「がんばる」のは、仕事に直接関係あることだけでいいんじゃない?

キャンベル
今日の対談、すごく楽しみにしてきました。

弘中
ありがとうございます! 私も楽しみにしていました。

キャンベル
今日は「がんばるって何なんだろう」ということから話していきたいと思います。
与えられている時間だったり、環境がそれぞれ違うので、エビデンスは人によって全然違うと思います。ただ、日本は若年層の自殺率が高いのも事実で。
与えられている時間だったり、環境がそれぞれ違うので、エビデンスは人によって全然違うと思います。ただ、日本は若年層の自殺率が高いのも事実で。

弘中
「がんばり」の強要をしてしまっている可能性がある、と。

キャンベル
弘中さんにとって「がんばる」がどういったものなのか、教えてもらえますか?

弘中
今回の対談テーマである「不必要ながんばり」で思い出したのは、後輩からのバレンタインチョコレートの相談です。

弘中綾香(ひろなか・あやか)。テレビ朝日アナウンサー。入社8年目。「激レアさんを連れてきた。」の研究助手や、「ひろなかラジオ」(AbemaTV)のメインパーソナリティなどを務めるほか、「Hanako.tokyo」でエッセイを連載

キャンベル
チョコ、ですか。

弘中
「どの範囲の方々まで用意すればいいですか?仕事でお世話になっている全員に日頃のお礼をしたいので、がんばって用意します!」と相談を受けて。

キャンベル
感謝の気持ちを伝えたい、ということですね。

弘中
そうなんです。ただ、そのがんばりはちょっと違うんじゃないかなと。私もかつてはその後輩と同じように考えて用意していたので、自分に対しても言えるのですが。
仕事に関することは、バレンタインのチョコレートで伝えるのではなく、仕事に直接関係ある業務をがんばることで、伝えられたほうがいいのに、と。
仕事に関することは、バレンタインのチョコレートで伝えるのではなく、仕事に直接関係ある業務をがんばることで、伝えられたほうがいいのに、と。

キャンベル
ぐさっ

弘中
えっ!(笑)。

キャンベル
いえいえ、続けてください(笑)。


弘中
もともと、私は「無駄ながんばり」をしないタイプで。

キャンベル
がんばりのなかには、「無駄ながんばり」「仕方ないがんばり」「自分から買ってでもしたいがんばり」など、いろいろな種類があると思いますが、見分けられますか?

弘中
だんだんとわかってきたところです。
切り捨てるような言い方をするかもしれないのですが、自分のやるべきことをしていたら、それ以外のところで落ち度があっても責められるべきではない。
自分が課せられたお仕事に集中して、ちゃんとした評価を受けられればいいなって。
切り捨てるような言い方をするかもしれないのですが、自分のやるべきことをしていたら、それ以外のところで落ち度があっても責められるべきではない。
自分が課せられたお仕事に集中して、ちゃんとした評価を受けられればいいなって。

キャンベル
なるほど。自分のやるべきことをこなすのは、素晴らしいことですね
「お疲れさま」は疲れていることが前提。「頑張るのが当たり前」という自己暗示

キャンベル
でも、個人的には人ってそんなに強い生き物じゃないとも思うんです。
だからこそ、職場のなかで声をかけたり、ちょっと無駄な空間とか時間をつくって過ごしたり。いわば、コミュニケーションの日頃の準備運動も大切かなと。
だからこそ、職場のなかで声をかけたり、ちょっと無駄な空間とか時間をつくって過ごしたり。いわば、コミュニケーションの日頃の準備運動も大切かなと。

ロバート キャンベル。日本文学研究者。国文学研究資料館長。近世・近代日本文学が専門。テレビでMCやニュース・コメンテーター等を務める一方、新聞雑誌連載、書評、ラジオ番組企画・出演など、多方面で活躍中

弘中
はい、それはよくわかります。

キャンベル
一方で、「がんばりすぎて疲れる」や「無駄ながんばり」が生まれる原因は、仕事に打ち込むことからではなく、評価や対人関係ではないかと思っていて。
なので、弘中さんのように、「がんばりどころ」を見極めるのは重要ですよね。
僕の周りでは、「誤解されたのではないか」「自分の思いが通じなかったんじゃないか」といったコミュニケーションによる気疲れ。あとは人からの「評価」もよく聞きます。
なので、弘中さんのように、「がんばりどころ」を見極めるのは重要ですよね。
僕の周りでは、「誤解されたのではないか」「自分の思いが通じなかったんじゃないか」といったコミュニケーションによる気疲れ。あとは人からの「評価」もよく聞きます。

弘中
それは日本に限らず、でしょうか?

キャンベル
そうですね。「対人関係が疲れる」のは、各国共通だと思います。

弘中
なるほど。

キャンベル
ただ、特に今の日本だと「がんばりすぎるのが、当たり前だ」という風潮もあるように思っています。
それがよく現れているのが「お疲れさま」というあいさつですね。仕事柄、いろんな業界の現場に足を運びますが、テレビ局ほど「お疲れさま」を連呼しているところはありませんよ。
それがよく現れているのが「お疲れさま」というあいさつですね。仕事柄、いろんな業界の現場に足を運びますが、テレビ局ほど「お疲れさま」を連呼しているところはありませんよ。

弘中
心当たりはあります(笑)。

キャンベル
この言葉自体には、深い意味はないんですよね。一旦区切りをつけて、次へと受け渡すための装置でしかない。
でも、これを英語でそのまま訳すと「You look tired.」
でも、これを英語でそのまま訳すと「You look tired.」

弘中
疲れているようだね、と。

キャンベル
そう。何回も言われ続けたら、疲れてなくても、疲れた顔になってしまいますよ。
「昨日は3時間しか眠れていない」とか「食べる暇もなかった」みたいに、がんばりすぎることが当然だという「疲れアピール」が自己暗示になって、疲れが出てきてしまっているんじゃないかなと。
「昨日は3時間しか眠れていない」とか「食べる暇もなかった」みたいに、がんばりすぎることが当然だという「疲れアピール」が自己暗示になって、疲れが出てきてしまっているんじゃないかなと。
「会社に消費されている」と気付き「私も好きなように会社から利益を得よう」と、発想を変えた

キャンベル
ある調査によると、日本のビジネスパーソンは、自己研鑽の意欲が低い一方で、会社に長く勤めたいと考えている割合が海外と比べて高いそうです。

弘中
会社員は、もっと自分のために会社を使ったほうがいいですよね。

キャンベル
それは会社にとってもいい考えですよね。ぜひ、社員にしたい!

弘中
本当ですか! ありがとうございます(笑)。


弘中
せっかく何十人、何百人と集まった組織にいるんだったら、いろいろな人から学び、自己研鑽する。
そうやって、会社を「なりたい自分になるための場所」にしてしまえばいいのになって思うんです。
そうやって、会社を「なりたい自分になるための場所」にしてしまえばいいのになって思うんです。

キャンベル
弘中さんは、どうやってその考えにたどりついたのですか?

弘中
きっかけは、「自分自身が会社に消費されている」という気づきですね。そこで「消費されているなら、私も好きなように会社から利益を得よう」と、発想を変えたんです。

キャンベル
なるほど。

弘中
それからは、周りにやりたいことを言葉にして伝えること、そして自分の仕事は120%の力でやりきることを大事にしました。
やるべきことをせず、「好きなことをやりたい」と言うのは社会人として通用しないと思ったので。
そうすることで、穏やかにテリトリーが広がっていった気がします。周囲から「何かやらせてみようか」とチャンスをもらえることが増えていきました。
やるべきことをせず、「好きなことをやりたい」と言うのは社会人として通用しないと思ったので。
そうすることで、穏やかにテリトリーが広がっていった気がします。周囲から「何かやらせてみようか」とチャンスをもらえることが増えていきました。

キャンベル
いいですね。私も似た経験があります。
日々の研究をコツコツやって成果を出した結果、思いがけない人から声をかけられることがありました。
想定外の局面で、自分の仕事が誰かの戦力になることがある。新しい足場を与えられて、そこから少しずつ回り道をしながらも、自分の場所が拓けていくような感覚でした。
日々の研究をコツコツやって成果を出した結果、思いがけない人から声をかけられることがありました。
想定外の局面で、自分の仕事が誰かの戦力になることがある。新しい足場を与えられて、そこから少しずつ回り道をしながらも、自分の場所が拓けていくような感覚でした。


キャンベル
ただ、これって誰か周囲に注意深く見てくれている人がいないと、つながりは生まれないんですよね。

弘中
たしかにそうです。
私の場合は、昔から文章を書くことが夢でした。ただ、アナウンサーになってからは、それが仕事になるとは考えていなかったので、ライフワークとして書くことだけは続けていて。
ある日、編集の仕事をしている人に会う機会があり、それをお見せすることができたんです。そこからはトントン拍子で連載の話が決まりました。
ですから、やりたい夢が漠然としていても、それを形にしておくことって重要かもしれませんね。
私の場合は、昔から文章を書くことが夢でした。ただ、アナウンサーになってからは、それが仕事になるとは考えていなかったので、ライフワークとして書くことだけは続けていて。
ある日、編集の仕事をしている人に会う機会があり、それをお見せすることができたんです。そこからはトントン拍子で連載の話が決まりました。
ですから、やりたい夢が漠然としていても、それを形にしておくことって重要かもしれませんね。
「女子アナ」はあくまで「弘中綾香」の中のカテゴリーのひとつ

キャンベル
自分がやりたいことを始めるとき、「女子アナ」という既存のイメージから外れることに対して、ためらいはありましたか?

弘中
ないですね。

キャンベル
即答!

弘中
だって私、アナウンサーになるためだけに生まれてきたわけじゃないので。


キャンベル
ごもっともです。

弘中
「弘中綾香」という人間の積み重ねは二十数年あって、カテゴリーの1つとして「女子アナ」が加わっただけ。
だから、「適応する必要はない」というのが、正直な気持ちですね。キャンベルさんは、既存のイメージから外れるのを気にされますか?
だから、「適応する必要はない」というのが、正直な気持ちですね。キャンベルさんは、既存のイメージから外れるのを気にされますか?

キャンベル
僕の場合は、「自分はこうだ」という思い込みをせず、氷を削るように常にアイデンティティーを崩し、形を造っていけるようにしていて。
バラエティの顔や識者、教育者としての顔というように、コアは深いところでつながっているはずですが、いくつかのペルソナを持っています。
バラエティの顔や識者、教育者としての顔というように、コアは深いところでつながっているはずですが、いくつかのペルソナを持っています。

弘中
なるほど。

キャンベル
見方を変えれば、優柔不断なんですよ。
僕の仕事は、表現の歴史を研究してそこから色々な価値を切り出して、新たな表現に置き換えることで何かを発見する、あるいは価値をつくっていくこと。だから自分の性格と仕事がフィットしていると思いますね。
ちなみに弘中さんは 、周りの声は気になりますか?
僕の仕事は、表現の歴史を研究してそこから色々な価値を切り出して、新たな表現に置き換えることで何かを発見する、あるいは価値をつくっていくこと。だから自分の性格と仕事がフィットしていると思いますね。
ちなみに弘中さんは 、周りの声は気になりますか?

弘中
職業柄か、どうしても一定数は批判してくる方はいらっしゃって。

キャンベル
わかります。

弘中
傷ついたこともあったのですが、そういった声が、自分にとってよくない影響が出るとわかっているので、申し訳ないのですが、スパッと遮断して。

キャンベル
うんうん。

弘中
友人や、同僚など、直接コミュニケーションをとれる関係を大切にしています。私のことを弘中綾香という個人で見て、判断してくれる人、知ってくれている人の意見をきいたり、話したり。

キャンベル
いわゆる「世間」に向けた顔とは異なる顔ということですね。
「世間への発信」としての言葉ではなく、ただ一緒にいるコミュニティは必要だと思います。世間を、リアルだととらえなくてもいいし。
私も本名や連絡先を知らない人からの批判はなんとも思わないですね。褒められても……うん、それは若干うれしいけれど(笑)。
「世間への発信」としての言葉ではなく、ただ一緒にいるコミュニティは必要だと思います。世間を、リアルだととらえなくてもいいし。
私も本名や連絡先を知らない人からの批判はなんとも思わないですね。褒められても……うん、それは若干うれしいけれど(笑)。


弘中
キャンベルさんは、「がんばりすぎて疲れた」と思うことはありますか?

キャンベル
僕はがんばりすぎる前に、リフレッシュしますね。
おいしいものを食べたり、運動したり、お酒を飲んだり、猫と戯れたり……あとは遠い景色を見るのが好きで。温泉に入ったみたいにリチャージされます。
おいしいものを食べたり、運動したり、お酒を飲んだり、猫と戯れたり……あとは遠い景色を見るのが好きで。温泉に入ったみたいにリチャージされます。

弘中
自分は何がストレスになって、何に癒されて、どういったことをやりたいのか。そうやって自分のことを知っておくのは大切ですよね。
企画:鮫島みな(サイボウズ) 執筆:園田もなか 撮影:もろんのん 編集:松尾奈々絵(ノオト)