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あなたが逃げれば、世の中はよくなる。「クソ仕事」に気づいたら、逃げる勇気を──山口周さん

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「上司好みの資料をつくる」は「クソ仕事」

神保
神保
山口さんは、意味のない仕事を「クソ仕事」と呼び、それを減らそうと提言されています。

わたしは、その言葉を誰かにずっと言ってほしかったんだな、と思って。
山口
山口
と言いますと?
神保
神保
サイボウズに入社する前は、仕事の進め方によくモヤモヤしていたんです。

たとえば、「上司の仕事が終わるまで帰らない」とか「上司好みの資料をつくる」などの非生産的な作業が、業種を問わず周りでも多くて……。
山口
山口
ああ、それは「クソ仕事」ですね。
山口周さん.jpg

山口周(やまぐち・しゅう)さん。独立研究者・著作家・パブリックスピーカー。電通、BCGなどで戦略策定、文化政策立案、組織開発などに従事した後、独立。著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社)や『武器になる哲学』(KADOKAWA)など。最新著は、水野学さんとの共著『世界観をつくる 「感性×知性」の仕事術』(朝日新聞出版)

神保
神保
やっぱり! 「この仕事に意味はあるのか?」と感じつつも、なんとなくこなしてしまうことってありますよね。

どうすれば、わたしたちは「クソ仕事」を見極められるのでしょうか?
山口
山口
ポイントは3つあります。1つ目は、評判や信用などの「社会資本」が得られるかどうか

どれだけがんばっても、「この人は優秀だ」など組織内で有利に扱われるような社会資本が得られない仕事は、極力避けたほうがいいでしょう。
神保
神保
たしかにそうですね。
山口
山口
2つ目は、成果につながっているかどうかです。組織のパフォーマンスやクライアントの業績が上がらない仕事に、いくら時間をかけても無駄ですから。
神保
神保
仕事を進めるなかで、その視点は常に持っておきたいです。
山口
山口
そして3つ目は、能力やスキルなど「人的資本」を得られるかどうか

人的資本は、どこの業界や組織でも通用するものほど価値が高くなります。しかし、「クソ仕事」では、特定の業界や社内のみで使える能力やスキルしか得られないことが多いんです。

終身雇用制度が崩れてきている現代において、異なる業界に入った途端に役に立たなくなる能力やスキルだけしか得られないのは、かなり危険ですよね。
神保
神保
たしかに…その3つのポイントで見極めていく必要があるんですね。
クソ仕事を見極めるポイント.jpg

「クソ仕事」の語源は、社会人類学教授のデヴィッド・グレーバーの著書『Bullshit Jobs(クソ仕事)』。山口さんは同著を読んで、「先に言われちゃったな」と思ったのだそう。

山口
山口
はい。このうちの2つが当てはまっていたら、「クソ仕事」になると思いますよ。

「クソ仕事」を生み出すのは「クソ上司」

山口
山口
以前から、拙著の中で「クソ上司」という言葉は使っていたんです。「クソ仕事」が生まれる最大の要因は「クソ上司」だと考えていて。
日本企業の組織モデルについて説明する山口さん
神保
神保
その理由が気になります。
山口
山口
前提として、大半の会社員は上司が決めた仕事に従う必要があります。なぜなら、日本の多くの会社は「官僚制」の組織モデルを採用しているためです。

たとえば、組織は「営業局・営業推進部・営業第一課」のように階層化され、社員には役職に応じた職務や権限が与えられています。要するに、裁量のヒエラルキーが明確化されているのです。
神保
神保
たしかに、上司からの指示や承認がないと、進められない仕事は多いですよね。
山口
山口
はい。その一方で、マネジメントの品質をテストしてみると、合格水準をクリアしている人は3割くらいしかいません。

つまり7割の上司が、部下にまともな指示を出せていないのです。
神保
神保
そんなに多いんですね!
山口
山口
なかでも、典型的な2つのタイプがあって。

1つは、自分もプレイヤーになって率先して仕事するタイプの「クソ上司」です。
神保
神保
えっ? 汗をかいて、いっしょにがんばってくれる上司には、よいイメージがありますけど……。
山口
山口
組織論の世界的な統計では、「率先して仕事するリーダーがいる組織は、パフォーマンスが上がらない」とわかっています。

これは何でも自分でやりたがって、部下に明確な指示を出せていないからです。むしろ、組織をかき乱して、業績を下げてしまう可能性のほうが高いのです。
神保
神保
組織の模範となるべく、率先しているリーダーは多いと思います。指示をしっかり出せているかどうか、注意すべきなんですね。
クソ上司の2つのタイプについて説明する山口さん
山口
山口
はい。もう1つは、仕事の背景や目的を把握せず、思いつきで指示を出すタイプの「クソ上司」です。

こういう人は、自分の上司にアピールをしたいがために、本来は必要ない仕事をよく生み出すんですよ。
神保
神保
そして、そのしわ寄せが部下に来るわけですね。
山口
山口
はい。つまるところ、「お願いだから、もう何もしないでください!」みたいな上司が7割もいるので、当たり前のように「クソ仕事」が量産されるわけです。

上司の言う「やる気を出せ」はナンセンス

神保
神保
会社で働いていると、上から「もっとがんばれ!」と、やる気を求められることが多いように感じます。

「そんなことばかり言われても、がんばれないし……」と思ってしまう人も多そうです。
山口
山口
まさに、その通りですよね。

「やる気=モチベーション」だと思いますが、それを引き出すのは上司の役割です。だから、部下に向かって「やる気を出せ」なんて言うのはナンセンスだと思っていて。

そもそも、「無意味な仕事」や「尊敬できない人から指示された仕事」に、やる気って出せませんからね。
神保
神保
たしかに。無茶な要求だと感じつつも、無理やり自分を納得させている人は少なくなさそうです。

ちなみに、山口さんは、そういう上司の下で働いたことってありますか?
山口
山口
ありますよ。

新卒で入った会社では、当初、筋の悪い上司の下で働いていました。そしたらストレスがたまり、肺に穴が空きまして……。
新人時代を振り返る山口さん
神保
神保
ええっ! 勝手ながら、山口さんは「何でも卒なくこなせる人」のイメージがあるので意外でした。
山口
山口
いえいえ、僕も長くがんばってしまったタイプだと思います。

入社2年目のときに、あるデータを人力で転記する作業を指示されて。その効率の悪い作業が大嫌いだった僕は、「これをITでラクにできないか」と試行錯誤していたんです。
神保
神保
うんうん。
山口
山口
でも、直属の上司は「この仕組みは昔の部長が考えた、よい仕組みなんだ!」と納得してくれなくて。

一方の僕は、「この人は、どうしてITがない時代の話をするんだ?」と思い、大喧嘩になりました。それを知った会社側が、僕の配属先を変えてくれたんです。
神保
神保
今度は、どんな上司の下で働くことになったんですか?
山口
山口
以前とは真逆のタイプです。4つの会社を経営するやり手の上司で、会社にはほとんど来なくて。

相談にはすぐに乗ってくれる人でしたが、仕事の目的だけしか言わず、仕事のやり方については「あとはよろしく」とすべて丸投げでした。

そのおかげで、それまで経験のなかった「イベントの企画」や「マーケティングプランの作成」ができるようになりましたね。
神保
神保
丸投げされたら、プレッシャーで肺にまた穴が空きそうですけど……。
山口
山口
いやいや、これがすごい楽しくて。無駄な仕事がないし、変な仕事の振られ方もしなかったので。

それに、会社の代表として、僕がすべてに主導権を握って動くようになったら、利益やクライアントからの評価が上がるようになりました。そのときから仕事が楽しくなったんです。
「あの頃から、仕事が楽しくなった」と楽しそうに振り返る山口さん

「クソ仕事」に意味づけできれば、クソじゃなくなる

神保
神保
いまのお話を聞いて、上司次第で仕事へのモチベーションって大きく変わるんだな、と改めて感じました。
山口
山口
成長スピードにも露骨に差がつくので、人生が変わっちゃいますよね。
神保
神保
となると、山口さんのおっしゃるような「クソ上司」の下に配属されたら、あきらめるしかないのでしょうか……?
山口
山口
急に配属を変えてもらったり、仕事を辞めたりするのは難しいですからね。

ひとつ考えられる打開策としては、「クソ仕事」への見方を変えて、自分の力で「人的資本の蓄積」をしていく方法があります。
「クソ仕事」の意味付けについて語る山口さん
神保
神保
それは、どうやってするのでしょうか?
山口
山口
『帝都物語』などの代表作を持つ、作家の荒俣宏さんの例が参考になると思います。彼は学生時代から、博物学や怪奇文学などの研究をしていました。

ただ、「それだけでは食べていけない」と思い、大学卒業後はサラリーマンの道に進んだそうです。
神保
神保
ふむふむ。
山口
山口
そのとき、「サラリーマンはきっとつらいだろうから、せめて大好きな魚類を扱う会社に入ろう」と考え、水産食品会社に入社しています。

にもかかわらず、いちばん入りたくなかったシステム部門にプログラマーとして配属され、「もう終わったな」と。
神保
神保
魚とは、もっとも関係なさそうな部署ですもんね……。
山口
山口
ところが、そこで彼は持ち前の好奇心を発揮します。

入社2日目にして、「プログラムを書くことは、コンピューターと人間の対話である。だから一人称の文学なのだ」と気づいたそうなんです。
神保
神保
目の前の仕事に、自身の興味分野である文学を結びつけたわけですね。
山口
山口
はい。結局、このとき配属された6人のうち、9年後に残っていたのは荒俣さんを含む3人だけで。

辞めていった同期は「自分がなぜこんなことをやるのか」と仕事におもしろさを見出せなかったのでしょう。

そんなふうに、自分の中で「クソ仕事」に新しい意味づけをして、「クソじゃない仕事」に変えていくこともできます。
神保
神保
見方を変えるだけなら、いますぐできそうです。
山口
山口
ええ。たとえば、「このままでは自分の資本が増えない」と思ったら、社内で出世している人に、提案書を持っていくことなどもできるはずです。

愚痴をこぼすだけじゃなく、その場でできることを考えて、とにかく動くことに尽きると思いますよ。

「クソ仕事」に気づいたら、「逃げる勇気」を持つ

神保
神保
わたしも振り返ると、苦しい状況でも「努力はいつか報われる」と言われて育ってきたような気がします。

でも、Twitterで山口さんは「理不尽で苦しい状況に置かれたら、逃げなければならない」と発言されていましたよね。
神保
神保
もし、理不尽な状況に陥ってしまったら、やはり「逃げる勇気」が必要ですか?
山口
山口
うーん……。パワハラなどの極端なケースであれば、そうですね。
「逃げる勇気」について語る山口さん
山口
山口
心理的耐性は人それぞれなので、「自分はいま、逃げるべきだ」と客観的に判断するのは難しいんです。

ただ、大抵は本来逃げるべき場所で、がんばり過ぎていて。だから、基本的には自分が「つらい」と感じたら、何かアクションを取ったほうがいいと思います。
神保
神保
逃げることができなくて、心身に不調をきたす人もいますからね。

本音では、がんばることに疲れていても、「ここに踏みとどまるべきだ」と考える人は多そうです。
山口
山口
ええ。それは世の中で「逃げちゃいけない」という風潮が強いからだと思っていて。

わたしたちには「逃げ出さない」「努力は報われる」などの“ボイス”が刷り込まれています

それには規範をつくる大きなパワーがあって、「この会社、辞めようかな?」と思ったとき、「逃げちゃいけない」という考えが頭に浮かびやすくなります。
神保
神保
よくわかります……。

無理をしてがんばっているときこそ、「いまの場所で、がんばり続けなきゃいけない」と思ってしまいがちですよね。
山口
山口
そういう風潮があるので、「逃げる責任がある」くらい強い圧力をかけないと、みんな逃げてくれませんよね。

ただ、逃げれば世の中はよくなると思うんです。逃げられるような会社は業績がどんどん下がって、市場から退出させられますから。だから、もっと多くの人に「逃げる勇気」を持ってほしいと思っています。

「〜すべき」と縛るのは、自分の声なのかもしれない

神保
神保
がんばりすぎている人は、どうすれば「逃げるための気づき」を得られるのでしょうか?
山口
山口
3つあると思います。1つ目は、時間を取って、いまの状況について考えることです。

僕は新卒で入社した会社を、6年目で辞めています。そのあと、当時の自分を客観的に見たとき、「どうして、あんなに働いていたんだろう」と感じました。
神保
神保
そうだったんですね。
山口
山口
ただ、当時はいそがしさのあまり、じっくりと考える時間がなくて。

とくに、理不尽な要求が日常化している環境で働いている人は、「自分ができないから、上司がこんなに厳しいんだ」と自分を責めるようになりがちです。

そうすると、精神的な余裕までなくなって、「限界が来ていること」にすら気づけなくなる。本来は、その「つらさ」に気づけるようになれればいいんですけど……。
少し間をおき、考えをまとめる山口さん
神保
神保
どんどん感覚が麻痺していくわけですね。
山口
山口
そうです。そこで2つ目として考えられるのが、周りの意見に耳を傾けることです。

働きすぎていたとき、母親から「あんた、おかしくなっているわよ。会社を辞めたら?」とぽろっと言われて。

それを聞いて、僕は救われたんです。「世の中って、これくらい働くのが当たり前じゃないの?」と自分の感覚が麻痺している状態に気づけたので。
神保
神保
周りの人が、自分のがんばりを認めつつ、客観的な意見をささやいてくれるのって大事ですよね。わたしも、明らかに働きすぎている人がいたら、「がんばらなくていいよ」と言えるようにしています。

ただ、家族や友人から「がんばらなくていい」と言われても、「がんばるべきだ」という呪縛から逃れられない人もいそうです。
山口
山口
そんなときには、3つ目の手があって。

それは、「がんばるべきだ」「逃げてはいけない」は誰が言っているのか、自問自答してみることです

大抵は自分自身がそう思い込んでいるだけで、誰からも言われてはいないんですよ。だから、「〜すべき」「〜してはいけない」の理由を自分に問いかけて、その思い込みに気づくことが大切なのです。

それができれば、視野がグッと広がるかもしれません。
思い込みから脱却し、視野を広げる大切さを語る山口さん

成功するために、いちばん大切なのは、「いるべき場所」にいること

神保
神保
なるほど。ただ、いざ逃げようと思っても、周りにどう思われるかも気になりそうで……。
山口
山口
そういう人は、「自分を経営する感覚」を持ったほうがいいと思いますよ。

「クソ上司」の下にいることは、自分の人生にとってマイナスですよね。であれば、その「クソ上司」をどかすか、自分が動くしかありません。

それを限られた時間の中で決めないといけないのに、悩んでいる人は少なくありません。でも株主は、そういう経営者にいちばん投資したくないんですよ。
神保
神保
迷っている人に投資するのって怖いですもんね。
山口
山口
はい。自分のブランドを効率的につくって利益を出し、歴史に名を残したアンディ・ウォーホルというアーティストがいます。

その人が「アーティストとして成功するために、いちばん大切なことは何ですか?」と質問されたそうなんです。
神保
神保
彼は、何と答えたのでしょう?
山口
山口
「いるべき場所にいる、これに尽きる」と。

本当にその通りだと思いますね。「ここは自分の居場所じゃない」と感じたら、まずは逃げなければならないのだと思います。
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企画:神保麻希(サイボウズ)執筆:流石香織 撮影:栃久保誠 編集:野阪拓海(ノオト)


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