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サイボウズの開発本部がマネジャーをなくしてみた「いないと無理なら、またつくればいい」

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サイボウズ副社長兼サイボウズUSA社長として、サンフランシスコで働いている山田理。若手マネジャーに向けた本の制作を進めていると、社内の開発本部から「マネジャー職をなくしました」という連絡が。

開発本部でマネジャーをしてきた岡田勇樹を呼んで、山田が詳しく話を聞いてみると、「承認は決める人が決まっていればいい」「部下の成長責任を、マネジャーが持たなくていい」といった、新しいマネジャー論が出てきました。

マネジャーが場所ごとにいる必要はない

山田
山田
ねらったわけじゃないのに、すごくいいタイミングだよね。マネジャーに関する本の出版を進めていたら、「開発本部がマネジャーをなくした」って。
腕を組みながら話す山田

山田 理(やまだ・おさむ)。サイボウズ 取締役副社長兼サイボウズUSA(kintone Corporation)社長。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、責任者として財務、人事および法務部門を担当し、同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年からグローバルへの事業拡大を企図し、米国現地法人立ち上げのためサンフランシスコに赴任し、現在に至る。

岡田
岡田
「マネジャーをなくした」というと、すごいことをした感じがしますが、正確にいえばプログラマーや品質保証、デザイナーなどの職種と拠点で分ける部署を解体したんです。
説明する岡田

岡田勇樹(おかだ・ゆうき)サイボウズ 開発本部副本部長。2007年に新卒でサイボウズに入社。エンジニアとして「サイボウズ Office」や「kintone」の開発に携わる。2014年にマネジャーとして大阪開発拠点の立ち上げを主導。

岡田
岡田
これがマネジャー、つまり部長職を廃止する前の開発本部の組織図です。
変更前の開発本部の組織図
岡田
岡田
縦割りで、「西日本開発部」「東京品質保証部」などの各部署から、メンバーを各プロダクトチームにアサインしていました。
山田
山田
そうやったね。
岡田
岡田
こちらがマネジャーを廃止したあとの組織図。
組織変更後の組織図
岡田
岡田
各拠点にひもづいた部署を解体し、チームごとの組織にしました。プロダクトチームから、部長がいなくなっていることがわかると思います。
山田
山田
具体的にはどういうことから変えたの?
岡田
岡田
まずは、マネジャーたちがそれぞれどんな業務をしているのかを書き出して、委任できる先を整理していきました。

キャリア採用や承認作業は各チーム、新卒採用や給与評価は組織運営チームへと委任できることがわかりました。

また、1on1などのメンタリングは、各メンバーがどのメンバーとも自由にできる体制をつくることにしました。
山田
山田
ふむふむ。
岡田
岡田
あとは特定のプロダクトチームに属さず、すべてのプロダクトチームを支援するチームも用意しているんです。

たとえば、アジャイルコーチチームや生産性向上チーム、フロントエンドチームがそれにあたりますね。

成長の場はつくるけど、責任はとらへん

山田
山田
マネジャーの仕事には、「下の人を育てる」ことがあるけど、人材育成はどうしているの?
岡田
岡田
勉強会です。同じ分野に興味がある人同士のコミュニティを用意しています。もちろん、自発的に立ち上がることもあります。

そのなかで、自分で興味があるところに入ってもらって、勝手に自分で学んでもらおうと。
山田
山田
場はつくるけど、「成長の責任はとらへん。スキルを磨きたかったら、そのコミュニティに入っとけ」と。
笑う山田と岡田
岡田
岡田
はい。そうですね。
山田
山田
裏を返せば、成長したくなければ入らんでもええけど、誰もそれに対しては、責任はとらんと。

今までだったら、マネジャーがメンバーを成長させなきゃダメだし、モチベートする責任をもっていたけど、それがないんだ。
岡田
岡田
成長支援のターゲットは「成長したい」と思っている人。

成長したくない人は、そもそもコンセプトから外れるんで、そこに上司が責任を持たなくてもいいなと。

チームを職種ごとに分けていたら「壁」ができていた

山田
山田
そもそも、どうして組織を変えようと思ったの?
岡田
岡田
まず前提として、全体的にマネジャーが不足しているという問題があったんです。そこから、マネジャーやメンバーへのヒアリングを進めていったら、いろいろな問題が浮き上がってきて。
並んで話す山田と岡田
山田
山田
なるほどね。
岡田
岡田
たとえば場所は違っても取り組むプロダクトや、評価基準は一緒。それなのに、マネジャーは各拠点にいて、拠点によって評価するマネジャーが違う。

なので、最初は地域ごとに分かれる体制をなくして、組織形態を変えようと思っていました。

でも、メンバーにヒアリングをしていくなかで、「同じプロダクトに携わるメンバーの部署が分かれていないほうがいい」と気づいたんです。
山田
山田
それはどうして?
岡田
岡田
壁があったんです。
山田
山田
壁?
岡田
岡田
各チームのミッションは、突き詰めていくと絶対に対立します。

モノをつくるチームは「早くつくりたい」。デザインチームは「美しくつくりたい」。品質保証チームは「バグが出ないものをつくりたい」。運用チームは「SLO(*1)を達成したい」。

(*1)提供するサービスのレベルや品質に関する目標。Service Level Objectiveの略。

山田
山田
うんうん。
岡田
岡田
でも、職種ごとのミッション達成を目指すのではなく、各職種が連携してプロダクトのユーザー価値を最大化するのが本来の目的であるべきだなと。それを実現できる組織体制は何かと考えました。

同じプロダクトチームに所属するプログラミングが得意な人と、デザインが得意な人の所属部署が分かれていない状態にすれば、対立が起こりにくくなるんじゃないかという結論に達したんです。
山田
山田
組織が変わって4か月くらい経ったけど、実際に状況は変わった?
岡田
岡田
少しずつですが、「チームのミッションに向かって、何ができるのか」という議論ができ始めています。
山田
山田
いいね。逆に、職種ごとにチームをつくるメリットってないの?
岡田
岡田
進め方がウォーターフォール・モデル(*2)だったときは、職種と工程がひもづいていたので、職種ごとに分かれていたほうが、仕事をやりやすかったです。

でも、制作するプロダクトがパッケージからクラウド中心になったことで、開発のやり方もアジャイル、スクラム(*3)に変わりました。

リリース間隔も短くなって、一緒のタイミングでいろんな部署が動くようになったんですよね。だから時代に合わせて組織も変えるべきだなと。

(*2)システムの要件定義から設計、製造、テストまで、各開発フェーズの計画をあらかじめ決め、段階的に進めていく開発モデル。

(*3)設計、テスト、実装を短期間で繰り返しながら開発を進める、アジャイル開発の一種。少人数でチームを組み、短期間のサイクルで開発を進める。

あみだくじで「承認する人」を決めてもいいよね

山田
山田
出張のときの決裁は、誰が決めてるの?
岡田
岡田
チームの誰かですね。
山田
山田
あ、誰でもいいんだ。
岡田
岡田
たとえば、僕のチームはあみだくじで休暇の承認をする人を決めました。
笑って話す岡田。山田も笑顔で聞いている
山田
山田
偉い、偉くないとか、年齢じゃなくて。
岡田
岡田
はい。承認する人は誰でも大丈夫だなって。

あとは本を買うときの事前審査。これも誰が決めてもいいなと。
山田
山田
うんうん。
岡田
岡田
みんなが読めるグループウェア上に「この本を買いたいです」って書けばいいだけ。

見える化ができているので、変なものを買う人はいないだろうと。

情報をオープンにすれば予算の管理も不要になる?

山田
山田
予算はどうしてるの?
岡田
岡田
予算の決定権限は、チームではなく、本部長にあります。

お金の使い方は人によって幅があるので、やり取りをオープンにするだけで、うまくいくのかなと不安で。
山田
山田
オープンにした上で、あやしい使い方を試みるのって、結構大変やし、勇気もいるけどね。
話す山田と笑う岡田
岡田
岡田
ははは。はい。
山田
山田
情報をオープンにしたときに、「その本いる?」「その費用いる?」って、チームメンバーからつっこまれているなら、フィードバックはされているわけだよね。
岡田
岡田
そうですね。
山田
山田
ほとんどの人は、ちゃんと使いたいし、つっこまれたらイヤだろうし、できるだけみんなに「いいね」って言われながら行動したいじゃない。

みんなにつっこまれても、あやしい使い方をし続ける人がいるなら、対処法を考える必要が出てくると思うけど。

「情報をオープンにしたうえで、チームか個人が判断をすればいい」って考えたら、予算も委任できるんじゃない?
岡田
岡田
なるほど。予算もオープンにして、お互いにフィードバックをもらえる仕組みが大事ですね。これから考えていきます。

実際にやってみて無理ならマネジャーを復活させればいい

山田
山田
僕は「マネジャーかくあるべし」っていう理想は持っているんだけど、一方でマネジャーが全部を兼ね備えるのは「無理だ」とも思っていて。
腕組みしながら話す山田
山田
山田
「マネジャーとは」っていう理想はわかったけど、実際に全部を実行できるわけじゃないし。そう思うと、いま開発本部がやっている

「みんなで分担したらいいやん」
「成長って誰も責任とらんでいいやん」
「成長できる場所だけつくればいいやん」

という取り組みには、僕もチャレンジしたいなと思っている。
岡田
岡田
「マネジャーが全部兼ね備えるのは無理」っていうのは、社内で何かきっかけがあったんですか?
山田
山田
ええー。だって僕、こんなに一生懸命マネジャー研修とかやってんのに、全然浸透してないんだもん。
岡田
岡田
ははは。
山田
山田
「かくあるべし」って理想があっても、自分も含めて、実際にどれだけの人が実行できてるかどうかは疑問だなと。マネジャーっていう肩書で、実際はマネージできてない人が山ほどいるわけじゃない。
マネージャーが全部兼ね備えるのは無理と伝える山田
山田
山田
組織形態を変えて困ったことはあった? デメリットとか。
岡田
岡田
まだ、4か月しか経っていないので、何をするべきかがチームに浸透していなくて、メンバーが迷っていますね。承認に関しても、「何を承認すればいいのかわからない」という感じで。
山田
山田
役割分担ができていない。
岡田
岡田
そうです。これまでマネジャーの業務内容をみんなが知らなかったので「そんなことやってたんだ」と。まだチームで試行錯誤している状態です。
山田
山田
マネジャーを復活させましょう、となることもありえる?
岡田に尋ねる山田
岡田
岡田
ははは。はい。そうなるかもしれません。実際にマネジャーなしでやってみて、チームで「無理!」ってなる可能性はあるよねって。そうしたらまた考えます。
山田
山田
そのプロセスはおもしろいね。いったんなくなったけど、必要になってまた生まれるんだ。
岡田
岡田
これまでの「職種×地域」の体制は、10年以上続いていました。その延長で続けてきたので、組織を変える思考自体がなかったんです。

今後は、なるべくいろいろなフィードバックを集めて、組織自体を小さいサイクルで改善していきたいですね。
※サイボウズ副社長・山田理の書籍が発売予定です。ご予約はこちら
執筆:松尾奈々絵(ノオト)/編集:水上歩美(ノオト)/撮影:二條 七海/企画:小原弓佳
マネジメントはいらない、論文数で評価しない──R&Dの理想を追求したサイボウズ・ラボは、こんな組織になった

「ティール組織=全員が幸せになれる組織」とは限らない──主体性や自由がプレッシャーになる人もいる

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サイボウズが目指すのは「チームワークあふれる社会をつくる」こと。その考え方と親和性の高いのが「ティール組織」という次世代組織モデルです。

働く人が幸福になり、なおかつ生産性が高くなるティール組織を今の時代に目指すには、何をすべきなのか。そもそもティール組織こそが「いいカイシャ」と言えるのでしょうか。

3月30日、サイボウズの株主総会とあわせて開催されたチームワーク経営シンポジウムで、「新しいカイシャとティール組織について語ろう」と題し、チームワーク経営のヒントを探りました。

ゲストは伊那食品工業・最高顧問の塚越寛さん、FC今治オーナーの岡田武史さん、『ティール組織』解説者の嘉村賢州さん、エコノミストの崔真淑さん。サイボウズ代表取締役社長の青野慶久を合わせた計5名で「どうすればカイシャは進化するのか」を考えました。

嘉村さんによるティール組織の解説はこちら。
ティール組織って何? 誤解されがちなポイントは?──第一人者 嘉村賢州さんに聞いてみた
チームワーク経営シンポジウム2019パネルディスカッションの様子

当日はキャンプをイメージした壇上で、パネルディスカッションが行われました

利益は「うんち」? 健康な会社なら自然と利益は出るもの

青野
青野
今回のシンポジウムのために、事前に「自分の組織は何色に属すと思いますか」と聞いてみたので、まずはその結果から見ましょうか。
ティール組織の中で、登壇者の皆さんはどの色に属するのか?
青野
青野
岡田さんは、まさかのレッド組織ですね!
岡田
岡田
真っ赤に燃えているんじゃないかな。正直、経営の右も左もわからない人間が集まって組織を回しているので。

3カ月後のお給料が払えるかどうかも不安だし、死に物狂いでやっている状態なんですよ。その上、経営者の私ほど経営に危機感がある人がほかにいないから、結局私がワンマンでやってしまう。
岡田武史さん

岡田武史(おかだ・たけし)。株式会社今治.夢スポーツ代表取締役会長。大学卒業後、古河電気工業に入社し、サッカー日本代表に選出。引退後はクラブサッカーチームコーチを務め、1997年に日本代表監督となり史上初のW杯本選出場を実現。Jリーグでのチーム監督を経た後、2007年から再び日本代表監督を務め、10年のW杯南アフリカ大会でチームをベスト16に導く。中国サッカー・スーパーリーグ、杭州緑城の監督を経て、14年11月四国リーグ(現 JFL)FC今治のオーナーに就任。日本サッカー界の「育成改革」、そして「地方創生」に情熱を注いでいる

青野
青野
なるほど。一方、塚越さんはグリーン組織ですね。
塚越
塚越
ええ、私は社員をファミリーだと思って経営しているので。たとえば家族にできの悪い息子がいるとしても、簡単に家族から追い出しはしないでしょう。会社も同じです。

そもそも「会社」は、優秀な人材だけが集まる場ではないんです。それよりも社員のたった一度の人生を、できる限り幸せにする責任が会社にはありますから。
塚越寛さん

塚越寛(つかこし・ひろし)。伊那食品工業株式会社最高顧問。原料の海草の価格に大きく左右される相場商品だった寒天の安定供給体制を確立し、寒天の成分を活用した医薬、バイオ、介護食といった新商品開発に取り組んで新たな市場を開拓。48年間連続で増収増益という金字塔を打ち立てる。黄綬褒章のほか、日刊工業新聞社による最優秀経営者賞など受賞(章)多数。著書に『いい会社をつくりましょう』(文屋)、『リストラなしの「年輪経営」』(光文社)、『幸せになる生き方、働き方』(PHP研究所)などがある

崔
会社として利益を出しながら、なおかつ社員の幸せな人生を叶えるのは、素晴らしい考え方だと思います。ですが、実現するとなると難しいですよね。
青野
青野
塚越さんが書かれた『リストラなしの「年輪経営」』に僕の大好きなフレーズがあるんですよ。「利益はうんちです」という言葉です。

僕も「利益は搾りカスだ」と思っているんですが、改めて塚越さんの考えを詳しく教えていただけますか?
塚越
塚越
あまりに世間が利益第一主義だから、皮肉をこめて「うんち」なんて言い方をしたんです。要は、健康な体であれば毎日自然と出るものだ、ということ。出そうとすると、逆に出なかったりね。

利益はあくまで結果。だから、まずは「健康な会社」を目指すといいと思うんですよ。
青野
青野
なるほど。うんちが出ていない場合は、体に問題があるかもしれない、と。

現代でティール組織を実現するのは難しい? 

崔
今回のテーマ「新しいカイシャとティール組織について語ろう」について、気になっていることがあるんです。

現代でティール組織を実現するのは難しいのではないでしょうか。

結局私たちがいま、効率のために自分を殺して働かないといけないのは、働き方や制度にかなり依存しているような気がして。
嘉村
嘉村
まさにその通りで。ラルーさん(*1)は現行の社会でティール組織を実現することを、馬車の時代に車が走っているようなもの、と例えています。

道路が舗装されていないから、便利な車があっても走りにくいし、スピードも出しにくいんですね。いまはどうしてもグリーン組織やオレンジ組織のほうが利益をあげやすい。

*1)フレデリック・ラルー。『ティール組織』著者。

嘉村
嘉村
ただ、ヨーロッパでは会社法を変えた地域もあります。「雇用者と雇用主という関係ではなく、全員が出資者となるような、法人の概念を変えよう」という運動が起こっているんです。
嘉村 賢州さん

嘉村 賢州(かむら・けんしゅう)。場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome's vi代表理事。コクリ! プロジェクト ディレクター(研究・実証実験)。京都市未来まちづくり100人委員会元運営事務局長。集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する。その中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、日本で組織や社会の進化をテーマに実践型の学びのコミュニティ「オグラボ(ORGLAB)」を設立、現在に至る。『ティール組織』(英治出版)解説者

青野
青野
つまり、状況に応じて最適な組織形態は違うということですよね。悪いと思われがちなレッド組織も、必ずしもそうではないと。
嘉村
嘉村
誤解されがちなのですが、ラルーさんは「どの色が正解」という言い方はしていないんですよ。
崔
私は、むしろレッドも素晴らしい特徴のある形態だと思うんです。
青野
青野
どうしてですか?
崔
以前、再生ファンドが入った企業の社外取締役をしていたころは、悠長なことを言っていられないと思ったんです。企業再生に死に物狂いなので、あくまで主観ですが、レッドと感じる組織形態を取っていました。

いい悪いではなく、どこのステージにいるかでふさわしい形態を考えていけばいいと思います。
崔 真淑さん

崔 真淑(さい・ますみ)。株式会社グッド・ニュースアンドカンパニーズ代表取締役。2016年に一橋大学大学院にてMBA in Financeを取得。2018年より同大学の博士後期課程に在籍。研究分野はコーポレートファイナンス。新卒後は、大和証券SMBC金融証券研究所(現 大和証券)に入社。アナリストとして資本市場分析に携わり、当時最年少の女性アナリストとして、NHKなどの主要メディアで経済解説者に抜擢される。2012年独立後、経済学を軸に、経済ニュース解説、経済・資本市場分析を得意とするエコノミスト・コンサルタントとして活動

ティール組織では幸せになれないのかもしれない

岡田
岡田
そもそも「社員がティールを求めているのか?」という問題もあるでしょう。

以前、社員面談で「私はこの会社にずっと勤めたい。新たなものを生み出すスタートアップみたいな組織は向いていないかもしれない」と話した社員がいたんです。

「主体性」や「自由」はいい言葉に聞こえるけれど、「自分で何か考えてつくりなさい」と言われるのがプレッシャーになる人もいる。

人によって、ティール組織では幸せになれないかもしれない。淡々と安定して暮らしていくことが幸せな人もいるんですよね。
塚越
塚越
そうですよね。淡々と暮らしていく上では、現状維持ではなく、「末広がり」がいいと思うんですよ。
年輪経営を目指す塚越会長
岡田
岡田
なるほど、少しずつですか。
塚越
塚越
先細りしていく企業に希望はないでしょう。だんだんとよくなっていくことにこそ、夢はあるんです。

わたしの会社はこの50年間ずっと右肩上がりですが、そういうことをずっと考えて経営してきましたね。

離職率が高いとか、会社の雰囲気が悪いことは、体でいえば病気のメッセージ

青野
青野
ティール組織を望む人がいるのと同じように、レッド組織を望む人もいます。オレンジ組織が働きやすい人に、ティール型を押し付けたら重荷になるのかもしれません。
岡田
岡田
サイボウズはユニークな組織ですよね。そもそもなぜ「100人100通りの働き方」という考えにたどり着いたんですか?
青野
青野
実際に会社を経営していく中で、幸せの形は人によって違うとわかったからですね。

会社を立ち上げたばかりのときは、「社員はみんな一攫千金を目指してガツガツ働くことが好きな人たちだ」と思っていたんです。でも、実際にはバタバタと倒れたり、辞めていったりしてしまった。

サイボウズの離職率は、一番ひどいときで28%でした。その状態を目の当たりにして、「もしかしてこのテンションで楽しみながらずっと働けるのは、俺だけなのかな」って。それから社員の様子を伺うようになったんですよね。
青野慶久

青野慶久(あおの・よしひさ)。サイボウズ株式会社 代表取締役社長。大学卒業後、松下電工(現パナソニック)を経て、1997年サイボウズを設立。2005年に代表取締役社長に就任し、現在はチームワーク総研所長も兼任している。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を7分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。また2011年から事業のクラウド化を進め、売り上げの半分を超えるまでに成長。総務省、厚労省、経産省、内閣府、内閣官房の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)がある

嘉村
嘉村
よく「階層をなくしたらティール組織になる」と勘違いしている人がいるんですが、そうではありません。

大切なのは、経営していく中で生まれる歪みのようなものを対処すること

それを繰り返していくうちに、結果として階層がなくなってティール組織のような形が生まれるかもしれない、ということなんです。
青野
青野
ティールを目的にしてはダメなんですね。
嘉村
嘉村
そうです。離職率が高いとか、会社の雰囲気が悪いのは、人間の体でいえば、病気のメッセージですよね。

そこで、「なんで体調が悪いんだろう」と耳をすませば、「もっと働く時間を短くしたほうがいいのかな」と解決策が思いつく。

だから、組織の痛んでいるところを見逃さず、柔軟に変化していくことこそが、組織として進化していく上で重要なことなのかな、と思いました。
青野
青野
それを聞いて、ティールの説明にあるヨットの絵を思い出しました。はじめて見たときに「え、めっちゃしんどいやん」って思ったんですよね。
ティール組織を説明するヨットの絵
青野
青野
ヨットに乗っている限り、風が吹かないときや荒波のときなども、場面に応じて対処しないといけないわけです。

一見楽しそうに見えるけど、常に五感を研ぎ澄まして、何が問題かを察知する。それができない限り、ティール組織は難しいんだなって思ったんですよ。
嘉村
嘉村
ティール組織では「未来は予測できる」とか「人は指示をすれば動く」といった価値観を手放そう、という考え方をします。ただ、そのためには、全員が考えて成長し続けなければいけない

だから安定はしないんです。カオスも含めて旅を続け、その中で存在目的を果たしていく、という世界観なんです。ティールにはティールの苦労がもちろんあります。
岡田
岡田
カオスが人を成長させるという面もありますね。

スポーツの世界だと、すでにある程度習得していることを繰り返すよりも、複雑な練習も取り入れながら選手が自ずと気づける環境をつくるほうが、彼らの成長にとっては大切だと思っています。すべてがスムーズなことが幸せとも限らないですからね。

利他が最上位の幸せ? 自分で仕事を見つけてやっていく中で、気づきや成長がある

塚越
塚越
幸せの形は人それぞれ、という話はありましたが、私が人間の幸せの最上位にあるのは「利他の幸せ」だと信じています。誰かに「ありがとう」と言われるようなことをする。
青野
青野
「利他の幸せ」でいうと、伊那食品工業さんは、東京ドーム2個分ある「かんてんぱぱガーデン」という庭園を社員の方々が整備しているじゃないですか。

地域や訪れる人たちのために何かをする点では、利他で運営していますよね。
チームワーク経営シンポジウムでティール組織を語る登壇者
塚越
塚越
広い敷地ではありますが、担当する場所などは一切指示しないんです。命令されるとおもしろくないからね。

自分で仕事を見つけて進めていく中で、気づきや成長がある。誰にも指示されずに動く。そういう意味では、ティールの考え方も入っていますね。
嘉村
嘉村
まさにそうですね。業務を標準化しようとしない。
青野
青野
塚越さんのお話を聞いていて、利益を出すことは大事だけど、もっと高い視点が大事なんだなと思いました。

人間本来の幸せや利他の精神が利益を包括していることが、結果としていい組織を生み出しているのかな、と。

ただ「その幸福を追い求めよ」と指示されると、つまらなくなっちゃう。だから、いかにその人の主体性や積極性を引き出していくか、これが重要なんですね。
文:園田もなか/編集:松尾奈々絵(ノオト)/撮影:小野奈那子
<パネルディスカッション・後編へ>
「個人が会社を使うという働き方はおもしろい」──ホリエモンと新しいカイシャを議論したら、生き方の話になった
「株主といっしょに作る」株主総会は、本当に実現できませんか?──カヤックCEO柳澤さんとサイボウズで議論してみた
役員のボーナスの一部が、株主のさじ加減で決まるのはアリですか?──株主と会社の理想の関係について議論してみた

約500人の日報をすべて読み、社内情報を把握しまくる社員に心底驚いた話

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「新しい働き方」「自由な働き方」「働きやすい会社」──。ここ数年で、世の中でよく聞くようになった言葉たち。サイボウズも「働きやすい会社」として取り上げていただくことがあります。

そして、実際に中にいるとなかなか気づかないのですが、サイボウズには、転職してきた人やお付き合いのある企業の方々が思わずびっくりしてしまうような「ちょっとおかしい」会社の常識があるようです。

「働きやすい会社」には、世の中の常識からちょっと外れた、その会社ならではの少しおかしいアタリマエが存在するのかも……? 

そんな常識を少しずつ紹介していく連載、「働きやすい会社のヘンなところ」。第4話は、情報共有が進んだ会社で起きる、「情報の多さとの向き合い方」についてのお話です。

第4話:情報が多すぎて見つけられない……。そんなとき、救世主が現れた!

マーケティング部の大林さんに声をかけられる細野さん。大林さんが細野さんの日報の内容を知っていて、細野さんは驚く サイボウズの徹底した情報共有に感心する細野さん。資料を作ろうとするが、製品ロゴを見つけられずに困ってしまう 情報が集約されているのはいいけれど、見つけたい情報が見つからないこともあると悩む細野さん。そんなとき、篠原さんが「社内チャットに書き込んで見てはどうか」とアドバイスする。 社内チャットに書き込んだ瞬間に、欲しい情報が届き驚く細野さん。それを見た篠原さんは「この会社には情報キュレーターが存在する」と教える。 自主活動で社内の情報を収集してキュレーションする社員が存在することに、またまた感心する細野さんなのであった

「情報キュレーター」なる存在のありがたさ

サイボウズでは、さまざまな情報が社内で共有されています。経営会議の議事録に、全社員の日報、売り上げ情報に各製品のプロモーション戦略……。いつでも知りたい情報にアクセスできることは本当に便利なのですが、すべてを追いきれないのもまた事実。見つけたい情報がどこにあるかすぐに思い出せず、イライラしてしまうこともあります。 そんな中で、それら社内の膨大な情報を追いかけ、整理してインプットしている「情報キュレーター」が一定数存在しています。「困った!」とグループウェア上で呟くと、すぐに適切な情報を見つけ出してくれ、中には社員約500人全員の日報を毎日読んでいる人も……。そういった存在が、情報流通をより活性化してくれているのです。 情報がフラットに共有されている企業において、「キュレーター」は今後必要とされていく役割なのかもしれません。 (つづく) マンガ:山里將樹 企画編集:明石悠佳
「長時間労働と定時退社の社員が仲良く仕事」なんて、あり得ないと思ってた
「転職先、会話が少なくて寂しい……」と思いきや、オンラインがにぎやかだった
「会社でモヤモヤしたことを言いづらい……」とためらっていたら、同僚に一喝されてしまった

「管理職って別にいらなくない?」マネジャーを廃止した開発本部に、給与評価や異動の仕組みを聞いた

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160人の組織でマネジャー職を廃止。マネジャーじゃなくなった人たちはどこへ?

たくみ
たくみ
組織変更したら部長がいなくなりました」という記事を読みました。

サイボウズの開発本部では「お客様に届ける価値を最大化すること」を目的に組織変更をした結果、マネジャー職を廃止されたそうですね。
岡田
岡田
はい。職種ごとのミッション達成を追うのではなく、各職種が連携できるような体制にしたかったんです。
たくみ
たくみ
とはいえ、サイボウズの開発本部って160人のメンバーがいるんですよね。マネジャーがいなくなると大変なような……。

ネットでは「もともとマネジャーだった人はどうなるの?」「給与評価はどうするの?」といった声があがっているので、今日はその辺についてじっくり伺っていきたいと思います。
岡田
岡田
よろしくお願いします! そもそも、なぜ多くの組織ではマネジャーが必要なのだと思いますか?
岡田さんの写真1

岡田勇樹(おかだ・ゆうき)サイボウズ 開発本部副本部長。2007年に新卒でサイボウズに入社。エンジニアとして「サイボウズ Office」や「kintone」の開発に携わる。2014年にマネジャーとして大阪開発拠点の立ち上げを主導。その後は大阪だけでなく東京や松山も含めた開発本部全体のマネジメントを担当。

たくみ
たくみ
え、えーと……。
岡田
岡田
なかなか難しいですよね。私も以前マネジャーをしていましたが、マネジャーの業務ってすごく多岐に渡るんです。

マネジャーは1人で承認作業や予算決め、人材のケア、部署間の異動の対応などをしなければいけません。
たくみ
たくみ
マネジャーってやることがたくさんあって大変ですよね。
岡田
岡田
たぶんマネジャーがやらなくていい仕事もあると思っていて。

「マネジャーが消えた」ということにフォーカスされがちですが、どちらかというと最高の製品を届けるために「マネジャーの役割を分散した」というのが近いのかなと思います。
たくみ
たくみ
マネジャーの役割を、分散……。
岡田
岡田
具体的には、それまでマネジャーが行なっていた出張申請や経費の支払い申請などは各チームで決定するようになりました。

出張の承認とか、正直チームメンバーが承認したほうがスピーディーに動けると思いませんか?
岡田さんの写真2
たくみ
たくみ
そう言われてみれば……とはいえ、給与評価などは各チームでは行えないですよね?
岡田
岡田
そうなんです。そこで、給与評価や組織づくりなど、各チームではまかなえない部分に関しては、「組織運営チーム」をつくって対応しました。
たくみ
たくみ
組織運営チーム……。
岡田
岡田
ネット上で「もともと部長だった人たちはどこへ行ったの?」という声がありましたが、もともとマネジャーをやっていたメンバーのほとんどは今この「組織運営チーム」にいます。
元部長たちは組織運営チームへ のスライド
たくみ
たくみ
ぱっと見ると、マネジャーだった人たちが「組織運営チーム」に移っただけのイメージなのですが、どのようなメリットがあるのでしょうか?
岡田
岡田
マネジャーだった人たちをチームにすることによって、マネジャーたちの中でもおたがいの得意不得意をカバーできるようになったんです。

マネジャーの中にも組織づくりが好きな人、採用戦略を考えるのが好きな人、成長支援をするのが好きな人などいろいろいます。

いままでマネジャーがいろいろな役割を一人で背負っていたのを、マネジャーをチームにしたことによって、よりおたがいの強みを活かせる組織になりました。

マネジャーがいなくなって、給与評価は正当にできるんですか?

岡田さんの写真3
たくみ
たくみ
お話を伺っていると、マネジャーが廃止された代わりに、これからは「組織運営チーム」が給与評価の役割を担うということですよね。

ちょっと気になるのが、評価です。上司が直接メンバーを見ていたときと比べて、きちんと評価はできるのでしょうか?
岡田
岡田
給与評価は、マネジャーがやる場合と組織運営チームでやる場合とでそんなに結果は変わらないと思います。
たくみ
たくみ
えっ、なぜそう言い切れるんでしょうか?
岡田
岡田
給与は「社外価値」と「社内価値」の二軸で判断しているのですが、社外価値は客観的に決まるものですし、社内価値に関しても社内SNS上でメンバーの貢献が見えるので、特に心配はしていないですね。
たくみ
たくみ
詳しく聞かせてください。
岡田
岡田
まず、社外価値は「あなたが転職したらいくら?」という市場価値で決まります。

たとえば「20代・東京勤務のエンジニアで○○のスキルがある人=だいたいこの金額レンジ」という相場があるんです。
たくみ
たくみ
それなら、上司が評価する場合でも組織運営チームが評価する場合でも金額に差は出なさそうですね。社内価値はどうでしょう?
岡田
岡田
社内価値は「その人はどんな役割で、チームにどう貢献してくれているのか」という観点ですよね。

情報がオープンになっていない会社だと社内価値の評価が難しいかもしれませんが、サイボウズの場合はキントーンという社内SNS上で、メンバーが日々の活動の様子を発信してくれています。

こんなふうにメンバーが分報形式でつぶやいてくれているんですよね。
社内SNS上の分報のキャプチャ

分報のイメージ。

たくみ
たくみ
おお…みなさん発信量がすごいですね。
Twitterのようにメンバーの活動報告がタイムラインに流れてくるキャプチャ

キントーン上のタイムライン。

岡田
岡田
そうなんです。Twitterのような感じで、メンバーの活動の様子が流れてきますね。

日報も分報も、全社員に見えるようになっています。
あるメンバーの日報のキャプチャ

日報のイメージ。

たくみ
たくみ
めっちゃオープンに業務内容が書かれている……。
岡田
岡田
はい。なので社内SNSを見れば「この人はチームでこんな貢献をしているんだな」というのがなんとなくわかるんです。
たくみ
たくみ
なるほど。サイボウズでは「オンライン上で情報共有をオープンに行なっているから評価がしやすい」という側面があるのですね。

ただ……いままでは直属の上司が自分を評価をしてくれることで納得感が得られた面もあると思うんです。

ところが、今後は組織運営チームという、ふだん自分があまり深く関わらない人たちに給与評価を決められるわけですよね。「モヤモヤする」という人も出てくるんじゃないですか?
岡田
岡田
それはもちろんあると思います。その場合は、組織運営チームにそのモヤモヤをぶつけてもらえればと思っています。
岡田さんの写真4
たくみ
たくみ
給与評価に納得できない場合は、声をあげればいいと。
岡田
岡田
はい。サイボウズには「質問責任」と「説明責任」と呼ばれる考え方があります。

モヤモヤを抱えている人はきちんと適切な人に質問して解消しなければいけないし、質問された人はそれにきちんと答えなければいけないという文化があるんです。

サイボウズの場合はそもそもキントーン上で自分の希望給与を宣言することもできますし、
給与希望アプリのキャプチャ
岡田
岡田
堂々と給与交渉をし、給与アップに成功しているエンジニアもいるぐらいですから、そこに関してはあまり心配していないですね。
たくみ
たくみ
そういえば、前にそんな記事が話題になっていましたね!
岡田
岡田
給与に関して大事なのは「本人の納得感」だと思っています。「給料額=自分がどれだけ評価されたか」と受け取る人もいれば、金額にあまりこだわらないメンバーもいる。

「上司が評価していたときとズレは出てこないのか」という声はメンバーからも上がっているので、本人とは半期に1回は報酬面談などでコミュニケーションをとりつつ、必要に応じてチームへのヒアリングなども実施して判断材料を集める予定です。

組織運営チームとしては、一人ひとりとの対話を通して、互いに納得感のある状態に近づけていければと思っています。

マネジャーとの個人面談も撤廃。これからは好きな相手と1on1

たくみ
たくみ
評価に関しては納得しました。とはいえ仕事をしていたら、ちょっと悩んでマネジャーに相談したいときもあるじゃないですか。そういう時、みなさんはどうされてるんですか?
岡田
岡田
IT企業だと「1on1」と呼ばれる面談があり、マネジャーとの個人面談を毎週設定しているところが多いですよね。
たくみ
たくみ
そうですね。
岡田
岡田
サイボウズにも「ザツダン」と呼ばれる1on1の時間があって、いままではマネジャーと1on1する時間を設けていたのですが、マネジャー職を廃止した後は「好きな相手と1on1していいよ」というルールになりました。
たくみ
たくみ
じ、自由……!なぜこのような仕組みにしたのでしょうか?
岡田
岡田
うーん、そもそもマネジャーが1on1する必要ってなくないですか?
腕を組んで考える岡田さんの写真
たくみ
たくみ
言われてみれば、なんでマネジャーとやるんだろう……
岡田
岡田
相談内容によって相談したい相手って変わってくるじゃないですか。

チームに関する相談であればチームメンバーに相談したほうがいいし、キャリアのことだったらそういうのに詳しい人に相談すればいい。

チーム内の事情にあまり詳しくない上司に相談しても、意味がないときもありませんか?
たくみ
たくみ
た、たしかに……。
岡田
岡田
サイボウズでは「自立」を重視しているので、「悩みがあれば相談する相手を自分で見極めて、行動してください」という方針ですね。

とはいえ、それぞれが好き勝手に1on1しだすと、「Aさんが悩んでいてつらそう」という情報を組織運営チームがキャッチしづらくなるので、1on1で話した内容はアクセス権をかけて、キントーン上のアプリ上に溜めるようにしています。
1 on 1アプリのキャプチャ
たくみ
たくみ
ここでもキントーンが使われているんですね。

それにしても、「悩みがあったら自分で相談する相手を判断してスケジュールを設定してね」というのはちょっとハードルが高い気が……。
岡田
岡田
サイボウズでは自立している人を採用していますし、すでにメンバーは働き方も自分で決めているので、大丈夫だと思います。

考えてみると「毎週マネジャーとの面談が自動で設定されている」というのはすごく楽ですよね。

「1on1の相手を自分で選んでね」というのは一見自由に見えますが、「誰かに決めてほしい」という受け身な人にとっては厳しいと思います。

部署間の異動は個人の自由。魅力的なチームには魅力的な人が集まる

岡田
岡田
ちなみに、開発本部ではチーム間の異動も自由になりました。マネジャーがいなくなったので、当事者同士で話をつければOKです。
たくみ
たくみ
えっ。異動って人事部や上司が決めるイメージなのですが、サイボウズなら「私、あなたのチームに異動したいです」「いいよ!」で異動が決まるということですか?
岡田
岡田
はい。厳密には、自分が現在所属しているチームと、異動したいチームの両方で合意が取れればOKですね。そこにマネジャーは介入しません。
たくみ
たくみ
なんと。
岡田
岡田
サイボウズでは、異動を会社間での「転職」と同じようにとらえていて。働く本人が強く希望するのであれば、会社側はそれを無理に引き止める権利はないと考えているんです。

異動したいチームに交渉した結果、「異動」になったり「兼務」になったりするのですが、自分の役割に変更があれば、キントーン上のスレッドに書いて終了です。
異動が決まった後に社内SNSに報告しているキャプチャ

自分で異動の交渉をした後は、社内SNS上で報告をする。(イメージ図)

たくみ
たくみ
めっちゃライトだ……

でも、みんなが好きなチームに異動できたらだいぶカオスになりませんか? 人気のあるチームにはすごく人が集まって、人気のないチームには人がいなくなる、とか……。
岡田
岡田
鋭い!まさに、そこがいいところだと思っているんです。
たくみ
たくみ
どういうことですか?
岡田
岡田
ライトに異動できるようになることで、社内にも市場原理が生まれると思っていて。

「人が足りないから誰か異動してきてほしい!」と思ったとしても、自分たちのチームが魅力的じゃないと来てくれなくなるということですよね。だから、マネジャーが介入していたときより「もっといいチームにしよう」という自覚が生まれると思うんです。
たくみ
たくみ
そういう発想になるんですね(笑)。
岡田
岡田
もちろん「このチームは最低○人必要」というのはあるので、もし足りない場合は組織運営チームが介入する場合もあるかもしれませんが。

人員の募集も、自分たちでキントーン上にスレッドを立てて、全社員が見えるところで募集をする形式になりました。
社内SNSのキントーン上であるチームのメンバー募集が行われているキャプチャ
たくみ
たくみ
人の募集も全社にオープン……!たしかにマネジャーが異動の調整をしていると、この市場競争性は生まれないですね。
岡田
岡田
はい。異動の調整がシンプルになり、「逆にいままでなんでマネジャーが介入してたんだろう?」とすら思うようになりました(笑)

もちろん、すべての異動がすぐに叶うわけではありません。状況によっては「あと1ヶ月だけ待ってほしい」という場合もあります。

それでもなるべく本人の希望を叶えられるように調整して、OKであれば1ヶ月後には正式に異動になるイメージです。
たくみ
たくみ
うーん、すごい。

管理職がいなくても、自立したメンバーと情報共有の仕組みがあれば組織は回る

岡田さんの写真5
たくみ
たくみ
これまでいろいろ伺ってきましたが、「管理職」と一括りにすることなく仕事内容を細かく分解して分け合うことができれば、マネジャーなしでも組織は回る気がしました。
岡田
岡田
まだ始めたばかりですが、意外といけそうな気がしますよね(笑)。

そもそも、なぜこれまで管理職が必要だったかというと、マネジャーしか持っていない情報が多かったからだと思うんです。
たくみ
たくみ
マネジャーしか持っていない情報……。
岡田
岡田
サイボウズの場合はメンバーの自立性に加えて、キントーンを使ってあらゆる情報をオープンに共有しているので、管理職を廃止してもそこまで問題がなかったのかなと思います。

実は今回の組織変更もキントーン上でオープンに議論しながら進めたんです。

「本部という枠自体から考え直したい」「異動やキャリアに対して部長が権限を持ちすぎている」などさまざまな意見が出ました。
オープンに議論されているキャプチャ1

実際に議論された内容

たくみ
たくみ
これ、全社員にオープンな場で議論されてるんですよね?すごい......。
岡田
岡田
キントーン上で案を出すと、いろいろなひとがコメントをくれてブラッシュアップしてくれるんです。
オープンに議論されているキャプチャ2

実際に議論された内容

岡田
岡田
ふつうだったらこういう組織変更って開発本部のトップと人事だけで内密に決めると思うのですが、サイボウズではその過程すら全社員にオープンにしていて。

情報をオープンにしていて、メンバーも自立している組織であれば、管理職がいなくてもうまく回るんじゃないかなと思います。
たくみ
たくみ
なるほど。とてもおもしろい取り組みなので、もし何か進捗があればまた取材したいです。
岡田
岡田
ぜひぜひ。もともとはお客様に届ける価値を最大化するための組織変更なので、「やっぱりマネジャーがいたほうがよかったよね」となっている可能性もありますが(笑)。

これからもお客様に最高のサービスを届けられるように頑張って行きたいと思います。
たくみ
たくみ
本日は、たくさんの質問にお答えいただきありがとうございました!
執筆:たくみこうたろう/編集:熱田 優香/撮影:二條 七海
サイボウズ副社長山田と岡田さんサイボウズの開発本部がマネジャーをなくしてみた「いないと無理なら、またつくればいい」
社内コミュニケーションを円滑にするキントーンの詳細はこちら

日本では「美学」を大切にしすぎるんですよね──「勝つこと」もいい組織に必要な条件

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「ティール組織=全員が幸せになれる組織」とは限らない──主体性や自由がプレッシャーになる人もいる

不健康の辛さを知っていたから、「利他の精神」が身についた

青野
青野
まずは、たくさんの方から来ていた「塚越さんのような経営者になるにはどうすればいいのでしょうか」という質問です。

塚越さんは、今のような利他の精神や、社員の方々を家族だと思って大切にする考えをもともとお持ちでしたか?
塚越
塚越
いやいや、生まれつきの性格ではないですよ。私は17歳から3年間、肺結核でずっと入院して、思春期の間は寝ていないといけなかったんです。

その辛さを知っているから、他の人にはできる限り優しくしたいと思うようになりました。そして社員にも「他人に『ありがとう』と言われるような、利他の精神をもちなさい」と伝えてきました。
話している塚越さん

塚越寛(つかこし・ひろし)。伊那食品工業株式会社最高顧問。原料の海草の価格に大きく左右される相場商品だった寒天の安定供給体制を確立し、寒天の成分を活用した医薬、バイオ、介護食といった新商品開発に取り組んで新たな市場を開拓。48年間連続で増収増益という金字塔を打ち立てる。黄綬褒章のほか、日刊工業新聞社による最優秀経営者賞など受賞(章)多数。著書に『いい会社をつくりましょう』(文屋)、『リストラなしの「年輪経営」』(光文社)、『幸せになる生き方、働き方』(PHP研究所)などがある

最初から利他の精神をもった人だけを採用していたわけではないんですね。
塚越
塚越
そうですね。僕がずっと言っていくうちに、社員にも少しずつ考え方が浸透してきました。自分の考えがブレなかったのが良かったのかな、と思っています。
青野
青野
シンポジウムの前半では、塚越さんから「人生一度きり」という言葉が何度か出ていました。17歳からの3年間が、塚越さんの死生観をつくったんですね。
塚越
塚越
社内の作業環境をしっかり整えて、健康診断も必ず行ってもらうのも、社員に病気になってほしくないからです。

病気だけではなく、事故にあいにくいよう、営業所は閑静な住宅街においています。

作業効率としては悪いかもしれないけど、社員の安全を守るためには絶対に必要なことなんです。それに、そこまで考えあげたら、社員も「この会社のために」と思ってくれるでしょう。
青野
青野
なるほど。社長の利他の精神が、社員の利他の精神を引き出しているんですね。

業績が下がっている会社の経営者ほど、お付きの人がゾロゾロやってくる

青野
青野
次に崔さんに「イケてる社長とイケてない社長を見分けるのはどうすればいいのでしょうか」という質問がきています。
経営者の「モラル」と「利益」のバランス感覚が大切だと思います。経営者のバランスを見るために、いろいろなポイントがありますが、私が注目しているのは、社外取締役です。

アメリカの研究で、「S&P500」という米国株式市場に組み込まれている上場会社の社外取締役の94%が、CEOの同級生や元同僚だったり、友達チームだったと結果が発表されています。同時に、その仲良しの度合いが高いほど企業価値がよろしくないという話があります。

社外取締役は取締役の1票をもっているので、はっきり言ってうるさい存在じゃないですか。そのポジションにあえて仲間や友人ではなく関係ない人を置いているのは「自分を律することができる経営者」だと判断する材料になります
話している崔さん

崔 真淑(さい・ますみ)。株式会社グッド・ニュースアンドカンパニーズ代表取締役。2016年に一橋大学大学院にてMBA in Financeを取得。2018年より同大学の博士後期課程に在籍。研究分野はコーポレートファイナンス。新卒後は、大和証券SMBC金融証券研究所(現 :大和証券)に入社。アナリストとして資本市場分析に携わり、当時最年少の女性アナリストとして、NHKなどの主要メディアで経済解説者に抜擢される。2012年独立後、経済学を軸に、経済ニュース解説、経済・資本市場分析を得意とするエコノミスト・コンサルタントとして活動

青野
青野
社外取締役を置いてないサイボウズとしては耳が痛い話ですね。
すみません。もちろん、全部に当てはまる話ではないですよ。
青野
青野
経営者が厳しい環境に自分をおく覚悟がないとやれないぞ、と。
あとはあくまで個人の経験談ですが、番組などで経営者とご一緒するときに、業績が下がっている会社ほどお付きの人がゾロゾロと多くて、うまくいっている会社ほど少人数で来る印象です。それも自己顕示欲の表れなのかな、と。
青野
青野
なるほど。こういう「俺すごいんだぞ」とアピールするような経営者って、組織の色でいうと何色なんでしょうか。
嘉村
嘉村
アンバーやオレンジが当てはまると思います。要は、このふたつは地位を表明することで統率しやすくなる組織です。

指示を誰にあおげばいいのかわからないと現場が混乱するので、明らかに上であると示さないといけないんでしょうね。
話している嘉村さん

嘉村 賢州(かむら・けんしゅう)。場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome's vi代表理事。コクリ! プロジェクト ディレクター(研究・実証実験)。京都市未来まちづくり100人委員会元運営事務局長。集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する。その中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、日本で組織や社会の進化をテーマに実践型の学びのコミュニティ「オグラボ(ORGLAB)」を設立、現在に至る。『ティール組織』(英治出版)解説者

いい組織には「美学」と「勝利」のどちらも必要

青野
青野
岡田さんに、シンプルながら鋭い質問が届いています。「“いいチーム”ってなんでしょうか。絶対に必要な条件はありますか」。
岡田
岡田
「美学」と「勝利」どちらも追い求めることですかね。サッカーには「勝ち負け」があるから、それを前提に考えないといけない。「勝つ」のはいい組織に必要な条件のひとつです。

ただ、日本では美学を大切にしすぎるんですよね。たとえば、「武士は食わねど高楊枝」という言葉があります。「いや、食わないと戦えないでしょ」と個人的には思うんですが、なぜか現実よりも美学を重んじてしまうんですね。
話している岡田さん

岡田武史(おかだ・たけし)。株式会社今治.夢スポーツ代表取締役会長。大学卒業後、古河電気工業に入社し、サッカー日本代表に選出。引退後はクラブサッカーチームコーチを務め、1997年に日本代表監督となり史上初のW杯本選出場を実現。Jリーグでのチーム監督を経た後、2007年から再び日本代表監督を務め、10年のW杯南アフリカ大会でチームをベスト16に導く。中国サッカー・スーパーリーグ、杭州緑城の監督を経て、14年11月四国リーグ(現 JFL)FC今治のオーナーに就任。日本サッカー界の「育成改革」、そして「地方創生」に情熱を注いでいる

岡田
岡田
ブラジルW杯のときに、選手がカメラの前で「俺たちのサッカーやります」と、口をそろえて言っていたんですよ。それを見ながら、「ああ、やばいなあ」と思って。

当時監督をしていたザッケローニに会って食事をする機会があったので、「ああいうことを言っているときはよくないぞ」と言ったら、怒って帰っちゃった。
青野
青野
ははは。
岡田
岡田
W杯に負けたあとザッケローニから「お前が言っていたことはわかった。でもな、まさかW杯で死に物狂いで戦わないやつがいると思うか?」と言われたんです。

「俺たちのサッカー」が大事なのはいいけど、死に物狂いで勝たないといけないんですよ。「俺たちのサッカー」には、口にはしていない「だから負けてもしょうがない」という言い訳がついている。

いいチームは、当然美学やポリシーをもっていないといけない。しかし同時に結果も出さないといけないんです。

どっちかなら誰だってできる。なので、両方を追ってはじめて「いいチーム」といえるのかな、と。

組織で必要なのは、ホワイトパワーで自立して、モチベーションを上げていくこと

塚越
塚越
それは会社も同じですよね。「幸せだ」と言っていても、会社が倒産してしまっては意味がない。

試合に勝つような条件が会社にも必要なんですよ。ただ、そういう中でも最も大切なのは「人生の幸福」だと忘れてはいけないと思うんですよね。

それが社員のモチベーションにつながります。やる気と言ってしまうと月並みですが、たとえばティールも、そのための組織形態ですよね。
岡田
岡田
そのモチベーションが、主体的にうちから湧き出るモチベーションか、周りから煽られて上がるモチベーションのふたつがあると思っていて。

たとえば日本がホーム以外のW杯で戦ってベスト16にいったのは、僕と西野朗さんのときだけ。どちらも、周りから叩かれて叩かれて湧き出てきた、ブラックパワーなんです。

一方、ヨーロッパの南西のチームは「僕らは勝つのが好きだ」と言う。これホワイトパワーなんですよ。

ブラックパワーは強烈なエネルギーだけど短期的。長期的に見れば、日本人がホワイトパワーで自立して、モチベーションを上げていく必要があると思います。
青野
青野
たしかに憎しみの場合、その強烈なパワーをずっと保つのは難しいですもんね。
話している青野

青野慶久(あおの・よしひさ)。サイボウズ株式会社 代表取締役社長。大学卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年サイボウズを設立。2005年に代表取締役社長に就任し、現在はチームワーク総研所長も兼任している。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を7分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。また2011年から事業のクラウド化を進め、売り上げの半分を超えるまでに成長。総務省、厚労省、経産省、内閣府、内閣官房の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)がある

岡田
岡田
だから組織にとって大事なのは、自立した選手を育てること。「監督があんなことを言ったから」と他人のせいにしがちだけど、プレイも人生も、自分で選べるんですから。
青野
青野
いやあ、おもしろいですね。モチベーションが2種類ある、というのは新たな発見でした。

主体的に出てくるモチベーションをどう引き出していくのか、これは考えていく必要がありそうです。
文:園田もなか/編集:松尾奈々絵(ノオト)/撮影:小野奈那子
「個人が会社を使うという働き方はおもしろい」──ホリエモンと新しいカイシャを議論したら、生き方の話になった
「株主といっしょに作る」株主総会は、本当に実現できませんか?──カヤックCEO柳澤さんとサイボウズで議論してみた
役員のボーナスの一部が、株主のさじ加減で決まるのはアリですか?──株主と会社の理想の関係について議論してみた

上司の「信頼している」は余計なお世話。マネジャーは責任を取って任せるだけ

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メンバーは思うように動いてくれないし、仕事をどの程度任せればいいのかわからない。マネジャーがどのように振る舞えばいいのか、正解はどこにあるんだろう。三越伊勢丹に勤める神谷友貴さんも、初めてのマネジャー業に悩んでいるお一人。

今回は、マネジャーに関する本を出版予定のサイボウズ副社長・山田理と神谷さん、そしてONE JAPAN発起人・代表の濱松誠さんを迎えて、マネジメントのヒントを探ってみました。

「信頼してる」って言葉はすごく一方通行。余計なお世話なんじゃない?

山田 理
山田 理
神谷さんは、いまマネジャーの立場でどんなことに悩んでいるの?
神谷 友貴
神谷 友貴
メンバーに仕事をどれくらい任せるかです。

いまは丸ごと仕事を任せているか、任せるというより一緒にやる形になるか、どっちかに偏ってしまっていて。バランスが難しいなと。
なやんだ眼差しの神谷友貴さん

神谷友貴(かみたに・ゆき)。株式会社三越伊勢丹に新卒入社。2年間婦人服の販売に従事したのち、婦人服のアシスタントバイヤーを3年経験し、百貨店事業本部MD戦略部MD政策ディビジョンに異動。現在はデジタル事業部新規事業ディビジョンカリテにてマネジャーの職務についている。濱松さんが代表を務めるONE JAPANにて富士通担当者と出会ったのをきっかけに、ドレスレンタルサービス「CARITE(カリテ)」のトライアル検証を2018年8月に銀座三越でスタート。

山田 理
山田 理
自分が責任を取るかどうかを考えるといいかもしれないね。

成功したらメンバーのおかげ、失敗したら自分の責任と考えると、放任の仕方が変わるんですよ。
手を合わせながら説明する山田を見ている神谷さんと濱松さん
神谷 友貴
神谷 友貴
どう変わるんですか?
山田 理
山田 理
自分が責任を取るなら、メンバーがどんな手順で仕事をしているのか、自然と気になるようになる。

そうすれば、マネジャーは情報が共有されやすい状態をつくる必要が出てくるよね。
濱松 誠
濱松 誠
でも、信頼関係がないとオープンに情報をやりとりするコミュニケーションって難しいですよね?
山田 理
山田 理
「信頼してる」って、すごく一方通行な話じゃない?

僕も以前は「信頼が大事」ってめっちゃ言っていたけど、相手にしてみたら、余計なお世話かもしれない。
手を胸のまえで動かしながら説明している山田理

山田理(やまだ・おさむ)。サイボウズ 取締役副社長 兼 サイボウズUSA(kintone Corporation)社長。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、責任者として財務、人事および法務部門を担当し、同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年からグローバルへの事業拡大を企図し、米国現地法人立ち上げのためサンフランシスコに赴任し、現在に至る。

濱松 誠
濱松 誠
なるほど。相手を受け入れるのは大事だと思うんですが、受け入れるだけですか?

たとえば、何か間違った方向に行こうとしている人には「それは違うよ」と言ったりは。
山田 理
山田 理
言うには言う。でも、正解なんて誰もわかんないよね。だからマネジャーが共有した内容を、チームメンバーが取り入れるかどうかは自由だと思う
濱松 誠
濱松 誠
ふむふむ。
山田 理
山田 理
だからそれを踏まえて、「正す」じゃなくて、自分の意見を伝えるようにはしているよ

「隣の人が何をしているのか」は知っておいた方がいいの?

山田 理
山田 理
それにチームメンバーが間違った方向にいっちゃうのは、チームで情報が共有されていないことが原因だったりする。

マネジメントする立場の人に伝えたいことは、ただひとつ。情報共有が大事だということ。
神谷 友貴
神谷 友貴
大企業だと「隣の人が何をしているのか知らない」というのはよくありますよね。
体を使いながら説明する神谷さん
濱松 誠
濱松 誠
あるある!
神谷 友貴
神谷 友貴
マネジメントをする側としては、みんながどんなことをしているか、どのくらい知らせたほうがいいのかを悩んでいます。「周りの人の仕事を知らなくていい」という人も多いですよね。
山田 理
山田 理
うちの会社でも、人数が増えて、部署間に壁があるという話があって。
濱松 誠
濱松 誠
サイボウズでも?
山田 理
山田 理
あるある。サイボウズはキントーンを使って、全部のチームやプロジェクトの情報をオンラインで共有してるから、全部の情報をキャッチするのは無理なんだよね。

すると、誰かと話したときに、知らない情報が出てくる。そのときに「壁があった」と感じるみたい。
神谷 友貴
神谷 友貴
そうですよね。
山田 理
山田 理
でも、その情報って全員に必要な情報じゃないことが多い。だから、知りたければ取りにいける状態にすることが大切なのかな、と。

その情報を選ぶかどうかはその人次第だから、基本は一人ひとりに任せておけばいい。
神谷 友貴
神谷 友貴
オープンにすることが大事なんですね。
山田 理
山田 理
そうそう。「共有」より「オープンな場に情報を出しておく」と言った方が正しいかも
神谷 友貴
神谷 友貴
情報をオープンにするのは、すぐに実践できそうです。

各現場の人たちそれぞれが情報を持っているはずだから、「チームとして情報をオープンにしよう」と、私が一言声がけしてみます。

オンラインのやり取りだけでOK? コミュニケーションは一度窓口を開通するのが大事

濱松 誠
濱松 誠
山田さんは情報を共有するにあたって、オンライン、オフラインツールをそれぞれどの程度使うのか、バランスは意識していますか?
積極的に語っている濱松誠さん

濱松誠(はままつ・まこと)。1982年京都府生まれ。大学卒業後、2006年パナソニックに入社。海外営業、インド事業企画を経て、本社人材戦略部に異動。グループ採用戦略や人材開発を担当。2012年、若手主体の有志団体「One Panasonic」を立ち上げ、組織の活性化やタテ・ヨコ・ナナメ・社外の交流に取り組む。2016年には同社初となるベンチャー企業(パス株式会社)への派遣人材に抜擢。同社家電部門にて、IoT家電事業の事業開発に従事。現在、ONE JAPAN共同発起人・共同代表。

山田 理
山田 理
めちゃくちゃしてますね。僕は人との距離感を知るときに重要なのが、オフラインの場での情報量だと思っていて。

オンライン上だと、表情や空気感、リアクションの様子、熱量などがわからないでしょう。実際に会えば「この人とはこの距離でいよう」って無意識で感じるじゃないですか。
濱松 誠
濱松 誠
うんうん、わかりますね。
山田 理
山田 理
その距離感をつかんだ後に、オンラインに移ってます。
濱松 誠
濱松 誠
どちらが先かって言ったら、もちろんオフラインが先と。
山田 理
山田 理
そう。それで「ザツダン(サイボウズで実施している、1on1ミーティング)」をした全員に、個別メッセージでメモを送るようにしてる。話題に上がった悩みややりたいこと、言いたいこととかを箇条書きにしてね。

すると、次のザツダンでそのメモを見ながら相手と話すことができるでしょ。それを繰り返していくと、ダイレクトメッセージが相談しやすい窓口にもなる。
神谷 友貴
神谷 友貴
なるほど。
山田 理
山田 理
このコミュニケーションがハマる人とハマらない人がいるのは当たり前だけど、話しかけやすいように、まずは個別の窓口を開通するのが大事だと思うんだよね。
濱松 誠
濱松 誠
複数人の場合はどのようなコミュニケーションをとっていますか?
山田 理
山田 理
人数によるけど、いまアメリカだと40人くらいのチームに、マネジャーが5人。週1で、会議と朝礼をしていて。

アメリカだと半分のメンバーがオフライン、もう半分がオンラインでの参加だけど、40人全員に一人一言ずつは何か話すようにしてる。

ベースのコミュニケーションはオンラインだけど、オフラインを混ぜることでオンラインがより活性化するんだよね。

書き込まないのはその人の自由。だから「味わう」しかない

濱松 誠
濱松 誠
なるほど。でも、どうしてもオフラインの距離感がオンラインにも出ると思っていて。

1日5回書き込む人がいる一方、1週間で1回しか書かない人もいますよね。それはマネジャーとしてどうしたらいいですかね?
山田 理
山田 理
……。
真剣な眼差しの山田
山田 理
山田 理
味わう。
柔らかい表情で話す山田の言葉を楽しそうに聞く二人
山田 理
山田 理
書かないのは、その人の価値観だから。書き込んだほうがいい理由があれば、書き込むだろうしね。
濱松 誠
濱松 誠
そのやりとりを味わうしかないと。
山田 理
山田 理
そうそう。無理やり人を動かそうとすると、強制力が働いて一方通行のコミュニケーションになるでしょう
神谷 友貴
神谷 友貴
いままで私も周りの人に「こうしてほしい」と押し付けていた部分もあるかも……。
山田 理
山田 理
みんなが一つの方向を向くことは大切だけど、カリスマ性のあるリーダーがいなくなった瞬間、そのチームは簡単に崩れるよね。

だからこそ、マネジメントを大衆化していくことが必要じゃないかな。
濱松 誠
濱松 誠
マネジャーの仕事の一つとして大きく言えるのは、その状況をまず受け入れることなんですね。
山田 理
山田 理
受け入れることと、知るってことだよね。自分を知ってもらうこと、そこに対してよいか悪いか判断するのは、その人次第だから。
>(つづきます)

文:中森りほ 編集:松尾奈々絵(ノオト) 撮影:小野奈那子 企画:明石悠佳

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「理想の働き方」を見つけたいインターン生が、サイボウズ社員約500人を徹底的に調べてみた

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「自分に合った会社を選びたい。でも、自分に合った働き方や会社がまだピンとこない……」

就職活動をするうえで、多くの学生がこのように考え、悩みます。サイボウズ式の記事を作るインターン生も、同じような悩みにぶつかる人がほとんど。

リモートワークや時短勤務、複業など、一人ひとりが自分に合った働き方を選択するサイボウズ。そんな環境にいるインターン生はこんなことを思いました。

「サイボウズ社員全員の働き方を調べてみて、その働き方を選択した理由を聞いてみたい。そうしたら、自分に合った働き方を見つけるヒントが得られるのでは?」

サイボウズには、社員が働き方を自由に決められる「働き方宣言制度」があります。今回はインターン生が、サイボウズの社員約500人の働き方宣言をリサーチし、仕事への向き合い方のヒントを探りました。

サイボウズ社員約500人の働き方を調べてみた!

山口
山口
サイボウズには、「働き方宣言制度」という制度があるじゃないですか。一人ひとり、自分で働き方の詳細を自由に決めて宣言できるっていう。
自由すぎる……! サイボウズが最近はじめた新しい「働き方制度」について聞いてみた
柳下
柳下
ありますね。
山口
山口
これ、本当に自由に宣言できているんですかね。みなさんが実際にどんな働き方を選択しているか、気になりませんか?
鈴木
鈴木
たしかに気になる……。
佐藤
佐藤
kintone(キントーン)上の各社員さんのプロフィールページに飛べば、その方の働き方宣言が見られるようになっているって聞きました。
津川
津川
え、そうなんですか! 全員分知りたい!
津川
津川
せっかくなので全員調べましょうよ!
山口
山口
うーーん。大変だけどたしかに調べてみる価値はありそう……。やりますか!
……ということで、インターン生チームは1週間ほどかけて、全社員約500人分の働き方宣言を徹底リサーチすることに。

週3勤務、早朝出勤、リモートワークはしない、見えてきた多様な働き方

山口
山口
や、やっと終わった……。
佐藤
佐藤
思ったより大変でしたね……。みなさん、本当に働き方がバラバラなんですね。せっかくなので、ユニークな働き方をしている方をシェアしていきませんか?
柳下
柳下
そうしましょう!
佐藤
佐藤
私が気になった方はこちらです。とても細かく時間を宣言されているのが印象的でした。
島口さんの働き方宣言。

経営企画部の島口さん。月曜日の午前7時半-8時半は在宅、金曜日は17時〜17時半の間に中抜けなど、かなり細かく働き方を宣言している

津川
津川
たしかに細かいですね。「習い事の送迎で中抜けする」など、日によっての事情も考慮したうえで柔軟に決めている。
柳下
柳下
7時半から8時半は自宅で働くなど、時間だけでなく場所も自由に選ばれているのも印象的です。
鈴木
鈴木
では次は、ぼくが気になった方を。
赤井さんの働き方宣言。

開発本部の赤井さん。残業や土日出勤など、緊急性を重視

鈴木
鈴木
とても緊急性にこだわっている。
山口
山口
いや、なんか思っていた報告と違う……(笑)。
鈴木
鈴木
こんな人もいましたよ。
山口さんの働き方宣言。

開発本部の山口さん。残業、土日出勤など「必要があれば」と、必要性を重視

鈴木
鈴木
とても必要性にこだわっている。
佐藤
佐藤
そのシリーズは何なんですか(笑)。
鈴木
鈴木
あとはこの方ですかね。
青田さんの働き方宣言。

開発本部の青田さん。リモートワークをする気はないと宣言

鈴木
鈴木
サイボウズではリモートワークができる環境が整っているけど、その気がまったくない人もいるのだなと。
山口
山口
リモートワークをする自由があれば、逆にしない自由もあるわけですよね
津川
津川
いろんな方がいておもしろいですね。私はこの方が気になりました。
本橋さんの働き方宣言。

運用本部の本橋さん。7時出勤の16時退社。顔出しNGのためいらすとやで対応

津川
津川
来るのも、帰るのも早い。
柳下
柳下
自分が効率よく働ける時間は人によって違いますもんね。
津川
津川
あとは、週3出勤の方もいました。
天野さんの働き方宣言。

アジャイルコーチの天野さん。週3勤務で月曜と金曜は複業

山口
山口
「週5で働くのが当たり前」と思っていたけど、それも個人の希望次第で変えられるんですね。
柳下
柳下
みなさんが挙げてくれた方は「いつ働くか」という部分を宣言されていましたが、「どこで働くか」を宣言されている方もいましたよ。

こちらの方は、完全に在宅で勤務されてるそうです。
高野さんの働き方宣言。

グローバル事業本部の高野さん。完全在宅勤務を宣言している

佐藤
佐藤
これはすごい……! サイボウズの中でも珍しいのでは。
山口
山口
最後は自分が報告しますね。こちらの方です!テレビリポーターの複業をしているようで、めずらしいなと思いました。
伊藤さんの働き方宣言。

カスタマー本部の伊藤さん。毎週水曜の午後、複業でテレビリポーターをしている。月に1,2回は有給を使ってロケに行っているらしい

佐藤
佐藤
働き方は自由だとわかっていましたけど、本当にいろんな方がいるんですね。みなさん、どうして今の働き方を選択しているのか気になる……。
鈴木
鈴木
年齢や部署、職種などもバラバラですし、いろんな理由がありそうですね。
佐藤
佐藤
せっかくなので、手分けして何人かに詳しく話を聞いてみましょう!

「子育てがあっても、仕事を諦めたくない」──完全在宅、高野さんの場合

津川
津川
働き方宣言を見て、ぜひお話を伺いたいなと思いました。現在の働き方について教えていただきたいです。
高野さんの働き方宣言画像。

高野さんの働き方宣言。月曜日から金曜日まで8時~17時半勤務。お昼休憩を1.5時間取得することなどが記載されている

高野
高野
朝の8時から夕方の5時半まで、ほぼ完全に在宅勤務という形で働いています。

ただ、上司と相談して、月に1回以上は会社に顔を出すようにしていますね。
テーブルに座り、取材に答える高野さん。

高野寛子(たかの・ひろこ)。 サイボウズ株式会社 グローバル事業本部 グローバル営業支援部 月1出社、完全在宅勤務で働き方を選択している。海外の営業グループのアシスト担当。時差があるため基本的に午前中はビデオ会議の参加、午後は手持ちのタスクを中心にデスクワークを行う

津川
津川
完全在宅も気になったんですが、お昼休憩を1.5時間取っている理由もなんでだろうと思っていました。
高野
高野
お昼休憩でいろいろとやりたいことがあったからです。私は子どもが2人いるのですが、夕飯を作ったりママ友とランチに行ったりしていると、1時間ではなかなか収まらなくて。
津川
津川
家庭との両立が理由だったんですね。在宅勤務も、そうした家庭のことを考えたからなのでしょうか。
高野
高野
そうですね。私は子どもが生まれるまでは、仕事をバリバリやりたいタイプだったんです。けど、生まれてからは考え方が変わり、仕事と子育てのバランスを大事にしたいと思うようになって。

1人目を出産した時は、通勤に往復3時間をかけて、毎日会社に通っていたんですけど……
津川
津川
それは大変……!
高野
高野
かなり体力的な負担が大きかったですね。そのため、2人目を出産する時に、「完全在宅で働く選択肢」を考えるようになったんです。
津川
津川
働き方を見直すタイミングだったんですね。
高野
高野
そうですね。育休中にじっくり考える時間がありましたし、会社の制度や風土がどんどん良くなっていたので、もしかしたらそういう選択肢もあるのかなあって。

周りの育休中の社員の人にも相談したら「いけるんじゃない?」っていう後押しをもらって、勇気を出して上司に言ったんです。そしたら、「是非チャレンジしてみよう!」と快く受け入れてくれました。
津川
津川
働き方を考える上で、子育てとキャリアの両立に不安を感じる人は多いと思います。完全在宅という働き方を実践してみて、今はどう思いますか?
高野
高野
仕事に自分の働き方を決められるのではなく、自分の人生の変化に合わせてどう働き方を変えていくかを考えられる環境が非常に大事だなと感じています

本当に柔軟に仕事をさせてもらっていて、子どもが1人で習いごとに通えるようになるまでは仕事を途中で抜けさせてもらうなど、変わりゆくライフステージに合わせて柔軟に働き方を変更させてもらっています。

そして決してキャリアを諦めるわけではなく、昔からの夢だった海外の仕事に携わることも、海外の営業チームのサポートという形で実現できています。

「みんなとは違う、自分の強みを磨きたい。」──複業でテレビリポーター、伊藤さんの場合

山口
山口
テレビリポーターというめずらしい複業をしているということで、伊藤さんにぜひお話を聞きたいなと思いました。

テレビリポーターの複業を始めたきっかけはなんだったんですか?
伊藤さんの働き方宣言

ローカルブランディング部、伊藤さんの働き方宣言。毎週水曜の午後、複業でテレビリポーターをしている。月に1,2回は有給を使ってロケにも参加している

伊藤
伊藤
テレビのローカル番組を見ていたら、募集を見かけたんです。サイボウズは複業オッケーだし、やってみようかなと(笑)。

サイボウズでも、テレビ番組制作の仕事をしたことがあったので、もともと興味は持っていました。
オンラインでお話を伺ったため、スクリーンに映っている伊藤さん。

伊藤佑介(いとう・ゆうすけ)。2011年新卒入社。サイボウズ松山オフィス勤務。契約窓口であるインフォメーションセンター、導入相談窓口を担当する。ダイレクトマーケティング部を経たのち、現在は兼務もありながら、地域プロモーションを担当。状況に応じてリモートワーク、ウルトラワークを活用し、昨年10月からはテレビリポーターとしての副業も始めている

山口
山口
そうだったんですね。サイボウズでは、どのようなお仕事をされているんですか?
伊藤
伊藤
ローカルブランディング部という部署で、サイボウズの地域に対するプロモーション活動を行っています。今までさまざまな認知度向上施策を行いましたが、中でも僕はテレビ番組の制作を中心に担当していました。
山口
山口
なるほど。でも実際に「応募しよう」と決断するにはかなりの勇気がいると思うんですが、そこまでできた理由は何なのでしょう……?
伊藤
伊藤
「人前で話すスキルをもっと磨きたい」という思いがあったためです。

僕は、大きな舞台で登壇して話すことをいずれはしてみたいと思っています。そこで用いるスキルを身につけるために始めました。
山口
山口
人前で話すスキル。たしかにリポーターの仕事で身につきそうです。
伊藤
伊藤
今のサイボウズの仕事でも多少は人前で話す機会はありますが、その経験だけではスキルを磨くのは難しいと感じました。そこで、リポーターに挑戦してみようと思ったんです。
伊藤さんのトークの様子

スタジオでの伊藤さん(後方真ん中)のトークの様子(あいテレビ(愛媛県)毎週水曜日夜7時スタート 『よるマチ!』より)

山口
山口
もともと人前で話すのは好きだったんですか?
伊藤
伊藤
はい。数年前まで、お客様からのお問い合わせ対応をしていたのですが、話を聞いて、お客様に合わせて会話をしていくのが好きで。

自分の強み、会社に貢献できる部分ってなんだろうと考えたときに思いついたのが、「話すこと」だったんです。
山口
山口
自身の「好きで得意なこと」をさらに伸ばそうと考えたんですね。
伊藤
伊藤
はい。僕は、専門スキルがない状態で新卒でサイボウズに入社したのですが、中途入社の方々は、知識や専門的なスキルのレベルが高かったんです。

そうした中で、みんなにはない自分のスキルを磨こうと思うようになり、その手段として選択したのが「複業」でした

「業務によって環境を変える」──午前在宅・午後出社。黒澤さんの場合

佐藤
佐藤
現在の働き方についてお聞きしてもよろしいですか?
黒澤さんの働き方宣言。

人事本部、黒澤さんの働き方宣言。午前は在宅で勤務し、午後は出社するという働き方

黒沢
黒沢
月曜日から金曜日まで、午前中は在宅、午後からは出社という形で働かせてもらっています。
佐藤
佐藤
なぜ、午前と午後で働き方がきっちり分かれているのでしょうか?
黒沢
黒沢
私はオフィス環境の改善、イベント運営といった業務をしているのですが、業務内容によってやりやすい環境を選んで仕事をさせてもらっています

自宅では主に、あまりコミュニケーションを必要としない、一人で黙々とやる作業をしています。何かのデザインや企画を考えるとかですね。

オフィスでは逆に、いろんな人とのやり取りが必要になる仕事をメインで取り組んでいます。社内を走り回る必要のあるものや、会議など。
取材に答える黒澤さん

黒澤久美(くろさわ・くみ)。2010年新卒入社。開発本部デザイングループを経たのち、人事本部アシストグループに異動。オフィス環境の改善やコミュニケーション促進、各種イベント運営などの業務を担当している。午前中に在宅、午後に出社という働き方を実践している

佐藤
佐藤
そうした働き方を選ばれた理由を教えていただきたいです。
黒沢
黒沢
私はもともと体調があまりよくなくって。以前は開発本部でデザインの仕事をしていて朝から出社して働いていたんですが、そのときは、体調が悪くても「頑張ればなんとかなるだろう」みたいなスタンスだったんですよね(笑)。

自分の体調が理由で午前中在宅にするとか、働き方を変えることに引け目を感じていました。

でも、今の人事部への異動が決まったタイミングで、「せっかくだから働き方もガラッと変えてみよう」と思い、今の働き方を選んだんです。
佐藤
佐藤
異動する前は、なんとなく働き方を選びづらかったんですか?
黒沢
黒沢
部署がどうこうではなく、その頃はテレビ会議やチャットツールも今ほど整備されていなかったので、在宅で働くことにまだハードルがあったんです。制度はあっても、うまく使いこなしている人は少なかったと思います。

今は、テレビ会議の精度もぐんと上がり、スマホから簡単にチャットもできるようになりました。なので、在宅での仕事もどんどん当たり前になりつつある気がしますね。
佐藤
佐藤
なるほど……! たしかに、在宅勤務をしている社員さんをよく見かけます。
黒沢
黒沢
やっぱり、環境と会社のメンバーの考え方が揃わないと、しっかりした制度があっても自由には選べないと思います。
佐藤
佐藤
自分にあった働き方を実現する上で、大事なことはなんだと思いますか?
黒沢
黒沢
働き出す前から自分にあったやり方がわかる人は、ほとんどいないんじゃないかな。

重要なのは、柔軟に働き方を切り替えることができる会社かどうか。そういう制度が整っている会社に入れば、将来、精神的に楽に働けるんじゃないでしょうか

「どう働きたいか」を考えると、「やりたい仕事」の選択肢が狭まりすぎてしまう

山口
山口
みなさん、いろんな方にお話を聞いてみて、どうでしたか?
津川
津川
これまで就職を考える時、仕事の内容ばかりを重視していたので、働き方を選択するという考え方はすごく新鮮でした。これからは「仕事で何をやりたいか」だけでなく、「プライベートをどうしたいか」も大切にしながら、いろんな軸で会社を見れそうです。
佐藤
佐藤
「何を」仕事にしたいかも大事ですが、無理なく働くために「どのように」働くかも大事ですよね。
山口
山口
伊藤さんの「会社のために複業をする」という考え方もおもしろかったです。複業は本業の時間を犠牲にしているというイメージもあったので。
柳下
柳下
私も働き方が選べるなら、週5じゃなくて週4で働いてみたい。

ただ、黒澤さんもおっしゃっていたように、「自分に合う働き方」を見つけるのは、実際に社会人になってからじゃないと難しくないですか?
インターン生の鈴木さんが会話をしている横顔。
鈴木
鈴木
だからこそ、就活で会社を選ぶときに、「入社後に働き方を柔軟に変えられるか?」を確認することが大事なのかも。
佐藤
佐藤
一方で、そんな会社がはたしてどれだけあるのかは疑問です……。
山口
山口
よく、「サイボウズだからできるんでしょ」とも言われますよね。
佐藤
佐藤
私は4月からサイボウズに入社します。もちろん理念にとても共感、納得して決めたんですが、他の業界も以前は見ていました。

そういう意味では、もっと「やりたいこと」としての選択肢もあったはずだなと。「自分の望む働き方」は大事ですが、そこを求めすぎると「やりたいこと」という選択肢が狭まり過ぎてしまうのが今の現実なのかもしれないですね
山口
山口
「やりたいこと」と「自分が望む働き方」の両方を実現できる会社がこれから増えてきたら、就活するうえで気持ちよく会社選びができそう。

そんな会社に、今後は学生の人気が集まってくるのかもしれませんね。
執筆・山口遼大/企画編集撮影・サイボウズ式インターンチーム
初公開! サイボウズの自由すぎる働き方はこんなやり方で管理されていた
「サイボウズはなぜ在宅勤務用PCまで支給するんですか?」情シスに聞いたら、理念へのこだわりがすごかった
「長時間労働と定時退社の社員が仲良く仕事」なんて、あり得ないと思ってた

「株価を上げたいなら、青野社長がTwitterをやめるべきです」──忖度一切なしで株主と議論してみた

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経営者と株主で、一体感を持ったチームになりたい「そうだ、から騒ぎをしよう」

山田
山田
こんにちは。株主総会のあとで、ちょっと疲れていますかね。いまから始めるのは「株主のから騒ぎ」です。

株主総会ってひな壇に経営陣が座って、株主と対峙するのが一般的ですよね。いかに守りあうのかという感じ。そうじゃなくて、「もっと一体感をもって、株主の方々とも話し合いたい。チームとしてやっていきたい」と思ったんです。

そう考えたときに「じゃあ、株主にもひな壇に上がってもおう」と。株主の方同士でも、サイボウズの課題について考えてもらって教えてほしいなと。

株主総会は終わってますからね! 青野さんとか僕に質問しないでくださいよ(笑)。
指揮棒を持って話しているサイボウズ山田

山田 理(やまだ・おさむ)。サイボウズ 取締役副社長 兼 サイボウズUSA(kintone Corporation)社長。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、責任者として財務、人事および法務部門を担当し、同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年からグローバルへの事業拡大を企図し、米国現地法人立ち上げのためサンフランシスコに赴任し、現在に至る

山田
山田
わたしと、今週、裁判で負けてボロボロの青野が、株主の方々と意見を交わしたいと思います。
青野
青野
今週月曜の敗訴ですべてを出し切ってしまった、社長の青野です。今日は率直にみなさんとお話しできるのを楽しみにしてきました。
山田
山田
そして、今回ご登壇いただく株主の方々、総勢7名です。
並んで座られている株主の方々

前列左から伊藤恵美子さん、中津川健二さん、井村俊哉さん、杉浦文吾さん、後列左から冨松由貴さん、山崎忠弘さん、田平貴洋さん

青野社長、Twitterやめませんか?

山田
山田
早速ひとつめのテーマにいきましょうか。「どうしたら株価って上がりますか?」です。
井村
井村
青野社長がTwitterをやめることですね。
青野
青野
は、はい。
井村
井村
社長さんがTwitterをやめたら株価が上がったZOZOの事例もありますし、反応はあると思います。
話している井村さん

井村俊哉さん。投資家。Tシャツも水筒もトートバックもサイボウズ商店で購入したグッズを使うサイボウズラバー。Twitter:@imuvill

山田
山田
いま株価が下がっていないのは、青野がつぶやいていないからかもしれないですからね。
井村
井村
投資家は「青野砲」がいつくるのか、ビクビクしているんです。
山田
山田
青野のツイートは、こちらをご覧いただきたいんですよね。
山田
山田
けっこう問題になりましたね。みなさんに言わなきゃいけないことがあるでしょう。
青野
青野
申し訳ございません。
苦笑いする青野
山田
山田
どういう意図でつぶやいたんですか?
青野
青野
このツイートを投稿する前の10日間くらいで、株価が50%くらい値上がりしていたんです。でも、特別ないい発表があったわけでもなかったので、理由もなくて、上がり幅も大きかった。

実はサイボウズは一度、同じことを経験しているんです。2005年の夏から年末にかけてものすごくあがって……。
山崎
山崎
13倍でしたね。
話している山崎さん

山崎忠弘さん。サイボウズの株主になって18年。サイボウズの株価の浮き沈みをすべて知る

山田
山田
ええ! いい株だったんですね。
青野
青野
でも特に大幅に上がる要因があるわけでもなく、結局ガクッと落ちてしまい、投資家の人たちにとってもよくない結果になってしまった。

そういう経験から、「実態の伴わない株価の上昇はよくないものだ」と知ったんです。だから株価が上がっているのをみて、「対抗手段を考えよう」とつぶやいてしまった。
座りながらマイクで話すサイボウズ青野

青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立した。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を行い、2011年からは、事業のクラウド化を推進。著書に、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない』(PHP研究所)など

山田
山田
対抗手段って、何か考えていたんですか?
青野
青野
いやー、まったくないです。いろいろ考えてはみたんですけど、具体的には何も思い浮かばなくて(笑)。
山田
山田
なかったんかい!(笑)
井村
井村
ちょっといいですか! 「上がりすぎていた」と言いますけど、当時840円くらいなんですよ。そんなもんじゃないですよ、サイボウズ! もっと堂々としていてほしかったですね。
山崎
山崎
株はこれからも値上がりして、いつかオーバーシュートすると思いますよ。でも、いずれ売る人が現れたら、鳥のむれが飛んでいくように、一斉にみんな売り始めて、最終的に適正価格に落ち着くものです。

だから社長はTwitterであんな余計なこと書いちゃダメよ。
青野
青野
はい、すみません。
山田
山田
ははは。株式総会よりも詰められてるじゃないですか。
井村
井村
Twitterは株価の話題にだけ触れなければいいと思いますよ。

サイボウズはちょっとダサいと思われている

山田
山田
さあ、「どうしたら株価って上がりますか?」というテーマでしたね。どうでしょう?
井村
井村
残念ながら、サイボウズさんは、ちょっとダサいと思われているところがあると思います。
山田
山田
え、どういうことですか?
井村
井村
中小企業が使うグループウェアというイメージが市場でも強いから、イケてる会社だと思われにくいんです。たとえばコーポレートロゴを変えるのはどうですか。
山田
山田
えええ、変えたばっかりなのに……!

(*編注)2015年にロゴを変えたばかりなんです。

創業18年目で企業ロゴを刷新、サイボウズ社長 青野慶久の意思決定と胸の内
井村
井村
あとは社名を「キントーン」にしたり、大きな刷新をして、会社の認知度を上げるのもいいと思うんですよね。
山田
山田
なるほどねえ。
中津川
中津川
わたしはその意見には反対ですね。日本は多くの中小企業によって成り立っているんですよ。でも、中小企業が使ういいシステムがない。なぜなら、日本のIT産業はプラットフォームが弱いから。

サイボウズにはプラットフォームを開発してほしいですね。誰でも安くて気軽に使えるシステムを販売したら、絶対に売れますよ。
話している株主の中津川さん

中津川健二さん。自社で15年前からサイボウズのソフトウェアを利用。それをきっかけに株式を保有。現在もっている株のなかでサイボウズが唯一値上がりしている

伊藤
伊藤
わたしは業績とか全然興味ないんです。わたしのような「業績を知らなくても株をもちたい」という会社のファンを増やせば、自然と株価も上がるのではないかと思うんですよね。

青野社長の考え方や活動が好きで、サイボウズという企業を信頼しています。Twitterの投稿も楽しみなので、やめないでほしいですね。
話している伊藤さん

伊藤恵美子さん。名古屋在住。一般参加OKに惹かれて昨年の株主総会に参加。そのときの雰囲気が楽しくて株主に

田平
田平
僕は株主初心者なので、あまり知識がないのですが、「株主優待」って世間的にも認知度が高いと思うんです。

サイボウズもユニークな株主優待を用意して、株主がメリットを享受できるようにしてはいかがでしょう。
teamworkmanagement2019-karasawagi-kara_10.jpg

田平貴洋さん。サイボウズの株主になったのはつい最近。株主総会自体、今回が初めて

山田
山田
ああ、たしかに株主優待はないですね。
山崎
山崎
昔はあったのよ。
山田
山田
え、なかったはずですよ?
山崎
山崎
なんか、変なバッグとか。
山田
山田
それは株主総会のお土産ですよ。変なバッグってなによ!
笑っている株主のみなさん
井村
井村
株主優待は、QUOカードとかじゃつまらないので、株主になれば、キントーンが使えるようになるのはいいと思います。株主でも使ったことない人が多いと思うので。
青野
青野
うん、グループウェアについては検討したいですね。売るほどありますから。

株主ともっと関わりたい、つまり「株主も働けや」ってことですか

山田
山田
次のテーマは「株主の役割について」。今まで、会社と株主は「株価を上げろ」とか「配当出せ」とか、叱咤激励をいただく関係性でした。

もっとチームとして、サイボウズのビジョンに近づく形で、株主とかかわっていけるのではないか、と。
井村
井村
つまり「株主も働けや」ってことですか。
山田
山田
せっかくオブラートに包んだのに……。
話している株主の井村さん。周りの株主も笑顔
杉浦
杉浦
それぞれでできる範囲でPRはできますよね。知人や友人に教えたりとか。
話している杉浦さん

杉浦文吾さん。13年前に株主に。株主総会に行くたびに、その楽しさに株を買い増ししている

山田
山田
たしかに、いま株主って1万人くらいいるので、みなさんが「サイボウズはいいらしいよ」って言ってくれるだけでもすごい効果ですね。
冨松
冨松
たとえば、株主ミートアップを月1回開催するのはどうですか。意見を聞ける機会を増やせば、もっといろいろなアイデアが出てくるかもしれない。
話している冨松さん」

冨松由貴さん。何社も株主総会に行った経験はあるが、サイボウズの株主総会が一番楽しかったため、買い増しをした

山田
山田
月1ですか! みなさん来られますか……?

客席にめっちゃ横に首を振っている方もいますね。
中津川
中津川
別に集まらなくていいんですよ。クラウドにすればいいじゃないですか。
山田
山田
たしかに。さすがサイボウズの株主ですね。発想が素晴らしい。
伊藤
伊藤
わたしはサイボウズの株主になってから、すごく楽しいですね。常日頃ウキウキしながら、いろんなことを考えるんだけど、周囲に株主がいないから共有できないんです。
山田
山田
伊藤さんはわざわざ名古屋から来てくださってますもんね。たしかに株主がもっと話せる場はあってもいいかも。
会場の様子オフィスのレセプションスペースに椅子が並べられ、数十名規模の人たちが登壇者の話に耳を傾けている

株主が「社外取締役」になるのはどう?

井村
井村
僕から、「株主の役割」について、ひとつ提案があるんですけど。
山田
山田
どうぞ。
井村
井村
社外取締役を株主から選ぶのはどうですか。同じようにリスクをとって、おまけに会社のことをこれだけ知っている第三者ってなかなかいないと思うんです。

株式の数で決めてしまうといやらしいので、たとえば株主フェスなどで株主同士バトルをして、1位になった人が社外取締役になれる、とか。
山田
山田
おもしろいアイデアですね。

社外取締役については、株主総会でも質問がありました。法で定められる前の時点で、社外取締役を入れる意思はありますか、と。
井村
井村
本当に社外取締役を入れる気あります?
山田
山田
それはもう、ありますよ!
井村
井村
入れずに、東証一部から降ろされるのは株主にとっても嫌なことだから、じゃあ、株主でやりたい人がやるのもいいんじゃないかな、と。
山田
山田
もしかして、いま立候補してますか?
井村
井村
ははは。やれるもんならやりたいですね。

社員は800人だけど、株主が加われば10倍になる

山田
山田
もう時間ですね。最後に言いたいことをどうぞ。
中津川
中津川
100年、200年続く長寿会社になって欲しい。それだけですね。
井村
井村
僕がただ一言言いたいのは、「好きです」ということ。
山田
山田
ははは。どきっとしましたよ。
指揮棒を差し向けながら笑っている山田。その傍らで青野も笑っている
杉浦
杉浦
サイボウズさんのグループウェアが、業界標準となって欲しいですね。
山田
山田
ありがとうございます、頑張ります。
田平
田平
わたしの周りだと働き方改革や青野社長で認識している人が多いので、商品の認識度を高めて欲しいですね。

今日は妻に子供の面倒を見てもらっているのですが、胸を張って良い時間を過ごせたと言えます。
山田
山田
ありがとうございました。そろそろ終わりの時間が近づいているようなので、最後に私から、今日一番輝いていた株主の方を「サイボウズ公認株主アンバサダー」に選ばせていただきたいと思います。

これは満場一致なのではないでしょうか……。サイボウズ愛の強すぎる井村さんです!
井村
井村
ありがとうございます!
山田
山田
サイボウズ以外の株もたくさん育ててください、ということで、カブの種が入っています。
井村
井村
……。うーん。種は返してもいいですか?
副賞とパネルを手にする井村さん。その横にサイボウズ青野と山田
山田
山田
アンバサダーの名刺をお渡ししますので、ぜひアンバサダーとして活躍してください。
井村
井村
ありがとうございます。
青野
青野
最後にわたしから一言。サイボウズの社員は800人ですが、株主の方に加わっていただければ10倍になる。そうすれば世界が変わるかもしれない。

今後とも、新しいカイシャの形をいっしょに考えていきたいですね。
山田
山田
株主のみなさんに、チームの一員だと感じていただけるよう、引き続き頑張っていきます。来年もよろしくお願いします。

そして、株主のから騒ぎ終了後……。

文:園田もなか/編集:松尾奈々絵(ノオト)、藤村能光/撮影:小野奈那子
「サイボウズの株価が上がらないのは、市場に嫌われているからですよ」と言う株主に、解決策も聞いてみた
「ティール組織=全員が幸せになれる組織」とは限らない──主体性や自由がプレッシャーになる人もいる
日本では「美学」を大切にしすぎるんですよね──「勝つこと」もいい組織に必要な条件

「楽しく働けない諸悪の根源はマネジャーだよね」――いい加減、昭和のマネジメントを抜け出そう

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「これからのマネジャー」について話すために集まったサイボウズ副社長・山田理と、現在マネジャーとして活躍する三越伊勢丹に勤める神谷友貴さん、そしてONE JAPAN発起人・代表の濱松誠さん。

前編では「成功したらメンバーのおかげ、失敗したらマネジャーの責任だと考える」「オープンな場に情報を出しておくべき」「無理やり人を動かそうとすると、強制力が働いて一方通行のコミュニケーションになってしまう」といった話題が広がりました。

そして鼎談が中盤に差し掛かったとき、山田の口からは「楽しく働けない諸悪の根源はマネジャーだよね」という言葉が飛び出しました。

経営陣と違って、与えられた状況のなかでやりくりするしかないマネジャーという立場。これからのマネジャーにはどんな心構えが必要なのでしょう。

マネジャーは「うちの会社ではこれが正しい価値観だ」と押し付ける存在

濱松誠
濱松誠
山田さんが出版予定の本の原稿、読みましたよ!  あれは売れますね。
山田 理
山田 理
ははは、ありがとう。濱松くんは『仕事はもっと楽しくできる 大企業若手 50社1200人 会社変革ドキュメンタリー』で、組織のチームワークについて書いていたよね。自分の本と重なっている部分を知りたいから、どんな内容か改めて教えてくれないかな?
濱松誠
濱松誠
もともと考えていた本のテーマは「会社を楽しく」でしたが、サイボウズの青野さんがおっしゃる通り、「カイシャ」は実在するものじゃない。 それなら、結局はどうやって楽しく仕事をするかが大事だと思い直して。
マイクを持つ青野と会場に集まる参加者「会社さん」は存在しない。変えるべきはそこにいる同じ人間──副業と会社についてサイボウズ青野社長と考えた

机に置かれた『仕事はもっと楽しくできる 大企業若手 50社1200人 会社変革ドキュメンタリー』

濱松誠
濱松誠
会社を辞めるという手もあるなかで、職場環境に閉塞感を抱いていたり、上司の悪口を言ったり、モヤモヤしながら残っている人が多いんですよね。 でも、会社に残るんだったら、悪口を言っていてもしょうがない。仕事で面白いことをやって、楽しく働こうよっていう提案をしています。
山田 理
山田 理
うんうん。
濱松誠
濱松誠
楽しく働く50人の奮闘を通して「どうやったら仕事を面白くできるか」「どうしたら顧客に価値が提供できるだろうか」といった悩みや、それに対する工夫、乗り越えてどうだったかを書いた実例集ですね。
山田 理
山田 理
僕、思うんだけど、楽しく働けない諸悪の根源はマネジャーだよね
語る山田と顔を向けて話を聞く濱松さん、神谷さん
濱松誠
濱松誠
んんん? どういうことですか?
山田 理
山田 理
もちろん経営者の場合もあるだろうけど、実際に職場で一番コミュニケーションを取るのはマネジャー。その人がどういう振る舞いや理解、行動をするかによって、組織の雰囲気は本当に大きく変わる。 マネジャーは結局、マネジメントや教育という言葉で「うちの会社ではこれが正しい価値観だ」と押し付けているだけだな、と。 「これってマネジメントとして正しいことなのか?」と疑問に思うようになったんだよね。
濱松誠
濱松誠
なるほど……。
山田 理
山田 理
それに、いまは働き方も多様化して、個人に焦点が当たるようになった。いろんな人がいるのに、「これがうちの会社の考え方だ」と、全く同じ価値観を押し付けるのは難しい。 これからの時代に個人がいきいき働くためには、価値観が昭和のままのマネジメントはダメだよね
濱松誠
濱松誠
人々が多様化して、マネジメントはさらに難しくなっていると。
山田 理
山田 理
結局誰もできひんやんっていう。世の中に一番多い役職はマネジャーだと思うんだけど、マネジメントって本当にすごく難しい。
神谷友貴
神谷友貴
本屋にもマネジャーの本はたくさんありますね。
山田 理
山田 理
そうそう。みんな悩んでる。そこで、たまたま「山田さん、本出しませんか?」と声をかけてもらったのもあって、このタイミングであらためて、マネジャーがどうあるべきか考えようということで、出版の企画がはじまったんだよね。

「上手くいかないのはマネジャーの能力不足?」決断できなければ「質問責任」を全うすることが大事

神谷友貴
神谷友貴
私は山田さんの本の原稿を読んで、マネジャーになってから悩んでいたことの答えを見つけられて。
真剣な眼差しで語る神谷さん

神谷友貴(かみたに・ゆき)。株式会社三越伊勢丹に新卒入社。2年間婦人服の販売に従事したのち、婦人服のアシスタントバイヤーを3年経験し、百貨店事業本部MD戦略部MD政策ディビジョンに異動。現在はデジタル事業部新規事業ディビジョンカリテにてマネジャーの職務についている。濱松さんが代表を務めるONE JAPANにて富士通担当者と出会ったのをきっかけに、ドレスレンタルサービス「CARITE(カリテ)」のトライアル検証を2018年8月に銀座三越でスタート。

山田 理
山田 理
うれしいですね。たとえば、どんなことですか?
神谷友貴
神谷友貴
いま、私が担当しているドレスレンタルサービスの「CARITE(カリテ)」を進行するにあたって、経営陣と投資についての判断をする必要があります。 経営陣と私の間に複数の上司がいるので、どうすればうまくやりとりや進行ができるのかを悩んでいました。
山田 理
山田 理
うんうん。
神谷友貴
神谷友貴
最初はなかなかうまくいかなかった。その原因は、担当マネジャーである自分の能力のせいだと思っていたんです。 でも、「上の人にうまく動いてもらう」という考えが足りなかったんだな、と本を読んで実感しました。 何かわからないこと、決断できないことがあれば、「判断で困っていることはありますか?」のように質問する「質問責任」を全うすることが大事なんだ、と
濱松誠
濱松誠
「質問責任」はいい言葉だよなー。
「会社でモヤモヤしたことを言いづらい……」とためらっていたら、同僚に一喝されてしまった

神谷友貴
神谷友貴
マネジャーだからといって、自分一人で決める必要はないし、私だけが悪いわけではないことを知れてよかったです。 山田さんの考えを知れば、世の中のマネジャーが、効率よく仕事を進めるための割り切りができるようになるだろうなと感じました。
山田 理
山田 理
マネジャー当事者の神谷さんに届いてよかった。

部下は上司に、上司は部下に歩み寄らなきゃダメ

山田 理
山田 理
知らないことを「知らない」と伝えるのも情報共有。マネジャー自身が「私はこれができない」と周りに共有するのは大切だよね。 そうすることで、その仕事が得意な人が「できる」と名乗り出てくるかもしれないし。
濱松誠
濱松誠
みんなが理解してくれればいいですけど、部下やメンバーから「あの人、やたら聞いてくるな」とか「あの人は努力もせず聞くばかりだな」とか、内心で思われそうじゃないですか? 個人的には、部下からもマネジャーの状況を理解して、双方が歩み寄らなきゃダメなのかなと。
左手を前に出しながら語る濱松さん

濱松誠(はままつ・まこと)。1982年京都府生まれ。大学卒業後、2006年パナソニックに入社。海外営業、インド事業企画を経て、本社人材戦略部に異動。グループ採用戦略や人材開発を担当。2012年、若手主体の有志団体「One Panasonic」を立ち上げ、組織の活性化やタテ・ヨコ・ナナメ・社外の交流に取り組む。2016年には同社初となるベンチャー企業(パス株式会社)への派遣人材に抜擢。同社家電部門にて、IoT家電事業の事業開発に従事。現在、ONE JAPAN共同発起人・共同代表。

山田 理
山田 理
それはあるね。松下幸之助の考えをまとめた『部下の哲学』と『上司の哲学』という本を知ってる? 昔は新人が入ったときに読んでもらってたの。
濱松誠
濱松誠
『上司の哲学』も新人に読んでもらうんですか?
山田 理
山田 理
そう。それで上司にも『部下の哲学』を読んでもらう。 両者に読んでもらって初めて「上司って結構大変なんやな」「部下はこういう風に思ってるのか」と気づけるんだよね。
濱松誠
濱松誠
いいですね。管理職研修を新人にも受けてもらったほうがいいですよね。

鎖をつけて塀を高くしてメンバーを出にくくすることは、マネジャーの仕事じゃない

濱松誠
濱松誠
山田さんはメンバーを鼓舞したり、モチベーションを上げたりもするんですか?
山田 理
山田 理
僕は「キャンプファイヤー」スタイルがマネジャーの理想だと思っていて。 マネジャーは、真ん中で、火を焚いて、歌い踊り続けることが大事。
 
並んで座り語り合う青野と山田アクセルを踏みたい社長とブレーキを踏みたい副社長──かみ合わなかったふたりは今、「会社さんなんていない」と思っている

濱松誠
濱松誠
ふむふむ。
山田 理
山田 理
マネジャーは「僕らはこういう目的があって、こういう風にやろうと思っている」っていう想いの火を焚くの。それで、何人集まろうが減ろうが、歌い続ける。 それでみんなが去っていくなら、所詮その火はその程度の火だし、それが良いものであればあるほど人は集まってくると思う。
濱松誠
濱松誠
なるほど。
山田 理
山田 理
メンバーを囲いに入れようと勧誘したり、鎖をつけて塀を高くして出にくくしたりすることは、マネジャーの仕事じゃない。 さらにいえば、役割を終えたら、火は消えてもいい。
濱松誠
濱松誠
目的は達成された、と。
山田 理
山田 理
そう。それなのに企業によっては、塀だけが残っているからって、火がないのに「誰が火を起こす?」 って押し付けあって、放火犯みたいに新規事業を起こしたり、経営者が鎮火したりしている。
神谷友貴
神谷友貴
うんうん、ありますね。
山田 理
山田 理
だから、マネジャーは現状のチームメンバーとどうするかが大事。 「この人がこうだったらいいのに」「成長させよう」なんて考えるのは、おこがましい。これは、自分がやってきての大反省でもある。
両手のひらを上へ向け語る山田

山田 理(やまだ・おさむ)。サイボウズ 取締役副社長 兼 サイボウズUSA(kintone Corporation)社長。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、責任者として財務、人事および法務部門を担当し、同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年からグローバルへの事業拡大を企図し、米国現地法人立ち上げのためサンフランシスコに赴任し、現在に至る

山田 理
山田 理
参加する人を操作せず「いいね!」と思われるようなキャンプファイヤーを続けることが大事なんじゃないかな。

うまくいかなかったら、「ごめん、会社!」でいい。

神谷友貴
神谷友貴
与えられたもののなかで、どこまでやれるかを考えるってことですね。
山田 理
山田 理
麻雀とかゲームもそう。配られたカードの中で、最高の手を尽くす。 どう楽しく生きるかっていうのは、ゲームと一緒だと思っていて。そのゲームをみんなが楽しめればそれでいいかなって。 うまくいかなかったら、それでいいじゃない。「ごめん、会社!」って。それくらい僕はサイボウズのために働いていない。
口を開け笑う山田
神谷友貴
神谷友貴
ノマドみたいな感覚ですね。
山田 理
山田 理
うん、ダメだったら、世の中で必要とされているところに行けばいいと思うよ。 でも、いま火を燃やしているのがめっちゃ面白いし、その火をもっと大きくしようと思っているからサイボウズにいるっていうだけで。
濱松誠
濱松誠
たくさん人が集まると、神格化されてしまうこともありますよね。 信者のような受け身スタイルではなく、能動的に参加してもらうためにはどうしたらいいんでしょう?
山田 理
山田 理
繰り返しになるけど、マネジャーが権限を持たないことだと思う。自分が物事を決めない。ただ歌い続ける。 あとはルールをつくったり、メンバーの意見にイエスやノーを言ったりしない。言うと神格化されてしまうからね。
濱松誠
濱松誠
なるほど。
山田 理
山田 理
ある意味、教祖的な組織があったことで世の中は変わったと思うし、組織を大きくしようと思ったら、権限を持ちたくなる。 自分で動いたほうが、組織の統制が取れて効率よく早く会社は大きくなるけれど、それはその人のエゴ。 みんながそのエゴに付いていって幸せだったらいいけど、いまそうじゃない人もたくさんいるじゃない。 だからこそパラダイムシフトというか、もう一回マネジメントや経営のあり方が問われる時代になっているのかな。
ジェスチャーを用い話す山田とそれを聞く濱松さん、神谷さん

文:中森りほ 編集:松尾奈々絵(ノオト) 撮影:小野奈那子 企画:明石悠佳

アクセルを踏みたい社長とブレーキを踏みたい副社長──かみ合わなかったふたりは今、「会社さんなんていない」と思っている
アメリカでも、カイシャが人を幸せにする方向に進んでいないのではないか──社長 青野×副社長 山田、海外に再挑戦する理由
マネジメントはいらない、論文数で評価しない──R&Dの理想を追求したサイボウズ・ラボは、こんな組織になった

「誰のせいにもしない」文化が、組織の多様化と問題解決を進めていく──熊谷晋一郎×青野慶久

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「障害者」ではなく「万能ではない人のうちの1人」でいられるチームがあった

青野 慶久
青野 慶久
今日は、熊谷先生と「多様な個性を生かす組織をつくるために大切なこと」をテーマにお話できたらと思っています。
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
よろしくお願いします。まず、脳性麻痺の当事者である私自身の経験を、ご紹介したいと思います。
真面目な表情の熊谷晋一郎先生

熊谷晋一郎(くまがや・しんいちろう)。東京大学先端科学技術研究センター准教授/医師。1977年山口県生まれ。新生児仮死の後遺症で、脳性麻痺に。以後車いすでの生活となる。東京大学医学部医学科卒業後、千葉西病院小児科、埼玉医科大学小児心臓科での勤務、東京大学大学院医学系研究科博士課程での研究生活を経て、現職。専門は小児科学、当事者研究。

青野 慶久
青野 慶久
ぜひ、聞かせてください。
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
私はこれまで十数年、小児科医として病院に勤務していました。そして研修医時代に配属された1年目と2年目の職場では、「働きやすさ」に大きな違いがあったんです。
青野 慶久
青野 慶久
どんな違いがあったんでしょう?
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
未熟な小児科研修医にとっての最初の壁のひとつは、赤ちゃんの採血です。親御さんからのプレッシャーがあるなかで、暴れる赤ちゃんの細い血管に注射針を刺さなければなりません。

はじめは誰もが失敗をするものですが、車椅子に乗っている私の「失敗のインパクト」は他の研修医よりも大きい。当然、親御さんからの申し出で、担当を外されることもありました。

同期たちが失敗を糧に技術を磨いて一人前になっていくなかで、私は焦りと失敗の悪循環に陥ってしまったんです。
青野 慶久
青野 慶久
その状態は、つらいですね。
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
私が失敗すると、次第に「熊谷にやらせてはいけない」という空気になっていきます。

私のように障害がある者が、医療現場でチャレンジすること自体が利己的すぎるのではないか。1年目の職場では、私自身も自分を説得できずにいました。
青野 慶久
青野 慶久
2年目の職場では、変化があったんですか?
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
はい。2年目の配属先はたいへん忙しい病院でした。ここでも自分は使い物にならないだろうと、小児科医をあきらめることも考えていたんですが、実際に働き始めると、予想外の展開が起きたんです。
青野 慶久
青野 慶久
ほう。
熊谷先生の話に興味津々な青野慶久"

青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立した。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を行い、2011年からは、事業のクラウド化を推進。著書に、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない』(PHP研究所)など。

熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
上司も同僚もとにかく忙しいので、現場を回せる人を1人でも増やすために、「熊谷を早く一人前にしたい」と思ってくれていたんでしょうね。

採血ができない私に「1000本ノックだ!」と苦手を克服する環境を与えてくれ、1ヶ月後には当直も任せられるようになりました。
青野 慶久
青野 慶久
素晴らしいチームですね。
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
その病院では、みんな「正しいやり方」にこだわりすぎず、おたがいの癖や弱点を知ってそれらを即興的に補い合う、柔らかなチームワークを築いていたんです。

たとえば、私は口で注射器をくわえるので、看護師さんたちは独自のフォーメーションを組んでくれます。
口で注射器をくわえていた熊谷先生の研修医時代の写真
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
目に見える障害のある私に限らず、誰にも得意なこと、苦手なことがあり、万能な人はいない。私はそのチームのなかで、「障害者」ではなく、「万能ではない人のうちの1人」に自然となっていたんです。

「失敗を減らしたければ、失敗を許容しなければならない」

熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
1年目と2年目の職場では、一体何が違ったんだろうか? 学問の世界に身を置くようになって振り返ったときに、気づきがありました。

それは、「失敗に対する考え方」の違いです。
前のめりになって熊谷先生の話を聞く青野
青野 慶久
青野 慶久
くわしく教えてください。
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
私は障害のある人の就労を考えるときに、「高信頼性組織研究」という分野の知見を参考にしています。それは、たとえば病院や原子力発電所など「失敗が許されない組織」で、いかに失敗をゼロにできるかという研究です。

この学問でわかっていることは、「失敗を減らしたければ、失敗を許容しなければならない」ということでして。
青野 慶久
青野 慶久
逆説的ですね。
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
「失敗の原因を個人に帰属し、犯人探しをして罪を償わせる」という発想だと、人は失敗を隠すようになってしまいます。すると個人も組織も、せっかくの学習の機会を奪われ、結果、失敗を繰り返すようになる。失敗は唯一の学習資源ですから。

大事なのは、失敗が起きたときに、個人に原因を押しつけるのではなく、「組織全体に帰属し、何が悪かったのか」をみんなで研究すること

そのように、失敗を許容して学習を最大化する文化を「ジャストカルチャー」と呼んでいます。
淡々と話される熊谷先生
青野 慶久
青野 慶久
2年目の職場には、ジャストカルチャーがあったんですね。

マニュアルに沿うのではなく、その瞬間に集中することが大事

青野 慶久
青野 慶久
くわえてもうひとつ、1年目と2年目の職場では、目的と手段の優先順位が違うんじゃないかと感じました。
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
ああ、まさに。
青野 慶久
青野 慶久
2年目の職場は、忙しいからこそ「熊谷先生に独り立ちしてもらう」という目的が大事だった。一方で、1年目の職場では、「正しい手段」を求められていたのではないでしょうか。
手を大きく動かしながら尋ねる青野
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
おっしゃるとおりです。明確な目的の共有と、柔軟な手段の組み合わせは、障害者支援でもっとも大事なことのひとつだと思います。

私が1年目に何度も読んだ採血マニュアルには、「正しい手段」しか書かれていません。ことごとく私の身体ではできないことばかりで、本当に困りました。
青野 慶久
青野 慶久
ええ、ええ。
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
でも2年目、採血という動作は「要するにどのような目的を達成するべきものか」を考えなおし、「安全かつ短時間で採血できれば、手段は多様であっていい」と思えたことで、注射器を口でくわえるという独自のスタイルに行き着いたわけです。

平均値でつくられているマニュアルではできないことも、目的を重視すれば、手段を柔軟に変えることができる。すると、障害者にも居場所ができるんです。
冷静に話される熊谷先生の後ろ
青野 慶久
青野 慶久
目的よりも手段を重んじる組織では、マニュアルから逸れて問題が起きたときに、ブレイクスルーできないですよね。

経営も同じで、平均値のマニュアルで語られることは必ずしも「正解」ではありません。ビジネスの現場でも、マニュアルに沿うのではなく、その瞬間に集中することが大事だと思います。
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
高信頼性組織のもうひとつ重要なキーワードは「マインドフルネス」です。思い込みのバイアスを消して、今起きていることに五感を研ぎ澄ます。マニュアルは、目的によっては捨てることもできるんですね。
青野 慶久
青野 慶久
これは、どんなチームにも欠かせない視点ですね。
真剣な表情で話進める二人

「見えやすい障害」と「見えにくい障害」があり、後者を研究する必要がある

熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
個人の多様性を考えたときに、障害には「見えやすい障害」と「見えにくい障害」があります。

誰もが生きやすい社会にするには、「見えにくい障害」をいかに研究するかが大事なのではないかと思っています。
青野 慶久
青野 慶久
見えにくい障害、ですか。
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
たとえば私の場合は、車椅子に乗っているので「見えやすい」障害です。誰もが、規格外であることがわかる。

見えやすい障害のある人は、満員電車で舌打ちされたり、排除されやすかったり、大変さがある一方で、表現コストを節約できる。

社会のなかでどんな困りごとを抱えていて、どんな手立てが必要なのか、言葉で伝えなくても察してもらうことができるんです。
青野 慶久
青野 慶久
たしかに、お会いした瞬間に障害をお持ちであることがわかります。
夢中ではなしを聞く青野
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
一方、精神障害などの「見えにくい障害」は、一見していわゆる「普通」とどう違うのかがわからない。周りだけでなく、本人にも見えにくいんです。

ほかの人との「違い」に気づいても、理由がわからないから解決策が見つからず、苦しい状態に置かれ続けてしまいます。そして障害が見えないから、「努力が足りない」「意思が弱い」といったように人格を否定してやり過ごすしかない。
青野 慶久
青野 慶久
それは、大変な状態ですね。
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
混沌と混乱ですね。生きづらさを表現する言葉が世の中に流布していない、ゆえにどうすれば生きやすくなるのかもわからない。

だから、モノを投げたり、叫んだり、「問題行動」と言われるような何らかの症状を発することでしか、他者とコミュニケーションを取ることができない状況まで追い込まれたとしても不思議ではないんです。
集中してはなされる熊谷先生
青野 慶久
青野 慶久
なるほど。
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
「見えにくい障害」の当事者の人たちは、自分のニーズを主張する前に、自分が何者なのかを解明していく必要がありました。

そこで生まれたのが、自分自身を研究対象に、仲間たちと困りごとを解きほぐしていく「当事者研究」という取り組みです。

研究者として、問題と自身を切り分けて、観察する

青野 慶久
青野 慶久
見えにくい障害や、自分を知る「当事者研究」はどのような手法で行われるのですか?
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
たとえば、「放火する」という問題行動を頻繁に起こしてしまう人がいたとしましょう。このとき、自分を見つめ直す方法にはふたつのモードがあるんです。

ひとつは「反芻(はんすう)」モード。問題行動を起こした自分を、取り調べをするように責めていく方法です。「なんでやったんだ?」と追い込んでいく。
青野 慶久
青野 慶久
これは、つらそうですね。
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
反芻モードで自分を振り返ると、落ち込んで具合が悪くなります。自分自身を責める行為ですから。

それに比べて対照的なのが「省察(しょうさつ)」モードです。自分の起こした問題行動を、まるで自然現象を観察するように振り返ります
反すう・省察という言葉が英語で書かれたホワイトボード
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
雨が降ったときに、誰かを責めることはないですよね。同じように人間社会で起きる問題も、きわめて複雑な相互作用のなかで起こる「現象」だと考えるのです。

放火を起こしてしまったのはなぜなのか。どんな困りごとがあったのか。周囲の状況、自分の感情を、客観的に分析していきます。
青野 慶久
青野 慶久
なるほど。おもしろい!
話を面白そうにきく青野
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
このように、問題行動をひとつの属人化できない現象として捉えることを、「問題の外在化」と呼んでいます。

そうすると、問題行動に対する解釈が変わってくるんです。問題行動や症状は、取りのぞくべき無意味な邪魔者ではない。何かほかのところに困りごとがあると知らせてくれる、意味のあるシグナルだと受け止められます。
青野 慶久
青野 慶久
研究者として、その症状がどんな意味を持つのか、解き明かしていくわけですね。

他責でも自責でもなく「無責」で考えると、自分やチームのことがわかってくる

青野 慶久
青野 慶久
ビジネスの世界では、「他責ではなく、自責で考えよ」とも言われますが、僕は「無責」が好きなんです。

先ほど熊谷先生がおっしゃった「問題の外在化」は、無責にも近いのかな、と思いました。
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
ああ、はい。そうですね。
笑顔で語られる熊谷先生
青野 慶久
青野 慶久
たとえば、顧客からのクレームが発生したとき、「開発のせいだ」「営業のせいだ」と自分や誰かのせいにするのは無意味だと思っています。複雑なさまざまな要因が絡み合っているから、犯人探しをしたらきりがありません。

起きるべくして起きたと「無責化」すれば、チームでおたがいを責め合わずにすみます。

熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
そうですよね。犯人を追い詰めて罪を償わせることよりも、無責化して分析することの方が大事なのではないかと。

無責化して、複雑に絡み合う問題を解きほぐし、誰かと共有することで、はじめて一人ひとりに心からの反省が湧き出てくることも多い。本当の反省をするためには、いったん無責化することが前提条件になるのではないでしょうか。

自分の困りごとを知る「健常者の当事者研究」が必要な時代

青野 慶久
青野 慶久
先ほど「放火」を例に挙げていただきましたが、最近は政治家が問題発言をしたり、SNSで誹謗中傷を繰り返す人がいたりと、健常者にも「問題行動」があるような気がします。
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
最近では、まさに「健常者の当事者研究」が始まりつつあります。

これまでの当事者研究の主な対象は、見えにくい障害を持つ「障害者」でしたが、社会が急速に変化するなかで、健常者も言葉にし難い困りごとを抱えるようになっています

自分の困難を表現する言葉を持たず、原因もわからないと、苦しいですよね。
青野 慶久
青野 慶久
ええ。
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
研究者は、中立的な立場で、事態をありのままに観察します。その研究者的な視点を自分の人生に当てはめて、「自分はいったい、何に困っているのか?」と、目を逸らしていた核心に迫っていくのが当事者研究です。
真剣な眼差しで話される熊谷先生
青野 慶久
青野 慶久
「当事者研究」で自分たちをより深く知ることが、自分の個性を発揮できる組織をつくる一歩なのかもしれませんね。
熊谷 晋一郎
熊谷 晋一郎
今後は企業にこの「当事者研究」を導入する試みも始めたいと思っていますので、またご相談させてください。
青野 慶久
青野 慶久
ぜひぜひ! 今日はありがとうございました。
執筆・徳瑠里香/撮影・橋本美花/編集・明石悠佳/企画・大槻幸夫、山口雄大
相手を理解しようとしなくていい、大切なのは「否定も肯定もせず、ただ受け入れる」こと──茂木健一郎×山崎ナオコーラ
「多様だからみんなハッピー」とは一概に言えない
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人に値段をつけるって怖いんですよ。だって、正しい値段なんてあるわけないんですから──わざわざ 平田はる香×サイボウズ 山田理

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長野県東御市御牧原にある、小さなパンと日用品の店「わざわざ」。最寄りの駅から車で15分、歩くと1時間くらいかかります。店名の由来は「わざわざ来てくださってありがとうございます」という感謝の意から。

経営者の平田はる香さんが2018年に公開したブログには、「山の上」という不便な場所にあるわざわざが、どのように成長してきたのか、数字のデータからさまざまな試みまで惜しみなく書かれており、大きな話題を呼びました。

店長である平田さんがひとりで始めたお店が、2018年度の決算は2億5千万円、スタッフは16名の組織へと成長。それにともない、「相思相愛採用」や「評価しない人事制度」などユニークな制度をつくり、チャレンジを続けています。

そんな新しい組織づくりに取り組む平田さんをサイボウズのオフィスにお招きし、マネジャーに関する本を8月に上梓予定のサイボウズ副社長 山田理との対談イベントを開催しました。テーマは「新しい組織作りやマネジメントを考える」です。

給料を一律にしたワケは「人事」をなくしたかったから

山田
山田
わざわざさんは、大変ユニークな人事制度にチャレンジしようとしてますよね。お給料を一律にするとか。
平田
平田
現在は人によって給料が異なりますが、これからは新卒や中途に関わらず、入社して2年後には一律24万円になる制度を実施していく予定です。昇給制度がないので、未来永劫24万円です。
仕事に優劣はない!「評価しない人事制度」作りました
山田
山田
かなり大胆な取り組みですよね。
平田
平田
そうですね。ただ、長野県であれば上場企業の社員並みの給料が担保されるように考えています。

業績に応じてボーナスは出して、2017年度の実績でいえば、5カ月分は出しているので。
山田
山田
この制度を考えたきっかけはなんですか?
平田
平田
「人事」という仕事自体をなくしたかったんですよね。

わざわざは製造・小売の会社なので、原価をかけて仕入れて、つくって売る、商売の基本のような形で経営しています。

何をしているのか形が残りにくい、何が正しいのかもわからない人事評価よりも、つくることや売ることに時間やお金を回したい。人事の仕事をなくして、もっと生産性を上げたいと思ったんです。
話している平田さん

平田はる香(ひらた・はるか)。株式会社わざわざ代表取締役。1976年生まれ、東京生まれ静岡育ち。1996年川村都スタイリストスクール卒業。2002年に夫の転勤により長野県に移住。2009年にわざわざを一人で開業。前職はWEBデザイナーでありながらも、パン焼きにハマり、元々好きだった日用品の収集と掛け合わせた店、パンと日用品の店「わざわざ」を開業する。段々とスタッフが増えていったことで、店舗や事業を拡張し、2017年に株式会社わざわざ設立。二児の母。

山田
山田
たしかに、わざわざさんは採用も事前に『わざわざの働きかた』という本を読むことを前提としたり、採用の制度を常にアップデートしていますよね。
平田
平田
フェーズに合った人材を採用することが、組織づくりにおいて大切だと思っています。本を出版するようになってから2年、正規雇用での離職率は0%になりました。

それまでは人が入ったり辞めたりが多かったので、採用の課題については一旦クリアできたのかなと思っています。

人は人を正当に評価できない。正しい値段なんてあるわけない

平田
平田
そもそも、私自身が評価することも、されることも好きじゃないんです。
山田
山田
うん、僕も本当に嫌いです。

評価する側に回った人ならわかると思いますが、怖いんですよ。人に値段をつける、ってことは。だって、正しい値段なんてあるわけないんですから
話している山田さん

山田 理(やまだ・おさむ)。サイボウズ 取締役副社長 兼 サイボウズUSA(kintone Corporation)社長。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、責任者として財務、人事および法務部門を担当し、同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年からグローバルへの事業拡大を企図し、米国現地法人立ち上げのためサンフランシスコに赴任し、現在に至る。

平田
平田
「人が人を正当に評価できるわけがない」って心の底から思っているんですよね。

自分自身の人生を振り返ったとき、正当な評価をされていなかったと感じることが多かったので。
山田
山田
なるほど。
平田
平田
学校の成績だと、私はいつもテストの成績はよくても、通知表の結果が悪かったんです。

忘れ物をしたり、遅刻をしたり、生活態度がよくなかったんです。そうすると、テストの成績が私よりも悪いのに、宿題をやっている子のほうがいい成績がついて。

「先生はどういう評価をしたんだろう?」という違和感がずっと残っているんです。
山田
山田
結局、学校や社会の評価軸は、誰かが決めた一定のルール上のものでしかないですからね。
平田
平田
「人を評価すること」に対して疑問や不信感をもった自分が、他人に同じことをするのはどうなのかな、と。
山田
山田
すごくよくわかります。ただ、それを制度として導入して、やり抜けるのがわざわざさんのすごいところなんですよね。

「わざわざで働きたい」と感じる魅力が、お金以外の部分にあるからこそ、成り立つ仕組みなんでしょう。
平田
平田
そうですね。そこはサイボウズさんの考え方にも近いと思います。お給料より、働き方や理念に惹かれて入ってくる人ばかりなので。

「年功序列」ってすごい。評価なんてできるわけがないんだから

山田
山田
わざわざさんが今の段階でその考えに行き着いているのがすごいです。

僕はサイボウズに入る前は銀行で働いていて、「年功序列なんて必要ない」と思っていました。

だからこそサイボウズに入ったとき、年功序列とは真逆の成果主義を採用したんですよ。
平田
平田
そうだったんですか。
山田
山田
それも最初のうちはよかったんですが、だんだんと業績が頭打ちになってくると、会社の環境がどんどんとひどくなっていって。

半期に一度の評価で、最低の評価を2回とったら辞めてもらうように言っていた。それが、お互いのためだと思っていたんですよ。
2人の話している姿
山田
山田
いろいろ要因はありましたが離職率は30%近くになり、2週間に一度は誰かの送別会が行われていました。

そこで大きく反省して、働きやすい環境を整えることを第一に改善していくようになりました。
平田
平田
なるほど。そういった経緯があったんですね。
山田
山田
大失敗を経て人事制度をつくりながら思うのは、「年功序列ってすげえな」って。だって、評価しなくていいんですよ。

毎年歳を重ねたら、自動的に給料が上がっていく。そして、みんながそれが当然だと受け入れている。改めてこの制度をつくって実現している会社はすごいな、って感動しました。

マネジャーは「地位」ではなく「役割」に変化した

平田
平田
今度山田さんが出す本の原稿「マネジャーとは、地位ではなく役割である」と書かれていて、私もまさにその考え方なんです。リーダーは、誰かの上に立つものではないなと。
山田
山田
「マネジャーが地位ではない」という考え方は、インターネットが生まれたからこそだと思っているんです。
平田
平田
どういうことですか?
山田
山田
それ以前は、情報を得るためにはその情報をもっている人と接触する必要があった。

社員が手に入れた情報が課長に、課長から部長に、部長から取締役に……という流れで、大事な情報がすべて社長のもとに集まってくる。情報の価値と一緒に権限が集まり、そこにお金がついていっていた。
会場の様子
山田
山田
でも、今の時代は違います。ITの力によって情報はフラットになり、誰でも簡単に手に入れられるようになりました。

となると「俺がこの情報をもっているから権限がある」という考えが機能しなくなったんですね。情報格差が価値を生まなくなった。
平田
平田
たしかにそうですね。
山田
山田
むしろ、マネジャーが知らない情報をメンバーがもっている可能性だってある。

開示できる情報はオープンにして、みんなが簡単にアクセスできる状態にしたほうが、結果的にアイデアが出やすくなるのではないか、と考えているんです。

「こういうことで悩んでいます」と情報を開示したら「だったら私はこういう解決策をもっています」と言ってもらえる。それが情報共有の世界。

情報をもっている人が限定されていたときは、一人ひとりが解決しないといけなかったので個人戦でした。でも、これからは団体戦になりますよね。

情報を開示すると、外部から新たな情報を得られる

平田
平田
情報共有は、私もすごく大切だと思っています。兄が量子力学の研究者で、90年代後半にはすでに自分の研究内容を世界中にオープンにしていたんです。
山田
山田
へえ、随分と早いうちからしていたんですね。
平田
平田
当時、そもそもなぜ情報を開示するのか聞いてみたんですよ。

そうしたら、「僕がこの情報を世界中の研究者に見せることで、この研究が加速するから」と教えてもらって。私、感動したんですね。
話している平田さん
平田
平田
兄は自分の手柄よりもまず、研究が最短で攻略されることを優先していた。そのときから、もし自分が何かするときは、「全部開示するべきだ」と思っていました。

わざわざを始めてからも、売り上げの情報から石窯の設計図まで、すべて外部にオープンにしたんです。

そうすることで、結果的に自分も情報を得られますからね。
山田
山田
情報を開示することで、外部から新たな情報を得られるし、社員が生き生きと主体性をもって働いていける環境にもつながるんですよね。

主体性は、選択肢がたくさんあってこそ成り立つし、そのためには情報が必要不可欠ですね。

マネジャーに必要なのは「謝ること」

山田
山田
情報がフラットになってマネジャーが地位ではなく、単なる役割となった。そのとき、マネジャーにおける大事な資質はなんなんでしょうね。

平田さんは、何が大事だと思いますか。
平田
平田
私の組織は、そもそも規模がとても小さいので、私がマネジャーであり、社長でもあるんですね。

いずれも共通して大事だと思っているのは、「とりあえず、バカでいること」です
話している2人の姿
山田
山田
バカ、ですか。
平田
平田
絶対に威張らず、ソクラテスでいうところの「無知の知」を大切にする。決して思いあがらず、感謝の気持ちを忘れない。あとは、とにかく下からいくことです。
山田
山田
ああ、僕もそう思います。マネジャーに必要なことって「謝ること」だと思うんですよ。マネジャーの仕事は、基本的に「意思決定」することだからです。

うまくいけばメンバーを褒めて、失敗したら「決定した僕に責任があります」と自分が謝る。それがマネジャーの大切な仕事。

本当に謝る覚悟ができているなら、しっかりと意思決定をするために情報収集をすると思うんです。そして、意思決定をして最終的にはメンバーに任せる。
平田
平田
「任せる」って、伝え方が難しくないですか? 

以前、スタッフに「仕事の状況、いまどんな感じ?」と聞いたんです。そのスタッフはしっかりと状況を把握していて、いろいろと教えてくれた。それを聞いた上で仕事を任せたんです。
山田
山田
うんうん。
平田
平田
そうしたら、そのスタッフは「どういうことですか?」と少し憤慨した様子で。どうやら丸投げされたような気持ちになってしまったみたいで。

「あなたのほうが私よりもよく知っているようだったから、この場は任せたつもりだったよ」と伝えたら、わかってくれて、ほっとしましたね。

マネジャーがすべきは「放置」ではなく「放任」

山田
山田
僕も以前、「放置するなら、マネジャーの仕事って何なんですか」と言われたことがあります。

でも、僕の中では「放置」ではなくて「放任」だと思っているんです。

放任は、任せた上で、うまくいっていないところはできる限りサポートすること。放置の場合は、見ることもないですから。
平田
平田
本当にそうですね。マネジャーの役割として、ヘルプにまわるのは重要なことだと思います。

情報を確認しながら、できそうなことがあったら助ける。失敗をしそうな人がいたら、事前に助けてあげること。
山田
山田
マネジャーであってもできないことは「できない」と言ったり、できる人に意見をもらって協力を仰ぐ力も必要ですよね。

ひとりでなんでもできればいいですが、できないことのほうが多いと思うので。

だから、マネジャーって「権限」というより、「場をオーガナイズする役割」のほうがしっくりくると思うんですよ。
平田
平田
マネジャーに限らず、社長もそうですね。私はいま、いい職場環境を整えることを心がけています。

人間関係のわだかまりをなくしたり、人材が足りてなかったら人を見つけてきたり、空間が狭かったらオフィスを借りてきたり。

働きやすい環境を整えることが、最善の役割ではないでしょうか。マネジメントの考え方としても同じで、「その場をまわりやすくサポートしていく」ということなんですよね。
山田
山田
そう考えると、マネジャーの仕事は格段にハードルが下がりますよね。組織が大きくなればなるほど、マネジャーの数は増えていきますが、マネジャーに求められるスキルが高ければ、いずれ組織が崩壊してしまうと思います。
話している山田さん
山田
山田
そのとき、どれだけほかの社員に機能を渡していけるかが、鍵になるのではないでしょうか。

コーチングの本を何冊も買って、心を動かす方法や戦略を考えてお手上げとなるよりは、まずマネジャーの仕事をほかの人に渡したり、高いスキルがなくてもできるように大衆化していくことが重要だと思います。
※サイボウズ副社長・山田理の書籍を現在制作中です。ご予約はこちら
文:園田もなか/編集:松尾奈々絵(ノオト)/撮影:栃久保誠/企画:小原弓佳
<後編へつづく>
サイボウズの開発本部がマネジャーをなくしてみた「いないと無理なら、またつくればいい」
上司の「信頼している」は余計なお世話。マネジャーは責任を取って任せるだけ
「ティール組織=全員が幸せになれる組織」とは限らない──主体性や自由がプレッシャーになる人もいる

自由な働き方を実現するサイボウズで、グループウェアを禁止してみたら不安でたまらなくなった

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「サイボウズはグループウェアを開発している会社だということを、学生にはあまり知られていないのではないだろうか」

そんな不安を抱えていた人事新卒採用担当の綱嶋さんは、サイボウズ式編集部で働くインターン生に相談してみました。

サイボウズに興味のある学生さんに「グループウェア」を知ってもらうにはどうしたらいいか。

そこでインターン生たちは、そもそもグループウェアとは何か、自分たちの業務にどれだけ役に立っているのか考えるための実験をすることにしました。その名も「グループウェア断食プロジェクト」。グループウェアの使用を1日禁止するという内容です。

グループウェアの便利さや、安心感。自分たちが想像していた以上に、グループウェアの存在が大きかったことを実感したインターン生たちが、実験から感じたこと、考えたことについて語りました。

インターン生もはじめはグループウェアを知らなかった

鈴木
鈴木
今回「グループウェアを使わないでチームで仕事する」っていう実験をしてみたんですけど、そもそもみんなはサイボウズに来るまで、グループウェアっていうものを知ってました?
津川
津川
うーん、ほとんど知らなかったかも……。
鈴木
鈴木
実は自分も(笑)。サイボウズってグループウェアの会社だから、本来は知っておくべきだったと思うんですけどね。
インターン生鈴木

鈴木健斗(すずき・けんと)。サイボウズ式インターン生。2018年3月入社。グループウェアに対する最初の印象は「情報の砂漠」

柳下
柳下
そもそも学生生活でグループウェアを使う機会ってありますか?。
インターン生柳下

柳下桃子(やぎした・ももこ)。サイボウズ式インターン2年目。グループウェアに対する最初の印象は「PCの中に広がる仮想世界」

鈴木
鈴木
単に友だちとコミュニケーションをするだけだったら、チャットアプリやSNSで事足りますよね。

でも自分は、チームで共通の理想に向かって何かをするためには、グループウェアが必要になると思っていて……。
津川
津川
どういうことですか?
インターン生津川

津川 朋子(つがわ・ともこ)。サイボウズ式インターン生。2018年3月入社。グループウェアに対する最初の印象は「使い方が難解な辞書」

鈴木
鈴木
例えば自分は、大学でダンスサークルに所属していたんですよ。そこでは“みんなでひとつの舞台に出て踊る”という目標を達成するために活動するんですが、一筋縄ではいかない。

例えば、練習するために、みんなで予定を合わせたり、曲決めをしたり、衣装をつくったり、と限られたスケジュールのなかで様々なタスクを、分担してこなしていかなきゃいけないんです。
柳下
柳下
確かに分担するタスクが多いですね。
鈴木
鈴木
しかもタスクをこなすだけでなく、踊る曲などはお互いに議論して決めなきゃいけないこともあります。

そんなタスクの分担や議論を上手くこなすためのツールとして、グループウェアは有効だなと思います。
佐藤
佐藤
それは、チャットアプリとかでは厳しい?
インターン生佐藤

佐藤萌音(さとう・もね)。サイボウズ式インターンから今年4月に新卒として入社。グループウェアに対する最初の印象は「通知の山」

鈴木
鈴木
チャットアプリって、ひとつのタイムラインで流れるように会話が進んでいきますよね。友だちとの気軽なコミュニケーションに使うぶんにはスピード感があっていいんですよ。

でも、サークルだと「曲は何がいい?」「衣装はどうする?」といった複数のトピックが1つのタイムライン上に混在してしまい、「あれ? あのときのやり取りはどこだっけ」となってしまうんです。
津川
津川
なるほど、だから複数のタイムラインをつくれたり、これまでの議論を残せたりするグループウェアが有効だと思えたんですね。
佐藤
佐藤
サイボウズの社内の場合、議論の場だけではなく、社内SNSとして、「今は〇〇をしてるよ」といった感じでつぶやいている人も多いですよね。
作業していることや作業している場所をつぶやいている

分報というスレッドで自分の居場所や作業状況などをつぶやく人も

鈴木
鈴木
そうした、つぶやきや会話がオンライン上で自然に流れていく「フロー型」のコミュニケーションと、情報やマニュアルを整理したうえで蓄積できる「ストック型」の両立ができるのがグループウェアの良さですよね。

自分はサークルに入っているとき、グループウェアの存在を知らなかったのですが(笑)。
フロー型コミュニケーションとストック型情報管理のかけ合わさる部分にグループウェアがあることを示すベン図

「チームワークの会社」だと思って入ってきたのに、寂しかった

話をする津川と話を聞く3人のインターン生
津川
津川
実は私、サイボウズでインターンを始めたばかりの頃はすごく寂しかったんですよ。
鈴木
鈴木
寂しかった?
津川
津川
「チームワークを重視している会社」だと思って入ってきたから、みんな仲が良くて、めちゃくちゃ声を掛けあっているんだろうな、と想像していたんです。

でも入ってみたら、直接人と話す機会がほとんどなくて(笑)。1人で8時間、ひたすらパソコンに向かい合って帰ることもありました。
佐藤
佐藤
それ、わかります。私はサイボウズの営業系の部署でもインターンをやっていたけど、同じ社内でもサイボウズ式編集部は本当に直接会話しないイメージがある……。
柳下
柳下
「わからないことがあったらshikipedia(シキペディア)(*)を見てね」とか。
編集作業のマニュアルがすべてアプリ内にまとまっている

(*)サイボウズ式編集部の業務マニュアルやノウハウをまとめたアプリ。メンバーはいつでもオンラインでアクセスできる

企画の作り方や考え方について詳しく書かれているレコード

それぞれのマニュアルのレコードには、読めばわかるように詳しく仕事の方法などが書かれている

佐藤
佐藤
そうそう! それで業務を直接教えてもらうことが少なくて、最初は戸惑ってばかりでした。
津川
津川
オフィスのチームの島には、10人分の席があるのに、自分1人しかいないときもあるし。
鈴木
鈴木
たしかに、「人口過密都市の東京にここまで人がいない場所があるんだ」と思うくらい閑散としているときもありますね。
佐藤
佐藤
でも、オンラインではすごい量のコミュニケーションが飛び交っているんですよね。1週間出社しないと、自分宛の通知だけで100を超えていることもありましたし。そこにも衝撃を受けました。
津川
津川
最初、オンラインだけのコミュニケーションに慣れていなくて、もっと直接会話したほうがいいんじゃないかと思っていました。グループウェアってそんなに便利かなと疑問だったんです。
インターン生が卒業していくことにさみしいとつぶやくコメントに他のインターン生がさらに同意のコメントをしている

ちょっとした日常会話やつぶやきがオンライン上で行われることもよくある

グループウェアをやめたら、業務に支障が出ただけでなく、心理的安全性が失われた

手振りしながら話す鈴木
鈴木
鈴木
ずっと業務でグループウェアを使っていると、実際どのくらいグループウェアが便利なのかわからなくなるんですよね。
佐藤
佐藤
そこで、やってみたのが「グループウェア断食プロジェクト」ですね。鈴木さんはかなりきつかったんじゃないですか?
鈴木
鈴木
きつかったです……。

グループウェア上でできていたやり取りができず、いろんなことを決めたり共有したりするときに、いちいち集まらないといけない。なので会議が長引いてしまった気もします。
柳下
柳下
逆に私は、「こうやってみんなでゆっくり集まれる機会は少ないからうれしい!」と、はじめは思っていました(笑)。

でも、たしかに長かったですよね。3時間くらい企画の話し合いをしていましたし。
鈴木
鈴木
あと、自分はグループウェアを奪われて、パソコンを閉じた瞬間に不安に駆られました。心理的安全性が失われた感じで。
津川
津川
そんなに……? どうしてですか?
鈴木
鈴木
「自分が仕事をしているんだ」ということを、人に伝えられなくなったからだと思います。自分も、他の人が何をやっているのかわからなくなっちゃう。
佐藤
佐藤
たしかにグループウェアの中だと、コメントや履歴が見られるので、誰がどんな仕事をしているのか常にわかりますよね。 
働いている場所や、お届け物の確認、つぶやきなどが通知欄に表示されている

通知欄には他の人のつぶやきや仕事の状況、連絡などが流れてくる

鈴木
鈴木
そうなんです。グループウェア上では、町の広場のようなお互いが見えるようなところで会話や業務をしているような印象なんです。でもグループウェアがないと、他の人から見えないトンネルの中で仕事をしているみたいで。
座談会の最中は閉じられていたパソコン

グループウェアがきっかけではじまるリアルなつながりもある

鈴木
鈴木
さらに、グループウェアで「思考の過程」も共有できることが大きいと感じます。

自分はインターンを始めてからまだ1本しか記事をつくれていないんですが、いろいろな企画を考え、動いている過程も含めて評価してもらえることがうれしいんです。だからやっぱり、これがなくなるときつい……。
津川
津川
たしかに、私は、記事の企画を考える過程でグループウェアにコメントや「いいね」をもらったりすると、とても励みになるんです。「周りの人にも興味を持ってもらえているんだ」と感じられるから。 

そうしたコミュニケーションがなくなってしまう不安は大きいですね。
企画案にコメントしたことを伝え、企画を考えていることをたたえる言葉もオンライン上でかけている

インターン生津川の企画にコメントをつけたことを知らせ、その頑張りをたたえるインターン生たち。

佐藤
佐藤
いろいろな人といつでも企画の相談や議論ができるのは、とてもいいことですよね。そのつながりでリアルな場面でも、思いもよらない人から声をかけてもらえることもあるんですから。あれはグループウェアでつながっているからこそだな……。
津川
津川
そういう意味では、みんなの会話が自然と流れてくるグループウェアって、やっぱり必要ですね。

私が最初に感じていた寂しさは、グループウェアでのコミュニケーションの効果を知らなかったからかも。
佐藤
佐藤
サイボウズの自由な働き方も、そうしたことを理解していないと実現できないのかもしれませんね。
柳下
柳下
グループウェアがどういうもので、なんのために使うのかわからないと、サイボウズの理念や会社の事業も理解できないですからね。
鈴木
鈴木
たしかに。

「自由な働き方をしたい」と思っても、それって自分の都合だけを考えていたら実現できないんですよね。

どうすればチームワークを向上させて、自分もみんなも自由に働けるようになるのか。僕はグループウェアを知ることを通じて、そんなことを考えるようになりました。
柳下
柳下
ということで、インターン生による実験企画を行ってみたのですが、相談していただいた課題は解決しそうですか?
綱嶋
綱嶋
ちょっとTwitterでつぶやいただけなのに、グループウェア断食プロジェクトまでしてくれるとは……!
楽しく安心して働けるチームをつくるためにグループウェアが必要であるというメッセージは、サイボウズに興味を持ってくださる学生さんにも、きっと届くんじゃないかと思います。ありがとうございました!
座談会の最後に立ち上がりホワイトボードで感想を書くインターン生たち
執筆・多田慎介/撮影・尾木司/企画編集・サイボウズ式インターンチーム

会社から自由になるだけでは「脱社畜」とは言えない──大切なのは、自分の人生を歩んでいる実感を持つこと

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現代は、会社と個人をめぐる価値観が変化しつつある時代です。これまでは、会社のために個人が犠牲になっても仕方がないという考えが支配的でしたが、これから大切になるのは、個人がよりよく生きるために会社を活用するといった視点です。

このように、「会社と自分の人生を切り離して考えられるようになる」ことを僕は長らく「脱社畜」という言葉で表現してきました。脱社畜を実現するために必要なのは、単に会社を辞めることではなく、会社ではなく自分の人生を自分の意志で歩むことです。その際には、雇用形態は問題にはなりません。

仮に会社員という立場だって、自分の人生を自分の意志で歩んでいるという実感が持てているのであれば、脱社畜を実現している状態だと言えます。この話はよく誤解されるので、折に触れていろんなところで書いてきました。

もっとも、このような意味での「脱社畜」を実現するためには、ひとつクリアにしなければならない問題があります。「自分の人生を自分の意志で歩む」と言ってしまうのは簡単ですが、では「自分の人生」とは何でしょうか? 

特にこれと言ってやりたいことがなかったり、あるいはぼんやりとやりたいことがあっても、具体的に行動を起こすところまで落とし込むことができないという悩みを抱えている人は少なくありません。中には「自分の人生」がよくわからないから、とりあえず会社の示すビジョンやミッションに全面的に乗っかって脱社畜できないという人もいるはずです。

そこで今回は、個人が会社から自由になる過程で必ず直面する「自分の人生の見つけ方」、端的に言い換えるなら「自由との戦い方」について考えてみたいと思います。

セミリタイアした知人の話

僕の知人に、セミリタイアを実現した人がいます。彼はとあるベンチャー企業に初期の社員として入社し、そのベンチャーは上場したため、彼はストックオプションを行使してまとまったお金を得ました。毎日豪遊して暮らすには足りないけれど、それなりに慎ましく暮らすのであれば当面は無理して働かなくてもよい程度の額を手にしたそうです。つまり、彼は自由を手に入れました。

自由を手にした最初のうちは、毎日が楽しくてしかたがなかったそうです。それまでの激務の反動で毎日好きなだけ寝て、平日の昼間に映画館に行ったり、読書に没頭したりして彼なりに充実した日々を送っていました。

ところが半年ぐらいすると、こういう生活にも飽きてきます。彼は自由が欲しくてベンチャーで必死に働いたわけですが、いざ自由を手にしてしまうと、今度はその自由との戦い方がわからずに途方にくれてしまいました

死ぬほど欲しかった自由ですが、このまま無為な生活を一生続けてもそれほど楽しい人生になるとは思えません。だからと言って、いまさらどこかの会社に雇われて働くという気にもなれませんでした。

人間は目指すものや、やるべきことがないと腐ってしまう

実は、このような話はセミリタイアをした人にはよくあることなのだそうです。セミリタイアのような特殊な例を挙げなくても、定年退職後に仕事以外で打ち込めるものが見つからず途方に暮れてしまう人は大勢います。いずれの場合も、充実感が得られないのは目的意識を持って打ち込めるものを会社から離れたところで見つけられていないことに起因しています。

基本的に、人間は目指すものや、やるべきことがないと腐ってしまいます。「なんでもやっていい」状態に置かれると、人は容易に「なにもできない」状態に陥ります。日々の生活から達成感が得られないと、自己肯定感も落ちていきます。達成感が得られないのは、結局のところ、達成すべき目標がないからに他なりません。

つまり、自由と長期間戦い続けるためには、目標設定が不可欠だということです。そして、目標は人生の目的から逆算することで決まります。言い換えるなら、自由と戦うためには、まずは人生の目的を定めるところから始めなければなりません。

会社ではなく、自分だけの人生の目的を考える

では、どうすれば自分だけの人生の目的を見つけることができるのでしょうか。そのためにはどうしても、自分自身と向き合う必要があります。

たとえば、どんな時に幸せだと感じるか、あるいはどういうことをするとテンションが上がるか。または、どんな人をかっこいいと思うか。具体的に尊敬している人がいるなら、なぜその人を尊敬しているのか。こういったことを、会社を離れた一個人としての立場で、一度よく考えてみるとよいと思います。基本的には、就活でやる自己分析と一緒です。

もっとも、就活でやる自己分析なら最終的なアウトプットは就職先候補を選ぶことになりますが、この場合のアウトプットは必ずしもどこかの会社に就職して働くという形にはなりません。

もしかしたら、複業という形で自分のやりたいことを実現することになるかもしれませんし、場合によってはお金にはならないことを人生をかけて追求していくという形に落ち着くかもしれません。大切なのは、他人や世間に左右されない、自分が心からやりたいと思えることを見つけることです。

ただ、そうは言ってもなかなか簡単には見つからないかもしれません。そこで、2つほど考えるためのヒントを挙げたいと思います。

「人生の目的」を考えるための2つのヒント

1つ目は、人生の目的にするなら、消費的なものではなく、生産的なものにしたほうがよいということです。

たとえば、タワーマンションを一棟まるごと買うとか、高級外車を何台も揃えるというのはたしかに目標としてはわかりやすいのですが、そういう目標はどこまで行っても結局は消費活動の一形態でしかありません。

残念ですが、消費はどこまでいっても受け身なものです。一時的に心は満たされても、その後に必ず虚無がやってきます。それよりも、世の中に何かを生み出したり、人に何かを提供することに挑戦するほうが生涯を通じた充実感は得やすいと思います。

2つ目は、些細なことでもいいので、他人の役に立つようなものを目的にしたほうがよいということです。

人間は社会との関わりを完全に絶った状態で充実感を得続けるのは難しいようにできています。どんなにわずかでも、人の役に立つようなことを人生の目的にできれば、社会とのつながりを実感することができますし、何より人から感謝されるのは嬉しいものです。

これは別に、私的な欲求を抱くことを否定しているわけではありません。9割私欲でも、残りの1割で人に役に立つようなものならそれで十分です。

今の仕事に満足しているのなら、とりあえずは仕事の延長線上で自分が人生をかけて打ち込めるものを考えてみてもいいでしょう。ただし、会社と完全に同化してしまうのはよくありません。あくまで個人が主で会社は従であり、個人の目的のために会社を活用するという視点はつねに忘れずに持ち続けてください。

迷走しないために、人生の目的を日々の行動までブレイクダウンする

人生の目的が決まったら、あとはそれを日々の行動までブレイクダウンする必要があります。抽象的な目的を定めただけでは、日々何をすればいいのかわからず、気づけば迷走していたということになりかねません。それを避けるためにも、具体的な日々の行動まで目的を分解しましょう。

人生の目的は一生かかって追求するものなので、素朴に計画を立てると数十年単位の計画を立てなければならなくなりますが、普通の人間にはそんな長い未来を具体的に想像することはできません。

そこで、まずはとりあえず5年後や3年後に自分はどうなっていたいか、という問いを立てます。そこから1年ごとの計画、3ヶ月ごとの計画、1ヶ月ごとの計画、1週間ごとの計画、といった形でブレイクダウンしていけば、最終的には「人生の目的を達成するために、自分は今日、何をすればいいか」まで決めることができます。

ただし、実際に走り出してみると、理想通りにはいかないことにも気づくと思います。たとえば、いざ何かをやってみたら、もっと他のことに興味が出てきて、人生の目的とはあまり関係のない「脱線」をしたいという欲求に駆られることもあることでしょう。

そういう時は、遠慮なく脱線してください。人生の計画は会社の経営計画とは違うので、仮に目標が未達になっても誰かに詰められたりはしません。柔軟にその時の興味に応じて人生の目的を変化させていくのも、生きることの醍醐味です。

それでもやっぱり迷走してるなと感じたなら、その時は目的に立ち返って考えてみるとよいでしょう。いろんなところに寄り道をしつつ、でも迷ったら目的を振り返る、という形で日々を歩んでいけば少なくとも「自由すぎて何もできない」という状況からは脱せます。

人生を通して打ち込めるものを見つけて、自由との戦いに勝利しよう

時代が変化するにつれて、今後はますます人生において会社が占める割合は低下していくと考えられます。そういう時代には、自分の人生を一個人として充実させるスキルがとても重要になるはずです。

実際に「これだ!」という人生の目的を見つけて、毎日を充実させられるようになるまでには、時間がかかるかもしれません。なかなか見つからずに、迷走しながら悩む時期もあると思います。それでも、時間をかけて探す価値はあります。

どんなに時間がかかってもいいので、いつか「これだ!」というものを探しあて、ぜひ自由との戦いに勝って欲しいと思います。
執筆・日野瑛太郎/イラスト・マツナガエイコ/編集・明石悠佳
自由や自立を求めるのって、実は残酷なんです──為末大×青野慶久「個人の時代への備え」

社員に嫌いな仕事はさせない。「嫌じゃない要素」を積み重ねれば、いい組織になる──わざわざ 平田はる香×サイボウズ 山田理

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独創的な発想で新しい組織づくりに取り組む、小さなパンと日用品の店「わざわざ」を経営する平田はる香さん。サイボウズ本社にお招きし、これからのマネージャー像についての書籍を執筆中であるサイボウズ副社長の山田理と「新しい組織づくりやマネジメントを考える」をテーマに対談イベントを行いました。

イベントが始まるまで2時間近く、深く話し込んでいたというふたり。本番ではその熱が冷めないまま、前編では「人は人を正当に評価できるのか」「マネジャーに最も求められるスキル」など、自身の失敗談なども交えながら、これからの組織づくりについての話で盛り上がりました。

後半は、参加者の方々からの質疑応答タイム。参加者には人事やマネジャーの方が多く、具体的な質問が飛び交う中、ふたりは頭をひねりながらも、実践的な解決方法を探っていきました。後編では、この質疑応答を抜粋してご紹介します。

お金で評価するほうがずっと楽? 社員のやりがいはどうつくる?

質問者
質問者
おふたりは「人は人を正当に評価できない」とお話しされていました。人事評価は、社員の育成やモチベーションの維持などに役立つこともあると思いますが、サイボウズやわざわざではどう考えていますか?
山田
山田
僕は「評価するのも、されるのも嫌だ」と話しましたが、サイボウズには、評価制度はあります。

大切にしているのは、給料=フィードバックとしないことです。

イコールにすると、評価する側は給料を上げたくないから厳しい評価をする。社員は給料を上げたいから、自分を大きくみせちゃう。両者の会話が噛み合わなくなるんです。
質疑に答える2人
平田
平田
お金で評価するほうが、評価する側にとって作業としては、ずっと楽だと思いますよ

やりたい仕事や好きな働き方を選べるのはモチベーションにつながると考えていますが、どうすればモチベーションが維持できるのかは、試行錯誤中ですね。

信頼は「あるか・ないか」ではなく、あくまでグラデーション

質問者
質問者
3人以上の組織になると、人間関係がこじれやすくなる気がします。おふたりはどうやって解決していますか?
平田
平田
3人以上になると、「ひいき」や「派閥」が生まれ始めるんですよね。そうならないように、メンバーには均等に声をかけたり、軋轢が起きているところには積極的に干渉するようにしています。

人が増えてくると私ひとりで全てをカバーできないので、その役割はチームリーダーにも任せていますね。とにかく、問題は小さいうちに解決するようにしています。
山田
山田
僕はこれまで信頼関係を築くために一生懸命がんばってきたんですが、結果的には諦めました(笑)。
平田
平田
え、そうなんですか。
山田
山田
信頼って「あるか・ないか」ではなく、あくまでグラデーションだと気づいたんですよ。全員を等しく100%信頼するのは大変です。

僕はよく「距離感」という言葉を使うのですが、大切なのは一人ひとりとの「距離感」を知ること。
話している平田さん

平田はる香(ひらた・はるか)。株式会社わざわざ代表取締役。1976年生まれ、東京生まれ静岡育ち。1996年川村都スタイリストスクール卒業。2002年に夫の転勤により長野県に移住。2009年にわざわざを一人で開業。前職はWEBデザイナーでありながらも、パン焼きにハマり、元々好きだった日用品の収集と掛け合わせた店、パンと日用品の店「わざわざ」を開業する。段々とスタッフが増えていったことで、店舗や事業を拡張し、2017年に株式会社わざわざ設立。二児の母。

山田
山田
友だちでも週1で会いたい人もいれば、年に1回会う関係がちょうどいい人もいます。どの距離感が心地よいかは、人によって変わるんですよね。
平田
平田
たしかにどうしても、合う人と合わない人はいますよね。私も干渉するかどうかは、距離感を考えています。メンバーには話を聞いてほしいタイプの人もいれば、干渉されたくないタイプの人もいますし。
山田
山田
「好き」「嫌い」というと語感が強くなるけど、「距離感」という言葉を使えば柔らかいし、理解もしやすいですよね。

たとえ合わない人がいたとしても、その人は会社に必要な人材。適切な距離感を知ることが大切だと思います。

上司に「当事者意識」をもってもらうことはできるの?

質問者
質問者
役員が現場に意見を言ってくるのですが、どれも現場の状況がわかっていない発言で困っています。どうすれば、わかってもらえるのでしょう。
平田
平田
違う方向を向いている人に、状況や考えを理解してもらうのは難しいですよね。
山田
山田
他人はなかなか変えられないので、環境を変えるのも一手だと思いますよ。

もし今の会社で働き続けたいなら、自分を変えてでもやれることをやるしかない。その役員の方々が、どれだけ何もしていないのかを公開しちゃうのもありかもしれませんが、ちょっと覚悟が必要になりますもんね。

チームの弱みを補強するには、「全員を横にスライス」

質問者
質問者
会社でチーム編成をするときに、スケジュールを管理できない人たちだけで集まってしまうことがあります。

「一緒に働きたい」と思う人たちが集まったら、似たような性格の偏った集団になってしまいました。

バランスのいいチームづくりをするには、採用しかないのでしょうか。
平田
平田
採用以外におすすめの方法は、スケジュール管理が得意な1人に、複数のチームに所属してもらうことです。

実際に「わざわざ」では1人が3部署に所属して、曜日で分けて仕事をしています
team.jpg
平田
平田
カメラマンの子も水曜はパンを焼いて、店頭に立っている子も金曜には仕入れをする。

特に小さな組織の場合、複数のスキルをもっている人には、どの能力も発揮してもらった方がいいと思うんですよね。
山田
山田
それ、おもしろいですね。メンバーがどんなことができるのか、業務ごとに分解して、それを元に割り振る。「業務=人」と縦割りにするのではなく、一人ひとりを横にスライスしているんですね。

どんなきっかけで、1人が複数の業務を担うようになったんですか?
話している山田さん

山田 理(やまだ・おさむ)。サイボウズ 取締役副社長 兼 サイボウズUSA(kintone Corporation)社長。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、責任者として財務、人事および法務部門を担当し、同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年からグローバルへの事業拡大を企図し、米国現地法人立ち上げのためサンフランシスコに赴任し、現在に至る。

平田
平田
わざわざは私がひとりで始めたお店なので、最初は全部の業務をひとりでこなしていたんです。

でも、だんだんと業務が増えてきて、1日でやろうとすると物理的に無理が生じたので、「もっと作業を効率化できないかな」と自分を時間で割ったんです。

たとえば毎日30分かけて計量していたのを、月曜にまとめて作業したり。散らばった時間をまとめて仕組み化していくと、時間が空いていくんです。タイムロスが減るので、効率化につながりました。
山田
山田
なるほど。
平田
平田
それをほかの人にも応用しました。8時間出勤のうちの2時間は違う場所に行ってもらうとか、時間帯や曜日によって部署を変えて。そうしたら、みんな自然とできるようになり、今は私の指示がなくても自発的に部署をまたいで作業しています。

社員には「嫌いな仕事」はさせない。大切なのは「会社に行くのが嫌じゃない」こと

質問者
質問者
私は「外に出る仕事が向いている」と自分では感じていますが、実際は社内で人事を任されています。

得意分野や好きな作業を仕事にすることが、社員の成長につながると思っているのですが、おふたりはどう考えますか?
平田
平田
その通りだと思います。3年前に、厨房の掃除をしてもらうために60代くらいの方を雇ったんですよ。一緒にご飯を食べていたときに、彼女が唐突に「私、掃除嫌いなんですよ」って打ち明けたんです。

「じゃあ、何がしたいんですか」と聞いたら「包むのが好き」と。そこで梱包の仕事を頼んだら、以前よりも段違いのパフォーマンスを発揮するようになったんです。
山田
山田
それはすごいですね。
平田
平田
それ以来、たとえばミスを連発している人には「その仕事は嫌い?」「もっとほかにやりたいことある?」と聞くようにしています。

大切なのは「会社に行くのが嫌じゃない」状況。仕事に対する価値観は人それぞれだと思うので、楽しいとまでは思わなくていい。

「嫌じゃない」要素をどんどん積み重ねていけば、いい組織になるのかな、と思います。
山田
山田
僕も、同じような意見ですね。

「やりたいこと」はモチベーションにはなりうるけど、1番大切なのは「できること」だと思います。なぜなら、強みと弱みは相対的だから。

自分ではキッチリしていると思っていても、もっとキッチリしている人に囲まれたらそうでもないかもしれない。
2人の話している姿
山田
山田
好きなことをやって認めてもらえなかったら、不幸じゃないですか。

まずはできることを売り込んで、その場で自分の役割をつくる。そこで結果を出しながら、最終的に好きなことも重ね合わせていく。そういうステップが必要なのかな、と思いますね。
※サイボウズ副社長・山田理の書籍を現在制作中です。ご予約はこちら
文:園田もなか/編集:松尾奈々絵(ノオト)/撮影:栃久保誠/企画:小原弓佳
人に値段をつけるって怖いんですよ。だって、正しい値段なんてあるわけないんですから──わざわざ 平田はる香×サイボウズ 山田理
「株価を上げたいなら、青野社長がTwitterをやめるべきです」──忖度一切なしで株主と議論してみた
「理想の働き方」を見つけたいインターン生が、サイボウズ社員約500人を徹底的に調べてみた

「地方は仕事がない」は幻想でしかない――ひとりの力が地域に与える「複業×二拠点生活」の影響力

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やりたいことがあっても、それが「いまとは違う場所」にもある。そんな現実を目の前にしたとき、都市部か地方、どちらかのライフスタイルを迫られ、立ちすくんでしまうかもしれません。

しかし、そのどちらか一方ではなく、都市部と地方を行き来する「二拠点生活」を送りながら、複数の仕事を持つ「複業」という手段を選ぶことができます。

それを実践しているのが、熱海と東京を行き来する水野綾子さん、岩手と鎌倉を行き来する佐藤柊平さんです。それぞれが「複業したい人と地方企業をつなぐ仕組み」をつくっています。

そのお二人に、新潟・東京で自身も二拠点生活&複業を実践しているサイボウズ式編集部の竹内義晴が、地方での複業の始めかたを迫りました。

複業はキャリアにグラデーションがつくれる

竹内
竹内
水野さんは、2015年から熱海のまちづくりにかかわり始めて、東京で編集者の仕事をしながら、2017年には熱海に移住されたそうですね。現在のライフスタイルには、どうやって行き着いたんですか?
水野
水野
きっかけは、2014年に父が体調を崩し、熱海にある実家のお寺を継ごうと決めたことです。

「役割が形骸化されているお寺を、現代版にアップデートできたらおもしろそうだな」と考え始めたタイミングと、ちょうど重なったんです。
話す水野さん

水野綾子(みずの・あやこ)。編集者。出版社で雑誌の編集を経て、2015年から編集業に加えて”人のPR業”を開始。2017年に家族で熱海に移住。東京での仕事を続けながら、週4日、新幹線で熱海・東京間を行き来するサーキュレーションライフ(循環型生活)を送る。二拠点、複業など「多様な働き方」を熱海から実践、発信中。2018年には、ビズリーチの『地域貢献ビジネスプロ人材』に、熱海市の地元企業と都市部の人材をつなぐコーディネーターとしてかかわる

佐藤
佐藤
上京してから、熱海には何年ぶりに帰られたんですか?
水野
水野
およそ10年ぶりですね。それだけのブランクがあったので、「現在の熱海の状況」がまったくわからなくて。だから、まずはいまの熱海を知ろうと、まちづくりにかかわり始めました。

「わたしの一生の基盤は熱海になるだろう」と思ったので、おもしろい人たちと、熱海を「楽しいまち」にしたかったんです。

熱海におもしろい人を集めるために、熱海が持っているポテンシャルや課題を考えるようになっていきましたね。
竹内
竹内
熱海には、観光以外にもいろいろなポテンシャルがありそうですね。
水野
水野
はい、都心へのアクセスのよさや、働き方の多様性も熱海の魅力です。たとえば、新幹線を使えば、熱海から品川間は約40分で移動できる。いまでは850人くらいが熱海から首都圏に通勤しているんです。

そういった、二拠点生活や複業の可能性や魅力を発信しています。
竹内
竹内
それなりの動機づけがないと、やることも関係者も多い「地方×複業」に踏み出すのは難しいですよね。水野さんが移住を決意した理由って何でしょう?
水野
水野
熱海・東京間は「仕事を辞めなくてもいい距離間」だったのが大きいですね。

そもそも複業は、始めようと思って始めたわけではないのですが、新しく挑戦したい仕事の準備期間を設けられるし、キャリアにグラデーションが生まれる。それが、すごくいいなと思いました。
竹内
竹内
複業の魅力ですね。
水野
水野
それに複業することで、「熱海の課題」を解決する方法が見つかれば、それをほかの地方にも活用できると思って。
竹内
竹内
どういうことですか?
水野
水野
熱海市って超高齢化社会で、空き家率も約50%と課題が多い。「日本の30年後の姿」と言われるほどです。
佐藤
佐藤
半分以上が空き家って、すごいですね。
水野
水野
東京で培ったスキルを「複業」という形にして、その課題を解決する。そうすれば、熱海にかかわる人にとってもプラスになると思いました。

地方は人手不足。だからこそ、一人の影響力が大きい

竹内
竹内
佐藤さんは、二拠点を行き来しながら、岩手県と都市部をつなぐディレクターや編集者として活動されています。何がきっかけだったんですか?
佐藤
佐藤
きっかけは、東日本大震災です。ただ、震災が起きる前から、地元を盛り上げることには強い関心があって。大学に進学するときは、「地域づくり」を勉強できる学部を選びました。
竹内
竹内
震災が起きたのは、大学生のとき?
佐藤
佐藤
そうです。岩手と東京を往復しながら、被災した岩手で支援活動をしました。

「将来は岩手に住みたい」「岩手に貢献したい」というモチベーションを持って、岩手と東京を往復する人たちと、たくさん知り合うことができたんです。
竹内
竹内
当時、大勢の人が被災地を復興するために動いていましたね。
佐藤
佐藤
一方、震災でダメージを受けた岩手の人たちは、「人手不足」の危機感を持っていました。

そのおたがいの要求をマッチさせれば、よい関係性を築けるはずだと思い、二拠点生活をしながら、活動をスタートしました。
笑顔で話す佐藤さん

佐藤 柊平(さとう・しゅうへい)。1991年、岩手県一関市生まれ。中学・高校時代に、風景写真を撮りながら岩手の衰退を感じ、地元のためにできることを考え始める。地域づくりを勉強するために、明治大学農学部へ進学。都内のPR会社へ就職し、全国各地の移住促進や地方創生事業に携わる。2017年にUターンし、世界遺産平泉・一関DMOの設立に従事。岩手県総合計画審議会(若者部会)委員。現在は岩手に関する企画・PR・編集業務を行う一般社団法人「いわて圏」の代表理事や、株式会社カヤックLivingのプランナーとして活動中

竹内
竹内
地方に貢献できるのであれば、「ボランティア」という選択肢もありますよね。「地方×複業」に注目しているのはなぜでしょう?
佐藤
佐藤
ボランティアだと「かかわれる範囲」が限られるからです。

たとえば、災害が起こった際に「泥かきをする」「仮設住宅の引っ越しの手伝いをする」といったボランティアは、もちろん十分に意味のあることです。

ただ、ボランティアは自費での活動が原則ですし、「もっとかかわりたい」という気持ちが強くても、長く続けるには経済的に余裕のある人じゃないと難しい。

複業であれば、地域の背景や課題を捉えながら、いろいろな人の思いを組み合わせて、「新しいまちの価値」をともにつくっていける。

地方は人手不足です。だからこそ、一人の影響力が大きいんですよ。
水野
水野
しかも複業なら、継続性を持って地方にかかわっていられる。
佐藤
佐藤
まさに、そのとおりです。ボランティアで岩手にかかわっていた人たちが、経済的な理由などで、ボランティアでかかわれる範囲が狭くなるにつれて、徐々に活動からフェードアウトする姿をたくさん見てきました。

でも、複業として賃金が発生する仕事をつくれれば、そうやってフェードアウトしなくてもよくなる。実際、僕は複業することで、二拠点生活を8年間続けられています。
竹内
竹内
2018年からは、岩手で複業する人を募集する『遠恋複業課』をスタートさせましたね。
佐藤
佐藤
『遠恋複業課』のように、「地方で複業したい人」と「地方企業」をつなぐ役割の存在価値は、ますます高くなるはずです。

いまのライフスタイルを「仕事」として維持しながら、その時代のニーズにマッチした、地方と人材をつなぐ仕組みをつくり続けたいですね。
遠恋複業課フィールドワーク

岩手で行われた遠恋複業課のフィールドワーク

地方では、知らぬ間に自分のことを紹介してもらっているときがある。だからやりたいことは言いふらそう

竹内
竹内
熱海と岩手県であれば、佐藤さんや水野さんとつながることで、地方での複業のきっかけをつかみやすくなりますよね。

でも、お二人がつくるような仕組みがない地方もある。そういった場所でチャレンジしたい人は、どうすればいいのでしょう?
佐藤
佐藤
地元出身者であれば、地元の情報をアップデートして、「自分のこのスキルが、地方の課題に役立ちそうだ」と考えることですね。
水野
水野
実はわたし、「熱海は何もないところだ」と思って上京しました。ただ、10年経って熱海にUターンしたとき、熱海のために動いている人や行政の人が想像以上にいることを知って、驚いたんです。
佐藤
佐藤
Uターンする前は、よくも悪くも「上京する前の地元」の記憶やイメージしかありませんもんね。
水野
水野
自分がまだ知らないだけで、「なんとかしたい」と地域で動いている人は必ずいる。そこに興味を持ったら、まずは飛び込んでみることが大事だと思います。
竹内
竹内
そうですね。どこかに引っかかりをつくらないと、地域の中に入っていけませんし。
水野
水野
わたしは地元のツテをたどって、地域でおもしろい取り組みをしているキーマンに会いに行きました。

そこで、「いま、こういうこと考えていて、移住しようと思っていて」と伝えたら、そこからご縁が広がっていったんです。とにかく、言いふらすことが大事かなと。
水野さんが取り組むお寺を生かした活動

水野さんはご実家のお寺を現代版にアップデートする活動にも取り組む

佐藤
佐藤
自分の知らないところで、「そういえば、こういう人がいて……」と情報が回り、「ちょっと、声をかけてみよっか」といきなり呼ばれることがありますよね。
水野
水野
そうそう。
佐藤
佐藤
呼ばれて行ってみると、キーマンがそろっていて、あとはもう、芋づる式に知り合いが増えていく。だから、キーマンと接触できるまで、いろいろな場所に顔を出してみることも必要だと思います。
竹内
竹内
たしかに。地方では知らない間に、自分のことを紹介してもらっているときがありますね。
笑顔の竹内さん

竹内義晴(たけうち・よしはる)。1971年、新潟県妙高市生まれ・在住。ビジネスマーケティング本部コーポレートブランディング部 兼 チームワーク総研 所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業している。コミュニケーションの専門家。「もっと『楽しく!』しごとをしよう。」が活動のテーマ。地方を拠点に複業を始めたことがきっかけで、最近は「地方の企業と都市部の人材を複業でつなぐ」活動をしている

佐藤
佐藤
まだ顔見知りじゃない人にも、「あ、あなたが〇〇さんね!」みたいな。
竹内
竹内
その場に行ったら、みんなが自分を知っていて、「噂には聞いています」みたいなことがよくありますよね。
水野
水野
それに、地方と都市部では、「信頼感のあるメディア」が違っていて。たとえば、地域の人に何かを知らせたいときは、ローカル新聞にインタビューしてもらうのがいい。
佐藤
佐藤
そうなんですよ。都市部で有名なWebメディアよりも、ローカル新聞に取り上げられたほうが「このあいだ載っていたね、すごいじゃん!」と言われるんです。
水野
水野
地方の人にとっては、ローカルな情報のほうが説得力あるんですよね。

複業ってはじめから報酬を得られるものばかりじゃない

竹内
竹内
「地方×複業」が注目されていて、これからますます取り組む人が増えてくるかなと。 「これはしないほうがいい」ということはありますか?
水野
水野
注目されるのはいいことですが、「ブームだから」という理由で、複業を始めるのは、ちょっと心配ですね。
竹内
竹内
それは、なぜでしょう?
水野
水野
複業がベストな選択かは、人によって違うからです。始める前に、「複業したい理由」「いまの仕事を続けている意味」「自分にとって居心地のよい状態」などは、考えておいたほうがいいかなと。
佐藤
佐藤
うん、うん。
水野
水野
複業は最初は特にバランスが取れないものだと思うので、複業することが「目的」になるとツラくなっちゃうんです。

本業:複業のバランスが、50:50じゃなくて、キャパシティをオーバーして60:60になることもある。時間などがきっちりと分かれるわけじゃないんですよね。なので、モチベーションが必要になってくるかなと。
話す水野さん
佐藤
佐藤
地方での複業って、「今月は月に何回、何日間は地方に滞在してみよう」と、自分の中で小さな実験を繰り返しながら、自分に合ったペースを見つけていくことが大事なんだと思います。
水野
水野
わたしも1年間、週5日で熱海と東京を行き来する生活を続けてみたのですが、「熱海での活動を増やしたい」と思い、週4日にしました。
佐藤
佐藤
自分のペースで、ゆっくりと焦らず、試行錯誤してみるのが大事ですね。
水野
水野
動いているなかで、見えてくるものがありますよね。
佐藤
佐藤
はい。複業ってはじめから報酬を得られるものばかりじゃないですから
水野
水野
そうそう。報酬が目的になると、都市部の人は「残業したほうが給料はいいじゃん」と感じるはずです。

「副業」と「複業」の意味の違いや、複業の必要性を考えられる人が複業したほうがいいと思います。
「サイボウズで複業しませんか?」 複業採用のQ&Aを社長に直接聞いてみた
佐藤
佐藤
僕が岩手で取り組んでいるマイプロジェクトも、すぐに報酬につながっているわけではありません。たとえば以前、移住促進のPRに携わったことがあって。

その経験が「報酬を得られる仕事」になったのは、岩手でたくさんのつながりが生まれて、岩手にかかわる人たちと開催したイベントが盛り上がったあとでした。

「やりたいこと」が先に立つと、そういう流れになることもありますね。

やったことのない人のアドバイスは聞かなくていい

竹内
竹内
周りから「二拠点生活をしながら、複業するのは大変そう」って言われたことはありますか?
憧れの二拠点生活「でも何から始めれば?」――地方で複業する課題と理想を話し合ってみた
水野
水野
よく言われます。それに「忙しそうだね」って。
佐藤
佐藤
僕も言われますね。あと、「どこにいるの?」とか。
水野
水野
「何屋さんなの?」とかも。あるあるですね(笑)
竹内
竹内
周りから「大変そう」と言われたとき、モチベーションを保つのが難しいときってありますよね。そう言われたとき、どう考えればいいんでしょう。
佐藤
佐藤
やったことがない人のアドバイスは、聞かなくていいんじゃないですかね(笑)

やったことがない人から「絶対に辞めたほうがいい」と言われても、何も説得力がないじゃないですか。やったことがある人のアドバイスは、素直に受け入れたほうがいいと思いますが。

僕は、そういう考え方で整理して、自分の選択をしています。
手振りをする佐藤さん
水野
水野
わたし、いまの生活を大変だと思ったことはまったくないんです。それは、好きなことしか、していないから

ただ、楽しく仕事するためには、未来を見据えて、どうしたらモチベーションが上がるかなとは考えますね。

経営者の頭の中には、求人化されてない仕事がたくさんある

竹内
竹内
地方に飛び込んだとき、編集スキルや撮影スキルのような、「手に職系のスキル」がないと、仕事をつくることって難しいんですか?
水野
水野
必ずしも、特別なスキルが必要ではないと思います。

たとえば昨年、熱海市の地元企業と都市部の人材をつなぐコーディネーターとして、ビズリーチの複業案件『地域貢献ビジネスプロ人材』にかかわりました。

そこでは塗装業者さんが「人事労務担当者」を募集していました。都内には、そういうバックオフィスのスキルを持つ方はたくさんいますが、地方で重宝されていることもあります。
佐藤
佐藤
それに、都市部では「普通」として捉えられていることが、地方にはまだ浸透していないことが多いんです。そのとき、役立てる余地があって。
竹内
竹内
たとえばどんなことでしょう?
佐藤
佐藤
遠恋複業課に、都市部で働く営業スキルを持った人が来て、「営業管理にはこんな顧客管理システムを使っている」と話していたんです。

それを聞いた地方企業の方が、「そんなのあるんですか。今度、それをウチの会社のみんなに教えてもらえませんか?」という話につながっていました。
水野
水野
「仕事になる」と自覚していない自分のスキルが、必要とされることもありますよね。

SNSの発信力の弱い地元企業が、「SNSを使って広報活動できる人材」を募集していたこともありました。そんなふうに、自分が日常的にやっていることで、役立てる仕事もあります。
佐藤
佐藤
それに、経営者の頭の中には、グーグルでは検索できない「求人化されてない仕事」がたくさんあるんですよ。
水野
水野
それ、すごくわかる……!
3人が話している様子
佐藤
佐藤
地方のハローワークに出ている求人は、都市部のビジネスパーソンからすると、「うーん、これか……」っていう条件や業務内容の求人票が正直多いじゃないですか。

でも、経営者の考えていることをヒアリングすれば、アウトソーシングできる業務がたくさんあるんです。それに気づいていない経営者は少なくありません。
竹内
竹内
なるほど。以前、僕は「地方=観光業、製造業、肉体労働みたいな仕事しかないでしょ?」と言われたことがあるんですけど、そんなことはないですか?
佐藤
佐藤
「仕事がない」は幻想でしかないです。
水野
水野
モノの見方を変えれば、「これって企画すれば仕事になるよね」と気づけることもあって。
佐藤
佐藤
そうそう。だから、現場に足を運んで、企業さんとの信頼関係を築いていくなかで、はじめて仕事が表に出てくることもあります。
水野
水野
本業とはまったく関係のない仕事って、その会社のホームページを見てもわからないじゃないですか。

これは、ガス会社さんの複業案件を見つけるために、要件定義からかかわって感じたことなんですけど。
佐藤
佐藤
要件定義って、採用のミスマッチを減らすために大事ですよね。
水野
水野
そうなんです。インフラの契約者を増やすためにも、まずは熱海の魅力を高めて外から人を集める必要があるというお話になって。

以前から熱海の付加価値を上げる取り組みはされていたのですが、今回は自社内のキッチンスペースを有効活用した新規事業を行なうことになったんです。
竹内
竹内
最終的には、どんな複業案件になったんですか?
水野
水野
その事業をSNSで発信して、オンラインで集客や告知ができる人材の募集につながりました。
竹内
竹内
なるほど。「仕事がない」じゃなくて、「仕事を見つけられていない」だけなのかもしれないんですね。
水野
水野
はい。経営者の頭の中を編集できる人がいれば、地方に仕事が生まれるんです。
文:流石香織/編集:松尾奈々絵(ノオト)/撮影:栃久保誠/企画:竹内義晴
(後編につづく)

地方での複業は「遠距離恋愛」とよく似ている──信頼できるパートナーとの「共創」が地域を盛り上げる

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「憧れ」と「現実」は、必ずしもイコールではありません。だからこそ、憧れの地方での複業に踏み出したあと、思わぬ壁が立ちはだかるときだってあります。

そんなとき、ヒントにしたいのが、岩手と鎌倉を行き来する佐藤柊平さんと、熱海と東京を行き来する水野綾子さんの経験談。前編では、地方で複業を始めるためのステップについて、お伺いしました。

後編は、「複業する人や地方企業にとって必要なマインド」や「地方で複業する人の存在価値」など、さらに実践的な内容で話が盛り上がりました。

「地方は仕事がない」は幻想でしかない――ひとりの力が地域に与える「複業×二拠点生活」の影響力

遠距離恋愛も遠距離複業も「おたがいに信頼し合う」ことが大切

竹内
竹内
佐藤さんが取り組んでいる『遠恋複業課』の仕組みを改めて教えてもらえますか?
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岩手でおこなった遠恋複業課の、首都圏ビジネスパーソンとのフィールドワーク

佐藤
佐藤
ひと言でいえば、複業したい首都圏のビジネスパーソンと、岩手県内の中小企業をマッチングさせる試みです。

現在、働き方改革の流れを受けて「自分の本業を生かして、会社の外に出て何かをしてみたい」と思っている人が増えています。

一方、地方企業では日本全体が売り手市場の中で、思ったように採用できない現状がある。「正社員を採用するまでもないけど、スキルのある人に任せたい」という場面もありますよね。
水野
水野
そうですね。
佐藤
佐藤
首都圏の人材は、その企業と『遠恋複業課』でマッチングすれば、地域に継続してかかわれる理由と環境が生まれます

岩手に行って企業の中で働くだけではなく、リモートでも働きながら、その報酬を受け取れる仕組みです。
話している佐藤さん

佐藤 柊平(さとう・しゅうへい)。1991年、岩手県一関市生まれ。中学・高校時代に、風景写真を撮りながら岩手の衰退を感じ、地元のためにできることを考え始める。地域づくりを勉強するために、明治大学農学部へ進学。都内のPR会社へ就職し、全国各地の移住促進や地方創生事業に携わる。2017年にUターンし、世界遺産平泉・一関DMOの設立に従事。岩手県総合計画審議会(若者部会)委員。現在は岩手に関する企画・PR・編集業務を行う一般社団法人「いわて圏」の代表理事や、株式会社カヤックLivingのプランナーとして活動中

竹内
竹内
遠方にいながら、地方での複業を具体的にイメージしやすい仕組みですよね。

「複業をしたいけど、何から始めたらいいんだろう?」と悩んでいる人に「まずはイベントに行ってみたら?」と気軽に言えるのもいいなと。
佐藤
佐藤
そうなんです。二拠点生活をする人は、関係人口【※1】だと言われていますが、もっとそれをフラットなイメージにしたくて。

移住を積極的に推進している地域はたくさんありますが、あまりにゴリ押しされると、ちょっと引いちゃうじゃないですか。
【※1】移住や定住ではなく、交流人口でもない人のつながり
水野
水野
「ウチの街はいいですよ、移住してください」って真正面から言われると、そうなっちゃいますよね。
佐藤
佐藤
遠距離恋愛をしている恋人に会いに行くような、フラットなパートナー関係がたくさん生まれていけばいいな、と。
竹内
竹内
この「遠距離恋愛」をモチーフにしたネーミングもキャッチーですよね。
佐藤
佐藤
この名前にしたのは、「岩手で複業する」ことと「遠距離恋愛」がよく似ていたからで。
竹内
竹内
どんなところがですか?
佐藤
佐藤
たとえば移動時間。3時間くらいの移動時間があると「遠距離恋愛だ」と感じる人が多いそうですが、岩手と首都圏はドアtoドアで、ちょうど3時間くらいなんです。

それに、お付き合いがうまくいくコツも似ていました。
水野
水野
うまくいくコツ?
佐藤
佐藤
某女性雑誌に書いてあった、「遠距離恋愛がうまくいく10の秘訣」の中に、地方での複業に当てはまるものが、いくつもあって。

たとえば、「相手の忙しさを理解して、おたがいに信頼し合う」とか「会う日や電話する日は決めておく」とか。
水野
水野
なるほど!(笑)
佐藤
佐藤
このネーミングと行政の取り組みであることに興味を持って、参加してくれる首都圏の人材はたくさんいるんです。昨年は10社の受け入れ企業のうち、5組が成立しました。

自分のスキルを地方でどう生かしたらいいのかわからない人に、気軽に利用してもらいたいですね。

移住しなくても熱海にかかわってくれたら、もう熱海の人

竹内
竹内
水野さんがビズリーチさんと取り組んだ、副業・兼業で地域貢献するという『地域貢献ビジネスプロ人材』には、どれくらいの応募があったんですか?
水野
水野
熱海市の地元企業4社さんの募集に対して、複業したい人が330人くらい集まりました。
佐藤
佐藤
すごい倍率ですね!
水野
水野
地元企業さんは、「人材不足で1人も採れなかった」ことが当たり前なので、300人以上もの応募があって、うれしい悲鳴でした。
竹内
竹内
そもそも、ビズリーチさんとは、どんなきっかけで組むことになったんですか?
水野
水野
こちらから提案に行ったんです。熱海には、若者が集まりつつある土壌が生まれていて、熱海で「働き方」をテーマにしたトークショーなどができないかと思って。

協賛をお願いしに行ったら、「ちょうど、複業したい人と地方企業をつなげるプロジェクトが動いていて」というお話が出てきて、そこに手を上げました。
竹内
竹内
そのようないきさつで、もともと熱海に集まりつつあった都市部の人と、熱海の企業とをつなぐ仕組みをつくるようになったんですね。
水野
水野
熱海のまちづくりにかかわる人や行政の方たちは、「働き方」や「住まい」という文脈で、「何かできないだろうか」と話し合っていました。
話す水野さん

水野綾子(みずの・あやこ)。編集者。出版社で雑誌の編集を経て、2015年から編集業に加えて”人のPR業”を開始。2017年に家族で熱海に移住。東京での仕事を続けながら、週4日、新幹線で熱海・東京間を行き来するサーキュレーションライフ(循環型生活)を送る。二拠点、複業など「多様な働き方」を熱海から実践、発信中。2018年には、ビズリーチの『地域貢献ビジネスプロ人材』に、熱海市の地元企業と都市部の人材をつなぐコーディネーターとしてかかわる

竹内
竹内
なるほど。ビズリーチさんのプロジェクトの反響を受けて、行政はどんな反応でした?
水野
水野
「地方での複業は、やっぱり需要がある」と感じたようです。

実は、熱海の行政って移住施策をまったくやっていないんです。それをせず、「移住しなくても、熱海にかかわってくれたら、もう熱海の人だよ」というスタンスです。
竹内
竹内
そうなんですね。
水野
水野
「まずは、熱海を好きになってもらえるように、こちらが頑張ります」という気持ちで取り組んでいますね。

「押し付けないからこそ、自分の望む濃度で付き合える」のは、いいなと思っています。
竹内
竹内
そのような熱海の魅力を発信するのが、水野さんの役割なんですね。
水野
水野
説得力を持って伝えられるのは、自分の経験からしか出てきません。

だから、ライフスタイルや働き方の軸で、「二拠点生活による複業」や「熱海に移住したこと」などを発信しています。

地方は「新しい風」を流し込んでくれる存在を、どこかで待っている

竹内
竹内
「ウチの地方には、よいところがたくさんある」とは言いつつも、動き出さない自治体って多いじゃないですか。

その点、熱海は積極的に動いていますよね。それはどうしてだと思いますか?
2人の背中越しの竹内さん

竹内義晴(たけうち・よしはる)。1971年、新潟県妙高市生まれ・在住。ビジネスマーケティング本部コーポレートブランディング部 兼 チームワーク総研 所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業している。コミュニケーションの専門家。「もっと『楽しく!』しごとをしよう。」が活動のテーマ。地方を拠点に複業をはじめたことがきっかけで、最近は「地方の企業と都市部の人材を複業でつなぐ」活動をしている

水野
水野
熱海が「危機感を共有していた」ことが大きいと思います。

12、3年前、熱海では観光客は激減し、若者は流出して空き家がどんどん増えていきました。熱海に住む人たちの多くは、その危機感を持っていたんです。
竹内
竹内
「未来への希望」というよりは「危機感」なんですね。
水野
水野
観光業がメインの街なので、人が来なくなったときの影響をダイレクトに受けるんです。
竹内
竹内
それは、危機感を感じざるをえないですね。
水野
水野
そのとき、先々のビジョンを描いて「なんとかしなきゃ」とアクションを起こせる人がいたことで、動きが早まり、いまのまちづくりの土壌が生まれたんだと思います。

そのうえで、熱海は少子高齢化や空き家問題など課題先進都市なので、「未来の危機感」を共有できていることも大きいのかなと。
佐藤
佐藤
地方は、新しい風を流し込んでくれる人の存在を、どこかで欲していますよね。誤解を恐れずに言えば、地域にずっといると、考え方や働き方自体が硬直化していきがちなので。
水野
水野
そうなんですよ。
佐藤
佐藤
地元完結型の雇用や採用では、どうしても突破できないものがある。

そのとき、地元企業が複業マッチングを使えば、地元では出会えないスキルや考え方を持った人と出会うことができるんです。
竹内
竹内
受け入れ側の企業にとって、必要なマインドって何でしょう?
水野
水野
柔軟な姿勢で、新しさを受け入れることだと思います。

複業案件を一緒に進めるなかで、地元企業の50代の方に「1社に勤め上げることが美徳だと思っていたけど、複業っていう形は目から鱗でした」とおっしゃっていただいたことがあって。

新しいものから学ぼうとする姿勢が大事なんでしょうね。

「俺が何とかしてやるぜ」と上から来られるとちょっと引いちゃう

竹内
竹内
都市部の人材と地方企業をつなぐ仕組みをつくろうとしている都市部の企業も出始めています。

地方と都市部を行き来しているおふたりが、この活動に取り組む理由はなんでしょうか。
佐藤
佐藤
うーん。都市部にしか基盤のない企業がコーディネートしようとしても、なかなか難しいとは思います。
水野
水野
地方と都市部とでは、仕事の進め方ひとつ取っても、だいぶ違いますもんね。
佐藤
佐藤
たとえば、水野さんが熱海の人に「隣町の水野です」と言えば、その土地の人は「ああ、知っていますよ」と心を許して、本音で話してくれる可能性が高いんです。

そういう「通訳者」のような存在が一人いるだけで、話の進み方がスムーズになります。
水野
水野
地方の中小企業が、必ずしも複業に対して理解あるわけじゃない。そういう企業は、その地域を何も知らない人から「俺が何とかしてやるぜ」と上から来られると、あんまりよく思わないですよね。
佐藤
佐藤
そうそう。
水野
水野
それに、「複業に柔軟に対応できる地元企業かどうか」の見きわめや「複業したあとのサポート」も、都市部にしか基盤のない企業では難しいと思うし。
向かい合って話す水野さんと佐藤さん
佐藤
佐藤
二拠点を行き来する人であれば、両方の状況がわかっているので、「どこが落とし所になるか」の道筋を付けられますからね。

つなげたい両者にとって、ニーズのある仕事かどうかがわからないと、せっかく仕事を生み出しても、結局は空振りに終わってしまう。
竹内
竹内
たしかにそうですね。
水野
水野
わたし達の役割って、それぞれの地域の文化を通訳すること

二拠点のどちらにも、よいところもあれば、足りないところもある。「複業は、それを補いあえるんだよ」って伝えることが、通訳者には求められているんです。

優先順位に合わせて、もっとワガママに働いたっていい

竹内
竹内
二拠点をつなぐコーディネーターになると、やってほしいことをお願いされる機会が何かと多くなりませんか。
佐藤
佐藤
最初は「二拠点を合わせて100%」で稼働していても、「東京で70%、岩手で70%、合わせて140%」のような稼働になりがちですよね。
水野
水野
「あれもやって、これもやって」とボールを投げられがちですからね。
佐藤
佐藤
そのとき、自分の中で「ここまではする」という線引きを決めておく必要があるなと。

というのも、僕は昨年、東京で週5日フルタイムで働きながら、地方では自分の会社を立ち上げたりしていたので、なんだかもう……カオスな状態でした(笑)
話す佐藤さん
水野
水野
パンクしますよね。あるポイントまでは、マンパワーで進められても、いずれ削らなきゃいけない部分が出てくる。

そのときに「自分がかかわる必然性はあるのか」を考えながら、削れるものは削り、チューニング作業をしなければいけなくて。
佐藤
佐藤
複業先とも自分のバランスを共有しておくことも大事なポイントかなと。
水野
水野
自分の中で決めた優先順位に合わせて、もっとみんなワガママに働いてもいいですよね。
竹内
竹内
ワガママに働く?
水野
水野
わたしは子どもが3人いて、「家庭」の優先順位が高くなるんです。

「東京の仕事も好きだけど、熱海での活動も増やしたい。でも家族との時間は削りたくない」と考え、東京での勤務を週4に減らしました。

自分の優先順位を大切にしながら、「自分にとって心地よい方法」で仕事してもいいんじゃないかと思っていて。
佐藤
佐藤
うん、うん。
水野
水野
もちろん、結果は残さなきゃいけないし、所属会社や複業先と交渉できるように、信頼関係を培っておく前提はあります。

とはいえ、みんなもうちょっとワガママに仕事してもいいし、好きなことを仕事にしてもいいと思います。だって、仕事って人生そのものですから。

複業するなら、企業とは「いいパートナー」としていっしょに走ろう

竹内
竹内
「複業する人には、こういう気持ちでかかわってほしい」と思うことはありますか?
水野
水野
「いっしょに地方を盛り上げていきたい」「チームとしていっしょに走っていきたい」という気持ちを持った人のほうが、地方とよい関係になれますね。
佐藤
佐藤
それは、僕も『遠恋複業課』で感じましたね。賃金の条件だけでエントリーした方は、「やっぱり違う」と離脱してしまいがちです。

最終的に仕事を続けている方は、動機があり、地元企業の考え方に共感している場合がほとんど。企業とか土地への恋ですよね。
水野
水野
「好き」っていうモチベーションは大事ですよね。
竹内
竹内
たしかに。コーディネーターとしては、複業する人に「やりたいことで、ちゃんと働いた」っていう実感を持ってほしいですしね。
水野
水野
複業は、個人のステップアップにつながりますけど、ちゃんとそこで信頼関係や実績をつくらないと、キャリアデザインにつながっていきません

だから、「条件」で複業を募るのは、ちょっと違うのかな、と。
佐藤
佐藤
条件のいい複業をしようと思えば、東京ですればいいんですよね。
水野
水野
そうなんです。それに正直なところ、条件だけでは、地方に人材は来ないじゃないですか。

たとえば、ちょっとおおげさかもしれませんが「給料は1日1万円」という条件だったとき、「それだったら、東京で残業したほうがいいな」と思ってしまうので。
佐藤
佐藤
だからこそ、「地元に貢献したい」「地方で将来こういうことをしたい」という動機が必要なんですよね。

その上で自分が苦しくならず、かつ地域にとってもメリットのある形が理想的だと思います。
水野
水野
おたがいに補い合える関係
佐藤
佐藤
「パートナー」ですね
水野
水野
そうそう。ともに走れて、地域を盛り上げることができるパートナー。そんなふうに、共創できる関係になれる複業っていいですよね。
和やかに話す3人
竹内
竹内
熱海の人たちと共創するために、水野さんはどんな展望を持っていますか?
水野
水野
直近では、首都圏の人材と熱海の企業さんをつなぐ複業プラットフォームの完成を目指しているところです。

地元企業の魅力を棚卸ししながら、「この会社であれば複業したい」と思えるような求人を出して、複業マッチングを実現させたいですね。
竹内
竹内
その完成は、いつ頃までに?
水野
水野
実はもう、動き始めているんですよ。「CIRCULATION LIFE」という、熱海と東京を複業でつなぐサイトを立ち上げたところです。

それと、2030年の熱海を考えて変えるための公開型の会議「ATAMI2030会議」の運営にもかかわっているので、まちと人や企業をつなぎ、「観光以外の熱海の可能性」をもっとかたちにしていきたいです。
竹内
竹内
佐藤さんは、いかがでしょう?
佐藤
佐藤
僕は、人口減少にもしなやかに対応できる地域をつくりたくて

地方の人口が減っても、地域の文化が守られて、地域の産業や経済が回り、地域社会がしっかりと営まれていく。そういう社会をつくらないといけないタイミングが、まさに今、来ているんです。
竹内
竹内
たしかに。
佐藤
佐藤
住む場所や仕事は、もっとボーダレスになっていくはずです。

その中で、地方の人口が減っても、いろいろな人がハッピーになれる暮らし方や仕事を選べるようになれば、岩手をはじめとする地方は大丈夫なんじゃないかと思います。

そのために、岩手では「遠恋複業課」、複業先のカヤックLivingでは、移住希望者と地域のマッチングサービス「SMOUT」を活用して、理想的な状態をつくることが目下のミッションです。
水野
水野
複業が当たり前になれば、変化に対して、しなやかに対応できる地方になれますよね
佐藤
佐藤
自分が介在することによって、その地域や組織にプラスになるものを1つでも多くつくっていきたいですね。

複業をすることで、それぞれの場所で実現できることは違います。

それを掛け合わせることで、おたがいがハッピーになれればいい。たとえ小さくてもいいので、それを1つずつ積み上げていければいいなと思っています。
文:流石香織/編集:松尾奈々絵(ノオト)/撮影:栃久保誠/企画:竹内義晴

情報をクローズにする経営者は、凡人以上に天才を殺している──『天才を殺す凡人』北野唯我×サイボウズ副社長 山田理

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かつて離職率28%のブラック企業だったサイボウズ。しかし現在は「働き方改革」を推し進める企業へと生まれ変わりました。そのけん引役を担ったのが、副社長の山田理です。

山田はこれまでのマネジメントや組織づくりの経験をまとめた書籍を、秋ごろに上梓する予定です。

その出版前イベントとして、2019年1月に新著『天才を殺す凡人』を上梓した、株式会社ワンキャリア最高戦略責任者の北野唯我さんをお招きして対談を行いました。テーマは、「才能を殺さないために、マネジャーができること」。

個性を生かす時代、これからのマネジメントはどうあるべきか。理想的なチームをつくり上げていくために、マネジャーはどうすればよいのでしょうか。

僕の仕事は、社員のみんなを早く辞められるようにすること

山田
山田
北野さんの『天才を殺す凡人』、めっちゃおもしろいですよね。
北野
北野
ありがとうございます。『天才を殺す凡人』では、人の才能は3つあると定義しています。それは、創造性、再現性、共感性です。

それらの才能のうち、どの割合が強いのかによって、天才タイプ、秀才タイプ、凡人タイプに分かれます。
3タイプを表すベン図
山田
山田
うんうん。
北野
北野
クリエイティブで新しいものをつくる「創造性」が強い人は、天才タイプ。

ロジックを持っていて、もう1回同じようなプロセスで繰り返し行動できる「再現性」が強い人は、秀才タイプが当てはまりますね。

そして、共感できるかどうかといった、感情的なものを大切にする「共感性」が強い人は、凡人タイプです。
話をする北野さん

北野唯我(きたの・ゆいが)。兵庫県出身。新卒で博報堂。その後、ボストンコンサルティンググループに転職し、2016年ワンキャリアに参画、執行役員。2019年1月から子会社の代表取締役、ヴォーカーズの戦略顧問も兼務。30歳のデビュー作『転職の思考法』(ダイヤモンド社)が12万部。2作目『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版社)が発売3ヶ月で9万部。編著に『トップ企業の人材育成力』。1987年生。

北野
北野
外から見ていると、サイボウズの社員さんは、それぞれが自立して才能を発揮し、いきいきと働いているように見えます。

そのポイントってなんだと思いますか?
山田
山田
うーん。みんなが「自分で選んでいるから」かもしれません。僕は入社式のときに言うんです。

「サイボウズに入ってくれてありがとう。僕が最初にやらなきゃいけないことは、君たちが早く会社を辞められるようにすることです」と。

辞められるくらいのスキルをつけたみんなが、「それでもサイボウズで働きたい」と言ってくれる会社にするのが経営の役割だと思っています。
話をする山田

山田理(やまだ・おさむ)。サイボウズ株式会社取締役副社長 兼サイボウズUSA社長。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、取締役として財務、人事および法務部門を担当。初期から同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年グローバルへの事業拡大を企図しUS事業本部を新設、本部長に就任。同時にシリコンバレーに赴任し、現在に至る。

北野
北野
ああ、僕も、まさに同じような考えです。
山田
山田
働き方も、仕事重視でもいいしプライベート重視でもいい。複業してもいい。

「自分で選んでいる」状態が主体性を生み出す。それがいきいきとかワクワクにつながっているんだと思います。

情報を開示しない経営者は、凡人以上に天才を殺している

北野
北野
サイボウズさんみたいに、社員それぞれが自立心を持って働く会社って、どうやったら増えるんでしょう? 
山田
山田
一番大事なのは「情報の公開」だと思います。権限を持っている人が情報を渡すのって、勇気がいるんですよね。なぜなら、財務状況とか事業戦略は、出してしまった瞬間にウソをつけなくなるから。

でも、開示してみんなが知ることで、一人ひとりが主体的になれる。みんなに「自分の会社だ」と思わせるためには、情報の公開が必須だと思うんです。
会場の様子
山田
山田
それに、情報の公開に必要なのはスキルじゃなくて覚悟だけで、経営者やマネジメント層が失うものは何もないですしね。
北野
北野
おもしろいですね!
山田
山田
情報を公開した瞬間に、頭がいい人はたくさん会社の中にいるので、アイデアがブワーっと出てきます。

情報を公開しないから、その人たちのアイデアや能力を殺してしまっている。情報をクローズにしている経営者は、凡人以上に天才を殺していますよ。

会社も「透明化」によってウソがばれる

北野
北野
情報公開の文脈でいうと、僕は、「透明化によってウソがばれる」というのが今年のキーワードだと思っています。

たとえば、ワンキャリアの事業内容を説明するときには、「仕事選びの食べログをつくっています」と言うんですよ。
山田
山田
どういうことですか?
北野
北野
食べログが生まれる前って、「ぼったくり」をする店が普通にあった。でも食べログができて、そういう店は1点という低い点数を付けられるようになりました。

企業においても同じように、ウソはつけるけど、バレてしまう時代になってきていると思うんですよね。
山田
山田
すごく共感します。ウソをついてもバレてしまうがゆえに、「そもそも企業側が透明であること」も求められますよね。

サイボウズでは「ブラックでもホワイトでもなく、透明な企業でありたいね」という話をしています。

よく「激務=ブラック企業」という批判を聞きますが、必ずしもそうではないですよね。激務であることを知った上で入社をして、社員が楽しく納得して働いていたら、ブラック企業とは言えないですから。
北野
北野
そうですよね。
山田
山田
大事なのは、「うちはこういう会社ですよ」とオープンにすること。だからこそ、社員たちがどのような思いで働いているか、企業側がどんどん情報を出すべきです。

北野さんがおっしゃるとおり、きっと「透明であること」が、これからもっと重要になっていきますよね。

マネジャーのハードルを下げたいと思っている

北野
北野
山田さんが出される本の原稿を、事前に読ませていただきました。

その中で「経営者側は説明責任があるが、現場のメンバーは質問責任がある」と書かれていましたよね。これは本当にそうだな、と思いました。
山田
山田
今って、マネジャーに求められるスキルが高くなりすぎている気がするんですよね。僕はそのハードルをもっと下げたいなと思っていて。

たとえばマネジャーは、メンバー全員が納得できるように物事を考えたり、説明していったりしないといけない。でも、全員を納得させるなんて無理じゃないですか。

だから「ごめん、気になることがあったら質問して。聞いてくれたら答えるから」と。
北野
北野
なるほど。
山田
山田
もし不満や何か変えたいことがあるのなら、ちゃんと質問してくれたほうが、おたがいにとって効率的。そういう意味での質問責任です。

言ってみれば、半分責任を振ったんですよ。
壇上で話をする2人
北野
北野
納得できないことがあるならちゃんと聞けよ、と。
山田
山田
責任を分担することで、最適なマネジメントの形を、マネジャーだけでなく社員も一緒につくりあげることができる。

いわば「マネジメントの大衆化」が、これからの時代にすごく大事だなと思っています。

一人ひとりの顔がみえなくなるから、アンケートは取らない方がいい

北野
北野
お会いする前から聞いてみたかったんですが、山田さんは「会社さんはいない」とおっしゃっていますよね。

青野さんの本『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』にも「会社なんて幻想だよ」というフレーズがあったり。

この発想は、どこから生まれたんですか?
山田
山田
僕は100人くらいの部署をマネジメントしていた時期がありました。でも、もともと銀行員だから、営業も開発もマーケティングもわからない。

やることがないから60~70人くらい、3か月間毎日ザツダンしていたんですよ。そうすると、組織がめっちゃ見えてきたんです。
話をする山田
山田
山田
それまでは、事業部の「みんな」と呼んでいた。でも、ザツダンをすることで、一人ひとりがチームをつくっていると身をもってリアルに感じたんですよ。

そこから「会社」という言葉に、敏感に反応するようになったんです。「会社のために頑張る」って、結局誰のために頑張るの? と。
北野
北野
なるほど……!

会社という幻想のためではなく「一人ひとり」を大切にするために、人事責任者やマネジャーが明日からできることは、何かありますか?
山田
山田
アンケートを取らないことですかね。アンケートって発言者の顔が見えにくいので、「みんな」の世界になりがちなんですよ。

人事こそ、一人ひとりと顔を合わせて話をして、誰がどう言っていたかを肌で感じるべきだと思います。多くの時間を消費しますが、そこにかけるコストは全然惜しくないですね。

100人100通りの人事制度は、アメリカでも変わらない

北野
北野
山田さんは普段アメリカにいらっしゃるんですよね? サイボウズのマネジメントやチームのつくり方は、アメリカでも刺さりますか? 
山田
山田
日本と通ずるところは「100人100通り」の人事制度です。一つの人事制度で多くの人をまとめようというのは無理がある。

日本人だから、アメリカ人だからっていう考え方はすごく嫌いなんですよ。僕と北野さん、同じ日本人に見えないでしょう?(笑)
北野
北野
え、どういう意味ですか(笑)。
話を聞く方々
山田
山田
日本人だって、2人いたらふたつの個性があると思いながらやってきたので。そこはアメリカに行ってもあんまり変わらないんですよね。

「アメリカ人か日本人か」より、デーブはどんな人なのか、ニコルはどんな人なのかってことの方がよほど大事。

個人のことを知った上で、「チームワークあふれる社会をつくる」という理想に共感してくれているか、彼らに問うわけですよね。

もし共感してくれたら、あとはどんな活躍をしてくれそうか考えて、役割を分担していく。日本でもアメリカでも全然変わらないですよ。
文・村中貴士 編集・水上歩美(ノオト) 撮影・栃久保誠 企画・明石悠佳/小原弓佳

「あれっ、複雑な単語よりカジュアルな会話の方が理解できないぞ?」────スイス人が日本の会社で思うこと

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アレックスの「あれっ?」、サイボウズに入社したスイス人の観察記、第4回。

2018年の11月にサイボウズに入社したアレックスと申します。スイス出身です。よろしくお願いいたします。

……という自己紹介は、そのまま日本語学校で覚えたものです。就職活動では、尊敬語、謙譲語、ビジネスマナーなどが必要になると聞いたので、単語カードやYouTubeで毎日寝る前に練習しました。そして、同じシェアハウスに住んでいる日本人のハウスメイトにも「日本で働くのはどんな感じ?」と聞いていたので、なんとなく日本で働くイメージは、頭の中にありました。

しかし、いざサイボウズに入社してみると、教わったイメージと違っていて「あれっ?」と思うことが何度もありました。この連載では、「サイボウズでの会社員生活」で得た気づきを、外国人視点でお伝えしています。サイボウズに入社したスイス人の観察記、第4回です。

カジュアルな会話はビジネス会話より難しくて「あれっ?」

少し悩みながら、名刺交換をするアレックス日本人の会話が理解できず、悩むアレックス 編集会議。メンバーみんなでモニターに映っている編集長藤村の写真を見て笑う。「金剛力士像」がなにかわからず、アレックスは話についていけない アンパンマンを知らず、同僚の話についていけないアレックス 同じ文化の人とフランス語で会話をするアレックス 大盛り上がりするアレックスと友人。2人を不思議そうに見ている

アレックス
アレックス
外国語でコミュニケーションするときに一番難しいポイントは「複雑な単語」だと思いがちです。なので私も日本企業に入社する前に、漢字や単語を一生懸命勉強しました。

しかし、一番難しいポイントは、実は「複雑な単語」ではなく「その国特有のカルチャーの話」です。

いくら日本語を勉強していても、日本の芸能人、子供の頃によく見たアニメ、懐かしい音楽などは理解できるわけがない。そういう知識があまりなくて大変です。今でも「アンパンマン」「夏目漱石」や「嵐」以外はほとんど何も知りません(笑)。

日本語でメールを書くのは複雑すぎて、「あれっ?」

同僚に協力を求めるアレックス 同僚にメールの文章をチェックしてもらうアレックス 「いつもお世話になっております」を入れることを不思議に思うアレックス 同僚のアドバイスをさらに不思議に思うアレックス。同僚はアドバイスをもうひとつ追加 「気にしないで」と言われても、納得できないアレックス メールとは別に依頼書を添付するように言われてアレックスは大混乱

アレックス
アレックス
サイボウズ式編集部では、実はあまりメールを書きません。社内のコミュニケーションはグループウェアを通して。社外のパートナーさんには、最近Slackで連絡しています。

しかし、取材の依頼はまだメールで送ることが多いです。今まで1回しかやったことはないけれど、頭が爆発すると思いました。なんで「取材依頼書」を別のファイルで添付しなきゃいけない!? メールでそのまま書けばいいのに、不思議。結局、すべて同僚に任せました。

しかも、その取材依頼は断られました。「長いメールに答えるのはめんどくさい」というのが原因のひとつじゃないかなと少し思います……

日本のオフィスで誰も喋らなくて「あれっ?」

通勤するアレックス エレベーターに乗るアレックス オフィスに到着したアレックス ランチにて同僚に日本の静かさを不思議に思ったことについて話すアレックス アレックスの質問に答える同僚 騒がしい飲み会の場でアレックスは同僚に話しかけるが、同僚には聞こえない

アレックス
アレックス
日本に来たばかりの頃、人がすごく静かでびっくりしました。逆に、人以外のものがうるさくて驚きました。人は誰もしゃべっていないのに、改札口、救急車、エレベーター、トラックばかりしゃべっているのは不思議じゃないですか?

日本に3年以上住んでみて、この静かな生活に慣れすぎた気がします。スイスに戻ったとき、電車で電話する人や、エレベーターで大きい声で喋ったりする人を見てイラっとするようになってしまいました。自分の中にいろんな文化が混ざっていて、変な人間になった気がします。

マンガ:夕海 編集:アレックス

「あれっ、お疲れさまって言い過ぎじゃない?」──スイス人が日本の会社で思うこと
「あれっ、日本人のカタカナ英語ってヘンじゃない?」──スイス人が日本でのコミュニケーションで難しいと思うこと
「あれっ、日本語学校で教わったことと違うじゃん!」──スイス人がサイボウズの面接を受けて感じたこと

サイボウズが自社製品のバグに懸賞金を出す理由って?──バグハンター合宿に密着取材してきた

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「100万円のバグを見つけました!」

サイボウズが主催する「バグハンター合宿」なるイベントに参加して、1時間足らずの出来事だった。あまりに簡単に100万円という金額が飛び出たので、人生ゲームの紙幣くらい軽く感じてしまった。

それと同時にバグハンターたちの技術力の高さと脅威の両方を知ることになった……。

文:megaya

上の青枠の文章だけは別人が書いています。

バグハンターとは、ものすごく簡単に説明すると「Webサイトやスマホアプリのバグを見つける人」のことだ。 バグ探しを趣味にする人もいるが、バグハンターを職業としている人も数多くいる。見つけたバグを企業に報告することで報酬をもらうのだ。なかには「バグ1件で200万円」なんて高額な報酬もあるそう。

夢がある実例をひとつ紹介したい。2018年5月頃から活動している若手バグハンターのno1zy(ノイジー)さんの話だ。

インタビューを受けるno1zyさん

バグハンターのno1zy(ノイジー)さん

当時は学生だったにもかかわらず、活動し始めてからわずか6か月で、500万円もの報酬を得たという。サイボウズからの報奨金が今年入金されたため、来年の税金がエグそうだとのこと……。

(お金の話ばかりで節操なくて申し訳ないが、わかりやすい指標として紹介させてほしい)

バグハンターの報酬が高いのには理由がある。場合によっては、バグが個人情報流出を引き起こす可能性があるからだ。そんなバグを悪用されてしまったら、会社の存続にもかかわるかもしれない。数百万円で会社を守れると考えれば安いものなのだろう。

しかし、バグ報告に対して報奨金を出す日本企業は少ない。バグハンターの重要性がまだまだ浸透していないのかもしれない。

またバグハンターはハッキングに近い形でバグを探していくので、危険視されることもあり、企業からは敬遠されることもあるのだ。

サイボウズはいち早くバグハンターに報奨金を出す取り組みをしている。それだけでなく、社外から参加者(バグハンター)を募り、2日間で集中的にサイボウズ製品の脆弱性を発見してもらうイベント「バグハンター合宿」を2014年から開催しているという。今回はその合宿に取材をしにいくことに。

僕もライターの傍らでエンジニアをやっているのだが、バグハンターの知識はあまり ない。一体、どんな合宿になるのだろうか……。まったく想像がつかないまま、会場に足を運んだ。

※この記事にはオマケとしてバグっぽいものが3つ仕込んであります。間違い探しの感覚で、読み進めながら見つけてみてください。 (「文章に故意に嘘の情報が書いてある」といったバグはないので、普通に読み進めていっても大丈夫です)

<合宿1日目> 合宿スタート!

おんやど恵正面の写真

今回のバグハンター合宿は、湯河原の温泉旅館「おんやど恵」で開催。

合宿のスケジュールは以下の通り。

4/20 (土)

13:30〜14:00 説明・チーム挨拶など

14:00〜17:30 バグハント

17:30〜18:00 成果発表 (1日目)

18:30〜20:30 夕飯

20:30〜 自由時間

4/21 (日)

09:00〜12:00 バグハント

12:00〜13:00 ランチ

13:00〜14:00 発表準備

14:00〜14:30 成果発表(最終)

14:30〜15:00 結果発表、表彰式、総評

テーブルに積まれたレッドブル

会場に大量に積まれたレッドブルがこれからの戦いの長さを予感させる

レッドブル横に積まれたパイの実

サイボウズが用意した、パイの実ならぬバグハンの実も

会場前で説明する運営本部の様子

合宿では4チームに分かれて、対抗戦を行う。チームは事前にサイボウズによって決められる。バグはCVSS v3(国際基準の評価法)によって10点満点で評価される。その評価値によってチーム得点が計算され、勝敗が決まるという。

報奨金の計算方法の図

※詳しくは脆弱性報奨金制度ルールブックをご確認ください

当然ながら、合宿中に見つけたバグにも報奨金が支払われる。合宿を楽しみながらお金稼ぎもできるなんて、バグハンターにとって最高の環境だ。

いよいよバグハントが始まると思った矢先、ちょっとしたトラブルが。参加者に事前に公開されていたルールより変更があったらしく、バグハンターから「それは脆弱性でしょう」とツッコミを入れられていた。BJ(バグハンタージョーク)だ。

テーブルに積まれたレッドブルとバグハンの実

しかし、サイボウズのエンジニアも「お菓子がデプロイ(実装)されているのでご自由にお食べください」とEJ(エンジニアジョーク)で返すという高等テクを見せる。なんだろう、この集まり……。

<合宿1日目> 14:00〜17:30 バグハントタイム

ルールのバグをつく。前日から戦いは始まっている……!

201905_03_010.jpg

いよいよバグハントが始まった。

さて、どのチームが一番始めにバグを見つけるのか…!!

各チームの点数を表示しているスクリーン

会場のスクリーンには、チームごとにバグを見つけた数と点数が常に表示されるようになっている

バグハンターたちの熱き戦いが今始まった!!!!!!

……と心の中で勝手に盛り上がっていたのだけれど、なんと始まって5分ほどで全チーム合わせて50個ほどのバグが報告されていた。

megaya
megaya
え、どういうこと? スクリーンの表示がバグってる?

どうやら合宿前に検証環境が配布されていたため、前日までにバグ探しをしていた人が何人もいたようだ。

「事前にバグを探してはいけない」とは書かれていないというルール上のバグに気づいていた人が多かったのだ。戦いはすでに始まっている……!!

ちなみに、この時点で一番バグを見つけていたのは冒頭で紹介したno1zyさんで、当日までに30個以上のバグを見つけたようだ。

バグハンターのPCをのぞき込むサイボウズ社員たち

合宿中は黙々と作業をすると思っていたのだが、予想と違って活発に話し合いをしていた。和気あいあいとしたワークショップの雰囲気に近い。

考えてみれば「すきあらばバグハントをする」共通項のある同士が集まっているのだから楽しくないわけがないのだ。

参加者A
参加者A
ちょっと〜! 中間者攻撃(*)しますよ〜?
参加者B
参加者B
やめてくださいよ(笑)。

(*)通信をしている送信者と受信者の間に入り、それぞれになりすまして、盗聴したり、データを改ざんしたりすること

会話に挟む冗談も、世紀末のような発言なのが恐ろしい。本物のハッカーが集まっているので、斧を持ちながら「ちょっと〜! 首狩りますよ〜?」と言っているようなものだ。

会場が静かじゃない理由はもうひとつある。バグハンターとサイボウズ社員の間での議論が活発なのだ。

「そもそもバグなのか」「どのくらいの危険度なのか」は、企業側の判断に左右される。バグには無数のパターンがあるので、明確に点数を決めることはできない。

ひとつのバグの危険度の基準を明確にすることは、ほかのバグにも影響するので話し合いがかなり重要なのだ。

「見つけたバグがどのくらい脅威的なのか」を伝えられるかどうかは、バグハンターにとって大事な能力なのである。それによって企業側のセキュリティ意識もだいぶ変わってくるだろう。

坦々焼きそばの写真

合宿では作業部屋にほぼ缶詰状態で、ビックリするくらい写真映えしないので、お昼に食べた湯河原名物である担々焼きそばの写真をみてほしい。ピリ辛でおいしかった

開始1時間で100万円のバグが見つかる

mage
mage
これ100万円クラスのバグじゃないですか?

「バグハンター合宿ってこういう雰囲気なんだな」と、一息つこうと思ったところで早くもひとつの山場がきた。

なんと報奨金が100万円クラスのバグが見つかったのだとか。

合宿が始まってから1時間くらいしか経っていないので「100万円」という金額に実感がまったく湧かない。

mageさん

バグを見つけたmage(まげ)さん。バグハンターとしてサイボウズとは数年前から関わりがある。明るい人で、合宿ではムードメーカー的存在でもあった

mageさんの周りに集まるサイボウズの社員たち

mageさんが見つけたバグを確認するためにサイボウズの社員も一斉に集まる。たしかに最高点がつくようなバグはどんなものか見てみたいし、どうやって見つけたのかエンジニアとして純粋に気になる

どうやってそんなバグを見つけたのかを簡単に言えば「暗号化して読み込んでいるプログラムを見つけて、それを解析してバグを見つけた」という感じだ。

暗号化を解析……。バグの見つけ方が、予想以上にハッキングだったことに驚きだ。バグハンターは実際にWebサイトを攻撃してバグを見つけていくものなのか。改めて自分が異質な場所にいるんだなと認識した。

それと同時に「ちょっと〜! 中間者攻撃しますよ〜?」という先ほどのボケが余計に恐ろしく感じる……。この会場にいる全員が、Webサイトを死に追いやれるデスノートを持っているようなものかもしれない。

【バグ発見の手順】 ※ この手順はかなり簡易的にしています

1. シリアライズ化してプログラムを読み込んでいる箇所を見つける

2. それを解析してプログラムを取得する

3. コンパイルされた状態のプログラムを読み解いていく

4. 脆弱性のある箇所を発見する

理屈はわかったが、「やってみて」と言われてもまったくできる気がしない。

単純に一つひとつの工程をこなす知識力の高さも必要なのだが、それらを組み合わせてパズルのようにバグを見つけていくという発想力に驚かされる。一般の人がハッカーと聞いて思い描く「カチャカチャ、ターン」はこのようなことを実行していたのだ。

バグハンターと検証するサイボウズ社員

そういった技術力を持つバグハンターだからこそ、企業との信頼関係は重要になる。合宿の参加者達がサイボウズのサイトを攻撃しようと思えば、いくらでもできるかもれしれない。

包丁は料理に使うものであるが、人を刺すことだってできる。誰がどう使うかが大切なのだ。

だからこそ、こういった合宿などを開き、バグハンターとの絆をつくっていくのは重要なのである。バグハンターにとっても「自由にハッキングしていい」環境があるのは大切なのだと思った。

パグの写真

写真映えしない展開がまだまだ続くので、バグではなくパグの写真を見て癒されてください

バグハンターには「本来はやってはいけないことをやる楽しさがある」

no1zyさんの周りに集まるバグハンターと社員たち

冒頭で紹介した若手バグハンターのno1zyさんも次々とバグと発見していた

megaya
megaya
no1zyさんは、どうやってバグを探しているんですか?
no1zy
no1zy
対象サイトによって、探し方は違いますが、サイボウズで脆弱性を探すときは、XSS(クロスサイトスクリプティング)関連のバグを探して、htmlファイルのなかで脆弱性が起きそうなところを文字列検索して、そこを実際に攻撃する、などの方法でやっています。
megaya
megaya
(暗号のようだ……)

1つのバグが見つかると、別ページの同じような機能でも見つかり、芋づる式に脆弱性のあるバグが発見できるらしい。

ちなみに使っているツールも「Burp Suite」というプロキシツールくらいで、特殊なものはほとんど使っていないとのことだ。

megaya
megaya
バグハンターとして活動するためには、どうやって勉強すればいいんですか?
no1zy
no1zy
まずは「公開されているバグのレポートを見ること」が大切ですね。HackerOneなどの有名サイトではそれらが公開されているので、バグの探し方や報告書の書き方はそこを見て学びました。
スクリーンに表示されるスコアボード

夕飯前の時点で100件以上のバグが報告されていた。自分がつくっているWebサイトをパグハンターに見てもらったら……と考えると想像するだけで恐ろしい

また、バグハンターにもさまざまなタイプがいるらしく、no1zyさんはクライアントサイドやURLに起因するバグを探すのが得意なタイプだ。

一方、先ほど100万円クラスのバグを見つけたmageさんは「コンピュータを乗っ取るようなサーバ上のバグを探すのが好き」だという。

どちらも共通して「本来はやってはいけないことをやる楽しさがある」と言っていた。たしかにそういった背徳感からくる楽しさは少しわかる気もする。

<合宿1日目>18:30〜20:30 夕飯

DSC00297.JPG

約4時間のバグハントを終えてひと休み。宿のご飯が運ばれてきて、やっと湯河原に来ている感じがした

バグハンティングに励むハンターたち

しかし、ご飯を食べ終えたあとに速攻で見慣れた風景に

レッドブルの山がだいぶ小さくなっている

会場の光景はほとんど変わらないが、レッドブルの減り具合だけが時間の経過を物語っている

<合宿1日目>20:30〜 自由時間

終わらない夜

20時30分以降は自由時間。

温泉に入ってもいいし、お酒も飲めるし、マッサージを受けたっていい。湯河原の夜を満喫しよう!!!

自由だ!!!

DSC00280.JPG

21:00

しかし、作業部屋に戻ってみるとほとんど人がバグハントを続けている……。

合宿が始まってから1時間くらいで予想できたことなので、このことは想定の範囲内だ。気になるのは、どのくらいの人が何時まで作業を続けるのか。

黙々とバグハンティングに励むハンターたち

23:00

全員が作業部屋に残っている。まだ日付も変わらず23時なので、かなり集中している様子だ。
チームのうち一人残って作業に取り組むmageさん

1:00

さすがに日をまたぐと、人数はかなり減った。あるチームはメンバー全員が作業部屋からいなくなっている。 ここまできたら僕にも意地が出てくる。「全員いなくなるまで起きててみよう」と思った。
人もだいぶまばらになってきた会場の様子

2:00

深夜2時を回り、人数もだいぶ減ってきた。あと1〜2時間したらさすがに全員いなくなるかも。というか眠くなってきたから、そろそろ寝てほしい。

頼むから減ってくれ……!

と思っていると、さっきいなくなっていたチームが復活していた。どうやらお風呂に入ったり仮眠をとったりしていただけのようだ。

やばい、そろそろこっちが限界になってきた……。

眠りに落ちる運営側

3:30

僕よりも先に運営側が昇天していた。

頼むからもう寝てくれ……

寝てく……

寝……

※ 結局、気づいたら4時ごろに部屋で寝ていた。あの時起きていた人は、このあともずっと作業を続けていたらしい。

<合宿2日目>09:00〜12:00 バグハントタイム

前日と変わらない様子でハンティングに励むバグハンターたち

2日目がスタートしたが、この部屋だけ時が止まっているんじゃないかと思うほど雰囲気がまったく変わっていない。『ドラゴンボール』の精神と時の部屋と同じ空気を感じさせる

レッドブルの山がなくなっている

レッドブルがなくなっているのを見て「ああ、時間が経っているんだな」と改めて実感

2〜3時間しか寝てない人がほとんどなのに、前日と変わらない雰囲気で黙々と作業を続けているのを見ると、バグハンターの体もバグってくるんじゃないかと思ってしまう。『ロックマンエグゼ』でわざとバグらせて強くできる方法があることを思い出した。

もちろん惰性で徹夜していたわけじゃなく結果もきちんと出すから恐ろしい。すでにバグの報告数は190件ほどになっていて、昨日より倍くらいに増えている。何回でも言うけど、いろんな意味を込めて恐ろしい。

会場前方でスタンバイするサイボウズ社員たち

200件近く報告されたバグを一つひとつ見て点数をつけていき、バグハンターと議論し、雑用もこなす……。サイボウズ社員も当日はかなり忙しそうであった。間違いなく言えることはあの空間で僕が一番ヒマであるということだ

ここまでバグが発見されると、

「サイボウズのサイトめちゃくちゃバグ多いな!!」

と感じるかもしれないが、サイボウズのサイトが特別バグが多いわけではない。バグハンターによって今まで表面的には見えなかったバグが可視化されただけなのだ。

いつも使っているWebサイトもバグが見えていないだけで確実に何十個も隠れている。それを公にしているかいないかの違いだけなのだ。

<合宿2日目> 12:00〜13:00 昼ごはん

天ぷらそばの写真

2日目の昼ごはんは天ぷらそば

バグハンに励むハンター 食べ終わったあとはみんなすぐにバグハントに戻る。もはやこの流れに様式美すら感じる。

しかし、2日間のバグハントもいよいよ終わりである。見た目はほとんど変わらない部屋を追い続けてきたが、なんだかこの風景が見られなくなることに寂しさすら覚えるようになってきた。僕自身の脳もバグってきたのかもしれない。

<合宿2日目> 14:00〜 結果発表

見つけたバグを報告するバグハンター

優勝チームの発表の前に、参加者がそれぞれどんなバグを見つけたのか報告し合う。

普段聞く機会のないようなセキュリティの深い話が聞けて勉強になる。それにハッキング的な話を聞くのはちょっとした背徳感もある。

「どんなバグがあったのか」→「どんな問題があるのか」→「それをどうやって見つけたのか」

上記のような解説を聞いているときは、『名探偵コナン』や『金田一少年の事件簿』で、犯人を追い詰めるときの解決シーンを見ているようなワクワク感があるのだ。

優勝賞品を持ってカメラに向かってガッツポーズをとるCチーム

優勝したCチームのみなさん

僕が注目したno1zyさんやmageさんのいるチームは残念ながら優勝できなかったが、ふたりとも大健闘。

no1zyさんはこの合宿で一番多くのバグを報告し、mageさんは合宿中で一番高い点数のバグを見つけ個人の最優秀賞をもらっていた。

ハンターと運営の集合写真 mageさんにバグハントの楽しさを聞いてみたところ「バグ探しはゲームの裏技を見つけるみたいで楽しいんですよ」とのこと。

この2日間は「楽しい」の一言に尽きると感じた。mageさんが「裏技を見つけるみたい」と言っていたように、全員がゲームに夢中になっているような雰囲気だった。集中力と楽しさが共存する環境なのである。

端から見たら絵変わりしない内容かもしれない。しかし本人たちにとっては、ほかのバグハンターや合宿という環境から直接刺激を受け、精神的に風景がガラッと変わるような2日間だったのではないかと思う。

絆をつくっていくバグハンター合宿

最優秀賞を受賞するmageさん

2日間の合宿費用や当日の準備の大変さなどがあってもサイボウズがバグハンター合宿をやるのには「バグハンターとの絆をつくる」という大きな目的がある。

単にバグハンターに来てもらうだけでなく、合宿ではまだ公開されていないサービスも配布している。サイボウズ側も情報をオープンにしているのだ。次回からはコードも公開してバグハントしてもらう可能性があるかもしれないというほどだ。

これには、バグハンターたちもチームの一員とし、バグなどの不具合な情報をオープンにすることで、公明正大に製品品質に向き合おうという姿勢がもとにあるという。

そして、そもそも「バグハンター合宿」自体が、バグハンターの「合宿やりたいな」というツイートの願望から始まっている。

はせがわようすけさんのツイートキャプチャ

はせがわようすけさんのツイートの「ハッカソン形式で同一会場でみんなでわいわい」という意見をきっかけに、バグハンター合宿は生まれた

バグハンターの希望を叶えつつ、サイボウズの目的も実現しつつで、まさにwin-winの関係を築いているのだ。
おんやど恵のロビー"

合宿ではほとんどの施設を生かされていない「おんやど恵」。次は普通に旅行で訪れたい

実はこの2日間、僕も検証環境を借りて取材の合間にバグハントをしていたけれど、1個もバグを見つけることができなかった。

エンジニアとしてセキュリティの基礎的な知識は持っているものの、実際にWebサイトがどう攻撃されるかをろくに理解していなかったんだな。「泥棒が守る家のセキュリティが一番強い」という話を聞いたことがあるが、攻撃方法を知ることが最大の防御なのだなと改めて実感した。

オマケの答え合わせ

最後に、冒頭の「バグっぽいものを3つ仕込んでみた」に対する答え合わせをして、この記事を終えたいと思う。

1. 「バグハンター」という文字が「パグハンター」になっている箇所がある。バグがパグになるバグ。パグハンターって響きがかわいい。 パグハンターになっている部分のキャプチャ

2. 下記の画像をクリックするとなぜか阿部寛のホームページに飛ぶ。気づいたらこの記事を読むのをやめて阿部寛のホームページに夢中になってしまうというバグ。

DSC00297.JPG

3. 冒頭の数行は僕ではなくべつの人間が書いている(最初にある青枠部分のリード文)。乗っ取りバグ。 ちなみに「上の青枠の文章だけは別人が書いています」という文章が背景と同じ色で、青枠の下に書かれている。

「こんなのわかるわけねーじゃねーかよ!!!」と思うかもしれないが、バグとは普通は気づかないところに発生してしまうもの。

バグハンターがいるからこそ見えていなかったバグを探すことができ、Webサイトのセキュリティを保ってより安全に運用することができるのである。

執筆:megaya/編集:松尾奈々絵(ノオト)/撮影:megaya、山見知花/企画:鈴木統子

【はじめに:全文公開】初のサイボウズ式チーム本「未来のチームの作り方」を出版します

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サイボウズ式編集長の藤村です。6月28日に書籍『「未来のチーム」の作り方』(扶桑社)が発売されます。

この本では、わたしがサイボウズ式の立ち上げに始まり、編集長としてサイボウズ式のメディア運営やチーム作りに携わってきたことを書きました。

「会議での発言がかたよってしまう」「新メンバーがなかなかなじめない」「チームで新しいアイデアがなかなか出てこない」といったわたし自身が直面してきた課題に対して、チームづくりの考え方やオンラインツールの活用法をまとめています。

出版にあたり、未来のチームの作り方の「はじめに」を公開します。サイボウズ式を普段からお読みいただいている読者のみなさまの、チーム作りの一助になればうれしいです。

はじめに 「チームワークの会社」の中でのチーム作り

サイボウズ式チーム本「未来のチームの作り方」

「サイボウズの組織や制度の取り組みって、何年かしてからほかの会社が取り入れたりしますよね」

ある日、IT企業に勤める人からこう言われて、「確かにその通りだな」と思いました。

僕が所属するサイボウズは、単なるソフトウェア開発企業ではなく「チームワークの会社」としても知られています。企業理念は「チームワークあふれる社会を創る」。その理念を実現するために、チーム活動を支援するグループウェアを開発・販売するだけでなく、サイボウズ流のチームワークや働き方改革のメソッドを提供する「チームワーク総研」を設立したり、さらに世間に先だってさまざまな"実験的"制度を考え、自分たちで実践してきたからです。

それはある意味、少し先の「未来のチーム」のあり方を模索してきた歴史だと言えます。

結果、サイボウズではいち早く個人の自立にもとづいた「自由な働き方」ができるようになりました。今では社員が各自で勤務時間を決め、自宅作業など働く場所も選びます。複業として社外で仕事をすることも可能です。

そんな多様な個人が集まる環境のなかで僕らはチームを組み、成果をだすというチームビルディングを続けてきました。「全員の働き方がバラバラなのに、うまくチームとしてまとまるの?」と思う人もいるでしょう。

実際、それは簡単ではありませんし、だからこそ僕らは「コミュニケーションツール」を活用してチームを築いてきました。ツールをうまく使って情報共有を工夫することで、「時間」と「場所」に捉われず働けるようにしてきたのです。

ただ、そんな「チームワークの会社」でリーダーを任されている人間がみんな「強いリーダーシップを持っている人」なのかと言えば、そんなことはありません。リーダーによってスタンスや考え方は異なりますし、むしろ、かつての僕は、間違いなく「自分の仕事」ばかりを追っていました。

けれどもある日、上司から言われた「藤村さん個人の仕事の成果はよくわかりました。でも、チームとしてはダメですよね」という言葉によって、僕の仕事観は大きく変わりました。大げさではなく、人生の分岐点になったのです。この問いかけに対して明確に答えられなかったことが、自分なりのリーダー像を求めるきっかけでした。

そして僕は、「サイボウズ式」の編集長になりました。編集長という立場は、ほかの会社ならプロジェクトリーダーのようなものです。9人ほどのメンバーと一緒に、チームとしての結果を出さないといけません。そこで何度も壁にぶち当たりました。

そもそも僕は強いリーダーシップで人を率いるようなタイプではありませんし、何か特殊なスキルを持っているわけでもありません。今まで大きなことを成し遂げたといった武勇伝もありませんし、極めて「ふつうの人」だと思っています。

それでも無我夢中で「みんなが自由に働けて、成果も出せるチーム」を追い求めて、サイボウズ式は今年で7年がたちました。7年という歳月はサイボウズ創業から3分の1を占めています。オウンドメディアとしては老舗であり、ありがたいことに「成功したオウンドメディアの代表例」として取り上げてもらうことも増えてきました。

サイボウズ式の取り組みは、読者からいただく反響に加え、サイボウズという会社にもいい影響を与えました。例えば主力製品であるグループウェア・クラウドサービスの売り上げへの貢献です。

サイボウズ式を立ち上げた初年度にクラウドサービスの購入者にアンケートを実施したところ、「サイボウズ式での認知がきっかけで契約した」という声が多く寄せられました。グループウェアは企業向け(BtoB)の製品です。一般的にBtoB製品は検討から購入までの期間が長くなるのが特徴ですが、サイボウズ式を立ち上げてすぐに購入に結びつく結果が出たことには驚きました。

また、採用活動への貢献もあります。今では新卒希望者にも「サイボウズ式を読んで、サイボウズっていい会社だなと思って応募しました」という人が現れ、会社の理念に共感してくれる人が増えている実感があります。

サイボウズ式を立ち上げた当時は、まだサイボウズという会社自体の認知度が低い状態でした。主力製品が企業向けなので、社会人なら勤め先でサイボウズ製品に触れている人もいますが、大学生のような企業とは直接関連がない人には、社名が知られていないのが普通でした。それが今や、サイボウズの理念や企業姿勢に好感を持って、新卒・中途採用に応募してくれる人が増えています。メディアに携わる人間として何よりの成果です。

そうして7年、サイボウズ式を運営してきて思うことがあります。それはチームを考えるうえで、「そもそもあなた自身は、どんな働き方や生き方をしたいの?」と、問われる場面が多くなってきたということです。

今の時代は誰にも当てはまる働き方や生き方という、たったひとつの答えはなくなりました。会社でガマンして働けば道が開けるわけではありませんし、簡単にハシゴを外されることもあります。

会社に依存せず、各人が本当に手に入れたい働き方や生き方を自分で決めること、すなわち「個人の自立」が求められているのです。同時に確信したことがあります。それは、自立した多様な個人が集まるチームができれば、ひとりでは成し遂げられなかった新しい価値を生み出せる、という思いです。そして、そのほうが絶対に楽しいはずです。

現在、社員6人、アルバイト学生3人という9人のメンバーがいるサイボウズ式の編集部員は、ほぼ全員がほかのプロジェクトを兼務しています。年齢構成も20代から40代までバラバラで、毎年何らかの形でメンバーは代わっていきます。

さらにリモートワーク中心で働いたり社外で複業(副業)をしたりするなど、みんながそれぞれ「自分はこうありたい」という〝自由な働き方〟を選択しています。だから自然と、属性もチームに対するコミットの度合いもバラバラになります。でも、それでいいんです。

たしかに、編集長になった当初は編集会議の進行すらままならず、「僕の仕切りが編集部の底上げにならなかったらどうしよう」、「みんなが思いのままに活動できなかったらどうしよう」と、迷い続けました。けれど、やはり「ひとりひとりが違うこと」を受け入れることが、解決の糸口になりました。すでに編集部のメンバーは多様ですし、それ自体がおもしろいことです。

今のチームはみんなが集まっているからこそ成立していますし、たとえメンバーが入れ替わったとしても、その多様さは武器になると気づきました。

同時に捨てたものがあります。「編集長が完璧であり、模範でありたい」という思いです。もちろん編集長としてすべきことは多岐にわたりますが、そのすべてを僕が判断しなくてもいいと割り切りました。

すると、少しずつ時間をかけてチームが機能するようになりました。本書ではそんな「ふつうの人」が、自分をちょっとだけ変えて、チームという多様性の集まりと、どう向き合ってきたのかをまとめてみます。今後はみなさんの会社でも、さまざまな働き方の変化が訪れるはずです。そんなとき、僕らが挑戦し続けてきた「未来のチーム」作りの経験が、何かしらの形で参考になれば嬉しいです。

ちなみに、こういったサイボウズの体験談を話すと、よく「それはサイボウズだからできるんでしょう?」という反応が返ってきます。しかし、僕はそうは思いません。

サイボウズも決して最初からできていたわけではなく、理想を実現するために、少しずつ組織や制度を変え、まずは自分たちで実践するなかで見えてきた「発見」を世の中に発信してきたのです。最初の一歩はきっと、チームに所属するあなたの小さな変化から始まります。

特別なスキルよりも、これまでの働き方や生き方への考えを少しだけ変えて、実行していくことの大切さを綴ってみます。個性を尊重し、本当に働きやすいチームという〝居場所〟をつくりたい人の道しるべになればと思っています。

「未来のチーム」の作り方 目次

「未来のチーム」の作り方 1、2章の目次

「未来のチーム」の作り方 3、4章の目次

「未来のチーム」の作り方 5、6章の目次

「未来のチーム」の作り方』の試し読みはこちらから。ご意見・ご感想は、Twitterのハッシュタグ「#サイボウズ式チーム本」までお寄せください。
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