にも、可能性を秘めています。それが明らかになるのは、これからです。
The Radical Potential of Civic Mindfulness - Kintopia
執筆:Alex Steullet/翻訳編集:三橋ゆか里/編集:藤村能光、鈴木統子

オープンコミュニケーションってそもそもなんで大事なの?──Slack CEOと情報共有について考えた

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青野とバターフィールドさんが、早速名刺交換

2013年にアメリカでリリースされ、ビジネス向けコラボレーションツールとして、瞬く間に世界中に広がったSlack。その仕組みは、コミュニケーションのあり方やプロジェクトの進め方を大きく変えました。

Slack Technologies, Inc.のCEOスチュワート・バターフィールドさんは、「透明性とチームの連携は表裏一体。スピーディな意思決定と目的達成のためには、オープンコミュニケーションは不可欠」と話します。

オープンコミュニケーションが重要である理由や、企業内のコミュニケーション課題の解決方法について、サイボウズ代表取締役社長の青野慶久が話を聞きました。

※この記事は、Kintopia掲載記事Open Communication Is Changing the Way Companies Do Businessの抄訳です。

大企業ほどスピードの低下に苦戦、情報共有で少人数企業の速さに

青野
青野
Slackはコミュニケーションのあり方を大きく変えましたよね。1対1が中心だったメールのコミュニケーションから、情報が格段にオープンになりました。
バターフィールド
バターフィールド
Slackはメールでは個々の受信箱にあったメッセージを、みんなが見ることのできるチャンネル内へ移動させました。

でも、結果的にはもっと透明性の高いものになりましたね。

Slackを使えば、組織全体で同僚が何に取り組んでいるかがわかります。プロジェクトに途中から参加した人や、会社に中途で入社した人も、経緯や蓄積された情報にアクセスすることが可能です。
Stewart bio pic.jpg

スチュワート・バターフィールド。Slack Technologies, Inc. の共同創業者及びCEO。起業家、デザイナー、テクノロジスト。 2014年にSlackの立ち上げに参画。以来、150か国以上、600,000社を超える組織が、Slackを活用している。 2003年、インターネット上での情報共有サービスに新しい形をもたらしたFlickrを共同で創業し、CEOとして同社を世界最大級のウェブサービスへと成長させる。TIME 誌「世界でも最も影響力のある100人」や BusinessWeek「トップリーダー50人」をはじめ、Vanity Fair「New Establishment List」、「Recode 100」、Advertising Age「Creativity 50」、Wall Street Journal「Technology Innovator of the Year」など、数々の賞を受賞。 ヴィクトリア大学で哲学分野における優等文学士号を、ケンブリッジ大学で哲学修士号を取得。認知科学、経済学、組織心理学、歴史、科学哲学へも造詣が深い

青野
青野
クローズドなコミュニケーションシステムのメールから、オープンなSlackに移行すれば、組織内の透明性を大幅に高められますよね。

透明性が高まると、組織にとってどのような恩恵があると思いますか。
バターフィールド
バターフィールド
透明性とチームの連携は表裏一体です。もし関係者が同一の情報にアクセスできなければ、一緒に仕事をするうえで支障が出てきますよね。

共通目的のために各自のアクションを設定するには、情報を共有しなくてはなりません。

さらにチームの連携が一定期間続けば、組織の目的達成度と敏捷性が高められます。

企業の規模が大きいほど、この点に苦労しています。

Slackは、大企業が小規模の企業と同レベルのスピード感を実現できるようにしたいのです。

大人数の従業員が同じ見解のもと、共通の目的に向かって緊密に連携をとって動ける状態にするのが、私たちのミッションだと考えています。

Slackで組織文化を変えられるかは、その組織次第

青野
青野
企業が連絡手段をメールからSlackへ切り替えると、社風に変化が起こりますか?
サイボウズ代表取締役のあおの・よしひさ

青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を行い、2011年からは、事業のクラウド化を推進。著書に、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない』(PHP研究所)など

バターフィールド
バターフィールド

Slackは、社風を変えるうえで非常に有効なツールだと思います。


ただ、導入すれば自然に社風が変わるわけではありません。Slack自体に社風の問題を自然に解決できる機能があるわけではないので。

青野
青野
たしかに組織によっては、Slackをメールと同じように、クローズドに利用することもありえますよね。

変われるかどうかは、組織次第というところでしょうか。
バターフィールド
バターフィールド
ええ、そうだと思います。ある例を紹介しましょう。Slackの初期、最大のクライアントの1つだったのがIBMでした。

IBMのCIO(最高情報責任者)は、ソフトウェアの開発方法を変えることを望んでいました。ですが、歴史ある大企業で、雇用している開発者の数も相当なものです。開発方法を変えるのは、かなりの大仕事となります。

CIOは、Slackを「社風を操作する1つの方法」と見ていたそうです。そしてSlackを導入することで社風を変え、さらに社員の働き方改革にも成功しました。私はこの「社風を操作する」という考え方を気に入っています。
青野
青野
重要なポイントですね。サイボウズでも、情報共有ツールを開発しており、実際社内でも情報共有を最重視しています。

バターフィールドさんは、どんな社風の企業なら、Slackを有効に活用できるとお考えですか?
サイボウズ青野と、バターフィールドさんが対談する様子
バターフィールド
バターフィールド
1つの傾向として、透明性が高く、風通しのよい企業とは相性がいいと思います。

たとえば、アメリカ最大のヘッジファンドであるブリッジウォーター・アソシエイツは、社風の透明性が高いことで有名です。実力主義をとっており、全社員がアイデアを競うことを奨励しています。

社員同士の関係がフレンドリーなスタートアップも、Slackをうまく活用できると思います。
青野
青野
一方、Slackと相性が良くない社風はありますか?
バターフィールド
バターフィールド
中間管理職が権限を行使するために、情報を共有したがらないような組織です。Slackは、情報をクローズドにしづらいので。情報共有を望まない企業がSlackを使用しても、あまり成功度は高くならないでしょう。

大人数で情報共有するにはどうしたらいい?

Slackではみんなが同じ情報にアクセスできるようにする

青野
青野
Slackは、短期間で爆発的に成長しました。

小規模のスタートアップから、大規模なグローバル企業に成長するうえで、どのような変化を感じましたか。
バターフィールド
バターフィールド
大企業と小規模の企業には、対照的な2つの傾向があります。私たちはその両方を経験しました。

小さい規模の企業では、社員全員があらゆることに携わるのが簡単で、意見も気軽に言えます。一方、企業規模が大きくなるにつれ、それは難しくなります。フィードバックをする人の数が多すぎるからです。

そして、大規模になると、オープンな場所でされるべきコミュニケーションが、ごく限られた人数のグループ内でやりとりされるようになります。

この問題に対処するため、Slackではあるルールを設けました。
青野
青野
どのようなルールでしょうか?
バターフィールド
バターフィールド
現実的な範囲で、できるだけチャンネルの参加者を増やして規模を大きくし、コミュニケーションをとるようにする、というルールです。

もちろん、すべてのコミュニケーションが1つのチャンネルに集中してしまうと、混乱が起こります。チャンネルはテーマごとに分けられるべきです。

いずれにせよ、どの場合もコミュニケーションがオープンであることが理想です。チャンネルの情報を検索できますから、あとからチームに入った人がキャッチアップできますしね。
青野
青野
新しいメンバーが決定事項のプロセスを理解できるように、情報をオープンにしておくことはとても大切ですね。

ただ、情報があまりにも多くなりすぎて、フィードバックの対処が大変だという側面もあります。サイボウズでもその点によく苦労しています。

Slackでは、膨大なフィードバックにどのように対処していますか?
バターフィールド
バターフィールド
お客様から得られるフィードバックはすべて大切にしています。

毎週、何万件ものフィードバックが届きますし、お寄せいただいた質問にもお答えしています。社内の場合も、常にフィードバックをもらいますし、真摯に受け止めるようにしています。

ただ、社内のすべてのフィードバックを取り入れ、返事をする必要があるとは考えていません。
サイボウズ青野と、バターフィールドさんが対談する様子
青野
青野
だれもが自分の意見を発信し、フィードバックができる環境を整え、その都度判断して対処しているということですね。

サイボウズでも、同じようにだれもが意見をオープンに言える環境づくりを徹底しています。

経営会議はだれでも参加できます。会議の内容や意思決定のプロセスも社内全体に公開し、フィードバックをもらえるようにしています。
バターフィールド
バターフィールド
その話を聞いて、アフガニスタン戦争で駐留軍司令官を務めたスタンリー・マクリスタル氏の書籍『TEAM OF TEAMS <チーム・オブ・チームズ>』を思い出しました。

彼がまず優先したのが、「意識の共有」と名づけた構想です。これは、軍の作戦に関わっている全員が最新の情報を共有し、各チームが他のチームの決定事項をもとに、意思決定を下せるようにする考え方です。

マクリスタル氏は、90分の打ち合わせを週6回、7000名以上の兵士と電話会議をしていました。そして、その7000名のメンバーは、何十万人もの兵士を統率していました。

軍の全員が同じ情報を共有し、メンバーのこれからのアクションについて、具体的に知らされていたということです。
青野
青野
7000名ですか!? すごい人数ですね。
バターフィールド
バターフィールド
ええ。当時、軍ではフィードバックのプロセスが煩雑になり、意思決定が遅くなっていました。

小さいチーム内では、多数の詳しい情報を共有し、全員がお互いを把握することができます。

しかし、組織が拡大すると、各チームは孤立してしまうことがあります。「チーム・オブ・チームズ」の手法は、大きな組織が小規模だったころと同じレベルで、見解やつながりを共有できるようにするものです。
青野
青野
指令官が、全体に関わるビジョンを自分の軍隊と共有しているということですね。

Slackでは、どのようなビジョンを社員と共有しているのでしょうか?
バターフィールド
バターフィールド
Slackのビジョンは、あらゆる規模の組織が、スピードを維持できるようにすることです。そして、「ビジネスライフをよりシンプルに・より快適に・より有意義に」することもミッションです。

プロジェクトの優先順位の戦略は非常に重要で、そのための情報も常に共有しています。

サッカー選手並みにスピーディな決断をビジネスでするには?

青野
青野
規模の大きさに反比例してスピードが落ちてしまうという問題についてもう少し詳しく話を聞かせてください。

そもそもどうしてこのようなことが起こってしまうのでしょうか。
バターフィールド
バターフィールド
サッカーの試合と大企業を比べてみましょう。


まず、サッカーの試合を想像してみてください。1つひとつの場面をよく見ると、メンバーがダイナミックにポジション変更をしているのがわかります。そうした判断のほぼすべては、選手が自主的に下しているものです。

ビジネスにおける決断を、サッカーに例えるバターフィールドさん
バターフィールド
バターフィールド
選手は自分とチームメイトの役割を把握し、強みと弱みを正しく理解しています。

ボールの位置、これから向かう先を判断するための情報ソースは基本的にみんな同じです。チームのリソースは選手の筋肉や脳です。そのほぼすべてが、試合に勝つという目標に向けて効果的に配備されます。
青野
青野
なるほど。
バターフィールド
バターフィールド
一方、数千人規模の企業はどうでしょうか。

サッカーの試合のように目的は一様ではなく、その年にどんな目的を達成すべきか議論を重ねなくてはなりません。

社員の役割も固定されておらず、ときに新しい役割をつくりだすこともあります。サッカー選手ほど、決断を下すのは簡単ではありません。
青野
青野
規模が拡大すれば、プロジェクトの数も増え、業務が複雑化するのは避けられませんよね。
バターフィールド
バターフィールド
はい。そこで大事なのは、役割と目標を明確にすることだと思います。そうすれば、速やかに動けるようになり、多くの決断を下せます。
青野
青野
おっしゃる通りです。そして、企業のビジョンも必要ですよね。
バターフィールド
バターフィールド
はい。明確なビジョンと具体的な目標が必要です。各部門の目標は、組織のビジョンの下に設定されなければなりません
青野
青野
組織のビジョンと事業の目的は同じ方向を向いているべき、ということですね。
バターフィールド
バターフィールド
そうです。

現場のメンバーは、専門分野や担当業務といった部門の詳細に詳しいです。一方で、CEOほど会社を横断的に見ることはできません。

ですから、メンバーは、会社全体を貫くビジョンを理解し、自分の仕事の目的とすり合わせができないといけませんし、組織としてもそうできるようにしておく必要があります。
青野
青野
おっしゃる通りです。

サイボウズでも、新しい事業を立ち上げる際は、「チームワークあふれる社会を創る」というビジョンに沿ったものになっているかを判断基準にしています。

今後もさまざまな事業が立ち上がっていくと思いますが、ビジョンに沿ったものであれば問題ないと考えています。
サイボウズ青野と、バターフィールドさんが対談する様子

時代が変われば仕事も変わる。自動化は脅威ではない

青野
青野
日本では人手不足が深刻化しています。若者の多くは、働き方や組織文化の変革を求めています。

かつて、若者は有名企業に入ろうと努力したものでした。しかし今はどんなに有名な企業でも、社風が悪ければ、多くの若者は離れていきます。若者は、自分の仕事に幸せや目的を求めるようになっています。

今は、インターネットによって、会社が自分にふさわしいかどうかの情報も手に入りやすくなっています。
この傾向は、米国でも見られますか? 将来的にはどんな働き方の変化が起こると思いますか?
バターフィールド
バターフィールド
日本が今経験している変化は、米国ではかなり昔に起きていました。IT企業の平均定着年数はたったの2年です。

一方、今後自動化が進むにつれ、単調な仕事はなくなり、知性と創造力など高いスキルが必要な仕事が残るようになります。
サイボウズ青野と、バターフィールドさんが対談する様子
バターフィールド
バターフィールド
仕事自体が高度になると同時に、マネジメントも難しくなっています。複雑な仕事の成果を評価するのは決して簡単なことではありません。

今後20年で、自動化はさらに進んでいくでしょうから、仕事自体もマネジメントもさらに難易度は上がっていくと思います。
青野
青野
私は自動化を楽観的に見ています。つまらない仕事がなくなることは、最終的には人間を幸せにすると思うので。バターフィールドさんはどのように思いますか?
バターフィールド
バターフィールド
わたしも非常に楽観的です。 時代が変われば、仕事も変わります

かつて農業はすべての仕事のうち、90%を占めていましたが、今やたったの2%です。

人々の仕事がなくなったのではなく、時代の変化にともない、仕事が変わったということです。

だから、自動化についても悲観的にはとらえていません。
Open Communication Is Changing the Way Companies Do Business - Kintopia
執筆:Alex Steullet/編集:鈴木統子、藤村能光/撮影:高橋団
Open Communication Is Changing the Way Companies Do Business

大きくなった組織でもスピード感がほしい。でも一人ひとりとも向き合いたい──フローレンス代表がサイボウズの経営者に相談した

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先日、認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんが、サイボウズ代表取締役社長 青野慶久の1日カバン持ちにやってきました。

「大きくなった組織でも、スピード感をもって事業を進めたいと思っています。ただ、一人ひとりに向き合うことも大事だと思っていて......」

そうした悩みを解決するヒントを得るべく青野の1日に密着する駒崎さん。社長・副社長とのランチミーティングを経て、悩みは解決されたのでしょうか?

事業は、本当に社会を変えられるコア部分に絞る

青野
青野
朝からずっと気になっていたんですけど……。駒崎さんの今日の服装、これって学ランですか?
山田
山田
学ランですよね。めっちゃ懐かしい。ご自分でつくったんですか?
駒崎
駒崎
ドン・キホーテで調達しました(笑)。
今日はカバン持ちとして勉強させていただくので、ちゃんとした身なりで臨もうと。
お弁当の置かれた机を囲む3人
山田
山田
ははは(笑)。なにか学びになれば良いですけど。
駒崎
駒崎
よろしくお願いします!
青野
青野
駒崎さんは組織のマネジメントにお困りとのことで。

フローレンスは、有名な病児保育に加え、さまざまな保育施設運営も手がけていますよね。サイボウズはグループウェアを中心としたシンプルな事業だけど、駒崎さんたちの場合は多岐にわたっています。
駒崎
駒崎
はい。例えば保育園は社会課題をたくさん目にする場所なので、どんどん新しい事業の必要性を見つけてしまうんです。

そのため自分で持っているプロジェクトの7割くらいは新規事業になってしまい、多すぎたなと反省しています。
話す駒崎さん

駒崎弘樹(こまざき・ひろき)。認定NPO法人フローレンス代表理事。子育てと仕事の両立、そして自己実現のすべてに誰もが挑戦できる社会をつくりたいという考えのもと、2004年に認定NPO法人フローレンスを立ち上げる。自身も一男一女の父。著書に『「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方』(英治出版)、『働き方革命』(ちくま新書)など

青野
青野
サイボウズはこの10年で規模が拡大し続けている一方で、製品をどんどん減らしているんです。
駒崎
駒崎
なるほど。
青野
青野
「たくさんあってもマネジメントできない」と思っているんですよね。広げていく自信がない。

同時に、本当に社会を変えられるようなコア部分に絞っていきたい。短期的には社会に与える影響のスピードが遅いように見えるかもしれないけど、コアの部分だけで勝負していけば、めちゃめちゃレバレッジが効きますから。
話す青野さん

青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を行い、2011年からは、事業のクラウド化を推進。著書に、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない』(PHP研究所)など

青野
青野
児童虐待の防止にも地域活性化にも、学校の先生の働き方改革にもつなげられます。

コアな部分に集中してレバレッジを効かせ、影響範囲を広げていく。そんな決断も必要なんだと思います。

人数が増えたら全員と話すのは無理。一網打尽でやりとりし、熱量をもって語り続ける

山田
山田
組織マネジメントにおいては、青野さんが言っている「事業を絞る」アプローチも1つだと思います。

加えて「コミュニケーションのやり方を変える」という方法もありますよね。

僕たちの場合は、社員の人数が多くなるにつれてまずは「一網打尽にコミュニケーションを図る」ようにしてきました。
話す理さん

山田理(やまだ・おさむ)。サイボウズ 取締役副社長 兼 サイボウズUS(Kintone Corporation)社長。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、責任者として財務、人事および法務部門を担当し、同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年からグローバルへの事業拡大を企図し、米国現地法人立ち上げのためサンフランシスコに赴任し、現在に至る。初の著書『最軽量のマネジメント』を11月7日に上梓

駒崎
駒崎
一網打尽、ですか? 一人ひとりではなく?
山田
山田
はい。まずは一気にコミュニケーションを取ったほうが効率的じゃないですか。大人数の組織で一人ひとりに意見を聞くよりは、一斉にアンケートを取ったほうが早いですよね。
駒崎
駒崎
それはそうだと思います。
山田
山田
一網打尽にコミュニケーションを図れば、チームの中でのグラデーション(階層)のようなものが見えてくると思うんです。ビジョンへの共感度が高い人もいれば、低い人もいる。

駒崎さんがやるべきなのは、熱量を発揮していくことだと思うんですよね。とにかく熱く(理想を)語り続けて、共感してくれる人を集める。その中でも「辞めてほしくない人」を見極めておく。
駒崎
駒崎
なるほど。
山田
山田
もしかするとそんな人は全体の1割くらいかもしれません。

それでも「とにかくあなたと一緒に仕事がやりたい、会社をこんなふうにしたい」と語りかけて、その人がもっといい人を呼んでくるサイクルをつくっておく。経営のキャパシティを広げるためには、これが必要だと思います。
青野
青野
一人ひとりとの接点を積み重ねて全員へ伝えることを狙うのではなく、ハブとなる人にしっかり伝えていくということですね。
山田
山田
はい。あとは距離感でしょうか。
駒崎
駒崎
距離感?
山田
山田
誰しも、馬が合う人と合わない人がいますよね。それを僕は「距離感」と言っています。

距離感が近い人は自分の話を積極的に聞いてくれるのでいいんですが、遠い人に対しては他の「馬が合いそうな人」にコミュニケーションを任せることもあります。

「僕はAさんとは馬が合わないから、馬が合いそうなBさんに任せよう」といった感じです。
駒崎
駒崎
たしかに、距離感がある人と無理やり合わせようとするのは互いに苦労しますよね……。
真剣な表情で山田さんの話を聞く駒崎さん
山田
山田
そうなんです。多くの組織では1on1で一人ひとりの距離を縮めようとするけど、それって自分も相手も変わらなきゃいけないわけだから、苦労しますよ。
青野
青野
組織が拡大すればするほど顔ぶれは多様化していくので、馬が合わない人も増えていきます。一方で、合う人も絶対にいるはずですよね。
山田
山田
ですね。だから、駒崎さんと同じ熱量で語れるマネジャーがあと2人くらいいれば、ずいぶんとキャパシティが広がるんじゃないでしょうか。

駒崎さんが1人で担っていることを分解して、役割分担をしながら組織と向き合っていけると思います。

給与は「適当に決めます」と宣言している

駒崎
駒崎
マネジャーの役割を分解して分担するのは、とても大切なアイデアだと思いました。

同時に「ちょっと難しいなぁ」と思うのが評価です。マネジャーって、メンバーみんなを見ているからこそ評価できる面があるじゃないですか。
青野
青野
そうですね。
駒崎
駒崎
でも役割分担をすると、メンバー全員を見られなくなり、みんなが納得のいくような給与評価をするのは難しいのでは?
青野
青野
評価は必ずしもマネジャーが下すものというわけではなく、「横から」でもいいと思うんですよね。他のチームからどう見えているか、とか。サイボウズでは開発本部がそんなやり方を取り入れています。

なぜそれができるかというと、僕たちは給与を「市場価値」で決めているので、ある意味では日々の仕事を全部見ておく必要がないんですよ。
話す3人

ランチの時間なのに給与評価について真面目に話し始めました

山田
山田
「この人はこんなスキルを持ち、これくらいの実績を出しました。だから市場価値としてはこの金額です」と言ってくれれば判断できます。だから、直属のマネジャーが評価しなくてもいいんです。

そもそも、採用するときにも給与を決めているけど、その面接って「30分を何回」程度じゃないですか。
青野
青野
そうそう、給与は適当に決まっていますよね。
駒崎
駒崎
適当!?

とはいえ昇給などもあるわけですから、ちゃんとした決定の場はあるんですよね?
山田
山田
ええ。「評定会議」を開いて決めています。
青野
青野
でも、(最終的に給与は)「適当に決めます」と宣言しているんです。どちらかというと「困ったら相談してね」というスタンスですね。
山田
山田
社員本人との面談では、「給与をいくらほしいか」を聞きますよ。それが今よりも高いときは「なんで?」と聞いて、市場価値の観点から説明してもらいます。

あとは「どんな仕事や働き方をしたいか」を聞きます。そうすると、人によってほしいものは違うことが見えてくるんです。
青野
青野
お金にはほとんどこだわりがないという人もいますよね。
山田
山田
そうですね。「評価の目的って、そもそもなんだっけ?」という感じですよね。

もちろん1つはお金の分配なんですが、もう1つはフィードバックだと思うんですよ。

どうすればもっと成長できるのかに対してちゃんとフィードバックがあれば「自分を見てくれている」と感じる。うまくいったときには賞賛されて、承認欲求が満たされる。
駒崎
駒崎
仕事のモチベーションを維持するために、とても大事な部分ですよね。
山田
山田
でも多くの組織では、ここにお金の分配を重ねちゃうんです。

本人としては、本当は失敗してアドバイスをもらいたいのに、これで給料を下げられると困るから、「いかにそれが自分のせいではないか」とか「いかに自分は頑張っているか」といったことばかり熱弁してしまう(笑)。
青野
青野
評価する側も、できるだけお金をあげたくないから、できるだけ厳しいフィードバックをするとか(笑)。
山田
山田
だからフィードバックは、身近で働いていて、互いをよく見ている人たちでやればいいと思います。

「お金」と「成長のためのフィードバック」を分けたほうがコミュニケーションしやすいし、納得しやすくなるんじゃないでしょうか。
駒崎さん

終始メモの手が止まらない駒崎さん

お金は報酬の一部でしかない。給与以外の引き出しをどれだけ持っているか

駒崎
駒崎
サイボウズさんは労働市場全体で見ても遜色ない給与額だと思います。ですが、僕たちの場合、保育の市場で見ると高いものの、一般事務の市場では低いんですよね。

大企業と比べて「私は市場よりも低いからもっと上げてほしい」と思う人もいるだろうなと。
話す駒崎さん
駒崎
駒崎
しかし、「私のほうが成果を出していると思うのに、あの人と給与が同じなのは納得がいきません」といった声を耳にすることもあります。
山田
山田
なるほど。市場全体ではなく社内で、ほかの人と比べてしまうんですね。
駒崎
駒崎
それって、相対評価を叩き込まれているということじゃないですか。
青野
青野
そうですよね。サイボウズでは絶対評価です。給与テーブルのような相対評価を意識させることを今はやっていません。

給与テーブルに乗った瞬間に「なんであの人が自分より上なんだ?」って感じてしまうと思うので。
喋る青野さん
青野
青野
あと経営者としては、給与以外の報酬の引き出しをどれだけ持っているかだと思うんですよ。

「駒崎さんと働ける」という報酬もあるし、「こんな仕事や事業ができる」という報酬もある。与えられる裁量や身につけられるスキルもそうですね。

「報酬の中でお金は一部でしかない」という前提のもとに、いかに他の報酬ラインアップを増やせるか。
山田
山田
サイボウズでも、例えば金融機関から転職してきた人の多くは、前職と比べて給与が下がっていますよね。グローバルのIT大手から来た人は給与が半分以下になったケースもありますよ。

でも彼らは、給与以外の別の報酬を求めて来ているわけで。
駒崎
駒崎
まさにそういうことですよね! すごいなぁ。
山田
山田
なぜそんな市場価値の高い人が来てくれるかというと、サイボウズという会社が、市場で他にない独特さを持っているからなんでしょうね。「この事業にこの働き方で関われるのはサイボウズしかない」と。

市場での独特さという意味では、フローレンスさんも同じだと思います。
青野
青野
「社会を変える楽しさを他の組織で得られると思う? プライスレスだよ!」みたいな。
駒崎
駒崎
確かに、他にはない「フローレンスで仕事をする価値」はあるかもしれません。
山田
山田
普通の会社でこの言葉をいきなり社員全員に発したら、「どうせまた給料を下げようとしてるんでしょ?」と思われるかも(笑)。
青野
青野
あはは(笑)。
駒崎
駒崎
だからこそ僕がいつでも本気で考えていることが大事だし、熱量を発揮していなければならないということですね。

うん、決めました。これまでの常識で続けていた評価をフローレンスらしい考え方に変えていきます!

そして翌日からは……

週報、議事録を全社公開することや、現場の保育士と直接連絡を取るプラットフォームを作ると宣言した投稿

今回の「カバン持ち」での気づきを、さっそく取り入れてくださっているようです!(駒崎さんのFacebook投稿より)

1日インターン当日の様子はこちらをご覧ください!

文:多田慎介/撮影:赤堀雛/企画編集:山口遼大

日本社会から同調圧力を減らすカギは「憲法」にある──木村草太×青野慶久

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働き方改革、労働人口不足などを背景に、いま会社と働き手の関係が大きく変わる節目にきています。 しかし、同調圧力や明文化されていないルールに縛られ、職場や社会に息苦しさを感じ、苦しんでいる人は少なくありません。

憲法学者の木村草太さんによれば、そもそもの原因は、「個人の権利」を尊重する憲法の基本的な発想がいまだに日本人の中に根付いていないことにある、といいます。

一人ひとりが自分や他者の権利への理解を深め、息苦しさから脱け出すためにはどうしたらいいのでしょうか。

サイボウズ代表取締役青野慶久がお話を聞きました。

70年前に最先端だった考えの下、日本国憲法はつくられた

青野
青野
わたしはいま選択的夫婦別姓を求める訴訟(*)を起こしています。それ以前は、国を相手に訴訟なんて考えたこともなかったんですが、ご縁があって原告代表をすることになりました。

あらためて法に関心を持つようになって、憲法を読んだのですが、その人権意識の高さに驚きましたね。70年以上も前によくこんな憲法をつくれたな、と。

たとえば、男女不平等の問題。現代社会でいまだに解消されてないのに、憲法では「それはダメだ」と言い切っています。

(*)夫婦別姓判決 サイボウズ青野社長ら原告側控訴へ

木村
木村
「男女の平等」については、女性にも選挙権がなければおかしいという考えが世界に広がり始めたのが、20世紀の前半ごろでした。

そういうなかで日本が敗戦して、降服の条件として「人権をちゃんと確立しろ」と連合国側から要求されたんですね。
説明する木村草太さん

木村草太(きむら・そうた)。1980年生まれ。首都大学東京教授。東京大学法学部卒業。同助手、首都大学東京准教授を経て現職。専攻は憲法学。著書に『憲法の急所──権利論を組み立てる』(羽鳥書店)、『憲法という希望』(講談社)、共著に『子どもの人権をまもるために』(晶文社)などがある

青野
青野
それで新たにいまの憲法がつくられたんですね。
木村
木村
ええ、昔の憲法のままだと連合国側の要求に応えるのが難しかったので。

最初は、日本の憲法学者や役人が集まって条文をつくろうとしました。しかし、日本政府の委員会で作成中だった案の1つを見て、「こんなものでは甘っちょろい」とGHQ(連合国軍総司令部)は考えた。

GHQは、いわゆる占領軍とはちょっと毛色の違った人たちの集まりで、日本で人権を確立するために何が必要かをけっこう真剣に考えてくれたと言われています。

日本政府も、その理想を受け入れるために尽力しました。それで70年前の最先端の発想で人権の条文がつくられているんですね。
青野
青野
政府が暴走した結果、戦争が引き起こされ、行くところまで行ってしまった。

これを繰り返さないためには、国民に人権を持たせないといけないだろう、という流れですか。
木村
木村
そういう流れもあります。人権を大事にしない国は、ひどい戦争も平気でできてしまう、という発想が根底にはあったと思います。

あと、男女の不平等については、ちょっと別の文脈もあるようでして。
青野
青野
なんでしょうか?
木村
木村
GHQには、ベアテ・シロタ・ゴードンさんという、20代半ばの女性がいたんですね。彼女は、主に通訳を担当する立場としてGHQに入ってきたのですが、草案には彼女の考えが強く反映されていると見られています。

ベアテさんは、日本で暮らしていた経験もあって、日本の女性が家庭や社会で非常にないがしろにされている状況をよく知っていました。

それでかなり強力な男女平等の条文がつくられた、という経緯があったといいます。
青野
青野
なるほど。そういった状況で、当時の最先端の考え方が持ち込まれたわけですね。
木村
木村
そうですね。みんなが理想に燃えていた時代だったので、先進的な憲法がつくられた、ということがあると思います。

物事には多数決で決めていいことと悪いことがある

青野
青野
そんな人権意識の高い憲法がつくられて70年あまり経ったにもかかわらず、いまの日本を見ると、人権に関する意識がいまだにもう1つ浸透していないような気がしています。
_DSC9646.JPG

青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立した。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を行い、2011年からは、事業のクラウド化を推進。著書に、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない』(PHP研究所)など

木村
木村
「個人には権利がある」とか「個人の私的な領域に他の人は立ち入ってはいけない」という憲法の基本となる発想が、われわれのなかに根付いていないということでしょうね。
青野
青野
最近は生徒の髪型や服装、生活態度などに過度に干渉する「ブラック校則」も話題になりました。

人権に対する意識が希薄だから、ああいう校則ができてしまうのかなと思いました。
木村
木村
「ブラック校則」に関しては、先日ちょっとおかしいなと思うことがありました。

「校則は、教師が決めるのではなく、生徒の自治で決めるべきだ」という議論を見かけたんですが、別に生徒総会で決めたからといって、ブラック校則がブラックでなくなるわけではないでしょう。
青野
青野
確かに。
木村
木村
たとえば「下着の色を白にしなきゃいけない」という変な校則があります。

これを決めたのが学校ではなく、生徒総会だったとしても、それを「嫌だ」という人を拘束できる理由にはならないですよね。
向かい合って話す2人
木村
木村
「生徒みんなで決めたから正しい」と思いがちですが、そこには「民主主義で決めたら、人の内面を侵してしまってもいい」という意識が少なからずあると思います。
青野
青野
「プロセスを経て、多数決で決まったんだから従うべきだ」という。
木村
木村
そういうことですよね。

でも、多数決で決めようがそうでなかろうが、物事には「その人が自分で決めるべきこと」と「みんなで決めるべきこと」があるんだ、というのが憲法の発想です。

服装などまさに個人の自由なので、生徒総会でも学校の校則でも、基本的に不当な理由で拘束してはいけないはずだ、というところから教える必要があります。

不当な強制に対しては、「変だぞ」とすぐに思う習慣を

青野
青野
われわれがもうちょっと、憲法をしっかり味わいながら読んでみる必要がありそうですね。

そうすれば「あれ? もしかして自分が置かれている環境って人間的じゃないぞ」と気付けるようになるかもしれません。
木村
木村
子どものうちから法を学ぶことが大事だと思いますね。何かを不当に強制されたときに、「これは変だぞ」と思う癖を身につけるようにしてほしい

さっきの校則の話のように、多数決で決めるべきこと、そうではないことを意識するのは大切だと思います。
青野
青野
どんなふうにしたら、意識できるでしょうか。
木村
木村
ひとつの方法として、「あえておかしなことを多数決で決める」というのはどうでしょうか。

たとえば「〇〇君が今日帰ってから見るテレビを、みんなで決めましょう」と言ってみるとか。
青野
青野
なるほど。そうしたら、「なんでそんなことを人に決められなきゃいけないの? それはおかしい」ってわかりますね(笑)。

子どもの頃からそうやって「あれ? これは何がおかしいんだろう」と経験することは大事ですね。
笑顔で相槌を打つ青野

裁判ってけっこう人間的。いつもロジカルとは限らない

青野
青野
自分が原告代表として裁判を起こして初めて気づいたんですが、裁判って、けっこう人間的なんですね。

3月での東京地裁で敗訴し、いま高等裁判所に控訴しているんですが、地裁から出た請求棄却の判決文にはびっくりしました。もうちょっと筋の通ったものが出てくるのかな、と思っていたので。

裁判官って、何というか、必ずしもロジカルな判決を下すわけじゃないんだな、と。
木村
木村
日本の裁判所は、判決にどんな理由を書いてもいいことになっているので、少し妙だな、と思うような文章が上がってくることはあります。
話す木村さん
木村
木村
理屈が通っている方向で裁判官が結論を出したいときには、非常に理論的な文章になるんですが、裁判官が「この結論は理屈が通らないから、本当はどうしても出したくない」と思っているときは、ぐちゃぐちゃの文章になる。

なので文章の意味の通り具合で、裁判所がその訴訟をどのくらい嫌がっているかがわかります。そして、もちろん、理屈の通らない判決は批判されるべきです。
青野
青野
ロジカルでなくなるのにはそういう理由があったんですね。それは知りませんでした。
木村
木村
裁判は、法の支配が破綻の危機にある中で、法の支配のために最善を尽くす努力をする場である、というのがわたしの持論です。

「法の支配」は、要はマニュアル処理のようなもの。あらかじめ一般的なルールをつくっておいて、そのルールを適用して個別の判断をしていく、という考え方です。
青野
青野
ふむふむ。
木村
木村
法の支配がうまくいっているときは、誰もがルールについて齟齬(そご)がない状態ですから、裁判は要りません。

ところが、今回のような「夫婦別姓を認めないのは違憲かどうか」みたいな論点になると、そうはいかないわけです。
青野
青野
解釈が分かれますよ、ってことですね。
木村
木村
これは実は、あらかじめ定めておいたルールに従って明確に処理するという「法の支配」のプロジェクトが破綻しかけているということなんですね。

しかし、どんなに明確な条文をつくっても、解釈が分かれることは絶対出てくるものです。
青野
青野
例外も必ず出てきますしね。
木村
木村
そこでどうしますか、ということです。何が法なのかが不明確な場面ですから、「法の支配」を実現する努力をしないと、法や理論に則らない判断がいくらでもできてしまいます。

ですが、それを許さないために、「こんな判断をしたら、法の支配の理念の最終的な防衛ラインを崩しちゃいませんか」と議論して歯止めをかけるのも、司法の仕事です。
司法について説明する木村さん
木村
木村
法の支配が破綻しかかっている。しかしそれでも法に則った判断だとみんなが認めてくれるような、「法の支配」の理念に従った判断を頑張ってやらなくてはならない

だから最終的な判断を支える理屈は説得力のあるものでないといけませんし、「胸を張って伝えられる判断です」と言えることが重要です。
青野
青野
解釈が分かれるような難しい状況の中で、みんなが納得できるような論理的な判断を導き出さなければならない、ということなんですね。

おもしろいです。司法の見方が、がらっと変わりました。

憲法を生かすためにはまずは目的を理解すべき

青野
青野
「どんなに明確なルールをつくっても、解釈が分かれることがある」というのは、会社でもありますね。

たとえば、社員が社用で外出した際、空き時間にカフェで仕事をするとします。サイボウズでは、その際の飲み物代に対して補助が出るのですが、一方サンドイッチを食べた場合は、補助が出るのかどうか、みたいな話になったとします。
木村
木村
ええ。
青野
青野
これをもし法の支配でやろうと思ったら、「こういう条件で、こういうときには認める」とかいう細則が、山ほどできてくるわけでしょう。そうなるともう、メンテナンスコストが。
木村
木村
膨大になるわけですよね。
青野
青野
それに、そうなってくると楽しくないですよね。だから大事なのは、ルールの目的だと思うんです。
目的の大切さについて話す青野
青野
青野
僕たちの目的は、いいグループウェアをつくって、世界中に広げるということ。そのためにベストを尽くして働きたいね、と。

そのためだったら補助をしますよ、という考えさえ共有していれば、サンドイッチは要らないよねとなる。
木村
木村
そこは自分で食べていただいて。
青野
青野
そう。なので、細則を決めるほうに走りたくないと考えています。

サイボウズでルールを決めるときは、まず目的ありきで考えるようにしています。同じように、法もやっぱり目的が大事になるってことでしょうか。
木村
木村
おっしゃる通りで、法を運用するには目的をきちんと理解しておく必要があります。

ですから法学部で法律を学ぶときは大体、「こういう目的があるので、こういう条文があります」ということを説明するところから始まるのが普通ですね。
青野
青野
わたしたちも、ルール同様、憲法のそもそもの目的を理解すれば、憲法自体や、そこに記された人権意識をもっと身近に考えられるようになるのかもしれません。

自分の権利を守るためにも、相手の権利を理解するためにも、「国民の人権を守る」という憲法がつくられた目的を学ぶことから始める必要がありそうですね。
向かい合って話す木村さんと青野
構成:大塚玲子/撮影:尾木司/編集:鈴木統子

問題は、組織を助けてくれるアラート。苦労を取り戻せるチームは強くなる──向谷地生良×宇田川元一

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組織の問題はふたつに分けられる

宇田川
宇田川
向谷地さん、よろしくお願いします。

僕は組織論の中で*ナラティヴ・アプローチを展開している研究者として、向谷地さんたちが設立されたべてるの思想にすごく感銘を受けています。

今日こうしてお話ができることを、とても楽しみにしてきました。

* ナラティヴ・アプローチ:「医療などの専門性を一度脇において、患者の語る”物語”をまずは正しいものとして聴いてみよう」とする方法であり、臨床心理や医療の研究から生まれた思想。

向谷地さんに向かって話す宇田川さん

宇田川元一(うだがわ・もとかず)さん。経営学者。埼玉大学経営系大学院准教授。組織における対話やナラティヴとイントラプレナー、戦略開発との関係についての研究を行なっている。大手企業やスタートアップ企業でイノベーション推進や組織変革のためのアドバイザーや顧問もつとめる。2007年度経営学史学会賞(論文部門賞憂賞)受賞。2019年10月『他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』(NewsPicksパブリッシング )を出版

向谷地
向谷地
ありがとうございます。べてるは、精神疾患がある当事者どうしが支え合って暮らす活動拠点です。

普通の会社組織とはまったく異なる共同体だと思うのですが、どういった観点から共感してくださったのでしょうか?
宇田川さんに向かって話す向谷地さん

向谷地生良(むかいやち・いくよし)さん。ソーシャルワーカー。社会福祉法人浦河べてるの家理事。北海道医療大学看護福祉学部臨床福祉学科精神保健福祉講座教授。1984年に精神障がいを経験した当事者たちの活動拠点浦河べてるの家の設立に関わる。著書は『新・安心して絶望できる人生 「当事者研究」という世界』(一麦出版社)、『べてるの家の「非」援助論―そのままでいいと思えるための25章』(医学書院)など

宇田川
宇田川
ベてるの家でも実践されてきたナラティヴ・アプローチの視点が、今、普通の企業においても、とても大事になっていると考えていて。
向谷地
向谷地
というと?
宇田川
宇田川
企業の組織で起こる問題は、大きくふたつに分けることができます。ひとつめは、「技術的問題」と呼ばれるもの。

これは、ノウハウや論理的な思考によって、解決策がすぐに見つかる問題のことです。

たとえば、「クラウドサービスを使いこなせていない人が多く、各々が持っているデータが共有されない」という問題であれば、データの格納方法がわかるマニュアルを共有したり、勉強会を開けばいい。
向谷地
向谷地
たしかに、解決しやすい問題ですね。もうひとつは何なのでしょう?
宇田川
宇田川
もうひとつは、「適応課題」と呼ばれるものです。これは、既存の方法で解決できない、複雑で困難な問題のこと。

先程の例でいえば、マニュアルを共有したり、勉強会の参加を呼びかけたりしても、なにかと理由をつけて積極的に取り組んでくれない場合があったとします。

これは表で語られている言葉の背景に、語られていない別のことがあるはずです。

「マニュアルを読むことや勉強会への参加が面倒」「クラウドサービスへの苦手意識がある」「データを共有すると自分の知識や経験の価値が減ってしまうと考えて不安」など、合理的な考えを伝えるだけでは解決が難しい要因が、複雑に絡み合っている可能性がある。
向谷地
向谷地
そうですね。
宇田川
宇田川
こうした、問題が入り組んでいる「適応課題」には、まさにナラティヴ・アプローチの実践として、対話が必要です。

問題の背景にあるものを、距離をとって眺めながら語ることにより、気づかないうちにとらわれている基盤としてのナラティヴ(物事の解釈の枠組み)を相対化できる

そこに向き合うことで、組織の葛藤や孤立がもたらす苦悩や、目先の問題解決に走ってしまい、適応課題に皆で取り組めない状況を少しずつ変えられる。その結果、目の前の問題を「解決」するのではなく、「解消」していけるのではないかと思っています。
手振りを交えて話す宇田川さん
向谷地
向谷地
なるほど。たしかに、べてるで大事にしている思想が、役に立つ部分もあるかもしれません。
宇田川
宇田川
はい。べてるの思想をひも解いていけば、イノベーティブな組織や社会をつくるヒントが見えてくるのでは……と考えています。

「人生の苦労を取り戻す」。苦労や問題って、そんなに簡単に取り除けるものではない

宇田川
宇田川
たとえば、べてるには「人生の苦労を取り戻す」という標語がありますよね?
べてるの家の理念。三度の飯よりミーティング、安心してサボれる職場づくり、などの文言が並んでいる。

べてるの理念。ベてるの家公式ページより引用

向谷地
向谷地
はい、私たちがとても大事にしている言葉のひとつです。
宇田川
宇田川
これって普通なら、誰でも「なるべく苦労したくない≒問題があったら取り除こう」と考えると思います。

けれども、べてるはそうしない。むしろ、問題を積極的に迎え入れるような姿勢がありますね。
向谷地
向谷地
苦労や問題って、そんなに簡単に取り除けるものではないんですよね。

とりわけ精神疾患というのは、その人が抱えている生きにくさが究極に煮詰まった状態とも言えます。

だから、その辛さを単に薬で抑えるのは、付け焼刃でしかなくて。生きづらさの背景にある大切な「本来の自分らしい苦労」を探して引き受けることを大事にしています。
パソコン越しに話す向谷地さん
宇田川
宇田川
具体的なエピソードはありますか?
向谷地
向谷地
たとえば、アルコール依存症の人がいたとします。

その人が依存症になった道筋を辿っていくと、過去に経験した「寂しさ」や「虐待の体験」などから自分を逃がすために起きているという、病の根っこにある生きづらさの問題が見えてきます。

これはアルコールだけではなく、こころの病と言うのは、その人のかかえる苦労の上に積み重なった状態で起きているところがありますね。
向谷地さんの手。ジェスチャーを交えて話している。

職場で起こる問題は、組織を助けにきている

宇田川
宇田川
企業でも、まさに「人生の苦労や問題を取り戻す」ことが大事だと思っています。

たとえば「職場でうつになった社員が出てしまった」というのは、組織の問題が現れている状況だと思います。
向谷地
向谷地
そうかもしれませんね。
宇田川
宇田川
こうした状況を、大抵の企業は「うつになった人の個人の問題」として処理しがちです。

その人のストレス耐性や能力の問題として、細かい対応は産業医に任せ、休職させたりする。

これって、先ほどの話でいう「投薬で無理やり苦痛を抑える」のとほとんど同じことですよね。
顎に手を置いて考えながら話す宇田川さん
向谷地
向谷地
そうですね。一般的な組織は弱い人たちを切り離して、身体が丈夫な我慢強い人たちばかりを抱え込みがちです。
宇田川
宇田川
挙句の果てには「うつになるような人はそもそも採用しない」という方向にいってしまう。

けれども、それって本当は「組織全体としての問題があって、そこに反応しやすい人がうつになってしまった」という状態なんじゃないかなと。

つまり、職場の一部の問題は、組織全体としての問題があることを知らせるアラートなんですよね。
向谷地
向谷地
その通りだと思います。

べてるでは、「病気はあなたを助けにきている」という言葉もよく使っています。
宇田川
宇田川
ああ、僕はその言葉がとても好きで。

職場で起こる問題も、病気と一緒で、組織を助けにきているんですよね。
話している宇田川さん。背景に高層オフィスビルからの景色が広がっている。
宇田川
宇田川
そのメッセージに耳を傾けるためにも、組織が「苦労を取り戻す≒問題を手っ取り早く解決しようとせずに向き合う」というのは、とても大事な行為だと思います。

なぜならば、それが適応課題ならば、手っ取り早い解決は、単なる問題を見ないようにして、自分たちから切り離そうとしているだけになってしまうからです。

新しい事業をはじめる時は、最も“頼りなさそうな人”を組織の真ん中に置く

向谷地
向谷地
僕らは、新しい事業をはじめる時、一番“頼りなさそうな人”を組織の真ん中に置くようにしているんです。
宇田川
宇田川
”頼りなさそうな人”というのは、調子を崩しやすかったりする人ですか?
向谷地
向谷地
はい。これは、ベてるの起業当時、一番“* ぱぴぷぺぽ状態”で、頼りなかったべてる代表の早坂潔さんから学んだことですね(笑)。

* ぱぴぷぺぽ状態:病状の悪い状態を表現した言葉。べてるの家代表の早坂潔さんが講演のために東京へ来たとき、山手線の車中で調子を崩し、知人の家へ緊急避難した際に、「ぱー!」、「ぽー!」と言って飛び跳ねたのがはじまり。以後、べてるでは、幻覚妄想状態など、病状がひどくなることを「ぱぴぷぺぽ状態」と呼んでいる。

会話をしている向谷地さんと宇田川さんの2ショット
宇田川
宇田川
その人を中心にするのはなぜですか?
向谷地
向谷地
そういう人たちは、一番大切なものを、一番大切にしないと動けない人たちなんです。

その人を組織の中心に置くことで、いろいろ大変なことも起きますが、その苦労は手放してはいけません。それは必ず、他の人にとっての働きやすさにもつながっていきますから。
宇田川
宇田川
苦労するからこそ、その過程で工夫が生まれて、働きやすい職場になっていくと。
向谷地
向谷地
それに、大変な人たちが働ける場をつくっていくプロセスからは、いつも思わぬ発見や発想が生まれたりするんですよ。
宇田川
宇田川
ああ、おっしゃる通りですね。イノベーションは、異質なもの同士を結びつけることで起こるものです。

異質なものを排除しようとする組織から、イノベーションなんて起こり得ない。これを踏まえれば、「苦労を取り戻していくことで、組織は今よりもクリエイティブになっていく」とも言えるかと思います。
会話をしている向谷地さんと宇田川さんの2ショット

「問題は必ず起こる」という前提の考え方を持つことは大事

宇田川
宇田川
ただ、言葉で「苦労を取り戻す」って言うのは簡単ですけど、実際は生半可なことじゃないですよね。

さっきも向谷地さん、「大変なことがたくさん起こる」って。

べてるには「問題だらけ、それで順調」という標語があるくらい、毎日いろんな問題が起きているんですよね?
向谷地
向谷地
そうですね。問題の多さは、今も昔も変わらないです。ものが壊れたり、ケンカなんかは本当に日常茶飯事ですよ。
宇田川
宇田川
普通はみんな、そういう問題が起こるのが怖くて、今ある苦労と向き合うのを避けるわけですよね。

べてるのみなさんは、そういうきつさ、怖さをどうやって乗り越えてきたんでしょうか?
向谷地
向谷地
まずは、問題に対する認識を変える。というか、僕らの場合は変えざるを得なかったんです。
宇田川
宇田川
変えざるを得なかった?
向谷地
向谷地
どんなに問題が起きないように気を付けても、結局は起きてしまうから。むしろ、起きないようにと押さえつけるほど、どんどん問題が押し寄せてくるんです。

だから、「問題はあって当然。むしろ、あったほうがいいよね」と開き直った。
宇田川
宇田川
なるほど。
向谷地
向谷地
そうすると、問題の感じ方も変わってきます。「これをやったらどんな問題や苦労が起きるか?」を先に出し合うようになる。

何かが起きたとしても“それで順調”と考えて、みんなで知恵を出し合えばいいと、楽観的になるんです。

「次はどんな問題が起こるのか?」と、怖さもありつつ、ワクワクするようにもなる。
手を組んで話す向谷地さん
宇田川
宇田川
問題をワクワクして迎えられるのは、すごく素敵なことですね。組織がそういう具体的な方策を持っていると働く人たちは安心すると思いますし、苦労を組織をよりよく機能させるために生かせますよね。
向谷地
向谷地
問題が起きないようにと考えていると、起こった時に「誰が悪いのか」「どう責任を取るのか」となってしまって、みんなが不安や恐怖、猜疑心を抱きやすくなってしまう。

そうならないためにも、「問題は必ず起こる」という前提の考え方を持つことは大事ですね。

主観的な感覚を尊重し、常識にとらわれず、反転させたものの見方をする

宇田川
宇田川
「問題をなくす」から「問題はなくならない」と視点を変える。

僕は、こうしたべてるの「主観・反転・“非”常識」の思想に、とても感銘を受けました。
向谷地
向谷地
その3つの要素は、*当事者研究の中で大事にしていることです。

当事者の、主観的な感覚や理解を尊重し、常識にとらわれず、時には反転させたものの見方をして、苦労から新たな可能性を見出そうと試みています。

*当事者研究:精神疾患を抱える当事者たちが「自分の苦労の研究者」となって、仲間や関係者と共に苦労のメカニズムを解明していこうとする試み。

宇田川
宇田川
過去にべてるで摂食障害の当事者研究をしていた方がいらっしゃいましたよね。

その方は「どうしたら摂食障害が治るのか」ではなく、「どうしたら摂食障害になれるのか」を研究したと。
ガラス製のサイドテーブルに乗せられたべてるの家の本。
向谷地
向谷地
そうそう。摂食障害をひとつのスキル、自分を「食べ吐きのプロフェッショナル」と捉えて、積極的に自分の弱さの情報公開をしたんです。
宇田川
宇田川
その結果、「自分にとっての食べ吐きは『周りにつらさを理解してもらいたい』という切実なコミュニケーションだったんだ」ということもわかったんですよね。
向谷地
向谷地
あのアプローチは素晴らしいなと思いました。
宇田川
宇田川
当事者研究は、「主観・反転・“非”常識」という知恵を用いて、いわゆる問題と言われていることの文脈を探り、その文脈に介入をしていく行為だととらえています。

この「文脈」とは、先ほどのアルコール依存症の方の話で言えば「寂しさ」や「虐待」など苦労の根っこにある問題のことであって。
向谷地
向谷地
そうですね。
宇田川
宇田川
表面的な症状を抑えるのではなく、文脈的な問題にアプローチしていく。それがうまくいくと、問題のアラートとして現れていた症状は、自然と消えていくんですよね。
微笑みながら話す宇田川さん

「打算的」な弱さの共有にならないように

宇田川
宇田川
お話を聞いて、あらためて「苦労を取り戻すこと」と、その過程で「弱さを共有すること」の大切さを再確認できました。
向谷地
向谷地
そうですね。
宇田川
宇田川
最近では、企業でも「弱さの共有をやっていこう、本音を言い合える環境をつくろう」という動きが増えてきました。僕もそうしたことができる対話の方法を開発をしています。

しかし、その中で、ときに僕は打算的な安っぽさを覚えることがあります。表面的と言うか。
向谷地さんの肩越しに見える、話をしている宇田川さん
向谷地
向谷地
打算ですか?
宇田川
宇田川
はい。なんだか「強くなるために弱さをさらけ出そう」といったニュアンスを感じるんです。

そういうところで出てくる弱さは、表面的なものになりやすく、切実に困っていることは話しづらいですよね。

加えて、そうした「弱さを語ることが大事だ」ということをどこかで知って、自分が単純にやりたくないだけのことを、弱さだからとして話すようなことも打算的だなと感じます。
向谷地
向谷地
それはべてる的に言えば「苦労の丸投げ」であって、苦労を自分なりに引き受けているとは言えないかもしれませんね。
宇田川
宇田川
はい。やりたくないことがあるのは当然なので、「やりたくない」と思うこと自体は大切だと思います。

だからこそ、むしろ「やりたくないと思うきっかけは何だったのか」などを考え、表の苦しさのもっと裏側にあることが語れるようになってくると、「実はやり方が分からなくて困っていた」など、もっと大切な苦労が語れるし、苦しいという大切な弱さが浮かび上がってくると思うのです。

苦労はもっと掘り下げていくと、すごく大きな価値があるんです。

問題だらけ、失敗続き、それで順調なんです

向谷地さんの手。ジェスチャーを交えて話している。
向谷地
向谷地
最近は技術や情報ばかりが行き過ぎて、人の通るべきいろんな経験が省略されてしまいがちですよね。

たとえば、炊飯器ってボタンひとつでお米が炊けるじゃないですか。
宇田川
宇田川
とても便利な道具ですね。本来はもっと面倒なプロセスがあって、苦労するはずで。

そういう便利なものが、いまの世の中にはたくさんあふれています。
向谷地
向谷地
苦労とは、何かができるようになるための経験値とも言えます。

それがないのに、いろいろと省略された後の結果だけを受け取って「できる」とか「解決した」と錯覚してしまう。
宇田川
宇田川
同感です。身体性のないデジタルな情報って、どんなにそれが正しかったとしても、なんだかつるっとしてるんですよね。

生身の経験から得られる情報って、もっとザラザラしていて。だから、事あるごとに引っかかる。その引っかかりが足場になって、しっかり立っていられるようになる……そんな感覚があります。
会話をしている宇田川さんと向谷地さん
向谷地
向谷地
そうそう。問題だらけ、失敗続き、それで順調なんです、人として。失敗するからこそ、そこから学んで、また新しい挑戦ができる。

そういう循環を起こしていくために、みんなでどんどん失敗をして、それを公開していけると、社会は本当の意味で強くなれるんじゃないかな。
宇田川
宇田川
そうですね。打算的ではなく*反脆弱性と言いますか、「苦労に向き合っていける」という強さを大切にしていくために、失敗を重ね、弱さを共有できる組織を作っていきたいです。

失敗こそ、その人が人生で得てきた、かけがえのない財産だと思うのです。

*反脆弱性:ナシーム・ニコラス・タレブが提唱する概念。外部からの衝撃によって破壊されない頑健性ではなく、外部からの衝撃によってより強くなる性質のこと。頑健性は設計強度を上回る衝撃で破壊されるが、反脆弱性は、そうした衝撃によってより強くなる。

文:西山 武志/企画編集:木村和博(inquire Inc.)・明石悠佳
「誰のせいにもしない」文化が、組織の多様化と問題解決を進めていく──熊谷晋一郎×青野慶久

マネジャーこそ「こんなの無理」「手伝ってほしい」と周りに言えばいい──サイボウズ副社長 山田理×ライツ社代表 大塚啓志郎

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サイボウズ副社長、山田理の書籍『最軽量のマネジメント』が11月7日、サイボウズ式ブックスより刊行されました。2018年秋から進めてきた、新しいマネジメントを考える本プロジェクトがついに1冊の本に……!

マネジャーとして現場を率いる立場にある人は「こういうマネジメントをすべき」「こんなリーダーが理想」「マネジャーはチームで最も有能でなければならない」など、世の中でいう“理想のマネジャー像”を持っていることが多いのではないでしょうか。

しかし、20数年前にサイボウズに転職し、一社員としてジョインしてから、副社長として、管理部門の責任者として、そして一人のマネジャーとして、「100人100通りの働き方」を実現するまで動いてきた山田自身が、唯一自信を持って言えるのは「マネジメントって、ホンマに難しい」だといいます。

本書の発売に伴い、山田と本書を発行・編集したライツ社の代表大塚啓志郎さんが対談。いま、本書を出した理由やそこに込めた思いについて語りました。

風土が変わらないと、マネジメントも変わらない

山田
山田
マネジャーって責任感が強くて、真面目な人が多いんですよね。会社に愛着があって、「うちの会社、ちょっとブラックやねん(笑)」とか言いながら、なんとかしないとと思い悩んで、自分がめちゃくちゃ頑張る、みたいな人もいる。
大塚
大塚
僕も悩んだことがあります。ライツ社を立ち上げる前に働いていた出版社は、僕が入社した頃は社員数30人くらいだったんですけど、3〜4年で100人くらいに増えました。

でも、僕より上の先輩がどっと退職した時期があったんです。誰かがマネジャー職をしないといけないから、20代後半の若さで部長になって、経営会議に出るようになった頃、悩んでましたねぇ。

マネジャーって、どうして悩んでしまうんでしょう。
話す大塚さん

大塚啓志郎(おおつか・けいしろう)さん。編集者・ライツ社代表。1986年兵庫生まれ。大学を卒業後、京都の出版社で編集長を務めたあと30歳で独立。2016年9月、故郷の明石市でライツ社を創業。「write,right,light 書く力で、まっすぐに、照らす」を合言葉に出版活動を展開。編集した近刊は、ヨシダナギ『HEROES』、中村朱美『売上を、減らそう。』など

山田
山田
時代の変化と共に組織の在り方も変わっているのに、マネジャーの役割は変わってないからじゃないかな。ただ、今までのやり方はなんかおかしいなと、みんな心のどこかで思ってる。

でも、その代わりになる新しいやり方を考えるところまではいってない。というのは、「昭和のやり方」で上手くいった高度成長期の記憶があるし、今でも昭和のやり方でそれなりに上手くいくから。
大塚
大塚
とはいえ、世の中や働き方自体は変わってきていますよね。
山田
山田
だから、昔は上手くいっていたやり方を今も続けることで起きる不幸も徐々に見えてきていますよね。
大塚
大塚
どうすれば、新しいやり方をする人が出てくると思いますか。
山田
山田
例えば、失業率がとても高くなったら、今までのやり方はおかしかったのかも……と、新しいやり方を考えるようになるかもしれない。
大塚
大塚
サイボウズが「やり方を変えないと」と思い立って、動き始めたのは10数年前ですよね。どうして早くからそこに気づけたのでしょうか。
山田
山田
当時はまだ小さな会社だったからだと思います。設立2年半で上場し、組織としてどんどん大きくなる中で、2005年には離職率が28%にまで膨れ上がって。

成果至上主義に走った会社のマネジメントは完全に崩壊していて、「このやり方、違うな。続けてたらマズいな」と実感できたんだと思います。

でも、「このやり方じゃダメだな」って気づきにくい社会の仕組みがある。これは今も変わらないんじゃないかな。
話すおさむさん

山田理(やまだ・おさむ)。サイボウズ 取締役副社長 兼 サイボウズUSA(Kintone Corporation)社長。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、責任者として財務、人事および法務部門を担当し、同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年からグローバルへの事業拡大を企図し、米国現地法人立ち上げのためサンフランシスコに赴任し、現在に至る

大塚
大塚
サイボウズは、会社が変わるには「制度・ツール・風土の3つが揃わないとダメ」と言ってますよね。だから僕は本書の編集をさせていただく前、サイボウズはマネジメントのハウツーや制度をとてもたくさん整えているんだろうなと想像していたんですよ。

でも、本にメインとして書かれてあるのは、「ザツダン」と「情報の徹底公開」と「説明責任と質問責任」という「風土」に関する3つだけで、実際はとてもシンプルだと感じました。
山田
山田
制度は誰でも作れるけど、風土がそれに合っていないと制度は定着しないし、良いものにもならないんです。その視点を本書で伝えたいなあと。

マネジャーがすべてを背負う必要なんてない

向かい合って話す二人

兵庫県にいらっしゃる大塚さんとの対談は、テレビ会議システムを使って行われました

大塚
大塚
養命酒酒造が2018年に行った「東京で働くビジネスパーソンの疲れの実態に関する調査」によると、30代中間管理職の40%以上が「しんどくなった」と感じているそうです。

働き方改革が始まって、人々の働き方も変わったけど、マネジャーへの理想像は変わってない。それに気づいてもらう本になっていると思います。
山田
山田
確かにね。辛くなっているマネジャーやこれからマネジャーになるけど不安を抱えている人たちに向けて書き始めた本で、「あなたたちだけのせいじゃないよ」「あなたがすべて背負わなくていいよ」というメッセージを伝える意図がありました。
大塚
大塚
山田さんの言葉でとくに印象的なのは、「諦める」「やめる」というものです。ミレニアル世代は受け入れられても、上の世代は抵抗がある人も多いんじゃないかな、って。
山田
山田
マネジメントを語るとき、「諦める」なんて言葉を使うのは僕くらいじゃないかな。例えば、僕は営業や開発、マーケティングの知識やスキルをつけるのを諦めました。

それぞれ専門としてやっている彼らに任せて、代わりにマネジャーとして誰がどんなことを話しているのか、誰のどんなところが信頼できるのか、逆に信頼できないのかを知る方が大事だなと思ったからです。

そのために、とにかくたくさん「ザツダン(※)」をしていた時期があります。

(*)サイボウズで行っている1on1であり、「雑談」として何でも話していい時間。制度やルールとして決まっているものではなく、多くのマネジャーが自然発生的に行っている。目的はコミュニケーションの量を増やし、メンバーの状況を知ること。

大塚
大塚
noteの記事にもありましたね。
山田
山田
諦めると聞くと、ネガティブな印象を持つかもしれないけど、極端な話、ひとつの理想を選択したら100の理想を諦めることになる。

でも、諦めるとかやめるっていうのは、結果的に新しいチャンスを生むことになると思うんです。
大塚
大塚
何かをしない代わりに、別の何かをすることになるから。
山田
山田
肩肘張って重いものを背負うと、「良く見せたい」という気持ちが働いて、頑張らないといけなくなります。でも、誰でも苦手なことや弱いことがあるのは当たり前。

マネジャーは「こんなの無理です」「手伝ってほしい」と周りに言えばいいんです。
大塚
大塚
そういう姿勢こそが、最軽量のマネジメントにつながるのかな、と思います。

最軽量のマネジメントを実施することでみんなが自立して、最軽量のマネジメントはいつか最軽量のチームになっていくのかなと思いました。
話す大塚さん
山田
山田
最軽量のチームって、面白い表現ですね。でも、そうなのかもしれないなと思います。「最軽量のチーム」使おう(笑)。
大塚
大塚
どうぞどうぞ(笑)。

マネジャーを「肩の荷が下りた」状態にしたい

山田
山田
本を書きながら、『最軽量のマネジメント』を読んでくれた人は、その後どんな行動を起こすのかなぁと考えていました。

若い人が「自分でもやってみよう」と、アクションを起こしてくれたらうれしいです。一番うれしいのは「肩の荷が下りた」と言ってくれることかな。

マネジャーとして辛さを感じている40%の人たちは、2冊買って1冊を上司に渡したりするのかな。それを読んだ上司が「新しい時代のマネジャーってこんな感じなんだな。応援したいな」と感じてくれるのもうれしいですよね。
あごに手を当て、考えながら話すおさむさん
大塚
大塚
それは最高ですね。
山田
山田
僕はセミナーで自分より世代が上のおじさんたち相手に話す機会が多いんです。

おじさんたちははじめのうちは斜に構えて聞いてるんですけど、どんどん前のめりになるんですね。終了後「いい話だった!」と言われることもあります。

そんなとき、おじさんたちも悩んでいて、でもどうすればいいかわからないんだな、と感じるんですよ。
大塚
大塚
おじさんたちの肩の荷も下ろせるんじゃないでしょうか。
山田
山田
「俺が今更変わるのはハードルが高い」と思っているおじさんも、若い人がやることを理解しようとか、協力しようかなとか、本を読んで行動につなげてくれたらいいですよね。

僕の理想は、若いマネジャーが最軽量のマネジメントをし、チームのメンバーは一緒に支えて役割分担をする。そして、マネジャーの上にいる人たちも共感によって、世代を問わず一緒に時代を作っていく流れが生まれることなんです。
大塚
大塚
山田さんは10年以上も前に自社で働き方改革をやったわけじゃないですか。上と下に挟まれたしんどい中間管理職時代を経て、マネジャーの仕事を疑って「大衆化」していかないといけない、と気づいて。

普通の企業はそれをこれから体験するんですよね。10年前、周りからどんな反応がありましたか。
話す大塚さん
山田
山田
当時、「成果重視型」の働き方と「家庭やプライベートを重視する」働き方の、ふたつの制度を作って選べるようにしたんですけど、「大変になるじゃないか!」と一番反発したのがマネジャーでした。

現場が成長しないといけないという大前提もあるし、成長したいという思いもある。数字を上げながらそれもやれってどうなの? と言われました。

一方で、現場社員は制度に賛成しているから、マネジャーが悪者になっていく構図がありました。
大塚
大塚
上とも下とも溝ができて……。
山田
山田
働き方を変えた人がいると、やってもらう予定だった仕事を渡せなくなって、混乱することがあります。希望する働き方ができないから辞めたい、という人も現れる。

でも、時短にしてフレキシブルに働く人は、よりがんばるようになって、アウトプットの質と量が以前と変わらない。そんなプラスの展開も見られるようになりました。
大塚
大塚
その理由は何だと思いますか。
山田
山田
コミュニケーションがしやすくなったから。結果、今までだったら辞めていた人が辞めなくなって、今まで採用できなかったタイプの人が採用できるようになったんです。

マネジャーの言葉もどんどん変わっていきましたね。
大塚
大塚
大きな変化ですね。
山田
山田
マネジャーに理解してもらい、結果を出すのに時間がかかりましたが、10年ほど続けながら成長していきました。

多くの人がフレキシブルに働くのをマネジメントするのは大変なんです。組織が大きくなればなるほど難しい。
大塚
大塚
マネジャーをラクにする方法も本書に書かれていますね。
山田
山田
おじさん上司がマネジャーを理解して、サポートしていかないといけないなと思います。周りが「今までマネジャーに甘えてたよね」「マネジャーの仕事を分担しないと」と動かないと、マネジャーの肩の荷は降りない。

昭和世代もミレニアル世代もこれからの令和世代も、誰もが自分の経験を活かして上手くいったところ、上手くいかなかったところ、でもこうありたい、こうなるに違いないという理想を掲げて、チームワークを作ってほしいなぁ。
話すおさむさん
大塚
大塚
世代間の断絶を煽るのではなく、橋渡しをする感じですね。大企業でも変われる可能性はありますか。
山田
山田
ありますね。たとえ経営者自身が変わらなかったとしても、「ONE JAPAN(※)」みたいに優秀な若い人たちが横のつながりを持って組織を動かしていけば、大企業や世の中が一気に変わる可能性はあると僕は信じてます。

(*)大企業の若手有志団体による実践共同体。「大企業を変えること」を選んだ若手社員一人ひとりがつながり、希望を見出し、行動している。大企業からチャレンジする空気を作り出し、組織を活性化し、社会をより良くするための活動を行う。パナソニックや三越伊勢丹ホールディングス、東急グループなど、多種多様な大企業が参加。

文:池田園子/撮影:有佐和也、高橋団/企画編集:小原弓佳
情報をクローズにする経営者は、凡人以上に天才を殺している──『天才を殺す凡人』北野唯我×サイボウズ副社長 山田理
「フラットな組織」は目指してなるのではなく、結果──部下と1on1をしたら、組織全体が見えてきた。ヤフー伊藤羊一×サイボウズ山田理
上司の「信頼している」は余計なお世話。マネジャーは責任を取って任せるだけ

「寝坊してしまった……上司に怒られる!」と思いきや、嘘をつかなかったことを褒められた

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働きやすい会社のヘンなところ

「新しい働き方」「自由な働き方」「働きやすい会社」──。ここ数年で、世の中でよく聞くようになった言葉たち。サイボウズも「働きやすい会社」として取り上げていただくことがあります。

そして、実際に中にいるとなかなか気づかないのですが、サイボウズには、転職してきた人やお付き合いのある企業の方々が思わずびっくりしてしまうような「ちょっとおかしい」会社の常識があるようです。

「働きやすい会社」には、世の中の常識からちょっと外れた、その会社ならではの少しおかしいアタリマエが存在するのかも……? 

そんな常識を少しずつ紹介していく連載、「働きやすい会社のヘンなところ」。第6話は、寝坊など、会社で失敗してしまった時の対応についてのお話です。

第6話:「寝坊してしまった。上司に怒られる!」と思いきや……

朝9時半に目覚める細野さん。今日は朝から大事な会議があるのに寝坊してしまったと気づき焦っている。いろんな言い訳を考えるが、寝坊してしまったと正直に伝えることにする 急いで謝りながら会議室に入る細野さん。上司に「遅刻はよくないけれど、公明正大に言ったのはえらい」と言われ、驚く。 ぽかーんとしていると、人事の篠原さんに声をかけられる。前の会社ならもっと怒られるのに褒められたことが不思議だと伝えると、「公明正大に伝えたからですよ」と篠原さんが教えてくれる。 公明正大の説明をする篠原さん。「アホはいいけどウソはダメ」という文化がサイボウズにはある。 「小さなウソでも排除することで、オープンにものを言える文化を育んでいる」と説明する篠原さん。キントーンで「遅刻」を検索したらたくさん出てきて「遅刻はこわくない」と喜ぶ細野さんだが、「社内の信頼度は下がる」と篠原さんにたしなめられるのだった。

アホはいいけど、ウソはダメ。

サイボウズには、「公明正大」な姿勢を大事にする文化があります。常日頃から、正しいと声を大にして言える行動を心がける。たとえミスをしてしまったとしても、不正や隠し事はせずに、必ず共有・報告・相談をして対処する。 寝坊やメールの誤送信など、うっかりとした小さなミスは誰にでもあります。そんな時、つい「ごまかせないかな……」と思ってしまうこともありますが、そういった小さな「ウソ」が積み重なると、仲間に対して不信感が募り、誰のことも信用できなくなってしまいます。ミスをすることよりも、嘘をついてミスをごまかすことの方が、よほど組織に悪影響を与えるのです。 アホはいいけど、ウソはダメ。そういった公明正大な考え方がチームに浸透していることが、安心安全な風土が保たれる秘訣なのかもしれません。 (つづく) マンガ:山里將樹 企画編集:明石悠佳
「勤務時間にプライベートの話をする」なんて、言語道断だと思ってた
約500人の日報をすべて読み、社内情報を把握しまくる社員に心底驚いた話
「会社でモヤモヤしたことを言いづらい……」とためらっていたら、同僚に一喝されてしまった
「長時間労働と定時退社の社員が仲良く仕事」なんて、あり得ないと思ってた

無責、価値観の問い直し、メディアの輪郭を広げる──2019年を編集部で振り返ってみた

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「自分の理想の働き方ってなんだろう」と考えるきっかけを(山口)

山口
山口
サイボウズ式編集部インターンの山口です。

就職活動をしながらのインターンだったので、去年よりはインターンに割ける時間が少なかったのですが、自分の企画はもちろんのこと、動画プロジェクトに参加したり、社外の方と協力して、イベントの記事化に挑戦させてもらったりと新しい経験も積めた1年だったと思います。

2019年、印象に残っている企画は、インターン生で協力した「サイボウズ社員約500人の働き方を調べてみた」です。半年間ほどの期間をかけて、様々な社員の方に協力いただき記事をつくりました。自分で執筆にチャレンジしたこともあり、印象に残っています。

「100人100通り」という言葉だけではわからない、サイボウズの働き方を知ることができる記事になっています。「自分の理想の働き方ってなんだろう」と考えるきっかけになると思いますので、ぜひお読みください。
「理想の働き方」を見つけたいインターン生が、サイボウズ社員約500人を徹底的に調べてみた

自分の理想を問い、意識して選択していくことも「自立」(神保)

神保
神保
新しく編集部にジョインしました、神保です。

振り返ると、今年は仕事のキャリアだけでなく、家族と自分の人生を考えた1年でした。そんな2019年、印象に残っている記事はブロガーズ・コラムの「会社から自由になるだけでは「脱社畜」とは言えない──大切なのは、自分の人生を歩んでいる実感を持つこと」です。

サイボウズに入社して以来、社内で「理想」「自立」という言葉をよく耳にします。課題解決における理想ももちろんですが、自分にとっての「理想」を問い、意識して選択していくことも、サイボウズでは1つの「自立」としています。

このコラムでも、「自分の人生を歩んでいる実感」や「個人がよりよく生きるために会社を活用するといった視点」が大切であると示しており、この2つは個人的に大きな学びとなりました
会社から自由になるだけでは「脱社畜」とは言えない──大切なのは、自分の人生を歩んでいる実感を持つこと

記事だけでは伝えられなかった人柄や雰囲気を、動画で伝える(高橋)

高橋
高橋
2019年新卒入社で編集部に入りました、高橋です。

社会人1年目となった今年は、記事に加え書籍や動画などさまざまなプロジェクトに携わらせてもらえました。学生のころは見るだけだったサイボウズ式に、作り手としてかかわれていることに、入社して半年以上経った今でも喜びを感じています。

サイボウズ式はこれまで多くの企画を出していますが、その多くは記事による発信でした。今年挑戦した「動画プロジェクト」はサイボウズ式のオウンドメディアとしての可能性を広げるのではと考えています。

フローレンスの駒崎弘樹さんがサイボウズに1日インターンにいらっしゃった様子を動画にまとめました。記事だけでは伝えられなかった、登場人物の人柄や雰囲気。社長 青野のサイボウズでの普段の様子を、リアルに体験してもらえると思います
大きくなった組織でもスピード感がほしい。でも一人ひとりとも向き合いたい──フローレンス代表がサイボウズの経営者に相談した

弱みや強みを共有することが、心理的安全性を作る(鮫島)

鮫島
鮫島
新しく編集部のメンバーとなった鮫島です!

今年は「挑戦する年」にしようという思いがあったため、仕事でも私生活でも新しい経験をたくさんしました。それもあって、今年は今まででいちばん自分と向き合った1年だったかと思います。

そんな2019年で印象に残っている企画は、「「弱みを見せると社会的立場を失う」という考えは、なくなりつつあるのでは」です。

新しい環境へ行くと、知らなかった自分に出会うことが多いため、今まで以上に自分の強みや弱みがわかるようになりました。実体験とこのコラムを通して、それらを他者に共有することで心理的安全性の高い環境が作れることを学びました。
「弱みを見せると社会的立場を失う」という考えは、なくなりつつあるのでは

「こうあるべき」と思い込んでいた自分の価値観がほぐれるヒントを(鈴木 健斗)

鈴木 健斗
鈴木 健斗
サイボウズ式編集部インターンの鈴木 健斗です。実は2019年の春に大学を卒業したのですが、個人的にやりたいことがあって、インターンを続けさせてもらっていました。

そんな事情とも関連して、印象に残っているのは下記の企画です。この企画は、ある日Twitterでリツイートされてきたつぶやきが元になっています。

そこには、「せっかくいい大学に入ったんだから」と周囲から言われて、望まない就職をしようとしている学生モヤモヤがつづられていました。それを読んだとき、率直な疑問として「いい大学に入ったら、いい会社に就職しなきゃいけないのかな?」と考えたんです。

私はサイボウズ式というメディアに関わってから、いろんな働き方や生き方に触れてきました。多様な価値観を知れば知るほど、「こうあるべき」と思い込んでいた自分の価値観が、ほぐれていくのを感じます。そういう誰かの息苦しさがほぐれていくような企画を、2020年もつくりたいですね。
いい大学を出たら、いい会社に就職しなきゃだめ?──過去を100%未来につなげなくてもいい

製品を作り、届ける上で大切なことは何か(鈴木統)

鈴木
鈴木
編集部の鈴木です。2019年はたくさんの方に貴重なお話をお伺いすることができました。

どれも思い出深いのですが、印象に残った記事は、「5代目社長はスクラムマスター。ミートボールの石井井食品は70年前からアジャイル型組織だった──石井智康×青野慶久」です。

エンジニアでアジャイルコーチ、スクラムマスターでもある石井食品社長に、石井食品には創業当時からアジャイルの精神が根付いていたこと、社会のニーズに合わせた現在の取り組みなどをお伺いしています。

「ものづくり」の観点から見た、伝統的な食品会社とITの世界の意外な共通点から、商品・製品をつくり、届けるうえで、何が大切なのかを考える機会をいただきました。
5代目社長はスクラムマスター。ミートボールの石井食品は70年前からアジャイル型組織だった──石井智康×青野慶久

無責の概念で、わたし自身も変われた(明石)

明石
明石
編集部の明石です。

今年はサイボウズ式ブックスの立ち上げなどもあり、サイボウズ式の記事制作の本数は減ってしまいましたが、作った記事はどれも思い入れのあるものばかりです。

その中でも一番思い入れがある記事は、熊谷先生と青野さんの対談。「誰のせいにもしない」という無責の概念は衝撃的で、この記事で、私自身も変われたような気がします。つくることで自分自身も変わっていけるような、そんな記事を来年もつくっていきたいです。
「誰のせいにもしない」文化が、組織の多様化と問題解決を進めていく──熊谷晋一郎×青野慶久

We launched Kintopia, CybozuShiki's English language twin media website(Alex)

Alex
Alex
Hey, it's Kintopia editor in chief and CybozuShiki contributor Alex.

It's been a long and eventful year, filled with more new and exciting content that I'd have ever imagined. I spent the first half of 2019 having a blast writing manga stories, learning about Cybozu and talking to my new bosses. Then in July, the real hustle began—we launched Kintopia, CybozuShiki's English language twin media website.

Thanks to the new platform, I had the amazing opportunity to conduct interviews with a wide range of people much smarter than myself, from billionaire Slack founder Stewart Butterfield to renowned Oxford Professor Sir Paul Collier. But for me, the piece of content that really stood out was a chat on pay transparency I had with author and professor David Burkus. I highly recommend this piece; a perfect blend of highly practical advice and solid research.

Even more fun and exciting content is planned for 2020, so make sure to come check it out over on Kintopia!
The Case for Pay Transparency Done Smart

複業や二拠点生活、これからの働き方に迫りたい(竹内)

竹内
竹内
新潟で活動している竹内です。複業やリモートワークなど、実体験を生かした「これからのはたらき方」に関する記事づくりにかかわっています。

2019年の企画で、個人的に最も印象に残っているのは、「「地方は仕事がない」は幻想でしかない――ひとりの力が地域に与える「複業×二拠点生活」の影響力」です。

「都市部のビジネスパーソンが、地方の企業で複業する」をテーマにした記事ですが、2700を超える「いいね!」が集まり、複業を通じて地元や地域へ貢献することに関心を寄せている人が増えていることを実感しました

オリンピックを契機にリモートワークなどに注目を集めていますが、来年はより一層、これからの働き方に迫ってみたいです。
「地方は仕事がない」は幻想でしかない――ひとりの力が地域に与える「複業×二拠点生活」の影響力

Webから書籍へ、サイボウズ式ブックスの立ち上げ(小原)

ohara
ohara
編集部の小原です。今年はサイボウズ式ブックスの立ち上げや第一弾『最軽量のマネジメント』の出版の方をメインでやっておりました。

書籍を作るにあたり、出版の前に北野唯我さん、伊藤羊一さん、株式会社わざわざ代表取締役の平田はる香さんやONE JAPAN発起人・代表の濱松誠さん、三越伊勢丹の神谷友貴さん、佰食屋の中村朱美さんなど多くの方と著書である副社長の山田理が対談し、記事としても公開してきました。
多くの方とお話をすることで、私たちもより考えや理解が深まり、深みのある本になったのかなと思います。

おかげさまで書籍は売れ行きも好調で、Amazonの総合ランキングで最高22位、「マネジメント・人材管理」のカテゴリで現在1位をキープするなど、サイボウズ式というwebメディアから広がって、より多くの方にサイボウズの考え方を知っていただくことができた年になったと思います。

来年もまた、多くの方の働くことを考えるきっかけとなる書籍づくりに取り組んでいきたいと思っています。
情報をクローズにする経営者は、凡人以上に天才を殺している──『天才を殺す凡人』北野唯我×サイボウズ副社長 山田理

自立した個人が集まって、チームで成果を出す「未来のチームの作り方」(藤村)

藤村
藤村
サイボウズ式編集長の藤村です。僕が2019年で印象に残った企画は、未来のチームの作り方』の書籍発売プロジェクトです。

この本は、サイボウズ式を立ち上げてから、編集部のチーム作り進めてきた試行錯誤をまとめた内容になっています。編集部のみんなのおすすめ記事を見ていただくと分かる通り、編集部は多様な個性を持ったメンバーが、個人の思いを元に、「新しい価値を生み出すチーム」のためのメディアを運営しています。

サイボウズでは「100人100通りの働き方」を認めており、編集部のみんなも働く時間や場所がバラバラです。働く時間や場所を自由にするためには、「自分がこういう働き方をしたい」という自立がまずは必要です。次に、自立した個人の思いをチームに共有して、みんなから共感を得ることが不可欠です。そして、そういった多様な人が集まって、自由に働いて、「チームで成果を出す」ことが求められます。これらのエッセンスをまとめた書籍になっています。

下記の記事では、未来のチームの作り方の「はじめに」の公開にチャレンジしました。ぜひ、お読みください。
【はじめに:全文公開】初のサイボウズ式チーム本「未来のチームの作り方」を出版します

読者が挙げる「2019年のサイボウズ式のもっとも印象に残った記事」

Twitterで、サイボウズ式の2019年のもっとも印象に残った記事を、読者の皆さんに挙げてもらう取り組みも進めています。ハッシュタグ「#サイボウズ式2019」をつけてツイートしていただいたものも挙げてみます。

サイボウズ式第2編集部と社員のピックアップ

こちらは、サイボウズ式の読者コミュニティ「サイボウズ式第2編集部」のメンバーやサイボウズ社員のピックアップです。

読者のみなさんのピックアップ

サイボウズ式を日頃からお読みいただいている読者のみなさんのツイートもおしらせします。

最後に

2019年もサイボウズ式をお読みいただき、本当にありがとうございました。今年は「新しい価値を生み出すチームのメディア」として、より幅を広げていく活動をしました。企画で扱ったテーマも多種多様ですが、既存の常識とは異なる価値を生み出すためのヒントとなる企画を作ることができました。2020年のサイボウズ式もぜひお楽しみに!
アイキャッチ:高橋 団

営業なのに「個人ノルマなし」「働き方も自由」でサボらないんですか?

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営業職=つらい、のイメージは本当?

山口
山口
大学生の僕からすると、「営業って個人ノルマがあって大変そうだな……つらそうだな……」というイメージが強いんです。 でも、サイボウズ式でインターンしながら、「サイボウズの営業は、ほかとは何かが違うのかも?」と思って。なので今日は、サイボウズの営業スタイルについて、いろいろ教えてください!
栗山
栗山
そもそも大学生から見て、営業職ってそんなに人気ないの?
山口
山口
ないと思いますね。体育会系のイメージが強くて、「ノルマのためなら何でもします!」と言える人が求められているイメージです。
栗山
栗山
サイボウズでは、そういった兵隊みたいな営業はあまり求めてないかもしれません。 「サイボウズ製品を広く使ってもらうためには、どうすればベストなのか」を自分で考えられる人が活躍していますね
営業本部長・栗山さんの写真

栗山圭太(くりやま・けいた)。2003年に、証券会社からサイボウズに転職。営業部に配属され、公共営業や大阪営業所の立ち上げなどを経験したのち、「サイボウズOffice」「kintone」のプロダクトマネージャーを務めた。その後、自身の強い希望で営業に戻り、現在は執行役員 営業本部長とグローバル事業本部 副本部長を兼務している。直近の数年間は、アジアの拡販にも注力。アジア10か国を訪問し、パートナー企業とのリレーションシップを図っている。お酒が全く飲めない栗山だが、「下戸でも営業部門の責任者が務まる」ことを体現。体育会系だったサイボウズの営業を「ロジカルな営業」へと変革させた立役者。

山口
山口
営業って、口が上手でイケイケな人というイメージでしたが、そんなことはない、と。
栗山
栗山
はい。 ちなみに、新卒でサイボウズに入社した深澤君は企画を立てるのが得意で、いわゆる「体育会系の営業」とは全く違うタイプです。
深澤
深澤
飲み会は苦手ですね(笑)。
営業部の深澤さんの写真

深澤 修一郎(ふかさわ・しゅういちろう)。2012年、新卒としてサイボウズに入社。7年間パートナー営業部に在籍し、サイボウズで最も大きな代理店を担当する傍ら、サイボウズのパートナー企業にも週1回8時間常駐し、複業している。取材後の2020年からビジネスマーケティング本部に異動。

山口
山口
飲み会が苦手でも営業OKなんですね……!

営業でも複業や在宅勤務

山口
山口
働き方はどうなんですか? 営業だとなかなか自由な働き方は難しい気がしますが。
足立
足立
自由だと思いますよ。僕は保育園に子どもを預けてから9:30に出社しています。 今日は朝に会議があったので、9:30までは電車に揺られながらスマホで会議を聞いて、そのあと会議室に入って参加しました。
営業部の足立さんの写真

足立 宜親(あだち・なりちか)。2015年にIT系商社からサイボウズに転職した。現在は、パートナー第1営業部 に在籍。サイボウズで売上最大のパートナーの営業リーダーを務める。前職から一貫して、パートナー営業を極めている。

深澤
深澤
僕は満員電車を避けて生産性をあげるため、朝8時から在宅勤務をして、10時に出社するスタイルです。 あと、複業のために週4日勤務をしていますね。
深澤さんの働き方宣言のキャプチャ

サイボウズでは100人100通りの働き方を文章で宣言でき、グループウェア上で全社公開されるようになっている。深澤さんの働き方宣言には、朝に在宅勤務をすることや週4勤務である旨が記載されている。

山口
山口
みなさん出社する時間もバラバラだし、働く日数も週5だけじゃないんですね。

営業に個人ノルマがないのは、意味がないから

3人が話している様子の写真①

山口
山口
あとサイボウズの営業には、個人ノルマがないと聞きました。これって本当なんでしょうか?
栗山
栗山
そうですね、個人ノルマはありません
山口
山口
営業といえばノルマのイメージですが……なぜなのでしょうか?
栗山
栗山
ビジネスモデル的に必要ないと判断したからです。 そもそもサイボウズはクラウドの情報共有サービスを月額で提供しており、これは「サブスクリプションモデル」と呼ばれています。
山口
山口
サブスクリプションモデル……?
栗山
栗山
NetflixやSpotifyのように、利用期間に対して対価を支払うビジネスモデルですね。 サブスクリプションモデルの場合、お客様の満足度が大切になってきます。
山口
山口
というと?
栗山
栗山
もし山口さんが新しくサービスを契約したのに、サービスがなかなかアップデートされなかったり、サポートが悪かったりしたら……どうしますか?
山口
山口
すぐ解約しちゃいます。
栗山
栗山
そうですよね。 サブスクリプションのビジネスモデルの場合、大切なのは「お客様に満足いただいて長くご利用いただくこと」。 営業が売って終わりじゃなくて、製品を定期的に改善したり、良いサポートを受けられたりすることも重要です。
クラウドサービスの提供フローの画像

クラウド製品を提供するフロー。順に「マーケティング」「製品開発」「営業」「アフターサービス」のプロセスがある

山口
山口
なるほど!
栗山
栗山
そうなるとサイボウズの場合、営業に個人ノルマを課さないほうが合理的なんですよ。 お客様にサービスを継続して使っていただくためにいろいろな部署で努力する必要があるのに、営業だけに個人ノルマを課すのは意味がないですし、社内で足の引っ張り合いが生まれてしまいますよね。

個人ノルマなしで、モヤモヤしないんですか?

山口
山口
個人ノルマなし、働き方も自由。でもそれで会社が成り立つんでしょうか。さすがに、何かしらの数字目標はありますよね……?
栗山
栗山
もちろんです(笑)。 個人ノルマはないですが、全社で目指す売上目標はありますし、営業チームごとの売上予算もあります。
山口
山口
チームの目標はあるけど個人ノルマがないって、モヤモヤすることはないんですか? 自分はこんなに成果をあげてるのに、チームの成果になっちゃうのか……って。
足立
足立
私は特にないですね。 むしろ個人ノルマがあったときのほうがモヤモヤしてたかもしれません。
足立さんと栗山さんが話している様子の写真
山口
山口
というと……?
足立
足立
前職の営業はまさに個人ノルマがある営業だったのですが、自分のノルマを達成することだけで頭がいっぱいでした。 「多少のクレームよりも、大きな売上を上げることを優先すべきだ」と思っていたんです。
栗山
栗山
でもそれだと営業も疲れちゃうし、本当にお客様の役に立っているのかモヤモヤするよね。
足立
足立
そうですね……(笑) サイボウズに転職してからのほうが、お客様のことを考えた本質的な取り組みができるようになったと感じます。

サイボウズの営業活動は「全員野球」

山口
山口
他にサイボウズの営業で特徴的なことはありますか?
栗山
栗山
「全員野球」なところですかね。 ふつうの会社の営業だと個人の売上目標を達成することが重要とされますが、サイボウズの場合は全社の売上目標を達成してはじめて全社員にボーナスが出るんです
山口
山口
へえ、そうなんですね。
栗山
栗山
なので開発やマーケティング、カスタマーサポートや情シス、人事など「みんなで協力してサイボウズ製品を広めよう」という意識が強いです。
栗山さんの写真
山口
山口
とはいえ、社会人の先輩の話を聞いていると「部署間で協力しづらい」という話がよく出てきます。サイボウズの場合、実際はどうなんでしょうか?
深澤
深澤
部署を超えたチームワークを感じることは多いですね。 たとえば、案件中に機能面でわからないことがあったとき。 社内SNSのキントーンでわからないことを登録すると、サポートのメンバーがすぐに返信してくれるので、その日中に解決できちゃうんです。
わからないことをkintone上でサポートメンバーに聞いているキャプチャ
山口
山口
それは心強いですね。
深澤
深澤
あとお客さまからいただいた声を開発メンバーに直接共有できるのも好きですね。 「こんな要望があって、不便だから改善してほしい」と伝えるとプロダクトマネージャーからすぐ返信がくるんです。
要望を登録すると、すぐPMがkintone上で返信しているキャプチャ

営業がキントーン上で要望を伝えると、開発のプロダクトマネージャーからすぐに反応がある。

山口
山口
約900人の会社なのに、エンジニアと営業の距離が近い……!
深澤
深澤
営業と開発の仲が悪い会社も多いですが、サイボウズの場合は営業の声が実際に機能の改善につながることも多くてやりがいを感じますね。 マーケティングの部署と連携して進めるプロジェクトも多いですし、いろいろな部署と協力して「チーム営業」ができている感覚があります。

「個人ノルマ無し」でサボらないの?

山口
山口
ちなみに、個人ノルマがない状態で、サボろうとする人はいないんですか?
栗山
栗山
え~どうなんだろう……。僕が気づいていないだけかもしれないな。足立くんは、サボろうと思ったこと、ある?(笑)
3人が話している様子の写真②
足立
足立
ないですね~。社員は自分の活動をキントーンで発信しているので、それに刺激されるんです。 「自分も良い仕事がしたい」と思いますし、メンバーの頑張りに対して、「恥ずかしい仕事はしたくない」「負けたくない」という気持ちのほうがつよくなりましたね
深澤
深澤
僕もサボろうとは思わないですね。 むしろ個人ノルマがないからこそ、わからないことや不安なこともオープンにしてみんなで解決しようという雰囲気があると感じています。
山口
山口
不安なこともオープンに……?
深澤
深澤
このあいだだと、営業メンバーの一人が「案件について一生懸命準備をしていたけれど、連携に関する質問の準備を忘れてしまった!」と、キントーン上に投稿したことがありました。
ある営業社員がkitnone上で案件のアドバイスを求めている様子のキャプチャ

※このキャプチャはイメージです

山口
山口
事前に準備をしておくことが大前提だとしても、「ついうっかり……」ってトラブルはどんな会社でも起こりそうです。その案件はどうなったんですか?
深澤
深澤
そうしたら短時間で次から次へとアドバイスがキントーン上に集まって、結果的にその案件はうまくいって内示に至ったそうです。
アドバイスを求めた結果、案件がうまくいった様子のキャプチャ

※このキャプチャはイメージです

山口
山口
なんと!
足立
足立
個人ノルマがあって競争が激しい社風だったら、こんな風に「案件準備を忘れた!」なんてつぶやけないよね(笑)
深澤
深澤
サイボウズでは自立している人が多いので、サボるというよりはむしろ協力して助け合う風土がある気がしますね。
営業資料もkintone上で共有しているキャプチャ
深澤
深澤
とにかくキントーンで徹底的に情報共有しているので、お客様からの問い合わせや提案資料も調べたらすぐ出てくるし、それが働きやすさや助け合いの風土に繋がっている気がします。

個人ノルマ=「悪い」わけじゃない

山口
山口
お話を伺っていると、なぜ世の中の営業に個人ノルマがあるのかわからなくなってきました……。
栗山
栗山
いや、必ずしも「個人ノルマがある営業=悪」ではないんですよ。個人ノルマのある仕事には、いい面もあって。
山口
山口
いい面?
栗山
栗山
ノルマを達成すればインセンティブ(報奨金)がもらえるので、夢がありますよね。 売れる営業なら30代で1000万以上稼げるので、若いうちに多くお金を稼ぎたいなら、ノルマのある営業も立派な選択肢です。
3人が話している様子の写真③
山口
山口
たしかにお金は魅力的ですよね。
栗山
栗山
サービスによっては、営業に個人ノルマやインセンティブをつけたほうが売れるビジネスモデルもあります。 なので個人ノルマ自体が良い・悪いではなく、その会社のサービスの立ち位置や戦略、ビジネスモデルよってとるべき選択肢が変わってくるだけ。 人によって合う営業スタイル・合わない営業スタイルがあるので、適切な選択をすることが大切です。

今の営業スタイルは「合理性」を追求した結果

3人が話している様子の写真④

山口
山口
いままで漠然と「営業ってノルマがあってつらそうだな……」と思っていたのですが、今日お話を聞いて、世の中にはいろいろな営業の形があることがわかりました。
栗山
栗山
個人ノルマがないことで「社員に優しい会社」と思われることも多いのですが、サイボウズの場合は純粋に「合理性」を追求した結果、今のチーム営業スタイルになっただけですね(笑) 結果的に、売上も順調に伸びています。
サイボウズの売り上げ推移のグラフ
山口
山口
チーム営業、おそるべし……。 「働き方も自由で個人ノルマもなくてどうなってるの?」と思っていましたが、サイボウズのビジネスモデルの特性に合った戦略なんだとわかって安心しました。
栗山
栗山
よかったよかった。一般的な営業のイメージとは少し違いますが、自分で企画するのが好きな人であれば向いていると思います。
山口
山口
キントーンで情報共有をして、助け合うチーム営業の文化がよくわかりました。ありがとうございました!
営業部で使えるキントーンの詳細はこちら
営業部の採用情報はこちら
文:流石香織/撮影:栃久保誠/編集:松尾奈々絵、熱田優香

アルカイダに負け続けた米軍が勝つ組織になれた理由は「7500人で毎日90分の電話会議」にあった

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ITは、世界を便利にする一方で、複雑にもします。

このことは、市民を守る責務を担う人にとって難しい問題です。現代の戦争において、敵はあらゆる技術を利用して、予測不可能で「カオス」な存在となっているからです。

スタンリー・マクリスタル元米軍司令官の話によれば、国際テロ組織であるイラクのアルカイダは、その典型だったといえます。 マクリスタルさんは、2003年から5年間に渡って、イラクのアルカイダに挑みました。多くを失った経験を通じて、組織変革と適応性は決して高尚なゴールではないこと、むしろ戦争で勝利する必須条件であることを学んだのです。

ITによって複雑化する社会、アルカイダに勝つために米軍が迎えた変化、新たな世界で組織が生き残るための教訓とは。マクリスタルさんとサイボウズの代表取締役社長青野慶久が話します。

※この記事は、Kintopia掲載記事Adapting to a Complex World: Lessons on Organization from a U.S. General (Part 1)の抄訳です。

新しい戦争で勝つには、軍隊組織が変わるしかなかった

青野
青野
マクリスタルさんの著書 『TEAM OF TEAMS 複雑化する世界で戦うための新原則』 では、組織改革におけるITの重要性が強調されています。米軍の改革で、ITはどんな役割を担いましたか?
マクリスタル
マクリスタル
ITの進歩によって、27ヶ国に分散された部隊で人と人をつなげることが可能になりました。

軍隊は伝統的に、小規模のチームに重点を置いてきました。直接やりとりする相手だけを信頼し、輪の外の人と接点を持たなかったのです。

ところが、ビデオ会議で隊員がつながるようになってからは相手を目にすることで互いへの理解や共感が育まれ、ベストプラクティス(もっとも効果的で効率のよい手法)を共有できるようになりました。
青野
青野
軍隊組織の構造改革に踏み切った理由は、新たなIT技術を得たからですか?
マクリスタル
マクリスタル
変わった理由は、戦争に負けていたからです。

改革前の軍隊の組織構造は、スピードと柔軟性に欠け、複雑極まりない敵に立ち向かうには不向きでした。

もし負けていなければ、変わることも変わろうとすることもなかったでしょう。
青野
青野
必須の変化だったのですね。
マクリスタル
マクリスタル
ええ。いざ軍隊が変わり始めると、インターネットがもたらす接続のしやすさ(コネクティビティ)が最強のツールだと気づきました。

ビデオ会議を駆使し、部隊を違う形で率いるようになって初めて、イラクのアルカイダへの形勢が一変したんです。
微笑むマクリスタルさん

スタンリー・マクリスタル。元米軍司令官であり、国際治安支援部隊の一員。統合特殊作戦コマンドの元司令官。軍の司令官を引退後、2011年にアドバイザリーサービス、経営コンサルティング、およびリーダーシップ開発会社であるMcChrystal Groupを設立。また、イェール大学ジャクソン・インスティテュート・フォー・グローバル・アフェアーズの上級研究員としてリーダーシップに関する授業を開講。著書に 『TEAM OF TEAMS 複雑化する世界で戦うための新原則』(日経BP社)など

青野
青野
テロリスト組織は、ITをどう活用していましたか?
マクリスタル
マクリスタル
彼らテロリストは日常生活でもインターネットや携帯電話を使っており、おのずとそれをテロリストとしても活用するようになっていました。

柔軟性と適応性に長けた彼らは、過去に戦ったどんな相手よりも迅速でした。
青野
青野
過去はそうではなかったと。
両手を使いながら話す青野

青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立した。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を行い、2011年からは、事業のクラウド化を推進。著書に、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない』(PHP研究所)など

マクリスタル
マクリスタル
そうです。従来、テロリスト組織は非常に保守的でした。情報のセキュリティ、明確な指揮系統、強力な創始者といったあらゆる点においてです。

アルカイダは1988年にパキスタンで結成され、もとはゼネラルモーターズやトヨタのようなピラミッド型組織でした。

ところが、2003年にイラクに現れたアルカイダは、過去15年間で普及したITの力で、先ほど述べたような独自のDNAを持っていたのです。

複雑な環境に立ち向かうには、目の前の問題に適応し続ける組織が不可欠

青野
青野
著書には、「Complicated(複合的)なシステム」と「Complex (複雑)なシステム」について書かれています。
マクリスタル
マクリスタル
シンプルに2つの違いを説明します。複合的なシステムは予測可能で、複雑なシステムは予測「不可能」ということです。

これは、 クネビン・フレームワーク(Cynefin framework) という意思決定のフレームワークをベースにしています。

「複合的」な問題からお話しましょう。複合的な問題を理解するには、丹念に学び、小さな要素に分解することが重要です。

自動車のように無数のパーツからなる機械が例です。製造するのには複合的な工程が必要ですが、一度理解して作ってしまえば、あとはボタン1つで同じことを毎回繰り返せます。
青野
青野
ふむふむ。
マクリスタル
マクリスタル
一方、その上の「複雑」なシステムは予測不可能です。

複雑なシステムは、あらゆる要素が猛スピードで変わるため、ボタンを押した時に何が起こるのかわかりません。予測ができないため、事後分析するしかないのです。

そして、世界は複雑なシステムに向かっています。
テレビ会議を通して話すマクリスタルさんと青野
青野
青野
世の中に複雑なシステムがあふれることは、課題解決のための組織作りにどう影響するでしょうか?
マクリスタル
マクリスタル
複合的なシステムだった産業革命などの時代には、専門家が指揮する複合的な組織によって課題を解決できました。

一方、問題が常に変化し続ける複雑な環境は、複合的な組織では課題解決には至りません。

必要なのは、常に目の前の問題に適応する組織を作ることです。
青野
青野
目の前の問題に適応する組織とは、具体的にどういうものでしょう?
マクリスタル
マクリスタル
いくつもの商品を開発する消費財メーカーを思い浮かべてください。主な競合に勝つには、より思慮深く、効率的である必要がありました。

ところが今は、競争の性質そのものが変わっています。まるでピラニアの群れのように、市場シェアを狙う1万社もの小さなスタートアップがいます。そのうちの9000社は失敗し、生き残った1000社はバラバラに動いていきます。
青野
青野
小さいとはいえ無数の競合がいる、と。
マクリスタル
マクリスタル
そうです。生き残った1000社が大企業の市場をつっついてシェアを奪っていった結果、消費財メーカーには儲けが低い商品だけが残ります。

結末だけを見れば、大手の競合を相手にしたのと変わりませんが、攻撃が1000もの方向から来る分、反撃が難しいのです。
微笑みながら話をきく青野
青野
青野
知識経済で生き残るためには、従来のメーカーは、複雑な環境に適応しなくてはいけないのですね。
マクリスタル
マクリスタル
もちろんです。ただ、大企業の規模感は、物理的にも文化的にも、急速な変化を困難にします。

大企業は、複合的な課題を効率的に解決するためのものであって、複雑なシステムに適応するものではないからです。

企業は、新たな適応力を培わなければいけません。

これは、世界中の軍隊や政府、あらゆるたぐいの組織に当てはまるでしょう。

線引きをなくして、7500人が参加するビデオ会議でミッションを共有。大きな貢献を讃える

青野
青野
従来の米軍は、小規模のチームが組織的に動く体制だったのですね。それを、大きな組織全体をまたぐ横連携に変えていくのは難しくなかったでしょうか?
マクリスタル
マクリスタル
非常に困難で、時間がかかるプロセスでした。

私が司令官を勤めていた統合特殊作戦コマンド(JSOC)は、優れた個人が密に団結した小規模のチームからなり、彼らが実質的な指揮を司っていました。

創設から22年間、組織全体の目的は「特定のミッションに対してどのチームを送り出すのかを選ぶこと」だけだったのです。

当時のテロリスト問題は、期間も規模も限られていました。変化しなくても特に支障はなく、軍隊の限界を知ることもありませんでした。
青野
青野
そうだったのですね。
マクリスタル
マクリスタル
変わるきっかけは、イラクのアルカイダです。従来のテロリストよりも規模が大きいながらも、ITの力で、メンバー間で目的を強固に共有していました。

彼らと戦って初めて、軍隊の足並みを完全にそろえる必要があると分かったのです。
青野
青野
足並みをそろえる上で大事だったことはありますか?
マクリスタル
マクリスタル
異なる背景をもつ人同士がなじんでいくことです。それが全体の文化的理解を深め、信頼関係を築き、最終的にはオペレーションの改善につながっていくからです。

人は信用できない相手を嫌いますし、知らない相手を信用することはありません。これは国家や宗教、すべてに当てはまります。
青野
青野
組織内部からの抵抗はありましたか?
マクリスタル
マクリスタル
もちろんありました。彼らが信頼する相手はごく一部に限られ、「ミッションと自分の任務だけ教えてくれれば、あとは邪魔をするな」という態度でしたから。

もし、全体のつじつまが合うように、完璧なミッションを割り振れる組織トップがいたならば、理論的には問題はなかったでしょう。

でも、現実はそうはいきませんでした。組織全体がより大きなミッションに目を向ける必要があったんです。

米国軍の強みは、小規模チームのプライドと団結力です。それを維持しながら、隊員には組織全体のミッションと自分の役割を認識してほしかったのです。
モニターを通して話すマクリスタルさんと青野と企画担当のアレックス

マクリスタルさんと青野の会議は、米軍と同じく"ビデオ会議"で実施。写真右は、サイボウズ式編集部のアレックス。

青野
青野
組織全体の目的意識をどう共有していきましたか?
マクリスタル
マクリスタル
毎日大きなミッションについて話し、貢献を称えるようにしました。

野球に例えるなら、「あなたの打率はなんでもいい。肝心なのは、スコアボードに表示されたチーム全体のスコアだけだ」ということです。

大きなミッションに日々焦点を当てることで、徐々に理解が深まっていきました。
青野
青野
まずは、大きなミッションを共有することから始めたのですね。
マクリスタル
マクリスタル
ええ。同時に、小規模チームの線引きを減らす必要がありました。

そこで、7500人が参加する90分のビデオ会議を、毎日実施しました。他の人のミッションや経験を目にすることで、相手に対する共感と感謝の気持ちが芽生えていったんです。
青野
青野
そこにITの力が生きたのですね。
マクリスタル
マクリスタル
はい。さらにつながりを深めるために、デルタフォースや海軍といった異なるチームの人材を混ぜて、部隊横断的なチームを構成しました。各チームに指揮官をつけたんです。

毎日戦闘を重ね、毎晩ミッションを実行しました。18カ月もすると、米軍はまったく異なる組織になっていました。私の司令官としての5年間の在任期間が終わるころも、まだ変化は続いていました。
青野
青野
大規模のビデオ会議は、軍隊の規律を身に付けた隊員だからこそ、運営が可能だったのでしょうか。
マクリスタル
マクリスタル
規律はあくまで一部なんですよ。

ビデオ会議の目的は情報共有であり、意思決定ではありません。24時間以内の戦闘状況や今後の計画、のオペレーションの意味合いについて、組織横断的に話したのです。

また、ビデオ会議と同時並行で15のチャットルームを用意し、質問や知りたい情報を投げかけられるようにしました。
青野
青野
それは有効そうですね。
微笑みながら話をきく青野
マクリスタル
マクリスタル
はい。戦争にフラストレーション(いらだち)はつきもので、あっという間に場の空気が悪化します。ですから、ビデオ会議では徹底して、ポジティブなリーダーシップを見せるようにしました。

ビデオ会議の重要なメリットの1つは、メンバーの誰もがリーダーである私を直接知らなくてもいいことです。ビデオ会議を通じて毎日私を目にすることで、存在を確認できますから。私の考えを察し、より団結した文化を育むことができました。

「毎日90分ビデオ会議をする」のは特殊な環境下だったからでしたが、企業にも同じ方法を推奨します。
青野
青野
情報共有後は、どう意思決定をしていきましたか?
マクリスタル
マクリスタル
私たちの目的や現在の状況への共通理解があれば、チームは自ずとやるべきことを判断できるだろうと考えました。ITが、この姿勢を可能にしてくれたのです。

指揮系統のあらゆるレベルの人が意思決定し、実行できました。ITによってすべての状況に目を配ることができたため、誰かが道を逸れそうになれば他者が止めに入る、自己修正型のメカニズムが実現していったんです。
モニターを通して話すマクリスタルさんと青野と企画担当のアレックス

期待値が明確なら、組織をフラットにしなくても透明化できる

青野
青野
軍隊では階級が重要という印象を受けます。階級を維持しながら、組織の柔軟性をどう高めましたか?
マクリスタル
マクリスタル
軍隊はピラミッド型組織です。情報は上層部から下層部に流れ、また下層部から上層部へと上がっていきます。

ただ、伝達に時間がかかることに加え、情報にフィルターがかかったり、時には誤って伝達されたりすることもありました。

柔軟性の見つけどころは難しかったですが、役職は残しました。階級と責任を明確にするためです。
青野
青野
それは、軍隊に限った話ではありませんね。
マクリスタル
マクリスタル
そうです。そして、情報が人を介してではなく、ストレートに伝わるようにしました。
青野
青野
反発はありませんでしたか?
マクリスタル
マクリスタル
唯一あったのは透明性を脅威に感じた中間層からです。「情報をコントロールせずに、どう責任を取ればいいのですか?」と不安の声が上がりました。

そこで、中間層への期待値を大々的に伝えたんです。そして「下層部の人間が、上司の耳に先に入れることなく、指揮系統の全員に同時に発言した場合、上司に直接の責任はない」ことを明確にしました。
青野
青野
組織をフラットにしたのではなく、ピラミッド型のまま透明化したのですね。
マクリスタル
マクリスタル
はい。これは大事なポイントです。

というのも、組織を再編成したりフラット化すれば、それはそれで新たな問題が多発するからです。

例えば、組織構造が変わったとしても、人の行動は同じままで、実態は変わらないということがあります。にもかかわらず、トップの人間は、あたかも変化があったかのように錯覚してしまいます。
青野
青野
わかります。
マクリスタル
マクリスタル
伝統的な組織の人事や経理は、非常に効率的に機能していたため、それを変える理由はありませんでした。でも、情報共有や意思決定の側面では不十分でした。

ピラミッドの下層部にも意思決定の権限を与える必要があったということです。そこで、組織構造を保ったまま、情報共有と意思決定の変革に取り組んだのです。
(後編に続きます。)

Adapting to a Complex World: Lessons on Organization from a U.S. General (Part 1) - Kintopia
執筆:Alex Steullet/編集:藤村能光、鮫島みな/撮影:高橋団/翻訳編集:三橋ゆか里
Adapting to a Complex World: Lessons on Organization from a U.S. General (Part 1)

リモートワークで働き方が自由に。でも本当に「いいこと」ばかりなの?実践者3人が本音を語った

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場所や時間に制約を受けないリモートワークができれば、幸せに働けるのだろうか──。

介護や子育てとの両立、交通渋滞や満員電車の緩和につながるなど、これからの働き方の一つとしてますます注目されているリモートワーク。

ポジティブな面に光が当てられる一方で、リモートワークの課題や実践者のリアルな声を知る機会は、まだまだ少ないのではないでしょうか。

# サイボウズ式Meetup Vol.15」では「リモートワークにおける『幸せなはたらき方』」をテーマに、リモートワーク実践者の「リアル」を共有しました。

登壇者は、NewsPicks コンテンツ・キュレーションチームの石田礼子さんと、みらいコンサルティング株式会社 新潟支社長 兼 事業創造・みらいイノベーションセンターSHIBUYA担当の櫻井茂樹さん、そして、サイボウズ式編集部からは、東京と新潟で二拠点生活を実践している竹内義晴の3人。

そこで語られたのは「コミュニケーション」と「ツール」の工夫の大切さでした。

一言で「リモートワーク」といっても要素はさまざま

竹内
竹内
近年、「リモートワーク」という言葉をよく耳にするようになりました。でも、「打ち合わせの間にカフェで仕事」から、「遠方で週5日、フルリモート」まで、その範囲はすごく広いと思っていて。

それだけに、一言で「リモートワーク」といっても、抱える悩みや課題は違うんじゃないかと思うんです。今日は、もっともハードな(笑)リモートワークをしている3人で話してみたいと思います。

石田さんは、どんな働き方をしているんですか?
石田
石田
三重県でフルリモートワークをしていて、月に一度東京のオフィスに出社しています。
お話する石田さん

石田礼子(いしだ・れいこ)。株式会社ニューズピックス コンテンツ・キュレーションチーム マネージャー/株式会社 中部システムセンター ワークスタイルコーディネーター。三重県在住のフルリモートワーカー。自宅やコワーキングスペースで仕事をしている。地元では新しい働き方を広めるべく複業も行っている。コワーキングスペースの運営も担当し、地方を盛り上げるイベント企画や活動も積極的に行う。個人では新しい働き方の実践者を集めたコミュニティを運営。2児の母。

石田
石田
NewsPicksに入社する前から三重県に住んでいたのですが、リモートワークのおかげでいまの仕事を選べました。
櫻井
櫻井
わたしは現在、新潟と出身地である埼玉で、週の半分ずつを過ごす二拠点生活をしています。

もともとは東京で働いていたのですが、社内起業をしまして、ゆかりのある新潟県内に支社を開設しました。企業の経営と成長をサポートしています。
お話する櫻井さん

櫻井茂樹(さくらい・しげき)。みらいコンサルティング株式会社 新潟支社長 兼 事業創造・みらいイノベーションセンターSHIBUYA(SHIBUYA QWS)担当。外資系会計事務所などを経て、みらいコンサルティンググループに入社。所縁のある新潟県内にみらいコンサルティング新潟支社を社内起業で開設し、週の半分ずつを新潟と埼玉に居住する2拠点居住実践家。11月1日からは渋谷スクランブルスクエアに開設された「SHIBUYA QWS」のBOOSTER OFFICEの一員として運営を手掛ける。

リモートワークが地域への愛着を持たせてくれた

竹内
竹内
まずは、リモートワークを始めてよかったことについて話ができれば。石田さんはいかがですか?
石田
石田
以前の会社では通勤していましたが、リモートワークをはじめて通勤時間を削減できました。

なので、空いた時間を副業や趣味など、自分の生活ペースに合わせて有効活用できるようになりましたね。
櫻井
櫻井
わたしは「地元だ」と思える地域を持てたことですね。

出身地は埼玉なのですが、埼玉は東京都内に通勤する人が多いので、地域への愛着や地域の人同士とのつながりが弱い。

わたしもその例外ではなく、地域に対する思い入れはあまり持っていませんでした。もしかすると「意味がわからなかった」という表現が正しいのかもしれません。

ですが、新潟で仕事をするようになってからは、地域の人とかかわる機会が増えました。仕事で「ありがとう」と言ってもらえたとき、地域に貢献できた気がして愛着がわきました。
竹内
竹内
確かに、地域で活動すると愛着がわきますよね。

わたしの場合、仕事だけではなくお祭りや消防団、自治会など、地域のコミュニティに参加していますが、こういった活動はその土地にいないとなかなか参加できない。

東京の仕事をしながら地域のコミュニティづくりに貢献できるのは、リモートワークならではのメリットだと感じます。
お話する竹内さん

竹内義晴(たけうち・よしはる)。1971年、新潟県妙高市生まれ・在住。ビジネスマーケティング本部コーポレートブランディング部 兼 チームワーク総研 所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業&週2日のフルリモートワークを実践している。

櫻井
櫻井
そうですね。新潟でリモートワークを始めてから、埼玉でも、ただ時間を過ごすだけではなく、地域コミュニティも大切にできるようになりました。
竹内
竹内
そう考えると、現在住んでいる場所での人間関係を保ちながら、自分が暮らしてみたい地域で新しい関係を築いていけるのが、リモートワークの良さですよね。

働く姿を見た子どもが「早く仕事をしてみたい」と言うように

竹内
竹内
これまで仕事のお話を中心に伺いましたが、プライベートでは何か変化がありましたか?
石田
石田
仕事をしている姿を、家族に見せられることですかね。
竹内
竹内
どういうことでしょう?
石田
石田
わたしは家で仕事しているので、家族に対して仕事中の様子がオープンです。ビデオ会議中に、わたしが笑っている様子や仕事がうまくいかなくて悶えている姿を、家族が見ています。

ある日、仕事を終えて家族でご飯を食べていたときのことです。子どもたちが、「仕事っておもしろそうだね」「早く仕事してみたい」と言ってくれたんです。
お話する竹内さん、櫻井さん、石田さん
竹内
竹内
それはうれしいですね。
石田
石田
また、仕事の様子を見られているからこそ、気兼ねなく仕事の話題を家族と話せるようになりました。リモートワークだからこその経験だなと感じています。

リモートワークの寂しさの原因は「コミュニケーション量の差」

05.jpeg
竹内
竹内
リモートワークをしていて、困っていることはありますか?
櫻井
櫻井
ビデオ会議で、2つほどありますね。

1つ目は、会話に入りづらいことです。
たとえば、10人いる拠点とわたし1人でビデオ会議をするとき、画面の向こう側だけで盛り上がっていると、会話に入りづらいと感じてしまいます。
石田
石田
ビデオ会議だと発言するタイミングをつかみにくいですよね。結局「まあ、いいや」と発言を飲み込んでしまいやすい。
櫻井
櫻井
2つ目は、ビデオ会議が終わった後に、拠点の人たちだけで雑談が始まり、会話についていけないこと。

向こうはリアルで顔を合わせていますが、こちらはオンラインでしかつながっていないので、ビデオ会議後の会話を聞けません。

その後、雑談の続きでオンライン上のやりとりが始まることも多いので、わたしが把握できていない情報がいきなり登場して、さらに会話に入りづらくなるんです。
会場の様子
竹内
竹内
会話についていけないと寂しさを感じますよね。これはリモートワークならではの悩みですね。
石田
石田
そう考えると、リモートワークの寂しさが生まれるのは、コミュニケーション量の差がメンバー間で生まれるからかもしれないですね。
竹内
竹内
会話をビデオ会議だけで終わらせず、チャットやグループウェアなどを使って、意識的に共有するような取り組みが必要そうですね。

直接会えないからこそ重要になる自己開示

石田
石田
テキストコミュニケーションにも、難しさがありますよね。竹内さんは、工夫していることとかあったりします?
竹内
竹内
そうですね。僕の場合、テキストコミュニケーションで工夫していることが2つあります。1つは、「なるほど、あなたが言いたいのはこういうことですね」のように、解釈の確認を入れることです。

テキストのみだと、細かいニュアンスが伝わりづらく誤解が生じやすいので、「わたしには〇〇だと伝わっていますが、合っていますか?」と、自分の理解を伝えています。
櫻井
櫻井
大切ですね。
竹内
竹内
もう1つは、語尾に変化をつけたり、話し言葉のように崩したりすること。

たとえば、「ありがとうございます」も、語尾にビックリマークをつけたり、「あざっす」のように崩したりしています。

テキストだけだと冷たい印象を与えやすいので、それを和らげるようなコミュニケーションを意識しています。
石田
石田
わたしも絵文字を多めに使用し、オーバーリアクションを心掛けています。文字ってそっけなく受け取られることがありますよね。気持ちの良いやりとりをするために表現を工夫するのは必要だと思っているんです。
メモをとる参加者
石田
石田
あとは行間を読みすぎないようにしていますね。

リモートワークを始めた頃は、相手から届いたテキストの意図を「これ、テキストはこうだけど、本心はどうなんだろう?」と、必要以上に深読みしていました。

その結果、ネガティブなことを考え過ぎてしまって苦しくなったので。
竹内
竹内
わかります。直接会えないからこそ、そのような不安を自己開示することも重要ですよね。
櫻井
櫻井
リモートワークをするようになって、リアルな場でのコミュニケーションの意識も変わりませんか?

わたしは東京のオフィスに行ったら、自分からあいさつするだけでなく「最近どう?」「元気?」と積極的に声をかけるようになりました。

リアルな場でお互いの人柄を理解できると、テキストコミュニケーションのハードルも下がります。結果的にオンラインでも雑談しやすい関係を築けるようになりました。

情報を流す場だけではなく、集約する場を設計する

登壇者3名
竹内
竹内
コミュニケーションといえば、リアルも大切ですが、ツールも大切ですよね。みなさんは、どんなツールを使っていますか。
石田
石田
NewsPicksでは、コミュニケーションはSlackなどのチャットツール、ビデオ会議はZoomとかGoogleハングアウトとかですね。
櫻井
櫻井
うちはその他に、お互いに称賛するためのアプリを使うなど試行錯誤を繰り返しています。

仲間への「ありがとう」を表現しあうことで、ポジティブなコミュニケーションが自然と増えるように工夫しています
竹内
竹内
称賛するアプリはおもしろいですね。ところで、使用するツールが多いと、どのツールにどの情報が入っているか分からなくなりませんか?
櫻井
櫻井
なりますね。クラウド上でファイルを共有しても、検索で見つけられないケースもあるので、難しさを感じています。
竹内
竹内
たしかに、情報が流れてしまわないように、集約して整理するツール選びは大切ですよね。

たとえば、サイボウズ式では、kintoneを使って、業務フローをマニュアル化し、みんなで最新の情報に更新できるようにしています。

情報を1か所に集めることで、誰もがいつでもどこでもアクセスできるし、情報を探す手間も省けています。
サイボウズ式編集部のKintone使用事例
「自由だから成果が出る──サイボウズ式編集長に聞く、「楽しさ重視」のメディア運営術

リモートワークで人とスキルが循環し、地域の未来が広がる

竹内
竹内
これまでリモートワークの困りごとやそれに対する工夫などをお話ししてきました。今後、リモートワークってどうなっていくと思いますか?
マイクを持つ石田さん
石田
石田
リモートワークを導入することで仕事の幅が広がると思っています。趣味や副業の時間を確保しやすいからこそ、自分らしい生き方を選択しやすくなる

その可能性を伝えるために、新しい働き方を社会人や学生に伝えるコンサルタントの仕事を副業として始めました。働き方によって広がる未来にわくわくしながら、今後も発信を続けていきたいですね。
櫻井
櫻井
わたしは、リモートワークによって、心の豊かさが得やすくなると考えています。

二拠点で仕事するようになって、地方の課題が見えたり、さまざまな業種や立場の人とのつながりが増えたりしました。仕事以外の時間もより満喫できていると感じています。
竹内
竹内
確かに、リモートワークによって、仕事の幅や心の豊かさが広がりそうですね。

僕は都市部の人が地方の企業で複業する「地方×複業」に関心があります。いま、人材不足と言われていますが、リモートワークによって、都市との間で人の交流が生まれれば、地方にも未来があると思っています。
否定的な意見が多かった「地方で複業」。だが、潮目は変わった
石田
石田
リモートワーカー同士がつながって、もっとナレッジが共有されていくといいですよね。
櫻井
櫻井
そうですね。
登壇者3名
文:菊池百合子/撮影:加藤 甫/編集:木村和博(inquire Inc.)/企画:竹内義晴
「あいつ、家でちゃんと仕事しているのか?」──コミュニケーションが難しい在宅勤務を円滑にする工夫

タニタ公式Twitter「中の人」、退職していきなり個人事業主になって不安じゃないですか?

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ある日、ライターの菊池がTwitterを見ていると、こんなツイートがタイムラインに流れてきました。

タニタ公式Twitterの「中の人」が退職……? タニタの公式Twitterアカウントは、ユーモアとセンスあふれる投稿で、フォロワーが30万人を超えるなど、とても人気な企業アカウント。その運用者が会社を退職「した」とは、一体どういうこと……?

菊池
菊池
真相が知りたい……!

そう思った菊池が調べたところ、どうやらこれは、株式会社タニタがはじめた「日本活性化プロジェクト」という仕組みをTwitter運用担当の方が参加した、という意味のようです。

独立を希望する社員はタニタを退職、新たに「個人事業主」として同社と「業務委託契約」を結びます。それまで行なっていた仕事は「基本業務」として担当できるこの仕組み。個人事業主として、他社の仕事を請け負ったり、正社員時代には取り組みづらかった新しい領域の仕事にチャレンジしたりできます。

タニタの働き方革命』(日本経済新聞出版社刊)によると、「この活性化プロジェクトは、『会社員』と『フリーランス』のいいとこ取りができる仕組みだ」と代表取締役社長 谷田千里氏は述べています。

話を聞く限り、とても魅力的な仕組みに思えます。でも、いきなり個人事業主になって不安じゃないの? 給与って減らないの? 退職してみて実際のところどうなの──?

気になった菊池は、タニタ公式Twitter中の人に話を聞きに行きました。

話す中の人。顔はタニタの企業ロゴで隠されている

株式会社タニタ公式Twitter運用担当者「中の人」。ブランド統合本部新事業企画推進部。現在35歳、実名と顔は非公開。2008年にタニタに新卒入社し、営業の仕事を担当するなか、2011年にTwitterの運用をスタート。8年間ほぼ毎日コツコツとツイートを続け、愛される企業アカウントに成長させた。2017年、日本活性化プロジェクトの第一期メンバーとして参加。同年タニタを退職し、個人事業主としてタニタの業務を継続している。

新しいことに挑戦すれば、この先なにがあっても生きていける力が身に付く

菊池
菊池
今日は、退職してみて実際のところどうなのか、お話を聞きに来ました。
中の人
中の人
わかりました。なんでもお答えしますよ。
菊池
菊池
ありがとうございます! そもそも会社で「日本活性化プロジェクト」の話を聞いたときは、どう思いましたか?
中の人
中の人
最初はよくわからないなと思いました(笑)。

なぜ社員を個人事業主化する必要があるのか、個人事業主になったらどんな働き方になるのか。業務委託としてタニタで働く……。話を聞いた直後はどういうことなのか理解できなかったですね。
菊池
菊池
では、なぜ参加を決めたのですか? 
中の人
中の人
話を聞いてからしばらく考え続けて、このまま10年、20年と正社員として働き続けても、自分を変えられないと思ったのです。もっと成長していくためには、環境を変える必要があるのではないかと。

そこで、成果と評価が直結しやすい個人事業主になってみようと考えました。
菊池
菊池
もっと成長が必要だと思ったのですね。
中の人
中の人
10年先の未来を考えたときに、どんな仕事に価値があり、どんなスキルが求められるかは、わからないじゃないですか。今成長している企業だって倒産する可能性もあります。

自分の成長を考えずに、日々同じ仕事だけをしていたら、勤めていた会社が倒産したときに、選択肢がほとんどなくなるかもしれません。逆に新しいことに挑戦すれば、この先なにがあっても生きていける力が身に付くと思ったんです。
話す中の人。顔はタニタの企業ロゴで隠されている
菊池
菊池
『タニタの働き方改革』には、「社長が言うんだからやってみようと思った」とも書かれていましたよね。
中の人
中の人
私が入社した年の途中で現社長が就任したのですが、その頃から一緒に仕事をする機会が多くあり、社長のことを信頼していました。

「会社が成長していくには、どんどん新しい挑戦をしないといけない。そのためにも社員それぞれが思う新しいことを自由にやってほしい」と繰り返し伝えてくれたことが、印象に残っています。

「会社が苦しくなったらいつでもクビにできるってことじゃないの?」

菊池
菊池
社長を信頼していたからこそ、プロジェクトへの参加もすんなりと決断できたんですね。
中の人
中の人
でも家族には、ものすごく反対されました。
菊池
菊池
そうですよね……。せっかくいい会社で正社員として勤めていたのに辞めるなんて。
中の人
中の人
「会社が苦しくなったらいつでもクビにできるという、会社本位の制度じゃないの?」と家族から言われました。私がいきなり正社員じゃなくなることが不安だったみたいです。
菊池
菊池
どのように納得してもらったのでしょう?
話す中の人。顔はタニタの企業ロゴで隠されている
中の人
中の人
伝えたことは二つあります。

まず「企業だって倒産する可能性があるのだから、正社員=安心なわけではない」と。「企業が倒産しても仕事をしていけるように、早いうちから準備をしておいたほうがむしろ安心だと思う」と伝えたんです。
菊池
菊池
たしかにそうですね。
中の人
中の人
次に「社長が言うのだから信じてみたい」と。

そもそも当時、会社は、人手が十分に足りている状況ではなかったので、あえて誰かを辞めさせる判断はしないはずだと思いました。

それにこれまで社長と一緒に仕事をしてきて、社員をクビにするためにこのプロジェクトを導入するような人ではないとわかっていました。だから、家族には「一緒に信じてほしい」と言いました。
菊池
菊池
経済的な面での不安の声はありませんでしたか?
中の人
中の人
直接言われたわけではないですが、不安はあったと思います。

でも、蓋を開けてみると、手取り収入は増加してたこともあり、今は家族も理解してくれているように思います。

自分ごと化の頻度が高くなり、引き出しが増えた

菊池
菊池
退職以前と以後で業務内容はどのように変わったんですか?
中の人
中の人
基本的には、これまでタニタで担当していた業務を引き続き担当しています。公式Twitterアカウントの運用と、それ以外に、他社とコラボする商品企画の立案に携わっています。
中の人の手元が映っている
菊池
菊池
では、個人事業主になってからも業務内容に大きな変化はないのでしょうか?
中の人
中の人
2019年10月からは、それに加えて新しくマネジャー業務を委託されて、担当しています。

マネジャー業務は追加の契約として、別途報酬をいただいていますね。
菊池
菊池
そうか。個人事業主だから、業務が追加になれば、その分報酬も増えるんですね。それにしてもマネジャー業務を個人事業主に委託するなんてすごい……。
中の人
中の人
普通だと、個人事業主にマネジャー業務を任せるなんてありえないですよね(笑)。でも、会社の中のことをよく知っていて社内から信頼してもらえているので、そういった業務も任せてもらえる。

これは「日本活性化プロジェクト」の座組みならではの仕事の受け方だと感じますね。
菊池
菊池
個人事業主として、タニタ以外でもお仕事されているのでしょうか?
中の人
中の人
今のところは、Twitter運用に関するセミナーの登壇くらいです。単発で受けており、継続的な契約は他ではしていません。

機会があれば受けるかもしれませんが、今のところは、タニタと一緒に仕事をしていきたい気持ちが強いです。

社員でも個人事業主でも、成果を出すためにスキルを磨き続ける点では変わりはない

菊池
菊池
正社員から個人事業主に変わって、働き方や生活面ではどのような変化がありましたか?
話す中の人。顔はタニタの企業ロゴで隠されている
中の人
中の人
自分のペースに合った働き方を実現できるようになりました。場所と時間を選ばず、土日に働いてもよくなったので、平日は1日6時間、土日は2〜3時間ずつを仕事にあてるような形で働くことがあります。

退職する前は「平日のうちに完全燃焼しなきゃ!」と思っていたので、自分から進んで朝早くから夜遅くまで働き、その反動で土日は疲れ切っていたんです。

今は時間の使い方がより自由になった分、使うエネルギーが分散できて疲れにくくなりました。
菊池
菊池
いいですね。ただ、会社や他の人が管理してくれない分、タスクや健康の管理など大変じゃないですか?

たとえば、つい仕事をサボってしまいそうになるとか。
中の人
中の人
ご心配ありがとうございます(笑)。

でも、正社員だろうと個人事業主だろうと、仕事に向き合う姿勢は変わらないですね。仕事する以上は成果を出したいし、そのためのタスク管理も、雇用形態が変わったからといって変わるわけではない。

でも、健康管理は以前より気にするようになりました。自分が病気になると仕事が止まってしまう。なので、無理はせず、もし体調を崩した場合はすぐ休み、早くリカバリーできるようにしています。
菊池
菊池
プライベートの時間の使い方も変わったのでしょうか?
中の人
中の人
朝は家族と一緒に過ごせています。もともと私は朝型なので、正社員だった頃は家族がまだ起きていない時間に家を出ていたのです。今は家族との時間が増えた気がします。

ただ、いつでも仕事ができるようになった分、つい仕事をはじめてしまうこともあるので、家族との時間をいつ取るのかは意識的に決めています。
菊池
菊池
ここまで聞いてきて、いいこと尽くしだと思ったのですが、個人事業主になったデメリットはなかったのでしょうか?
中の人
中の人
うーん……。それがあんまりないんですよ。よくある「税金関係が面倒だ」という話も、メリットだと思うんです。

正社員だった頃は自分の給与から税金がどう引かれているのか全く知らなかった。今は自分で管理してお金を払うので、金額や内容が見えるようになって、勉強になりました。

特定の部署に縛られないからこそできる貢献の形

話す中の人。顔はタニタの企業ロゴで隠されている
中の人
中の人
あ、先ほど、「仕事に向き合う姿勢は変わらない」と言ったのですが、ひとつだけ変わったことがありました。
菊池
菊池
なんですか?
中の人
中の人
個人事業主として関わるようになって、会社全体の課題に向き合おうという気持ちが強くなったのです。
菊池
菊池
会社全体にある課題に向き合う……?
中の人
中の人
社員のときは、部署ごとに縦割りでやるべき仕事が決まっており、組織的な課題を見つけたとしても、部署以外の仕事に手を挙げるメリットは少なかった。

たとえ自分が引き受けたかったとしても、上司が首を縦に振らない可能性もあります。
菊池
菊池
たしかに、組織の課題に気づいたとしても、自分の部署と関係ないことだったら動きづらいですね。
中の人
中の人
でも、個人事業主になったことで、特定の部署に縛られない形になりました。

この働き方であれば、部署の都合に関係なく、会社全体としてやった方がいいことを、仕事として受けられるようになりました

組織内では取り組みづらかった仕事を個人事業主が取り組んで会社を活性化できる。たしかにこれは理にかなっていると思いますし、退職したからこそ貢献できる仕事があるのだと気づきました。
菊池
菊池
新しい視点ですね!
中の人
中の人
はい。一度退職したからこそ、多様な形でタニタとは仕事ができると思っています。退職して関係が途絶えてしまうのではなく、つながっていける。

だからこれからも、タニタを盛り上げたいですね。
文:菊池百合子/撮影:川島彩水/編集:木村和博・明石悠佳

「地方で複業」は交通費支援だけでは足りません──「地域とのかかわり」が関係人口を増やすカギ

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地方でNPO法人を運営しながら、サイボウズで副(複)業している竹内義晴が、実践者の目線で語る本シリーズ。今回のテーマは「地方で複業」と「交通費支援」の関係。

行政界隈で注目を集める「関係人口」。その増加を目指し2020年、政府は地方で複業をする人に交通費を支援する。だが、取り組み方によっては効果が期待できない恐れも。真の意味で関係人口を増やすためには、どんな視点が必要なのか?

政府は、東京圏に住みながら地方で複業する人に交通費を支援する制度をはじめるそうだ。日経新聞の地方での兼業に交通費支援 政府、3年で150万円上限によれば……

政府は2020年度に、東京圏に住みながら地方で兼業や副業をする人に交通費を支援する制度を始める。20年度予算案に計上した1000億円の地方創生推進交付金を活用し、1人当たり年間50万円を上限に3年間で最大で150万円を支給する。交通費が往復で1万円を超える場合、国と地方自治体がその半分を兼業や副業先の企業に助成する。

とのこと。

政府が「地方で複業」を推進する背景には、東京一極集中に歯止めがかからない現状がある。そこで近年、行政機関の界隈で注目を集めているのが「関係人口」だ。関係人口とは、「生活の拠点を都市部に置きつつ、地方と関わる人口」のことである。

この記事を読んで、わたしが最初に抱いたのは「2年前じゃ、考えられなかったことだな……」との、好印象だった。

というのも、私は2年前、地方移住はハードルが高い。都心で働く人には「地方複業」がベストではないかを書いた。このときはまだ、「地方で複業」という概念がなく、「片足だけ突っ込んだ地方での複業はあまり望まれていない」「住民票を移してもらわないと住民税も地方交付税も入ってこないので、あまり意義ない」といった意見が寄せられた。

地方移住はハードルが高い。都心で働く人には「地方複業」がベストではないか

その「地方で複業」に、「政府が予算を出す」というのである。

「地方で複業」を推進するにあたり、もっともネックになることの1つが旅費交通費である。地方、特に遠方に移動するためにはお金が掛かる。そういう意味では、政府の支援は「大きな一歩」といえる。これを機会に「地方で複業」の認知が進み、関係人口増加の取り組みが加速するかもしれない。

一方で、懸念に思ったこともある。「本来なら、交通費支援がなくても地方で複業は実現できるのにな」「交通費支援で、関係人口は本当に増えるのかな」「税金のバラマキにならないといいな」

なぜなら、わたしはサイボウズで、特別な支援なしに地方を軸に複業してきたし、関係人口づくりを模索してきたからである。

サイボウズの複業に特別な交通費支援はない

ここで、わたしが経験しているサイボウズでの「複業と旅費交通費」について触れてみたい。

わたしは2017年より複業を始めた。現在は新潟を軸に週2日、リモートワークで働いている。東京への出勤は月1回だ。都市部の人が地方の企業で働く「地方で複業」とは逆のパターンだが、「遠方で複業する」という意味では、同じ構造である。

交通費は「通勤交通費の範囲内」である。「え?通勤交通費の範囲?どうやって?」と思うかもしれない。もう少し具体的に説明しよう。

サイボウズの場合、ひと月の通勤交通費の上限は5万円だ。週2日勤務の場合、フルタイムで働く社員と比べて、週の出勤比率は5分の2。わたしが使える通勤交通費の上限は2万円となる。

2万円あると新潟~東京間を1回往復できる。つまり、拠点が新潟だからといって「特別な手当」は支給されていなかった。

チームで仕事をするにあたり、わたしはこの「特別ではなかった」ことが、意外と大切だったのではないかと思っている。なぜなら、ほかの社員と比べて特別感あると、「あの人だけ、なんで?」といった不公平感が出てしまうからだ。

ここで、「特別ではなかった」と過去形にしたのは理由がある。

当初、東京オフィスへの出勤は「通勤交通費」の範囲内だった。しかし、オフィスに出勤すると、それに合わせて打ち合わせが入ったり、イベントに登壇したりするようになった。その結果、日帰りが難しくなるケースが増えた。

そこで、「必要な業務」を行うために人事と相談し、2020年1月より「出張扱い」とすることにした。ほかの社員が出張するときと同じように、毎月の出社に合わせて上司に出張申請し、許可を得たのちにオフィスに出社するのである。

もちろん、これはわたしの事例である。複業場所によっては、通勤交通費の上限を超える場合もあろう。

だが、ビジネスをしていれば「月に一回、遠方へ出張」はそれほど特別な話ではないし、通常の業務範囲であろう。ある程度業務に慣れたら「基本はリモートワークで、月に一回出社」の形にすれば、「地方で複業」は企業にとってそれほど負担ではないはずだ。

交通費を支援すれば、関係人口は増える?

もう1つの懸念「交通費の支援で、関係人口は本当に増えるのか」について。

前出のように、政府が「地方で複業」を推進する背景には「関係人口増加への期待」がある。都市部の人材が地方の企業で複業し、都市部と地方を行き来する。これによって、一見「人の流れが生まれる」ように見える。

だが、「交通費を支援したからといって、関係人口は増えないのでは?」とわたしは思っている。なぜなら、関係人口の増加には「地域との関わり」が必要だからである。

ここで、関係人口の定義について改めておさらいをしよう。総務省の『関係人口』ポータルサイトによれば……

「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のことを指します。

地方圏は、人口減少・高齢化により、地域づくりの担い手不足という課題に直面していますが、地域によっては若者を中心に、変化を生み出す人材が地域に入り始めており、「関係人口」と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手となることが期待されています。

とある。つまり、関係人口は地域外の人材が、地域の人々や地域づくりに関わることが重要で、関係人口を増やすためには「地域の中に入っていく」ことが必要なのである。

「地方で複業」での関係人口のつくり方

「地域との関係」を作ろうとするとき、きっかけが何もなければ地域の中に入っていくハードルは高い。だが「地方で複業」をはじめると、定期的に地域に訪れるため「仕事を通じた人間関係」ができる

人間関係ができたら、「今度の週末、地域の行事があるんだけど、いっしょに行かない?」のように地域との関係をつくる。そうすれば、都市部の複業者はゆるやかに地域の中に入っていくことができる。

たとえば、新潟のわたしが住む地域には「賽の神(さいのかみ:通称どんど焼き)」や「秋祭り」などのお祭り、農道や水路などの整備をする道普請(みちぶしん)、運動会といったさまざまな地域行事がある。しかし、人口減少社会の今、これらの行事は地域の力だけでは維持が困難になりつつある。

だが、幸いなことに、こういった行事は年に数回だ。少しの手助けがあるだけで維持できる可能性がある。

このような行事にいっしょに参加すれば、「自分ができることで、地元や地域の役に立ちたい」と思っている都市部の人にとっては、地域の役に立っていることが実感できるに違いない。

そして、作業が終わったら、みんなでその土地のおいしいものを食べ、いっしょにお酒を飲み、語り合う。このようにすると、地域の人たちとの間に自然と関係ができる。しかも、楽しい。

地方複業と関係人口

以前、新潟で経営しているNPO法人しごとのみらいで行った、耕作放棄地で栽培しているそばの収穫体験での1コマ。地域の区長さんや移住者を招いて交流できる場を作った。「地方で複業」にこのような場を組み合わせると、地域の中に入っていくことができ、関係人口の増加が期待できる。

また、このような機会を通じて、東京では知りえなかった「地方の現実」を知ることにもなろう。「自分の経験を生かして、地域の役に立てることはないか……」このようなことを考えるきっかけにもなるかもしれない。

このように「都市部と地域との関係」があってこそ関係人口だし、そのきっかけが「地方で複業」なのだ。

逆に、このような関係性の構築がなく、ただ、都市部の人材が「東京と地方を行き来するだけ」「地方の企業で働くだけ」では、地域との関係は生まれない。これでは関係人口は増えないのである。

真の意味で関係人口を増やすなら、交通費支援に加えて「関係性の構築」ができる設計やコーディネートが必要なのである。

「地方で複業」で、真の意味での関係人口構築を期待

今回の交通費支援の報道に、わたしのSNSのタイムラインには、一時、政府の発表を伝えるメディアのリンクであふれた。また、肯定的な意見も多かった。それだけ、多くの人が関心を集めたのは間違いない。「地方で複業」や「関係人口」を推進するきっかけになるだろう。せっかくの政府の支援。使える助成金は大いに使えばいい。

だが、助成金頼みだと、支援がなくなった時に「助成金が終わったので、地方で複業も終わりにします」になりかねないし、どんなに助成金を支出しても、関係人口が増えないのなら意味がない。

真の意味で「地方で複業」で「関係人口を増やす」なら、助成金に頼りすぎないことと、地域との関係性を築くことが必要なのだ。「地方で複業」の枠組みで、地方の企業と都市部人材とのマッチングをすすめる自治体や企業には、このような仕組みづくりを期待しつつ、わたし自身も取り組みたい。

文:竹内義晴/イラスト:マツナガエイコ

「情報は共有しないほうがリスク」の徹底が、米軍を強い組織に変えた──「見守りつつ手は出さない」元司令官の覚悟

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歴史上の偉大なリーダーと聞いて、軍の司令官を思い浮かべる人は少なくないのではないでしょうか。

映画や小説では、戦場の英雄たちがすべての情報を掌握し、決断する姿が数多く描かれてきました。経験と実績を兼ね備えたリーダーがすべてを一任し、彼らの判断のもと、組織や軍隊は効率的に規律正しく運営されていました。

「それはインターネットが登場する前の話だ」と話すのは、スタンリー・マクリスタル元米軍司令官です。

現代の脅威はいつにも増して複雑で、戦争で勝つために必要な情報を1人のリーダーが効率的に管理することは非現実的だとすら言えます。

マクリスタル元米軍司令官とサイボウズの代表取締役社長 青野慶久による対談。前編前編に続き、後編では、透明性と情報共有の必要性によって再定義されるリーダーシップについて語ります。

※この記事は、Kintopia掲載記事New Risks, New Challenges, New Leadership: Lessons on Organization from a U.S. General (Part 2)の抄訳です。

組織では、情報を共有しないほうがリスク

青野
青野
マクリスタルさんの著書 『TEAM OF TEAMS 複雑化する世界で戦うための新原則』で特に興味深かったのが、米軍では情報漏えいのリスクがあってもなお、情報共有を増やしたという点です。

軍隊で、誤って情報が漏えいした場合、打撃は相当大きいはずです。
マクリスタル
マクリスタル
米軍が扱う情報だけでなく、そもそも組織の存在自体が極秘でした。外部の人間に一切の情報を共有せず、自分が所属していることを口外することもありませんでした。

ところが、扱う情報の大半は、私たちが思うほど極秘にする必要がなかったのです。状況が刻一刻と変わっていくため、ある情報が今日は極秘だったとしても、2日後に公になったところで、支障はありませんでした。
微笑むマクリスタルさんのプロフィール写真

スタンリー・マクリスタル。元米軍司令官であり、国際治安支援部隊の一員。統合特殊作戦コマンドの元司令官。軍の司令官を引退後、2011年にアドバイザリーサービス、経営コンサルティング、およびリーダーシップ開発会社であるMcChrystal Groupを設立。また、イェール大学ジャクソン・インスティテュート・フォー・グローバル・アフェアーズの上級研究員としてリーダーシップに関する授業を開講。著書に『TEAM OF TEAMS 複雑化する世界で戦うための新原則』(日経BP社)など

マクリスタル
マクリスタル
「私たちは、常に変化している。仮に、今の居場所を誰かに伝えたところで、24時間後には移動しているのだから問題ない」

組織内部から情報共有に抵抗が出始めたとき、彼らにまずこう伝えました。
青野
青野
そうだったのですね。
マクリスタル
マクリスタル
ええ。次に優先したのは、何が本当に機密なのかの見極めです。絶対に漏れてはいけない情報と、一定期間後なら漏れてもいい情報を見極めたのです。

例えば、私たちのエージェントの名前が公になったときの打撃は計り知れないため、その点は念を押して教育しました。「極秘の環境下で、情報共有を頻繁にしつつ動いてほしい」という彼らへの期待値も明確にしました。
青野
青野
基準を明確にしたんですね。
マクリスタル
マクリスタル
そうです。そして、敵を捕まえる手柄ほしさに情報をとどめておく文化を乗り越える必要がありました。

各組織がそれぞれパズルの1ピースを抱えている限り、全体像は見えてきません。お互いのピースを共有することで、より良い成果が生まれることを伝えました。

これらの手順を踏んだ結果、私たちのオペレーションの効率は急激に上がりました。

そして、内部競争を減らすために、個人や小規模のチームではなく、かかわった全員の貢献を認めるようにしたんです。
青野
青野
そこまでのレベルの情報共有に慣れるハードルは高そうです。
マクリスタル
マクリスタル
正直に言って、一番のハードルは米国政府全体から理解を得ることでした。「米軍の統合特殊作戦コマンド(JSOC) はスピードを落とし、情報共有を控えるべきだ」という意見に対しては「情報共有による痛手はないこと」また「前代未聞の成果を上げている」ことを示すだけでした。
青野
青野
反論のしようがない返答ですね。
マクリスタル
マクリスタル
当時、情報漏えいに苦しんでいた米国政府は「これ以上、情報共有しない」という姿勢でした。

彼らに対して、情報を共有するリスクより、共有しないリスクのほうが上回るという点をしっかり伝える必要がありました。
青野
青野
その当時のエピソードはありますか?
マクリスタル
マクリスタル
2007年のことです。私がイラクの人事記録を見ている中で、アルカイダのメンバーを見つけたんです。その時、諜報部員には「この情報をパートナー国に知らせれば、イラクへの外国人戦闘員の入国を防げる」と伝えたんです。

すべての情報が機密扱いされていたのに、結局どの情報にも機密性はなかった

両手を使いながら話す青野

青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立した。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を行い、2011年からは、事業のクラウド化を推進。著書に、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない』(PHP研究所)など

青野
青野
反対意見はありませんでしたか?
マクリスタル
マクリスタル
「それは機密情報だから口外すべきではない」との意見もありましたが、諜報部員の「この情報を得たのはあなたです。機密かどうかは、あなたが決めることです」という言葉をもとに、情報をパートナー国に共有しました。
青野
青野
そうなんですね。
マクリスタル
マクリスタル
最初、中央情報局(CIA)などは、怒りをあらわにしました。でも、これはあくまで敵の人事記録です。

アルカイダのメンバーは当然、その中身を把握しており、情報が私たちの手に渡っていることも知っています。口外しないことで、一体何を守ろうというのでしょうか?

これが数年前なら、情報が外に出ることは決してなかったでしょう。組織の文化が変わったからこそ、入手した情報を有効に活用できたのです。
青野
青野
最終的に、一時的にでも機密だと判断された情報は多かっただろうと想像します。その重要な情報をどう守りましたか?
マクリスタル
マクリスタル
機密情報が大きな場で議論されることはありませんでした。

なぜなら、厳しく制限された一部のグループだけに情報がとどめられ、漏れた場合は、極めて厳しい処罰が待っていることを全員が理解していたからです。

真の機密情報だけに注意を払うことで、関係者全員がその情報を敏感に扱うことができたのです。
青野
青野
多くの組織には、ひたすら情報を隠そうとする傾向があります。

しかし、統合特殊作戦コマンドの場合、隠すものと共有するものを積極的に決めることで、機密情報の保持をより厳格にできるようになったんですね。
マクリスタル
マクリスタル
そうです、それは不可欠な変化でした。

以前は、情報を隠そうとするのがデフォルトの文化でした。どんな情報共有もトラブルにつながる可能性があると考えられていたのです。

一方、私たちは「その情報を必要としている人に共有しないとトラブルになる。ただし、一部の機密情報だけは、共有する前に特別な許可を得てほしい」ということを明確にしました。

すべての情報が機密扱いされていたころは、結局どの情報にも機密性はありませんでした。ですから、絶対に漏れてはいけない情報を明らかにする必要があったのです。

リーダーの役割は、環境を見守りつつも手を出さないこと

青野
青野
『TEAM OF TEAMS』には、「マイクロマネジメントをしすぎず、部下に多くを委ねる姿勢が求められる現代のリーダーシップは、かつてなく重要性を増している」とありました。
マクリスタル
マクリスタル
私の経験がいい例です。統合特殊作戦コマンドの指揮を執るようになったときは、私がトップダウンですべてを指揮をしていました。この官僚的なプロセスは時間がかかり過ぎました。

その上、承認する立場にありながら、私は現場ほど多くの情報を把握していませんでした。私による承認は、意思決定のプロセスに何も貢献していなかったのです。
青野
青野
どんなリーダーシップに切り替えましたか?
マクリスタル
マクリスタル
変革後は、「Eyes on, hands off」(見守りつつも手を出さない)」の姿勢を大切にしました。

この新たな役割では、何1つ見落としてはいけないため、過去のどんな役割よりもエネルギーと注意力を使いましたね。
スクリーン越しに話すマクリスタルさん、青野、編集部員のアレックス

オンラインでの対談。写真右は、サイボウズ式編集部のアレックス。

マクリスタル
マクリスタル
リーダーがすべての主導権を握るマネジメントは過去のものです。もはや、現場から切り離された最高幹部が、高いところから指揮するのでは不十分です。

今、リーダーに求められているのは、環境を作り、そこに一定のルールを設け、組織文化を定義することです。

そして、社内コミュニケーションのスピードを上げ、迅速に動けるように人に権限を与え、彼らから学ぶことなのです。
青野
青野
現代のリーダーのあり方にも通じます。
マクリスタル
マクリスタル
そうなのです。現代の良きリーダーは、人の成功や目的達成に力を貸す人、すなわち「イネーブラー」です。

リーダーの存在はこれまでと同じく重要ですが、リーダーシップの種類が変わりつつあるんです。

「すべての情報を把握できている」は幻想。米軍でマイクロマネジメントは有害無益だった

青野
青野
組織には、才能あふれるリーダーが求められるということですね。

では、人員のリソースも豊富な軍隊の中で、マイクロマネジメント(過干渉)しないリーダーシップをどう実現しましたか?
話をきく青野
マクリスタル
マクリスタル
大事なポイントです。特殊作戦部隊には、常に現場の人間に主導権や意思決定を一任する文化がありました。

一度、彼らを戦場に送り込むと、物理的にコントロールすることは不可能だったためです。
青野
青野
戦場ならではの特殊な状況ですね。
マクリスタル
マクリスタル
ええ。この戦争では、史上初めて、すべてのオペレーションを「プレデター」という無人航空機から監視できました。

フルモーションの動画をリアルタイムで見られるだけでなく、部隊のすべての無線通信の内容が耳に入ってきました。

そのため、リーダーは「すべてを把握している自分が指揮を執るべきだ」という欲求にかられました。
青野
青野
わかる気がします。
マクリスタル
マクリスタル
幸運なことに、軍隊の組織文化は根強く、それがあくまで「把握できている」という幻想であることを理解できました。

1万フィートからの動画とライブの無線通信をもってしても、起きていることを現場の人間のように完全には把握できません。

私たちは指揮を執るのではなく、ITで得た情報をもとに戦場への理解を深めました。今、戦闘がどのように進められているかを理解できたため、援軍や火力支援、医療避難を効率的に準備できたんです。
青野
青野
なるほど。
マクリスタル
マクリスタル
その上で「指示は出さないけれど、必要なら準備はしてある」とだけ現場の指揮官に伝えました。

もし、リーダーがマイクロマネジメントをしていたなら、それは組織にとって有害無益だったでしょう。
スクリーン越しに話すマクリスタルさんと青野と編集部のアレックス

「透明性が効果的な経営につながる」と理解している企業は、より進化できる

青野
青野
オープンで透明な組織は増えてきたのでしょうか? この新たなマネジメント方法は、未来の組織にどう影響しますか?
マクリスタル
マクリスタル
これからの情報共有は「リーダーシップの新たな形」「新たな実践法」「異なる企業文化」を意味します。ただ、企業の足並みはまだそろっていません。

軍隊を退いてから、私は経営コンサルティング会社を起ち上げ、多くの組織を見てきました。情報共有がオープンな組織もあれば、苦戦している組織もあります。その概念を理解するのと、実践するのとは別物だからです。
青野
青野
おっしゃる通りですね。
マクリスタル
マクリスタル
ええ。そして、徐々にわかりつつあるのは、「透明性を重要視することが、効果的な経営につながる」というメリットを理解している企業は、より進化できるということです。すべては、リーダーが考え方を変えることから始まります。
青野
青野
マクリスタルさんの統合特殊作戦コマンドの最高責任者としての日々は、初期と、改革を経た後期とでまったく異なったのではないでしょうか?リーダーとして、どちらの環境にやりがいを感じましたか?
マクリスタル
マクリスタル
おかしな話ですが、新しい環境のほうがずっと好きでしたね。

私は軍隊に人生を捧げてきました。自ら意思決定をして指揮を執りたいからこそ、人は司令官を目指します。

でも実際には、意思決定をする頻度は徐々に減り、私の仕事は大きく変わっていきました。
青野
青野
意思決定する立場につきたいと思っていたのに、なぜ意思決定する場面が減った環境のほうにやりがいを感じたのでしょうか。
マクリスタル
マクリスタル
新しい形で軍をマネジメントするようになり、大きな満足感を得ることができたからです。

私は2つのことから満足感を得ます。1つは勝利することです。

もう1つは、私が指示を出さずとも部隊が自ら判断して前進していく姿でした。彼らの能力の高さにはたびたび驚かされ、部隊の勝利はこの上ない誇りでした。

過去のように指揮を執らない私を批判する人もいるでしょう。でも、誰が何と言おうと、肝心なのは、私はすばらしいチームを率いていたということです。

私があれこれ言わないことで彼らが向上するなら、それで一向に構わないんですよ。
スクリーン越しに話すマクリスタルさんと青野と編集部のアレックス

執筆:Alex Steullet/編集:藤村能光、鮫島みな/撮影:高橋団/翻訳編集:三橋ゆか里
アルカイダに負け続けた米軍が勝つ組織になれた理由は「7500人で毎日90分の電話会議」にあった
New Risks, New Challenges, New Leadership: Lessons on Organization from a U.S. General (Part 2)

地方は組織も「空き家化」している? 維持できない組織やルールはなくそう──宮崎のシャッター街を再生した田鹿倫基さん

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シャッター商店街にIT企業を誘致するなど、ほかの人がなかなか思いつかないアイデアを実現させ、宮崎県日南市の「油津商店街」を蘇らせた田鹿倫基さん。

2013年に「マーケティング畑の民間人登用」に抜擢され、日南市のマーケティング専門官として活躍しています。

今回の取材のテーマは、地域と企業における「持続可能な組織」の共通点。一見、違う性質を持っていそうな2つの組織ですが、共通する課題を持っているんじゃないか……そんな視点から、お話を伺いました。

「空き家化した組織」はコストがかかる

わたし、地域と企業って、共通した組織構造があるなと思っているんです。たとえば、人口流出の問題。人が流出すれば、組織を維持するのは難しくなります。これって地域にも企業にも共通の問題なのかなと。
そうですね。たとえば、地域で悩んでいる組織に「消防団」がありますね。
僕も、地元の消防団に入っていますよ。40人くらいの部隊なんですけど。
おお、結構な大所帯じゃないですか。
でも、定期的な集まりに来るのは、いつも10人くらいしかいません。
人がいないから、上の世代は「お前の代わりはいくらでもいるんだマネジメント」ができなくなるんですよね。
田鹿倫基さん

田鹿倫基(たじか・ともき)さん。1984年生まれ、宮崎県出身。宮崎大学を卒業後、株式会社リクルートに入社し、インターネット広告の事業開発を担当。その後、上海に本社を置く日系広告会社「爱德威广告上海有限公司(アドウェイズ中国法人)」に転職して、中国人スタッフとともに、北京事務所の立ち上げを行なう。2013年からは、九州最年少の33歳で市長に当選した崎田恭平さんの掲げた公約のひとつ「マーケティング畑の民間人登用」に抜擢される形で、宮崎県日南市の「マーケティング専門官」として着任。地域の人口動態を踏まえた地方創生関連事業を行ない、ベンチャー企業との協業事業や農林水産業の振興、日南市全体のPR、マーケティング業務を担っている。現在は、日南市に誘致した企業の採用支援や、起業を目指して日南市に移住した人のサポートも行なう

たしかに、「他にもやりたい人がいるから辞めていいよ」とは言えなくなります。
それは、企業でも同じですよね。そういった組織ではよく、「組織を維持しよう」と個人が犠牲になることもあります。

たとえば、「初期の消火活動」のために結成されたはずの消防団が、気づけば「消防技術を競い合うコンテストで優勝すること」を目指す組織になっていたり、ひどいときは飲み会のほうが多かったり。
それ、よくわかります。もちろん地域の安全は守っていますが、本来の目的以外にも時間を使うような組織だと、なかなか入団してくれる人がいないんですよね。

どこかで「存続させなきゃいけない」と思って残っているような組織もある気がします。どうしてそうなってしまうんでしょうね。
自分たちの上の世代の「ノスタルジー」や「変化が怖い」という理由はありそうです。

僕はこの状態を「組織の空き家化」と呼んでいるんですよ。
組織の空き家化、ですか?
空き家、つまり「住む人がいなくなった建物」を維持するには、修繕費用などのコストがかかります。それは社会全体の負担です。

組織を建物と同じ「ハード面」だととらえれば、人がいない組織を維持するのにも、人材育成などに多くのコストがかかるでしょう。
なるほど。
だから、維持できない組織やルールは、どんどんなくしていけばいいと思うんです。そうしないと、空き家と同じようにいつか崩れ、他にも弊害を及ぼすかもしれません。

気づけば、誰かが引いた「境界線」に支配されている

田鹿さんが、ほかにも違和感を感じる、地域と企業に共通した組織構造ってありますか?
そうですね。たとえば、僕らの行動は「誰かが引いた境界線」で勝手に支配されているな、と。
その考えに至ったのは、なぜでしょう?
きっかけは、隣接する地方銀行「A銀行」と「B銀行」が参加する飲み会に参加したことです。

その状況って地方に住む僕としては、少しハラハラするんですよ。だって2つの銀行は、地元企業の融資残高を奪い合う間柄なわけですから。
「犬猿の仲」というわけですね。
ただ、その2つの銀行を隔てる「県境」は誰かに決められただけで、実際にはありません。経済圏と行政区は別物のはずです。

にもかかわらず、地方銀行の人たちは、「県境の内と外」で相手を判断しようとする。そして、「ライバル行には負けない!」と言って行動します。
よく考えたら、変なことですよね。
機会損失につながりますし、もったいないですよね。あなた達がすべきなのは、縮小する地域経済を立て直すために、金融でサポートすることであって、県境の内か外かに縛られている場合じゃないと。

でも、こういう現象ってあらゆるところで起こっているんじゃないかと。

地域も企業も「架空の存在」のために損をしている

「誰かが引いた境界線」でいえば、サイボウズには、「カイシャさんはいない」という言葉があります。

「カイシャ」とは、人の集団を分かりやすく表現するために、便宜上そう呼んでいるだけで、「カイシャさん」という人がいるわけではありません。つまり、「架空の存在」です。
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竹内義晴(たけうち・よしはる)。1971年、新潟県妙高市生まれ・在住。ビジネスマーケティング本部コーポレートブランディング部 兼 チームワーク総研 所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながら、サイボウズで複業している。地方を拠点に複業を始めたことがきっかけで、最近は「地方の企業と都市部の人材を複業でつなぐ」活動をしている

うんうん。
たとえば、飲み会の席で「うちのカイシャはさ、やりたいことをさせてくれないんだよね」と聞こえてくることってありませんか?
よくありますよね。
でも、「カイシャって誰なんだろう?」とよく考えてみたら、それは会社を無意識に擬人化して、人格を持たせただけです。

そもそも、カイシャさんなんて存在しない。それなのに、誰かが引いた境界線によって作られた、架空の存在に支配されています。
企業も地域も一緒ですね。よくわからない境界線のなかで動くのって、損していると思います
「会社さん」は存在しない。変えるべきはそこにいる同じ人間──副業と会社についてサイボウズ青野社長と考えた

個人を犠牲にしないために、境界線をなくしていく

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「この地域をどうにかしたい」と言いながら、それだけが目的になってしまうのは、おかしなことなのかもしれないですね。
結局、「地域」というのは架空の存在であって、実態ってないんですよね。でも、それに頭が支配されて、問題を勝手にややこしくしてしまうときがある。
どのようなことでしょう?
たとえば、宮崎県の人口減少問題ですね。2005年には40ほどあった自治体の人口減少問題が5年後の2010年には25ほどになりました。たった5年で15の人口減少問題が解決したんですよ。
一気に? どうやってですか。
言ってみれば身もふたもない話なんですが、平成の大合併による市町村合併です。宮崎県内に44つあった市町村が2010年には28つになったんですね。それで一気に自治体の人口減少問題が解決したことになりました。

例えば宮崎県の山間部にあった人口減少に悩むA村、B村、C村の3つの自治体が合併してD町になったのですが、それにより3つの行政の問題が、1つの行政の問題に集約されたのです。
なるほど。境界線がなくなることで、問題もなくなったんですね。
村民の生活は何一つ変わってないのに、行政の境界線を引き直しただけで、問題が認識されなくなったんです。
僕らが認識している「問題」って、思い込みなのかもしれませんね。

「キャンプファイヤー経営」でゆるやかに集まる組織へ

境界線を引いて内と外を分けない考え方は、サイボウズ副社長の山田も唱えています。それを「キャンプファイヤー経営」と呼んでいて。
うんうん。
会社のなかには、つくった囲いのなかに社員を閉じ込めて、さらに、その塀を高くするようなところがあります。社員に忠誠心を求め、転職させないようにするためですよね。

ただそれだと、囲みのなかにいる社員は、何のために仕事をしているのか、ビジョンを見失ってしまいがちです。どうしてその組織にいるのかがわからなくなってしまう。そうなれば、一体感がなくなったりと、あらゆる弊害が出ます。
たしかに。
そうではなく、人が集まりたくなるように、マネージャーは真ん中にいて「僕らは目的のために、こうしたい」と「想いの火」を焚こう、と言っているんです。
なるほど。やはり企業でも、キーワードは「境界線」なんですね。
ティール組織が正しいわけではない。ありたい姿でいられて、仕事をいいわけにしない組織は強い ──嘉村賢州×青野慶久

境界線の内と外には温度差がある

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ちなみに、活気が戻る前の、日南市の油津商店街にも、境界線はあったんですか?
ありましたよ。それは「地元住民」と「商店主」のあいだに引かれていました。これは、全国どこの商店街でも起きていることでしょう。

青春時代、その商店街で過ごした人の多くには、「にぎわっていた頃のような商店街へと再生させたい」という思いがあります。一方、高齢を迎えたほとんどの商店主は「引退して稼いだお金と年金で悠々自適な生活を送りたい」と思っている。
境界線の内と外には温度差があったんですね。
はい。にもかかわらず、地元住民の声で動く行政によって「商店街の活性化」がはじまってしまう。その雰囲気を感じた商店主は、店を閉めたくても閉められず、店は空けていてもモチベーションは上がらないので商店街から活気が失われていくんです。

そして地元住民が「商店街活性化のために商店主ももっと頑張るべきだ!」とか言い出すわけですね。
地元住民が「頑張り」を押し付けてしまうのですね。
「昔からずっと頑張ってきたんだから、そろそろ休んだらいいじゃない」と僕は思っているのですが、「困っている商店主のために」というありがた迷惑を押し付けて、お互いに不幸になっていく構図が見え隠れします。
そういう仕組みなんですね。
そこで僕たちは、内と外の温度差を克服するため、商店主に「商売を続けてもらうのではなく、店舗を貸したい」と思ってもらえるような施策を打ち出し、働きかけました。

そして、貸してもらった店舗に、次々と誘致したテナントを入れていったんです。若者が働きたいと思えるIT企業などを誘致しているので、市内の若者やUターン者の新しい雇用も生まれています。
なるほど。境界線をなくせば、人があつまる新しい商店街をデザインすることもできるんですね。
現在の油津商店街

現在の油津商店街。自然と人が集まる場になっている

プロジェクトメンバーの決め手は「理念」の共有

ほかの地域に人材が流出し、衰退しやすい時代です。そのなかで、地域に求められることって何でしょう?
最近、気づいたのは「地域の再定義」ですね。僕は「日南市とは何か?」を改めて考えているところです。
「ここまでが日南市」と土地の面積だけで定義するのではなく?
それだと、合併したら定義が揺らいでしまいます。一方、「日南市民の集まり」と定義しても、毎日のように人の出入りがあるので、それも違うなと。
なるほど。田鹿さんはどのような結論を出したんですか?
「“日南”というプロジェクトをしていること」だと思い至りました

日南市に定住している人、関係人口としてかかわる人、観光に来た人……何かしらの形で日南市にかかわる人たちがいます。その人たちを「少しでも幸せにすること」が、このプロジェクトの理念です。
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それは面白いですね。たとえば、日南市で働こうと思っている人が、最大のポテンシャルを発揮できるように、働く環境を提供するとか。
そうです。ほかにも、日南市に観光で訪れた人に楽しんでもらおうと、自然のアクティビティを提供したりすることもできるでしょう。

その人たちは、そもそも「日南」という概念が好きなんです。そこで幸せを感じているからこそ、「日南って良いところなんだよ」と周りに広めたくなるし、広めた先の人が幸せになるのを見て、また自分も幸せになれる。
うんうん。
そんなふうに、かかわる人たちに幸せを提供できる地域であれば、たとえ人口がどれだけ減ろうと、何らかの概念として残り続けるでしょう。
たしかに。ちなみに、プロジェクトメンバーの定義とは?
「理念を共有できている人」ですね。もちろん、全員がそうなる必要はないと思っています。

日南市に住んでいても共有できない人もいますし、強要すべきでもない。でも逆に、日南市外に住んでいても、日南プロジェクトの理念を共有できている人もいる。いま流行りの関係人口は、こういう人のことを指すんだと思っています。

それに、それぞれのメンバーができることは違います。日南市で生まれ育った両親の最期をサポートする人もいれば、旅館の女将さんとして宿泊客を楽しませようとする人もいるはずです。
理念を共有できた人たちが集まって、いっしょに何かの活動をするのは、企業も同じですよね。それを広く捉えると「地域」と呼ばれるものになるのかな、と。
そうですね。
企業という単位であれば、プロジェクトによりチャレンジしやすいはずです。そこで得た成功体験を、次はより規模の大きな「地域」に落とし込んでいくこともできる。
それを想像したら、ワクワクしてきました。
企業は「地域の実験場」になりうるのかもしれませんね。
執筆:流石香織/撮影:二條七海/編集:松尾奈々絵(ノオト)/企画:竹内義晴

上司がポジティブすぎると、本音がいえないんですよね──「自分は成果を出せる」という人ほど、弱さを見せる意識が大事

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あのとき泣かなかったら、メンバーはすぐにいなくなっていたと思う

平山
平山
小沼さんが自分の弱さをチームのメンバーに見せられるようになったのは、何かきっかけがあったんですか?
小沼
小沼
「チームのみんなが、僕と話すことによって疲弊している」と気づいたことですね。
平山
平山
疲弊……。
小沼
小沼
僕はとにかくポジティブに物事を考えるタイプで、メンバーとの1on1で悩みを相談されたときも、「それはこうすれば解決できるよ!」と明るく前向きに返し続けていたんです。

そうすることで本当に問題を解決できると思っていたんですが、実際はそうじゃなかった。みんなは僕に本音を言えなくなっていたみたいです。
まっすぐ前を見つめる小沼さん

小沼大地(こぬま・だいち)さん。NPO法人クロスフィールズ 代表理事。大学卒業後に青年海外協力隊としてシリアに赴任し、マイクロファイナンスや環境教育のプロジェクトに携わった後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。2011年5月に共同創業者としてクロスフィールズを設立。大手企業の社員を新興国のNGO・NPOに派遣し、本業で培ったスキルによって社会課題解決に寄与すると同時に、リーダーシップ育成や新興国マーケットの市場調査・市場開発への足がかりにもつなげる「留職」プログラムを展開している。

平山
平山
上司がポジティブすぎるがゆえに本音を言えないと。
小沼
小沼
はい。僕は中学・高校で野球部キャプテン、大学ではラクロス部と、超体育会系の環境で育ってきたんです。就職先のコンサルティングファームも「ビジネスマッチョ」な風土でした。

そんなバックボーンがあったから、「なんでもできなきゃいけないんだ」という前提でメンバーと接してしまっていたのだと思います。
平山
平山
でも、自分ではメンバーを疲弊させてしまっていることになかなか気づけないですよね。
小沼
小沼
僕の場合は、法人全体で行った合宿のおかげで気づけました。

組織がうまく進まなくなったとき、「団体の強みとか、良いところを出し合おう」と言ったんです。でもそこでメンバーの1人が「いや、今日はネガティブな部分、変えないといけない部分を話そう」と。

みんなに組織や個人の課題を出しあってもらったら、「自分らしく働けていない」「前の職場のほうがよかった」など、メンバーが次々に泣いていったんです……

自分の強みだと信じていたポジティブさが、実は弱みでもあったのだと気づいた瞬間でした。僕の話す順番が回ってきたときには、言葉に詰まってみんなの前で泣いてしまいました。「みんな、本当にごめん」と一言だけ絞り出して。
平山
平山
強烈な体験ですね。
小沼
小沼
でも、自分をさらけ出して弱さを見せられたのは救いだったのかもしれません。それまでの僕の「とにかくポジティブに」というリーダーシップのパターンは瓦解して、「弱さを見せてもいいんだ」という空気をチームの中に作れるようになっていきました。

しばらく経って、当時のメンバーから「あのとき小沼が泣かなかったら、メンバーはすぐにいなくなっていたと思う」と言われました。ある意味であの涙は、僕が初めてメンバーの気持ちを聞く姿勢を示した証だったのかもしれません。
平山
平山
そのときのメンバーのみなさんの気持ちが分かる気がします。

僕が新卒で入社した会社は、優秀で「ビジネスマッチョ」な人が多い環境だったんですよ。
腕を組み、笑顔を見せる平山さん

平山和樹(ひらやま・かずき)さん。株式会社cotree(コトリ―)COO。大学在学中からITベンチャー企業に参画し、数千万円規模のプロジェクトのリーダーとして要件定義や業務設計、進行管理などを担当。自身の原体験から「人の心と物語を支えるサービス作りと持続的なプロダクトグロース」を志向して2018年6月にcotreeに参画。ウェブマーケティングやメディア運営業務を担当し、2019年より最高執行責任者・COOに就任。

小沼
小沼
おお。
平山
平山
僕も学生時代はずっとソフトテニスをやっていて、体育会系の風土で育ったんです。だからビジネスマッチョな人たちの中で成長していけると思っていたし、実際に重要な仕事もたくさん任せてもらえたんですが……。

自分の仕事が遅かったのもあり、溜まっていく終わらない仕事で疲弊していきました。仕事のミスも増えていきましたが、当時の僕は他の人を頼るのが苦手で

その結果、あるときメンタル的に不調になり、物理的に働けなくなってしまったんです。もちろん、自分を社会人として育ててくれた前職の方々には深く感謝しています。
小沼
小沼
そんなことがあったんですか。当時の平山さんは、上司や同僚に弱さを見せられていなかった?
平山
平山
そうだと思います。

その経験から、自分と同じような状況の人は世の中にたくさんいるんじゃないかと考えるようになりました。それでオンラインカウンセリングなどを手がけるcotreeに入社したんです。

事業として「人や社会の弱さ」と向き合っている会社だし、ユーザーさんに寄せられる不安定な思いと向き合うために何が必要なのか、ずっとみんなで話し合っているようなチームなんですよね。

目標達成ばかりを称賛していると、弱さをさらけ出しにくくなる

小沼
小沼
弱さをさらけ出せる組織と、そうではない組織の違いはどこにあると思いますか?
平山
平山
目標達成だけを称賛する文化が強いと、弱さをさらけ出しにくくなるのかもしれません。「できていない自分」を認めるのって、しんどいじゃないですか。
小沼
小沼
たしかに。
平山
平山
目標達成はどんな組織においても大切ですが、cotreeの場合は「弱さをさらけ出しながら目標へ向かっていく」という風土なんです。

うまくいかないときには「うまくいかないなぁ」とSlackに書くし、例えば体調が悪いときなども、みんな自分からさらけ出すんですよね。
小沼さんに向け話す平山さんと、それを聞く小沼さん
平山
平山
結果は不確実で、どうなるかは誰にもわかりません。「良いこと」も「悪いこと」も、いろんな側面が同時に成り立つのが人だなと思うんです。

良し悪しがハッキリしていると、「他のものを認めない」というのもハッキリしてしまう

目標に向かって頑張るときも、うまく行かず大変なときも、どっちも大事にしようという空気感がcotreeにはある気がします。
小沼
小沼
事業は本当に複雑系なので、白黒で分けずに色々なものを受け入れる土壌をつくっていかないと、前に進んでいけないですよね。

チームをよくしたかったから、苦手なマネジメントを手放した

小沼
小沼
メンバーが弱さをさらけ出しやすくするためには、仕組みづくりも非常に大事だと思います。
平山
平山
どのような工夫をしているんですか?
小沼
小沼
ある意味では、マネジメントを「手放しました」。実は1年ほど前にチームを見ることが大好きな人間に外から入ってきてもらって、彼に組織づくりをお願いしたんです。

今までは「チームをよくしたい」と口では言いつつも、やっぱり事業が好きだし、時間も十分につくれていませんでした。組織づくり専任のマネジャーを採用するという選択は「本当に小沼はチームをよくしたいんだ」「新しくきた彼なら、チームを変えられるかも」とみんなが思ってくれることにつながりました
笑顔の小沼さん
平山
平山
いいですね! そうやって任せられる時点で、弱さをさらけ出せている感じがしますよ。
小沼
小沼
今では「強さと弱さ、両方を理解しあうことが大切なんだ」という前提が組織に生まれて、コミュニケーションもオープンになりました。

そういえば、新婚旅行に関するうれしいエピソードがありまして。
平山
平山
新婚旅行?
小沼
小沼
あるメンバーが結婚したときのことです。そのメンバーは長めに新婚旅行に行きたいと思っていたんですが、業務を抱え込んでしまい、長期の休みを取るのが厳しい状況でした。

そんな悩みを知った周りのメンバーがコミュニケーションを取り、「同僚を幸せな新婚旅行に気持ちよく送り出すプロジェクト」が立ち上がりました。協力してそのメンバーの業務を一気に進め、2週間の新婚旅行に行けるようにしてあげたんです。
平山
平山
素敵すぎる。
小沼
小沼
実はその一連の流れは、僕の全く知らないところで生まれていたんですよね。僕としては「組織のOSがアップデートされた……!」という感動を覚える出来事でした。
平山
平山
メンバー同士のコミュニケーションを活性化させるためには、なにか工夫していますか?
小沼
小沼
クロスフィールズでは「ユニット制」を導入しました。

チームが大きくなると全体会議のメンバーも増えますよね。参加者が多いと時間も限られ、どうしても「いいこと」「前向きなこと」ばかり共有されがちです。そこで3〜4人ずつの4つのユニットに分けて、一人ひとりの発言量が増えるようにしました

新婚旅行の話も、10人を相手にする場では打ち明けられなかったかもしれません。4人だったから言えたのだと思います。

「自由=なんでもあり」では組織は回らない

小沼
小沼
とはいえ、どこまで弱さを見せ合うべきなのか、どこまでメンバーの弱さに向き合うべきなのかは難しいですよね。

組織のルールや暗黙知がない状態で「自由がほしい」と訴えるメンバーの要望に応えても、「自由=なんでもあり」になってしまっては、チームはうまくいかないかもしれません。「優しい組織だと聞いて入社したのに、自分には全然優しくない!」と不満を言う人も現れるかもしれません。
平山
平山
その懸念はわかります……。

cotreeの場合は、選考・採用段階での見極めを重視することで懸念を払拭するようにしていますね。「やさしさでつながる社会をつくる」というビジョンとのマッチ度合いはきっちり見ます。


ビジョンを実現するためのバリューを体現できる人かどうかも見極めます。人の弱さに思いを馳せられたとしても、「ずっとこの会社に守ってほしい」という考え方だとcotreeには向かないかもしれません。
小沼
小沼
それこそ「全然優しくない!」となってしまいますよね。

クロスフィールズでは、サイボウズの青野慶久社長の著書『チームのことだけ、考えた。』をメンバー全員に読んでもらっているんですよ。
体を前に出し話す小沼さんと、それを聞く平山さん
平山
平山
おお。
小沼
小沼
本の中で語られている「規律があるから自由がある」「説明責任と質問責任」という考え方がクロスフィールズにマッチすると感じていまして。
「会社でモヤモヤしたことを言いづらい……」とためらっていたら、同僚に一喝されてしまった
小沼
小沼
本を読んで感想をシェアしあうところから、チームのあり方の目線あわせをしています。共通言語があると、会話がしやすくなるんですよね。
平山
平山
おもしろいやり方ですね。

そういえばcotreeでは、エーリヒ・フロムの『愛するということ』をコアメンバー全員が読んでいます。1冊の本をきっかけに目線あわせをしていくのもアリですね。

「前向きならいいじゃん」という時代ではない。相手や自分の弱みと、どう向き合うか

小沼
小沼
僕が経験したようなことって、実は多くの組織で起きているんじゃないかと思っています。「前向きさ」や「強さ」だけでは進んでいけない時代になってきていると。
平山
平山
それはプロダクト開発でも言えるかもしれませんね。

ユーザーに選んでもらえる要因は「前向きさ」だけではなく、もっと複雑な「好き」「嫌い」「楽しい」「悲しい」といった感情が絡んでいる
小沼
小沼
評価軸が多様化して、「前向きならいいじゃん」というわけでもなくなってきているんですよね。

組織の中でも、実はみんな悩んでいるんだけど、それをなかなか言い出せない。

cotreeさんでは個人向けのコーチングも行っていますよね。実際に現場ではどんな悩みに接しているんですか?
平山
平山
個人の時代だと言われるようになって、「こうすれば成功するよ」というロールモデルを見つけづらくなっていると感じます。

一方でSNSを通じて、うまくいっている人のケースが見えやすくなったことで、「なぜ自分はダメなんだろう」と考えてしまう機会が増えていますね。

人と比べてしまいがちな時代なので、そうした意味では、「自分のことだけを考える時間」としてコーチングの重要性が増していると感じます。
両手を体の前に出す平山さん
小沼
小沼
実はクロスフィールズも事業のなかでコーチングに取り組んでいるんです。メンバー全員が資格を取りました。

コーチングって、人や自分の弱みとどう向き合うかが大切じゃないですか。そこでの会話が組織づくりのベースになっていくんじゃないかと感じています。

身近な半径の世界で打ち明けてみれば、景色が変わるかも

平山
平山
「弱さを見せると周囲に迷惑がかかる」と思ってストレスを抱えている人は、きっといろいろな職場にいると思うんです。
小沼
小沼
同感です。上司の立場であれば、「メンバーは自分に弱さをさらけ出せていないかもしれない」と気づくプロセスが大事ですよね。

僕はメンバーとの合宿でそれを思い知らされ、「自分は何をやってきたんだろう」と考えさせられました。もしかするとメンバーの声にしか気づくきっかけはないのかもしれません

今回の記事を読んで気づける人なら大丈夫だと思いますが、自己肯定感が強くて、「自分はそれなりに成果を出せる」と思っている僕のような人ほど、弱さを見せることを意識してみるべきではないでしょうか。
机に両腕を置き、語る小沼さん
小沼
小沼
中間管理職なら、まずは自分の部署やチームだけでミッション・ビジョン・バリューを打ち立て、弱さを見せあえる風土を作ってみてもいいかもしれません。
平山
平山
おもしろいですね。
小沼
小沼
大企業の場合は、会社全体の企業理念をみんな言えない状態も多いじゃないですか。だからこそ自分たちで、ミッションオリエンテッドなチームを作っていくチャンスがあると思うんです。

部長には「何をやっているんだ」と怒られちゃうかもしれないけど、社長からは「いいね!」と言ってもらえるかもしれない。

これからの時代はどんな業界でも、個々人の弱さと向き合うチームマネジメントが求められていくはずなので。
平山
平山
逆にメンバーの立場で、「弱さをチームにさらけ出せない」と悩んでいる人は、上司でも同僚でも社外の人でも誰でもいいから、いちばん信頼できる人に弱さを打ち明けてみたらいいと思うんです。

いきなり会社を変えるのは、めちゃめちゃ大変じゃないですか。今楽しくないなら、何をしたら楽しいかを考えてみたらいいかなと。そのあと「会社を変えたい」と思えるのであれば、ぜひ行動してみてほしいですね。
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